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第ニ章 逆恨み
7 美味しいコーヒーの淹れ方
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ランチタイムが終わると、政宗のマスター修行が始まった。
「東三条さんは忙しい身なのに……会社に帰ったらどうですか?」
学生の留美は言っても無駄だと諦めて、カウンターに居座っている東三条だけでも追い出そうとする。カウンター内に入ると、銀狐が留美が座るのを嫌がるのが少しわかった気がした。
「いやぁ、どうも会社にいると体調が良くないので……ここに居させて下さい」
「ごちゃごちゃ言ってないで、コーヒーの淹れ方を習いなさいよ。私もここで見て覚えようと思っているのよ。ねぇ、銀狐さん? 私もカウンターの中に入れてよ~」
銀狐はマスターである政宗以外をカウンターの中に入れる気など全くないで、留美の言葉などを無視してテキパキとコーヒーを淹れる道具を並べる。
「さぁ、このネルを固く絞って下さい」
銀狐の指示で、政宗はネルドリップの初歩から習う。
「ねぇ、サイホンとかペーパーとかの方が楽じゃないの? ネルをいちいち洗ったり面倒じゃない?」
「ペーパーより、ネルの方がまったりとしたコーヒーになるのです。それにサイホンは場所を取りますから……ほら、シワをパンと伸ばしてセットして下さい」
カウンター越しに聞いている留美と東三条の方が真剣にグリーンガーデンのコーヒーの美味しさはネルドリップだからなのだと頷いている。本来はコーヒーの豆の選抜や焙煎から教えたい銀狐だが、怠け者の政宗にそこまでは期待しないで、淹れ方だけでもと教えるのだが……
「そんなに一気にお湯を注がないで下さい。一旦、蒸らすことで香りが……ああ、もう! 溢れています!」
マスターとして毎日見ている筈なのにと、銀狐はキリリと眉を逆だてる。
「ほら、はいったよ~」
温めてあるコーヒーカップにドボドボと注ぐ。縁から溢れんばかりのコーヒーを差し出された留美と東三条は、お互いに譲り合う。
「どうぞ」
「いや、ここはレディファーストで……」
カウンターの上でコーヒーカップが行き来している。銀狐はこんなコーヒーをお客様に出せないとカップを下げる。政宗自身が飲むべきだとカップを目の前に置き直した。
「私は……まぁ、豆は同じなんだから……まぁずぅ!」
プッと吹き出しそうになって、慌てて飲み込む。
「まぁまぁだな。さぁ、これで条件は果たしたんだから、銀さん! 協力してくれるよな」
銀狐が拒否する前に留美が口をはさむ。
「政宗さん、まだ時間はあるわ! もうちょっと真面目にマスター修行したら?」
「えっ、裏切り者!」
東三条も社員が退社するまで時間はありますと、後押しするし、銀狐はこんな好機を逃すつもりはない。
「輝正大叔父さんはなんだって喫茶店を続けなきゃいけないだなんて変な遺言を残したのかな……」
ぶつぶつ言いながら、コーヒーを淹れなおしている政宗だったが、東三条は『輝正』という名前が引っかかっていた。
『輝正……何処かで聞いたような……ああ、経済界の重鎮との会食で誰かが噂していたのだ。惜しい人物を亡くしたと……』
不貞腐れている政宗が大阪を裏から支えていた輝正なる人物の後継なのかと、東三条は今までとは違った目で観察する。しかし、どうにも偉人とはかけ離れたイメージしか持てなくて首を捻るばかりだ。
「もう、良いだろ? 一気に上手くコーヒーを淹れられるようにはならないさ。それにお腹がジャボジャボだよ」
銀狐はこんなチャンスを逃したくないと思うが、確かに焦りすぎては怠け者の政宗がコーヒーの淹れ方をマスターするどころか、喫茶店も投げ出してしまうかもしれないので終了する。
「まぁ、今日はこのくらいにしておきましょう。明日からも頑張って貰わないといけません」
政宗は『明日は明日の風が吹くさ……』と内心で嘯く。
「さぁ、スリースターズへ向かおう!」
渋る銀狐に喫茶店の閉店を急がせて、東三条の車に乗り込む。
「ねぇ、東三条さん。あのビルの土地は誰から購入したのですか?」
ビルに着いたら、東三条は悪霊の支配下になるので、この際にと尋ねる。
「前々から自社ビルを建てたいと思っていたので、付き合いのある不動産屋に良い物件を探して貰っていたのです。私が直接売買したわけでは無いので、詳しくは知らないが……何も不当な真似をして手に入れたわけではないですよ」
「貴方には不当な真似をした覚えが無くても、彼方は恨む理由が何かあるみたいですね。それが理不尽でも、話し合って解決しないと、貴方の命も危ないでしょう」
東三条は『理不尽だ!』と怒気を露わにしたが、政宗は悪霊に理屈は通じないと肩を竦める。
そうこうするうちにスリースターズ社のビルに着いた。
「政宗様、こんな悪霊付きのビルになんか近寄らない方が良いですよ。貴方には除霊の力は無いのですから」
車から降りた途端に銀狐は、ビルに取り憑いた悪霊の存在を感じ取り、政宗に無謀な真似は止めろと注意する。政宗が死んだりしたら、輝正様が残した喫茶店が営業できなくなるからだ。
「だから、銀さんをつれてきたんじゃないか。コーヒーの淹れ方をマスターしたんだから、しっかり護ってね!」
