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第三章 白鳥

11  舞踏会のテラスで……

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 ルーファス王子にエスコートされて、ジュリアはテラスに出ると、『ジュリア!』と舞踏会場ではダンスの邪魔になるので遠慮していたマリエールが庭のバラの花びらを巻きながら、クルクルとジュリアの腕の中に飛び込んだ。

『まぁ、マリエールったら』

 微笑んで精霊を抱っこしているジュリアはとても可愛らしくて、ルーファス王子だけでなく、セドリックもサリンジャーもドキンとしてしまう。

 精霊使いとしての能力の高さもジュリアの魅力の一部であるのは確かだが、セドリックはルーファス王子が他の面も認めてやって欲しいと思っている自分に苦笑する。

『妹のシルビアみたいに心配になるが、ジュリアは妹ではない。いっそのこと妹なら……いや、シルビアなら恋愛ゲームも上手くこなすだろう』

 サリンジャー師が一緒なので、ルーファス王子も積極的には口説けないが、それでもジュリアに甘い言葉を囁いている。セドリックはヘレナで見かけは初心なのに恋愛ゲームに熟練している令嬢を見慣れていた。なので甘い言葉にドキドキしているジュリアの純真さを得難い物と感じた。しかし、その暖かい想いを心の奥にしまい込む。

『ルーファス王子がジュリアを得る手助けをするのが私の使命なのだ』

 イオニア王国へ留学してみて、内乱の傷痕も目についたが、やはり精霊が集うシェフィールドの豊かな暮らしを体験すると、ルキアス王国にも! とのミカエル王の念願が理解できたのだ。王に仕える家臣として、セドリックは自分の恋心を封印した。

 サリンジャーは、ルーファス王子がジュリアを口説いているのを目の前にして、自分の心が騒つくのに困惑していた。

『巫女姫であるジュリアを他国に嫁がせたくないのは勿論だが……あの大人しくて控え目なジュリアが王太子妃としてやっていける筈がない。他国で苦労するのは目に見えているではないか!』

 理論的な理由だけでなく、サリンジャーは自分の心の中にジュリアへの好意が育っている事に、この時初めて気づいて狼狽えた。

『馬鹿な! ジュリアは教え子だぞ。それにゲチスバーモンド伯爵令嬢に、一介の精霊使いなど相応しくない。きっと巫女姫の後ろ盾になるような立派な家系の子息と……』

 舞踏会でジュリアと踊っていた貴族達を思い出し、サリンジャーは彼らが巫女姫や緑陰城の跡取りとしてのジュリアしか見ていないのではと懸念を抱いた。

 セドリックとサリンジャーが複雑な思いでジュリアとルーファス王子が仲良く話しているのを見ていたが、後継者のゲチスバーモンド伯爵夫人はやっと引き取った孫娘を外国に嫁がせる気持ちは微塵もなかった。

「マーカス卿、丁度良いところに来たわね。ジュリアがテラスに出て帰ってこないの。サリンジャー師が一緒ですから、心配はしていませんが……そろそろ舞踏会に戻る時間ですわ。呼んで来て下さい」

 領地から呼び出したジョージをテラスに向かわせて、上手くいくと良いけどとグローリアは素知らぬ顔で優雅に扇を使う。夫のアルバートは、有力な貴族との縁組を考えているようだが、ジュリアを大事にしてくれる相手と結ばれて欲しいと領地からジョージを呼び出したのだ。

『上手くいくと良いのですが……ジョージは控え目だから、ジュリアは気づかないかもしれないわね』

 陽気で華やかなルーファス王子にあれ程あからさまに口説かれても、ドギマギして頬を染めているだけの孫娘の鈍感さにグローリアは、誰に似たのかしら? と扇の影で溜息をついた。
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