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第三十六話『帝都ガルザス』
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クーガーとともに馬車に乗った俺達は馬を走らせ、帝都ガルザスへ向かう。
馬車は草原に挟まれた街道を疾走していた。
あれから魔物に出会うこともなく順調に距離を稼げている。
「へぇ、それじゃクーガーは生き別れた娘さんを捜す為に旅をしてるのね」
「あぁ。旅を始めてもう五年になるから大分見た目も変わっちまってるだろうけどな」
「何歳なの?」
「今年で十五になるはずだ。名前はソニアってんだが聞いたことはないか?」
「ソニアちゃんね……ゴメンなさい、聞いたことがないわ。カーマイン達はどう?」
クーガーと話していたエルザが俺達にも問いかける。
俺はエルリックと顔を見合わせるが、もちろん聞いたことのない名前だ。
お互い顔を横に振ってみせる。
「すまない。俺達も聞いたことはないな。クーガー、何か娘さんだと一目で分かる特徴のようなものはないのか?」
「一目で分かるものか……。そうだなぁ、髪の色が薄紫でくせっ毛ってことくらいしか言えんな。後は妻に似て美人だぞ」
「おいおい、親バカ丸出しじゃないか」
「親バカとはなんだ、親バカとは! お前らもソニアを見ればきっと分かるはずだ!」
そういうところが親バカだと思うんだが……。
先ほどまでの歴戦の戦士然とした風格の欠片もないクーガーの表情に、俺達は苦笑いを浮かべる。
そこでエルザが何か気になったようでクーガーに話しかけた。
「ねぇ、クーガー? 奥さんは一緒じゃないの? それとも何処かで待ってるとかかしら」
エルザの発言にクーガーの表情は一瞬顔を顰めるが、直ぐに困ったような笑みに変わる。
「妻はソニアを産んだ後に体調を崩してな。そのまま……な」
「ゴメンなさい! 私が聞いたばっかりに……」
エルザは聞いてはいけないことを聞いてしまったといった感じで顔を歪めて、クーガーに謝る。
娘と変わらない年齢のエルザに謝られたクーガーは、軽く笑いながらエルザの頭をポンポンと撫でた。
「なに、構わんさ。確かに妻を亡くした時は悲しみに暮れたもんだが、俺にはソニアがいるからな。って何処にいるか分からねえんだがな、ハッハッハ」
「いや、そこは笑うとこじゃないと思うけど……」
「ん? それもそうだな。まぁそんなわけで何年、何十年かかろうと必ず見つけ出してやるって決めてるのさ。何事も諦めたらそこで終わりだからな」
「そっか……。見つかるといいわね」
「おう! ありがとな」
ニカっと笑みを浮かべるクーガーの表情には諦めといったものは微塵も感じられなかった。
◇
翌日、俺達は帝都ガルザスに到着した。
馬車の窓から見える帝都の外壁はヴェルスタット王都と同じくらいの高さだろうか?
クーガーに尋ねると王都にも行ったことがあるようで、俺の見立て通りヴェルスタットとほぼ同じ規模だそうだ。
門番に冒険者証を提示して、門を潜り抜ける。
初めて来た帝都ガルザスは活気に満ち溢れていた。
人々の顔は明るく、騒がしい。
街路には露店が立ち並び、行き交う人々も多かった。
グリフィンシェル帝国は風の女神ウェンティを信仰しており、帝都に入って直ぐの場所に神殿がある。
一番遠くに見える立派な黒塗りの城が皇帝の住む帝城なのだろう。
馬車を走らせていると、円形の大きな建物が見えてきた。
何かと思い、俺はこの中で帝都に一番詳しいクーガーに尋ねる。
「クーガー、あの建物はなんなんだ?」
「あれか? あれは闘技場だ」
「闘技場?」
「あぁ。普段帝都の住民は魔物に出会う機会なんて滅多にない。冒険者や帝国騎士団が帝都周辺の魔物については定期的に討伐を行ってるからな」
「それはまぁ、当然だな」
「だろ? つまりは平和ってことだ。平和が続くとどうしても人ってやつは娯楽に飢えてくる。それを解消する為に当時の皇帝陛下がこの闘技場を作ったってわけだ」
「皇帝陛下の命令で作られたのか?」
クーガーの言葉に俺は目を見開く。
俺の表情が面白かったのか、クーガーは笑いながら話を続ける。
「そうだ。だからこの闘技場は帝国の物だし、管理や運営しているのも帝国さ。普段は魔物同士の戦闘を行ったり、奴隷闘士と魔物の戦闘、時には冒険者と魔物の戦闘も行われてる。まぁ、もちろんタダってわけじゃなくて、賭けにして金を取ってるけどな。自分達が実際に戦うのは怖いけど、見てみたい。そういう日常から外れたことに興味のある住民が結構いるのさ」
