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第一章 やる気の無い喫茶店のオーナー
4 バイトは募集していません!
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やっと電車を乗り継いで喫茶店に帰ってきた政宗は、やれやれと紅茶を飲んでいた。
「ねぇ、あのくらいの影なら瑠美って子も死んだりはしないだろ?」
ランチタイムに向けて、準備に忙しい銀狐は、あんな無礼な一家が取り憑かれて死んでも全く気にならないと言い放つ。この点では、やはり人間とは違う感性だと政宗は肩を竦める。
「本当は除霊とかを修行したら良いんだろうけど……そんなに頑張ったりしたら、妙な噂を聞きつけて厄介な客が増えちゃうしなぁ」
「政宗様には除霊は無理ですね。覇気が足りません」
「やっぱりねぇ。そうだと思っていたんだ! 修行なんて御免だし……ねぇ、それより今日のランチは何?」
モーニングを食べ損ねた政宗は、銀弧が準備しているランチは何だろう? と期待する。グリーンガーデンのランチは日替わりで一種類だ。一種類では客は選べないが、好みで無いのならサンドイッチしかない。何処までも、やる気が感じられない営業方針だが、銀弧の作るランチは絶品なのだ。
「あんな邪魔が入ったので、お手軽にソバ粉のガレットとサラダとスープです。はい、はい、少し待ってて下さい。オーナーのは先に作りますよ」
餌を貰って無い犬のように涎を垂らしている政宗に呆れるが、天狐の焼くソバ粉のガレットは、本当に美味しいのだ。
「輝正様は料理も上手でしたのに、政宗様は食べる専門ですね」
そう嫌味を言いながらも、銀弧は平たいフライパンでソバ粉のガレットを焼いてやる。ソバ粉のガレットの上にハムと卵を割りいれると、ゴダーチーズをチーズ下ろしで削って掛ける。丸いガレット生地を四角に折って、焼き上げたらできあがりだ。
「今は何を言われても許せる! ああ、良い薫りだ!」
ジュウジュウとガレットが焼ける音を聞きながら、野菜が細かく刻まれたスープを飲んでいた政宗は、背後のチリン、チリン、チリン、チリンという銀鈴の音で振り返る。
「げっ! また瑠美についてやがる!」
前よりは小さくなった影だが、瑠美にべったりとくっついている。心配そうな母親は、さっきの態度とはうって変わって卑屈なまでに低姿勢だ。
「あのう、先ほどは失礼いたしました。主人も、この通り反省していますし、どうにかして頂けないでしょうか?」
父親も、またぼんやりとしている娘が心配なので、怪しげな喫茶店の若いオーナーに頭を下げる。
しかし、目の前には焼きたてのガレットが良い香りをさせているのだ。
「ええっと、これを食べてからでも良いですか? あっ、銀さん、三人さんを席に案内して!」
美夜に憑かれてる瑠美以外から、酷い! と白い目で見られたが、昨日の夜から何も食べていないのだ。
「あっ、そうだ! 皆さんもソバ粉のガレット、食べませんか? とても美味しいですよ」
娘が心配で、ソバ粉のガレットを食べる気分ではないが、オーナーには逆らえない。渋々、三人前のオーダーが通る。
これからランチタイムなので、厄介な客はさっさと退散して欲しい銀狐は、三人の目の前にソバ粉のガレット、スープ、サラダ、紅茶を置いていく。
「瑠美ちゃん、食べてみる?」
お人形のように無表情な瑠美に、母親はガレットを一口大に切って口に運ぶ。さっさとガレットを食べ終わった政宗は、こうして娘の命を護ってきたのだと胸が少し痛む。
フォークにさされたガレットが口の前に持ってこられると、瑠美は最低限の生命維持本能に導かれて口を開ける。
「こんな事をしている場合じゃないだろう」
妻が娘にガレットを食べさせているのを、父親は苦々しく見つめる。自分の姉が何故? そればかり考えながら、このグリーンガーデンまでの道のりを過ごしたのだ。
『都姉さん、何が不満でこんなことを?』
手持ち無沙汰なので、父親もガレットを一口大に切って口にする。
「「美味しい!」」
父親と瑠美は同時に叫んだ。
「瑠美ちゃん?」驚く母親からナイフとフォークを取り上げると、瑠美はソバ粉のガレットを一気に食べる。
「あれれ? 美夜は何処に行ったのだ?」
政宗が黒ぶちの眼鏡を外して眺めると、瑠美の頭の上で小さくなった黒い影が震えていた。
「はぁ~! やはり女子大生の食欲には負けちゃうよね!」
父親と母親も「悪霊払いのガレットだ!」と、泣いたり笑ったりしながら食べている。
「まだ、私には黒い影がついているのですか?」
食事を終えた瑠美は、両親がどれほどこの1ヶ月の間、自分を心配していたのか、黒い影に支配されていたが何となく感じていたので尋ねる。
「まぁ、小さくはなっているけどね」
瑠美は、真面目な顔でとんでもないことを言い出した。
「お願いします! ここでバイトさせて下さい! きっと、こんなに美味しいガレットを食べていたら、黒い影になんかつけこまれないと思うの」