何処の誰がコーヒーの淹れ方をマスターしたのかと銀狐は腹を立てながら、ひょこひょことスキップまがいの足取りでビルに入る政宗の後ろからついて行く。
「東三条さんは忙しい身なのに……会社に帰ったらどうですか?」
学生の留美は言っても無駄だと諦めて、カウンターに居座っている東三条だけでも追い出そうとする。カウンター内に入ると、銀狐が留美が座るのを嫌がるのが少しわかった気がした。
「いやぁ、どうも会社にいると体調が良くないので……ここに居させて下さい」
「ごちゃごちゃ言ってないで、コーヒーの淹れ方を習いなさいよ。私もここで見て覚えようと思っているのよ。ねぇ、銀狐さん? 私もカウンターの中に入れてよ~」
銀狐はマスターである政宗以外をカウンターの中に入れる気など全くないで、留美の言葉などを無視してテキパキとコーヒーを淹れる道具を並べる。
「さぁ、このネルを固く絞って下さい」
銀狐の指示で、政宗はネルドリップの初歩から習う。
「ねぇ、サイホンとかペーパーとかの方が楽じゃないの? ネルをいちいち洗ったり面倒じゃない?」
「ペーパーより、ネルの方がまったりとしたコーヒーになるのです。それにサイホンは場所を取りますから……ほら、シワをパンと伸ばしてセットして下さい」
カウンター越しに聞いている留美と東三条の方が真剣にグリーンガーデンのコーヒーの美味しさはネルドリップだからなのだと頷いている。本来はコーヒーの豆の選抜や焙煎から教えたい銀狐だが、怠け者の政宗にそこまでは期待しないで、淹れ方だけでもと教えるのだが……
「そんなに一気にお湯を注がないで下さい。一旦、蒸らすことで香りが……ああ、もう! 溢れています!」
マスターとして毎日見ている筈なのにと、銀狐はキリリと眉を逆だてる。
「ほら、はいったよ~」
温めてあるコーヒーカップにドボドボと注ぐ。縁から溢れんばかりのコーヒーを差し出された留美と東三条は、お互いに譲り合う。
「どうぞ」
「いや、ここはレディファーストで……」
カウンターの上でコーヒーカップが行き来している。銀狐はこんなコーヒーをお客様に出せないとカップを下げる。政宗自身が飲むべきだとカップを目の前に置き直した。
「私は……まぁ、豆は同じなんだから……まぁずぅ!」
プッと吹き出しそうになって、慌てて飲み込む。
「まぁまぁだな。さぁ、これで条件は果たしたんだから、銀さん! 協力してくれるよな」
銀狐が拒否する前に留美が口をはさむ。
「政宗さん、まだ時間はあるわ! もうちょっと真面目にマスター修行したら?」
「えっ、裏切り者!」
東三条も社員が退社するまで時間はありますと、後押しするし、銀狐はこんな好機を逃すつもりはない。
「輝正大叔父さんはなんだって喫茶店を続けなきゃいけないだなんて変な遺言を残したのかな……」
ぶつぶつ言いながら、コーヒーを淹れなおしている政宗だったが、東三条は『輝正』という名前が引っかかっていた。
『輝正……何処かで聞いたような……ああ、経済界の重鎮との会食で誰かが噂していたのだ。惜しい人物を亡くしたと……』
不貞腐れている政宗が大阪を裏から支えていた輝正なる人物の後継なのかと、東三条は今までとは違った目で観察する。しかし、どうにも偉人とはかけ離れたイメージしか持てなくて首を捻るばかりだ。
「もう、良いだろ? 一気に上手くコーヒーを淹れられるようにはならないさ。それにお腹がジャボジャボだよ」
銀狐はこんなチャンスを逃したくないと思うが、確かに焦りすぎては怠け者の政宗がコーヒーの淹れ方をマスターするどころか、喫茶店も投げ出してしまうかもしれないので終了する。
「まぁ、今日はこのくらいにしておきましょう。明日からも頑張って貰わないといけません」
政宗は『明日は明日の風が吹くさ……』と内心で嘯く。
「さぁ、スリースターズへ向かおう!」
渋る銀狐に喫茶店の閉店を急がせて、東三条の車に乗り込む。
「ねぇ、東三条さん。あのビルの土地は誰から購入したのですか?」
ビルに着いたら、東三条は悪霊の支配下になるので、この際にと尋ねる。
「前々から自社ビルを建てたいと思っていたので、付き合いのある不動産屋に良い物件を探して貰っていたのです。私が直接売買したわけでは無いので、詳しくは知らないが……何も不当な真似をして手に入れたわけではないですよ」
「貴方には不当な真似をした覚えが無くても、彼方は恨む理由が何かあるみたいですね。それが理不尽でも、話し合って解決しないと、貴方の命も危ないでしょう」
東三条は『理不尽だ!』と怒気を露わにしたが、政宗は悪霊に理屈は通じないと肩を竦める。
そうこうするうちにスリースターズ社のビルに着いた。
「政宗様、こんな悪霊付きのビルになんか近寄らない方が良いですよ。貴方には除霊の力は無いのですから」
車から降りた途端に銀狐は、ビルに取り憑いた悪霊の存在を感じ取り、政宗に無謀な真似は止めろと注意する。政宗が死んだりしたら、輝正様が残した喫茶店が営業できなくなるからだ。
「だから、銀さんをつれてきたんじゃないか。コーヒーの淹れ方をマスターしたんだから、しっかり護ってね!」
何処の誰がコーヒーの淹れ方をマスターしたのかと銀狐は腹を立てながら、ひょこひょことスキップまがいの足取りでビルに入る政宗の後ろからついて行く。
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