「そういうもんかな」
「ふっ、カーマインは自分で魔物を倒せるからよく分からんと思うがな。近くで戦闘を見ることで興奮する者はそれなりに居るんだぜ?」
クーガーが肩を竦めて言う。
確かに俺には良く分からない感情だ。
平和であればそれが一番だと思うんだが……。
「っと、そうそう。後は年に二回だが武闘大会が開催されるんだ」
「武闘大会?」
興味があるのか、エルザがクーガーの話に食いつく。
「おう。そこで優勝すれば結構な賞金がもらえるし、皇帝陛下とその場で謁見出来て、しかも直接話が出来るぞ」
「皇帝陛下がわざわざ平民が居る闘技場まで見に来るの!?」
クーガーの言葉に今度はエルザが目を丸くする。
それを見たクーガーは当然だろと言わんばかりに頷く。
「そりゃ来るだろ? 皇帝陛下は闘技場の所有者でもあり、武闘大会の主催者でもあるんだ。毎回決勝戦は見に来てるよ」
「そうなのね。ヴェルスタットじゃ国王と謁見する機会なんて貴族くらいしかないから、ビックリだわ」
「皇帝陛下は強い者が好きだそうだからな。そのへんは普通の王族なんかとは違うのかもしれんな」
「へぇ。にしても、クーガーって闘技場について結構詳しいのね?」
「ん? そりゃ何度か武闘大会に出場して優勝したことがあるからな」
「「「優勝!?」」」
クーガーの何気ない一言に、リルとアニエスを除いた俺達三人は一斉に声を上げる。
強いとは思っていたがまさか武闘大会で優勝するほどとは……。
俺は思わずクーガーを羨望の眼差しで見ると、クーガーは居心地の悪いのか落ち着かない様子だ。
「あー……昔の話だからな? 今じゃきっと優勝なんて出来んと思うぞ」
「そんな謙遜しなくてもいいじゃないか。素直に凄いと思うよ。なあ皆?」
俺の言葉に皆が頷くのを見たクーガーは苦笑いを浮かべるのみだった。
馬車は草原に挟まれた街道を疾走していた。
あれから魔物に出会うこともなく順調に距離を稼げている。
「へぇ、それじゃクーガーは生き別れた娘さんを捜す為に旅をしてるのね」
「あぁ。旅を始めてもう五年になるから大分見た目も変わっちまってるだろうけどな」
「何歳なの?」
「今年で十五になるはずだ。名前はソニアってんだが聞いたことはないか?」
「ソニアちゃんね……ゴメンなさい、聞いたことがないわ。カーマイン達はどう?」
クーガーと話していたエルザが俺達にも問いかける。
俺はエルリックと顔を見合わせるが、もちろん聞いたことのない名前だ。
お互い顔を横に振ってみせる。
「すまない。俺達も聞いたことはないな。クーガー、何か娘さんだと一目で分かる特徴のようなものはないのか?」
「一目で分かるものか……。そうだなぁ、髪の色が薄紫でくせっ毛ってことくらいしか言えんな。後は妻に似て美人だぞ」
「おいおい、親バカ丸出しじゃないか」
「親バカとはなんだ、親バカとは! お前らもソニアを見ればきっと分かるはずだ!」
そういうところが親バカだと思うんだが……。
先ほどまでの歴戦の戦士然とした風格の欠片もないクーガーの表情に、俺達は苦笑いを浮かべる。
そこでエルザが何か気になったようでクーガーに話しかけた。
「ねぇ、クーガー? 奥さんは一緒じゃないの? それとも何処かで待ってるとかかしら」
エルザの発言にクーガーの表情は一瞬顔を顰めるが、直ぐに困ったような笑みに変わる。
「妻はソニアを産んだ後に体調を崩してな。そのまま……な」
「ゴメンなさい! 私が聞いたばっかりに……」
エルザは聞いてはいけないことを聞いてしまったといった感じで顔を歪めて、クーガーに謝る。
娘と変わらない年齢のエルザに謝られたクーガーは、軽く笑いながらエルザの頭をポンポンと撫でた。
「なに、構わんさ。確かに妻を亡くした時は悲しみに暮れたもんだが、俺にはソニアがいるからな。って何処にいるか分からねえんだがな、ハッハッハ」
「いや、そこは笑うとこじゃないと思うけど……」
「ん? それもそうだな。まぁそんなわけで何年、何十年かかろうと必ず見つけ出してやるって決めてるのさ。何事も諦めたらそこで終わりだからな」
「そっか……。見つかるといいわね」
「おう! ありがとな」
ニカっと笑みを浮かべるクーガーの表情には諦めといったものは微塵も感じられなかった。
◇
翌日、俺達は帝都ガルザスに到着した。
馬車の窓から見える帝都の外壁はヴェルスタット王都と同じくらいの高さだろうか?
