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6. 2人は出会う
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新しいドレスと私服は魅惑のボディを引き立てるデザインだった。
――こういうのが着てみたかった。ラシエルは「そのままで十分だ。着るのは私の前だけにして欲しい」と言っていたけれど、身体のラインを魅せる服が好きだった。人前にだって出てみたいよ。
並べられた服を見て胸がいっぱいになった。一番可愛いと思った私服を着て増々気分が良くなり、キッチンに向かった。
大量のクッキーとマフィンを作って、教会に付属している孤児院に寄付をしに行こう。朝早くに目を覚ましたから、たっぷり時間がある。オーブンに鉄板を入れて、紅茶を飲んで待っていた。
バターもお砂糖も少なめのクッキーは前のラシエルが好きなクッキーだ。砂糖を入れる場合は、茶葉を入れたクッキーが一番好きなフレーバーだ。
私はバターとお砂糖たっぷりのショートブレッドが一番好きで、公爵夫人も同じクッキーが好きだった。嗜好もとても似ていた。
優しい人だった。周りから何を言われても私の悪口を言わず離縁しろと言わなかった。私が子供を産めていれば、立場は悪くならなかった。
クッキーとマフィンが焼きあがって、一口食べると美味しい。誰かに食べて欲しい気持ちになる。冷ましている時に誰かが来た。時計を確認して、シャーリーが来ることを思い出してドアに向かった。
ドアを開けると、そこにいたのはラシエルとシャーリーだった。
「知り合いだって聞いたの。話してみたら騎士の人を描かせてくれるって」
確かに、もう少しで騎士の絵は流行る。流行を先読みして行動できるなんてシャーリーは商才がある。
「ふたりはとても仲が良いって言われて、会う約束をしていたと聞いたんだけれど違った?」
表情が固まってしまっていたから、シャーリーが疑っている。あれだけの事をしておきながら、ここに来るってラシエルは色々大丈夫なのだろうか。普通は恥ずかしくて記憶から消して欲しいはずだ。
男性モデルは雇うのが高いし、騎士がモデルになってくれるはずがない。シャーリーが画家として成功するために我慢するしかない。
「そうね、でも私よりも適任者がいるわ。例えばクロッサス侯爵家の騎士とか」
「目の前で公爵家の騎士を描かせると言っているのに、何故他の騎士団を勧める。後、屋敷に入れてくれ」
思わず、「どうぞ」と屋敷の中に入れた後、しまったと気がついたときには遅かった。丁度よく焼きあがったマフィンとクッキー。ついでに仕込んでしまった氷入りの果実水が置いていたからだ。
シャーリーは目を爛々とさせ、ゴクリと喉を鳴らしていた。
将来、シャーリーは大物になる。ラシエルは男の人と知り合いが多い。屋敷に入れたのは仕方の無いことだ。
2人に冷たい果実水を用意し、飲ませると美味しいと反応をした。
「シャーリーは食事はどうするの? 食べて行く?」
「勿論食べます。リーファ様の食事は美味しいですね。変わった物もあるんですが、一度食べると病みつきになります。どうして料理が上手いんですか? 普通、貴族令嬢の人は調理しないですよ」
「ああ、話していなかったわね。私の実家は食事をくれなかったから。基本的に姉たちが食べ残した、床に捨てられた物を決められた時間で食べないといけないのよ。何が一番嫌だったのかって、体調が悪くなる事よ。お腹が痛くて苦しむと体調管理が出来ないせいだって怒られるの。
だから、事前に物を食べて食べられないふりをした方が楽だったのよ。屋敷の死角でサバイバル生活をしていたの」
ラシエルは驚いていて言葉を失っていた。前の時は彼の両親が調べていたけれど、聞いていなかったから。彼は裕福でそんなことをされたことがない。
だから、親に恵まれなかった人が可哀想な人を理解できない。
どうして傷つけるのか分かりたくない。
