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 騎士団長が関係を持った相手を探している、という噂が広がったその一言で、多くの騎士団長信者は歓喜の声を上げた。フレイから聞いた話では、実は聖女が登場する以前は、騎士団長がその圧倒的な人気を誇っていたらしい。

「へー」 
「本当に興味がないのね」

 私は特に関心がなかったが、騎士団長がなぜそこまで人気なのかについて、フレイは熱心に説明してくれた。彼の家柄は申し分なく、見た目も麗しいギルは、学生時代には常に注目の的だったため、周りの人々はなかなか近寄ることができなかったという。それが今では、汗臭い騎士団に交じって訓練する日々を過ごしている。さらに雄っ気が増しているせいで、彼に触れるだけで排卵日が来てしまうという女性もいるとか。

 学生時代の写真を見せてもらうと、ギルはまるで細マッチョなダンスが踊れる芸能人のように美しかった。今では筋肉質でガタイが良くなり、顔つきも凛々しく、その変化には驚かされる。まるで別人のように見た目が変わっているのだから。

 銀髪に赤い瞳も、この世界でも滅多に見かけないほど幻想的だ。悪役っぽい見た目のゲームキャラを思わせる彼の姿に、私は彼に見つめられると緊張してしまう。

 こちら側の現実を具現化したかのような彼に触れたら、自分が自分でなくなりそうで、どこか怖さを感じる。

 グランバル国の騎士団長が誰かを探しているという話はすぐに有名になり、隣国から留学に来た王女様も彼の大ファンで、ユウと一緒に話が盛り上がっていた。王家主催のお茶会の招待状は、仲の良くない私には届くはずがない。テーブルに座るのは可愛らしい令嬢や王女たちばかりで、その席にはまたしても見目麗しい令息が集っている。

 絵に描いたようなその光景を目に焼き付けた後、私は魔術師たちが集まる部屋へ向かった。

「あの、すいません」
「どうしたの、キズナちゃん。フレイならちょっと席を外しているけど、すぐに呼ぶよ」
「いえ、待ちます。急がなくていいです」

 紅茶を用意してもらい、少し待っているとフレイがやってきた。

「ここに来るなんて珍しいね。どうしたの?」
「フレイ、以前彼氏を作らないかって聞いてきたでしょ?」
「あ、突然どうしてそんな話を?」
「私、結婚を前提にした恋人が欲しいの」

 今まで恋愛に全く興味がなかった私が、突然こんな話を切り出したものだから、フレイは驚いているだろう。きっかけについては話せないけれど、避妊薬を飲んだ後に赤ちゃんを見たら後悔したからだ。
 たまに初めて抱かれた時の子供が産まれていたら、と想像をする。そんな未来は絶対にありえないのに、騎士団長がユウに向けるような屈託のない笑顔で、子供に笑いかける姿を夢に見る。

「こっちの世界で家族を作りたいと思うようになったの。ただ、私と結婚したいと思ってくれる相手が見つからないから、協力してくれる?」

「いいよ。じゃあ、どんなタイプが好きなの?」

「私のことを好きになってくれる人がいい」

「それは当たり前のことじゃない?」

 それ以外に思い浮かばなかった私は、周りの人から教えてもらった考えをそのまま口にした。

「初めて付き合う恋人なんだから、もっと贅沢を言ってもいいんだよ。例えば、今まで付き合ったことがない人がいいとか」

「うん」

「守ってくれる人がいいとか」

「うん。それと、もう一つ希望があるんだけれど」

「何?言ってみて」

「ブサイクな私でも愛してくれる人がいい」

 フレイは一瞬驚いた表情を浮かべた後、思わず私の顔をじっと見つめた。

「……それ、本気で言ってる?キズナちゃん、あなたが自分のことをどう思ってるか知らないけど、可愛いじゃない!何でそんなこと言うの?」

 私は視線をそらし、少し考えながら答えた。

「私、可愛くないから。一緒に歩いていて恥ずかしい思いをさせると思うの。気分を悪くさせるかもしれないし、子供も同じような目をしているかもしれない。だから、社交の場に出なくても怒らない人がいい」

 フレイは少し呆れたように首を振りながら、私の手を握りしめた。

「キズナ、それはあなたが自分に厳しすぎるだけだよ。あなたがどう見えるかは、他の人が決めることじゃなくて、あなた自身がどう生きたいか、どう感じたいかが大事なんだよ。私、キズナが可愛いと思っているし、あなたを愛してくれる人だって必ず見つかるから、自信を持って!」

 フレイの言葉に、私は少し安心したような気持ちになったが、心の中で譲れない気持ちはまだ残っていた。それでも、彼女の優しさに救われる思いがした。
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