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10.オークキング、未来を予言する

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※ジール様の声はぶりぶりざえも〇です

 ♢♢♢

 公爵邸の食堂で角の生えた豚が「うまいうまい」と言いながら食事を食べていた。
 床に皿を置こうとしたら、「それを食べるのはそこにいる恥晒しの分だな」とラシエルの方を向いて鼻を鳴らした。

「豚が本になったなんて信じられないわ」

 と公爵夫人が口にすると、私は庇うように

「本が豚になったのです」

 と言い返した。

「豚ブタ繰り返すでは無い。私はオークキングのジール様だ。貴様らに世話になるから、名前を呼ばせてやろうではないか。ジール様と呼ぶとよい」

「はい、ジール様。何なりとお申し付けください。必要であればオークの雌もお持ちします」

「おい、そこのヒゲ。私はオキャン玉がないのだ。メスは呼ぶな、恥ずかしい」

 ジール様は厳しい口調を向けると深々と公爵閣下は頭を下げた。或程度お腹が満腹になるまで食事を食べるとソファの横になっている。

「おい、そこのやつ。ザガード家の血筋の癖に童貞臭いな。夢精と自慰を繰り返した独特の匂いがするぞ。貴様がもって擦るのはちんぽしかないな。騎士団長の癖に剣よりもちんぽを握り締めている」

「ジール様お止め下さい。ラシエル様が可哀想です」

「おい小娘。私以外に様をつけるな。童貞に偉そうにされると癪だ。そいつの名前は、今日から童貞君かラシエルと呼べ。様づけで呼んだらラシエルは豚とまぐわいをさせてやる」

 ラシエルがショックで部屋に戻ってしまう。後ろ姿が寂しくみえて抱きしめたくなる。ジール様はいなくなったか確認をして私達3人だけ部屋に残した。紅茶を淹れてもらうとしばらく無言でジール様をみつけている。

「ところで娘、お前は変わっている魂をしている。ラシエルの魂の半身、片割れと言うのだろうか。お互い繋がっているのに、子作りをしていない。どうしてだ? 事実をありのまま話すと良い。ここだけの話にしておいてやろう」

 ラシエルの両親がざわめき、耳を塞がなくなる。ジール様は容赦がない。長年生きていたものの貫禄を感じる。

「信じられないかもしれませんが――」

ありのまま自分に起こったことを話していた。公爵夫妻は信じられない表情をして途中で啜り泣いていた。私も泣くかもしれないと思っていたけれど、自分でも受け入れていたみたいで言葉が溢れていた。

「セシリア様に恨まれて当然なんです。突然現れた見ず知らずの他人が、自分が欲しかったものを横取りしていく所を見ているだけで悔しかったに違いありません。子供も産めない女が離縁もせずに暮らしている事が許せなかったのでしょう」

「リーファちゃん、違うわ。セシリアはラシエルを苦しめていたわ。15歳の時にあなたが手紙をくれなかったら一生操り人形だったわ」

「そうだ。私たちはセシリアを信用し過ぎて家族を失いかけたんだ。それを君が救ってくれた」

「ヒゲ、私に分かるように話せ」

 ラシエルが8歳の時に6歳のセシリアが未来予知を言い出した。最初は疑っていたが当たるようになり、周囲の人たちは信用していった。

 言葉巧みにラシエルの未来を決められ、彼の意見を無視した。全てセシリアの言う通りにすれば間違いないと思い込んでいたからだ。次第にラシエルは表情や目の光を失っていた。

 夢で魘されるラシエルが何度も誰かに謝っている。毎晩繰り返し、リーファという女性と結婚をしていたらしく、彼女を失った後の世界を彷徨っているようだった。

 15歳の時に手紙が来た時に、すぐに確認をして書類を手に入れた。

 セシリアの言うことと違い、理由や原因が書いている書類の方が信用度が高かった。書いている通りに疫病や水害が出たが被害は最小限に止められた。まるで未来の事を分かっている。ここで、ラシエルはリーファと結婚をして公爵夫人として過ごしていたのではないか予想していた。

 侯爵家からの連絡を最小限にし、ようやく家族の絆を取り戻した。そして差出人を探して私だとわかったが、屋敷から出た後だった。

「君の祖父が夢で苦しんでいるから会わないで欲しいと頭を下げてきた。君が来てくれて、本当に嬉しいんだ。生きているだけでいい」

「そうよ、無理に治療しなくてもいいのよ。子供がいなければ養子をとればいいのよ」

 公爵夫妻にとって私は救世主だろう。でもその言葉に甘えてはいけない。彼らには彼らの人生がある。

「私は第二の人生は自由に生きたいのです。お許しください」

 少しの間、無言になって諦めた公爵閣下が「諦めよう」と言ってくれた。私達は離れていても絆が築き上げていて、2人は私の事を娘のように思ってくれていた。用意してくれた服もいつでも来ても困らないためだった。

「和やかな雰囲気の時に悪いが、ラシエルは子供孕ませなければ男として死ぬ運命だ」

「「「えっ?」」」

 私達は驚いて声を上げると次の言葉に動揺を隠せなかった。

「繰り返す悪夢と高熱のせいでラシエルの身体は限界を迎えている。最初は男の部分を切り落とし寿命を延ばすが無駄だ。最後は心臓が止まるだろう。前世の記憶がある女は、魔力純度が高いから分けてあげればいいが一時的な物だ。最も治療としていいのは、産まれた子供をラシエルの手で受け止めてあげる事だ。赤ん坊は生まれた瞬間に最も美しい魔力を周囲にバラ撒く。
 この場合、ラシエルは騎士団長を辞めなければいけない。殺生をしたばかりの手で受け止めると赤ん坊は死んでしまう」

 ラシエルが騎士団長を辞める……。生きるために仕方がないが、彼は頑張って騎士団長をしてきたから辞めたいと思うのだろうか。

「おいヒゲ、ラシエルが死んだ後は私が養子になってやる。夫人の事をママと呼ぶ練習でもしておこう。ままぁ~、ばぶぶ、へんむ~」

 公爵夫人は叫びだしたい気持ちを抑え、目を見開きこちらをジッと見ている。フラフラして倒れるとジール様がいたずらっ子の声を出して楽しそうにしていた。足元に頭を擦りつけるとおぞましい者に触れた声を出していた。

 豚の前世は覚えていないが、懐いているのはよく分かる。公爵夫人から引き離すためにジール様を抱きしめると、なんだかしっくりしてしまった。

 ああ、これは自分の役目なんだと。

「もう、子供を流産したくないの。本当に怖くて、周囲の視線も、かかる費用も。途方に暮れるのが嫌なの」

「期間は一年間だけでいい。それを超えたらセシリアに産んでもらおう」

「いやあああああああああああ、あの子だけは嫁にしたくない! 絶対に嫌ぁぁあぁあああ!」

 公爵夫人が叫びわなわな震えている。結婚していた時よりも感情が露になった彼女に同情をした。相当な事をしでかしていたらしく、セシリアは嫌われていた。

「妊娠した時の事を考えて、婚約をした方がいいだろう(ラシエルは大丈夫だろうか)」

「ええ、そうした方がいいわ。婚外子で産ませるわけにはいけないわ(豚のママになりたくない)」

「ラシエルはプレッシャーに弱いから1年間の婚約の伝えない方がいいだろう(髭の事もパパと呼んでやろう)」

 それぞれの思惑が交差する夜。前の自分と今の自分の感情が混ざり合い、何だか分からない感情に満たされていた。

    
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