「生きているだけで儲けもんですね。子供を愛せない親は一定数いるんですよ。だから仕方がないんです。うちは子供の趣味が気に入らなくて、全部捨てる親でした。だからこうして絵を描ける場所を提供して頂けることがありがたいんです」
シャーリーと話が弾み、ラシエルは無言になっていた。こんな私を貴方は愛せるはずがない。
「ザガード卿は食事を召し上がりますか?」
「良かったら頼む」
彼の好みは知っている。後、密かに名前の呼び方も変えてみた。私達が仲良くない証拠はチラホラ出している。
香草で味付けをして皮をパリッと焼いた鶏肉が彼は好きだ。牛肉よりも鶏肉がいい。スープはあっさりした野菜スープにした。
食の好みはこちらでも同じで無言で口に運ぶ。気分がいいみたいでお酒も進んでいた。
食事を食べた後、シャーリーの絵が見たいとラシエルが言ったので保管している部屋に向かった。
部屋の中に絵が飾られていて、どのモデルも私だった。
私たちにとって当たり前の絵が、彼のとって違う感覚だと思いもしなかった。
「……美しいまるで女神のようだ。しかし、裸の絵がどうして多いのだろう」
「えっ、綺麗だから描きたくなるのは当然の事ですよ。芸術家として探求心がありますし」
2人とも何を言っているのか分からず、私は首を傾げた。
ふとラシエルを目で追いかけると、凄い勢いで小さい時の絵の近くに寄って見ていた。
「凄く可愛い女の子だ。こんな子が近くにいたら告白したくなるだろう」
嬉しいけれど私は苦笑いをして誤魔化した。年々痩せているけれど最初の頃なんて太っていて可愛くない。
「全部リーファ様ですよ」
「ありったけのお金を渡すから全部売って欲しい」
「ダメです。これは個人的な物で、売るわけにはいきません。それに私の絵なんて飾っても意味がないでしょう」
結婚するわけじゃないんだから。身内になったら必要かもしれない。子供に見せるわけじゃないんだし。
部屋でワイワイ2人は盛り上がっていた。絵が好きな人だったから、シャーリーと話をして面白いのだろう。
胸が少しざわついた。好きじゃないのに。
――こういうのが着てみたかった。ラシエルは「そのままで十分だ。着るのは私の前だけにして欲しい」と言っていたけれど、身体のラインを魅せる服が好きだった。人前にだって出てみたいよ。
並べられた服を見て胸がいっぱいになった。一番可愛いと思った私服を着て増々気分が良くなり、キッチンに向かった。
大量のクッキーとマフィンを作って、教会に付属している孤児院に寄付をしに行こう。朝早くに目を覚ましたから、たっぷり時間がある。オーブンに鉄板を入れて、紅茶を飲んで待っていた。
バターもお砂糖も少なめのクッキーは前のラシエルが好きなクッキーだ。砂糖を入れる場合は、茶葉を入れたクッキーが一番好きなフレーバーだ。
私はバターとお砂糖たっぷりのショートブレッドが一番好きで、公爵夫人も同じクッキーが好きだった。嗜好もとても似ていた。
優しい人だった。周りから何を言われても私の悪口を言わず離縁しろと言わなかった。私が子供を産めていれば、立場は悪くならなかった。
クッキーとマフィンが焼きあがって、一口食べると美味しい。誰かに食べて欲しい気持ちになる。冷ましている時に誰かが来た。時計を確認して、シャーリーが来ることを思い出してドアに向かった。
ドアを開けると、そこにいたのはラシエルとシャーリーだった。
「知り合いだって聞いたの。話してみたら騎士の人を描かせてくれるって」
確かに、もう少しで騎士の絵は流行る。流行を先読みして行動できるなんてシャーリーは商才がある。
「ふたりはとても仲が良いって言われて、会う約束をしていたと聞いたんだけれど違った?」
表情が固まってしまっていたから、シャーリーが疑っている。あれだけの事をしておきながら、ここに来るってラシエルは色々大丈夫なのだろうか。普通は恥ずかしくて記憶から消して欲しいはずだ。
