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第ニ章 逆恨み

3  この部屋はヤバ過ぎる!

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 社長室はモダンなビルに相応しい高級感溢れるインテリアで統一されていたが、東三条は取り憑いた黒い影が活性化して、ぼんやりと応接セットの椅子に崩れ落ちるように座る。

「この部屋はヤバ過ぎる! あのう秘書さん? 何処か別の部屋はありませんか?」

 社長がぼんやりしているので、秘書に尋ねるのだが、この横柄な態度の若者の言葉に従うべきか判断に悩む。

「東三条のおじ様、ここに居たら駄目みたいよ」

 瑠美は政宗に取り憑いた伯母の霊を説得して貰った経験から、この方面については信頼していた。ぐったりしている東三条の腕を持って強引に立たせると、部屋の外へ連れ出す。

 部屋から出るとぼんやりしていた東三条も、少し回復する。

「どうも……ぼんやりしていたようだ……」

「あの部屋には当分入らない方が良いですよ」

 政宗の言葉に力無く頷く。秘書に会議室へと案内されたが、どうもこのビルは落ち着かない。

「ええっと、このビルから引っ越すってのはどうですか? こんな悪霊憑きのビルになんか居たら、東三条さんの寿命も尽きてしまいますよ。貴方はかなり強い生命力というか精神力を持っているみたいですが、このままじゃあね」

 お茶を運んで来た秘書は、このインチキ霊媒師は何を言い出すのか! とムッとしたが、社長が騙されたりはしないだろうと、口を挟まない。

「無茶を言わないでくれたまえ。このビルは自社ビルなのだ。フロアーを系列会社にレンタルしているのに、悪霊憑きのビルだなんて言わないで下さい」

「ビルの評判なんか気にしている場合じゃないでしょう。命あっての物種ですよ」

 ムッとした顔の東三条に政宗は説得するが、どうやら無駄みたいだと諦める。

「まぁ、私は言うだけは言いましたからね。後は御自分で判断して下さい」

 それじゃあと席を立つ政宗に瑠美は呆れる。

「ちょっと、そんな無責任なぁ! 引き受けた仕事を簡単に投げ出さないでよ。除霊が出来なくても、原因を調査して取り除くとか、探偵らしい事をしなさいよ」

 部屋を出て行こうとしていた政宗の足が止まった。

「そうだなぁ。原因を調査するのは、探偵の仕事に相応しい。困難に打ち勝つのも面白そうだ!」

 その困難とは自分の事だろうか? と東三条は額にパラリと落ちた髪を撫で上げながら溜息をついた。

「さぁ、では調査を始めます。こんな風に黒い影に憑かれるようになったの何時からですか?」

「黒い影……体調を崩すようになったのは、半年前からだ。そうだ! このビルが完成し、会社を引っ越したのは1年前だから、君の悪霊憑きのビルと言うのは間違いだ」

 これで莫大な損失は防げたと東三条は会議室の椅子の背もたれに身体を預ける。

「それは調査しないとわかりませんよ。貴方が頑丈で体調に不良に気づかなかっただけかもしれないし……ふぅむ、その影と話せたら、調査できるのですが……ここじゃあ、弱いし、社長室では強すぎて危険だし。中間地点が良いかな?」



 政宗は東三条を連れて影が濃くなり、それでいて自分が危険ではない部屋を探す。

「まぁ、この部屋でいいなか? 個室だから、他の人もいないし。あっ、ちょっと出ていって!」

「社長?」東三条は、秘書に暫く部屋を借りると言い切った。

 秘書は自分の部屋を占領されて、行き場を失い苛つくが、東三条はそれどころではない。社長室に近い秘書室でも体調が悪くなる。

「私は気分が優れないのだが……」

「そうだねぇ、ここは社長室に近過ぎるかも? でも、他の人が居ない方が良いでしょ?」

 確かに社員の目の前で除霊、いや調査を受けたくないと東三条も考えて秘書の椅子に座る。
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