クーガーに尋ねると王都にも行ったことがあるようで、俺の見立て通りヴェルスタットとほぼ同じ規模だそうだ。
門番に冒険者証を提示して、門を潜り抜ける。
初めて来た帝都ガルザスは活気に満ち溢れていた。
人々の顔は明るく、騒がしい。
街路には露店が立ち並び、行き交う人々も多かった。
グリフィンシェル帝国は風の女神ウェンティを信仰しており、帝都に入って直ぐの場所に神殿がある。
一番遠くに見える立派な黒塗りの城が皇帝の住む帝城なのだろう。
馬車を走らせていると、円形の大きな建物が見えてきた。
何かと思い、俺はこの中で帝都に一番詳しいクーガーに尋ねる。
「クーガー、あの建物はなんなんだ?」
「あれか? あれは闘技場だ」
「闘技場?」
「あぁ。普段帝都の住民は魔物に出会う機会なんて滅多にない。冒険者や帝国騎士団が帝都周辺の魔物については定期的に討伐を行ってるからな」
「それはまぁ、当然だな」
「だろ? つまりは平和ってことだ。平和が続くとどうしても人ってやつは娯楽に飢えてくる。それを解消する為に当時の皇帝陛下がこの闘技場を作ったってわけだ」
「皇帝陛下の命令で作られたのか?」
クーガーの言葉に俺は目を見開く。
俺の表情が面白かったのか、クーガーは笑いながら話を続ける。
「そうだ。だからこの闘技場は帝国の物だし、管理や運営しているのも帝国さ。普段は魔物同士の戦闘を行ったり、奴隷闘士と魔物の戦闘、時には冒険者と魔物の戦闘も行われてる。まぁ、もちろんタダってわけじゃなくて、賭けにして金を取ってるけどな。自分達が実際に戦うのは怖いけど、見てみたい。そういう日常から外れたことに興味のある住民が結構いるのさ」
「そういうもんかな」
「ふっ、カーマインは自分で魔物を倒せるからよく分からんと思うがな。近くで戦闘を見ることで興奮する者はそれなりに居るんだぜ?」
クーガーが肩を竦めて言う。
確かに俺には良く分からない感情だ。
平和であればそれが一番だと思うんだが……。
「っと、そうそう。後は年に二回だが武闘大会が開催されるんだ」
「武闘大会?」
興味があるのか、エルザがクーガーの話に食いつく。
「おう。そこで優勝すれば結構な賞金がもらえるし、皇帝陛下とその場で謁見出来て、しかも直接話が出来るぞ」
「皇帝陛下がわざわざ平民が居る闘技場まで見に来るの!?」
クーガーの言葉に今度はエルザが目を丸くする。
それを見たクーガーは当然だろと言わんばかりに頷く。
「そりゃ来るだろ? 皇帝陛下は闘技場の所有者でもあり、武闘大会の主催者でもあるんだ。毎回決勝戦は見に来てるよ」
「そうなのね。ヴェルスタットじゃ国王と謁見する機会なんて貴族くらいしかないから、ビックリだわ」
「皇帝陛下は強い者が好きだそうだからな。そのへんは普通の王族なんかとは違うのかもしれんな」
「へぇ。にしても、クーガーって闘技場について結構詳しいのね?」
「ん? そりゃ何度か武闘大会に出場して優勝したことがあるからな」
「「「優勝!?」」」
クーガーの何気ない一言に、リルとアニエスを除いた俺達三人は一斉に声を上げる。
強いとは思っていたがまさか武闘大会で優勝するほどとは……。
俺は思わずクーガーを羨望の眼差しで見ると、クーガーは居心地の悪いのか落ち着かない様子だ。
「あー……昔の話だからな? 今じゃきっと優勝なんて出来んと思うぞ」
「そんな謙遜しなくてもいいじゃないか。素直に凄いと思うよ。なあ皆?」
俺の言葉に皆が頷くのを見たクーガーは苦笑いを浮かべるのみだった。
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