男性モデルは雇うのが高いし、騎士がモデルになってくれるはずがない。シャーリーが画家として成功するために我慢するしかない。
「そうね、でも私よりも適任者がいるわ。例えばクロッサス侯爵家の騎士とか」
「目の前で公爵家の騎士を描かせると言っているのに、何故他の騎士団を勧める。後、屋敷に入れてくれ」
思わず、「どうぞ」と屋敷の中に入れた後、しまったと気がついたときには遅かった。丁度よく焼きあがったマフィンとクッキー。ついでに仕込んでしまった氷入りの果実水が置いていたからだ。
シャーリーは目を爛々とさせ、ゴクリと喉を鳴らしていた。
将来、シャーリーは大物になる。ラシエルは男の人と知り合いが多い。屋敷に入れたのは仕方の無いことだ。
2人に冷たい果実水を用意し、飲ませると美味しいと反応をした。
「シャーリーは食事はどうするの? 食べて行く?」
「勿論食べます。リーファ様の食事は美味しいですね。変わった物もあるんですが、一度食べると病みつきになります。どうして料理が上手いんですか? 普通、貴族令嬢の人は調理しないですよ」
「ああ、話していなかったわね。私の実家は食事をくれなかったから。基本的に姉たちが食べ残した、床に捨てられた物を決められた時間で食べないといけないのよ。何が一番嫌だったのかって、体調が悪くなる事よ。お腹が痛くて苦しむと体調管理が出来ないせいだって怒られるの。
だから、事前に物を食べて食べられないふりをした方が楽だったのよ。屋敷の死角でサバイバル生活をしていたの」
ラシエルは驚いていて言葉を失っていた。前の時は彼の両親が調べていたけれど、聞いていなかったから。彼は裕福でそんなことをされたことがない。
だから、親に恵まれなかった人が可哀想な人を理解できない。
どうして傷つけるのか分かりたくない。
「生きているだけで儲けもんですね。子供を愛せない親は一定数いるんですよ。だから仕方がないんです。うちは子供の趣味が気に入らなくて、全部捨てる親でした。だからこうして絵を描ける場所を提供して頂けることがありがたいんです」
シャーリーと話が弾み、ラシエルは無言になっていた。こんな私を貴方は愛せるはずがない。
「ザガード卿は食事を召し上がりますか?」
「良かったら頼む」
彼の好みは知っている。後、密かに名前の呼び方も変えてみた。私達が仲良くない証拠はチラホラ出している。
香草で味付けをして皮をパリッと焼いた鶏肉が彼は好きだ。牛肉よりも鶏肉がいい。スープはあっさりした野菜スープにした。
食の好みはこちらでも同じで無言で口に運ぶ。気分がいいみたいでお酒も進んでいた。
食事を食べた後、シャーリーの絵が見たいとラシエルが言ったので保管している部屋に向かった。
部屋の中に絵が飾られていて、どのモデルも私だった。
私たちにとって当たり前の絵が、彼のとって違う感覚だと思いもしなかった。
「……美しいまるで女神のようだ。しかし、裸の絵がどうして多いのだろう」
「えっ、綺麗だから描きたくなるのは当然の事ですよ。芸術家として探求心がありますし」
2人とも何を言っているのか分からず、私は首を傾げた。
ふとラシエルを目で追いかけると、凄い勢いで小さい時の絵の近くに寄って見ていた。
「凄く可愛い女の子だ。こんな子が近くにいたら告白したくなるだろう」
嬉しいけれど私は苦笑いをして誤魔化した。年々痩せているけれど最初の頃なんて太っていて可愛くない。
「全部リーファ様ですよ」
「ありったけのお金を渡すから全部売って欲しい」
「ダメです。これは個人的な物で、売るわけにはいきません。それに私の絵なんて飾っても意味がないでしょう」
結婚するわけじゃないんだから。身内になったら必要かもしれない。子供に見せるわけじゃないんだし。
部屋でワイワイ2人は盛り上がっていた。絵が好きな人だったから、シャーリーと話をして面白いのだろう。
胸が少しざわついた。好きじゃないのに。
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