「瑠美、こんな喫茶店でバイトだなんて!」
反対する父親と、おろおろする母親を、政宗は一言で切って捨てる。
「うちではバイトは募集していません!」
「ねぇ、あのくらいの影なら瑠美って子も死んだりはしないだろ?」
ランチタイムに向けて、準備に忙しい銀狐は、あんな無礼な一家が取り憑かれて死んでも全く気にならないと言い放つ。この点では、やはり人間とは違う感性だと政宗は肩を竦める。
「本当は除霊とかを修行したら良いんだろうけど……そんなに頑張ったりしたら、妙な噂を聞きつけて厄介な客が増えちゃうしなぁ」
「政宗様には除霊は無理ですね。覇気が足りません」
「やっぱりねぇ。そうだと思っていたんだ! 修行なんて御免だし……ねぇ、それより今日のランチは何?」
モーニングを食べ損ねた政宗は、銀弧が準備しているランチは何だろう? と期待する。グリーンガーデンのランチは日替わりで一種類だ。一種類では客は選べないが、好みで無いのならサンドイッチしかない。何処までも、やる気が感じられない営業方針だが、銀弧の作るランチは絶品なのだ。
「あんな邪魔が入ったので、お手軽にソバ粉のガレットとサラダとスープです。はい、はい、少し待ってて下さい。オーナーのは先に作りますよ」
餌を貰って無い犬のように涎を垂らしている政宗に呆れるが、天狐の焼くソバ粉のガレットは、本当に美味しいのだ。
「輝正様は料理も上手でしたのに、政宗様は食べる専門ですね」
そう嫌味を言いながらも、銀弧は平たいフライパンでソバ粉のガレットを焼いてやる。ソバ粉のガレットの上にハムと卵を割りいれると、ゴダーチーズをチーズ下ろしで削って掛ける。丸いガレット生地を四角に折って、焼き上げたらできあがりだ。
「今は何を言われても許せる! ああ、良い薫りだ!」
ジュウジュウとガレットが焼ける音を聞きながら、野菜が細かく刻まれたスープを飲んでいた政宗は、背後のチリン、チリン、チリン、チリンという銀鈴の音で振り返る。
「げっ! また瑠美についてやがる!」
前よりは小さくなった影だが、瑠美にべったりとくっついている。心配そうな母親は、さっきの態度とはうって変わって卑屈なまでに低姿勢だ。
「あのう、先ほどは失礼いたしました。主人も、この通り反省していますし、どうにかして頂けないでしょうか?」
父親も、またぼんやりとしている娘が心配なので、怪しげな喫茶店の若いオーナーに頭を下げる。
しかし、目の前には焼きたてのガレットが良い香りをさせているのだ。
「ええっと、これを食べてからでも良いですか? あっ、銀さん、三人さんを席に案内して!」
美夜に憑かれてる瑠美以外から、酷い! と白い目で見られたが、昨日の夜から何も食べていないのだ。
「あっ、そうだ! 皆さんもソバ粉のガレット、食べませんか? とても美味しいですよ」
娘が心配で、ソバ粉のガレットを食べる気分ではないが、オーナーには逆らえない。渋々、三人前のオーダーが通る。
これからランチタイムなので、厄介な客はさっさと退散して欲しい銀狐は、三人の目の前にソバ粉のガレット、スープ、サラダ、紅茶を置いていく。
「瑠美ちゃん、食べてみる?」
お人形のように無表情な瑠美に、母親はガレットを一口大に切って口に運ぶ。さっさとガレットを食べ終わった政宗は、こうして娘の命を護ってきたのだと胸が少し痛む。
フォークにさされたガレットが口の前に持ってこられると、瑠美は最低限の生命維持本能に導かれて口を開ける。
「こんな事をしている場合じゃないだろう」
妻が娘にガレットを食べさせているのを、父親は苦々しく見つめる。自分の姉が何故? そればかり考えながら、このグリーンガーデンまでの道のりを過ごしたのだ。
『都姉さん、何が不満でこんなことを?』
手持ち無沙汰なので、父親もガレットを一口大に切って口にする。
「「美味しい!」」
父親と瑠美は同時に叫んだ。
「瑠美ちゃん?」驚く母親からナイフとフォークを取り上げると、瑠美はソバ粉のガレットを一気に食べる。
「あれれ? 美夜は何処に行ったのだ?」
政宗が黒ぶちの眼鏡を外して眺めると、瑠美の頭の上で小さくなった黒い影が震えていた。
「はぁ~! やはり女子大生の食欲には負けちゃうよね!」
父親と母親も「悪霊払いのガレットだ!」と、泣いたり笑ったりしながら食べている。
「まだ、私には黒い影がついているのですか?」
食事を終えた瑠美は、両親がどれほどこの1ヶ月の間、自分を心配していたのか、黒い影に支配されていたが何となく感じていたので尋ねる。
「まぁ、小さくはなっているけどね」
瑠美は、真面目な顔でとんでもないことを言い出した。
「お願いします! ここでバイトさせて下さい! きっと、こんなに美味しいガレットを食べていたら、黒い影になんかつけこまれないと思うの」
「瑠美、こんな喫茶店でバイトだなんて!」
反対する父親と、おろおろする母親を、政宗は一言で切って捨てる。
「うちではバイトは募集していません!」
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