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幕間『暗躍する者達』

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 ――ヴェルゼリア。魔大陸にある唯一の魔族国家で、魔王ナーザ・ヴェルスディアが支配している国でもある。
 そのヴェルゼリアの幾重もある城壁の最も内周の城壁内。
 中央に位置する場所に魔王城がある。魔王城という名前に相応しいだけの禍々しさを持った、立派な城であった。

 城の隣には、同じように禍々しさを放ちながらそびえ立つ塔がある。
 その塔は、マモンやそれに準ずる地位の魔族が集まって話をする際にのみ、使用される塔だ。
 そして現在、その塔の最上階にある部屋の円卓の椅子には、マモンと二名の魔族が腰掛けていた。

 一人は男で名はグラーズ。二メートルを超える青紫の肌をした巨体は金剛石ダイヤモンドよりも硬く、筋骨隆々の身体は、服の上からでも分かるほど膨れ上がっていた。
 マモンと同じく頭からは山羊のような角を生やし、髪の色は紅玉ルビー
 短髪で後ろになで上げた髪型をしている。
 瞳の色も同じ紅玉で、その眼光は鋭く、精神の弱い者であれば睨まれただけで生を手放してしまうだろう。

 もう一人は女で名はアシュタロッテ。
 同じく頭からは角が生えており、髪の色はマモンと同じ紫水晶アメジスト
 そして、如何にも気の強そうな紫水晶に輝く切れ長の瞳。
 肩まで伸びた髪の毛は、紐で後ろに結びまとめている。
 格好はマモンに比べれば多少マシではあるが、赤いレザーが肌にピッタリと密着しており、腹部は覆われておらず青い肌が丸見えになっていた。
 下腹部には三角の鋭い切れ込みが入っており、くびれた腰は剥き出しになっていて扇情的だ。
 他の二人と決定的な違いがあるとすれば、三人の中で唯一、背中から蝙蝠のような羽根を生やしていた。

 マモンを加えた三人は三魔将イビル・トライアドと呼ばれ、魔族の中でも魔王に次ぐ実力の持ち主達である。

 バルフレア大陸から戻って来たマモンの表情は、誰が見ても機嫌が良いと分かるほどに目がニヤついており、鼻歌交じりで笑みを浮かべていた。
 それを呆れ顔で見ていた二人の魔族の内の一人、グラーズが口を開く。

「あー、マモン。戻ってくるなりずっとニヤついた顔をしてやがるが、何かいいことでもあったのか?」
「ンフフゥ、分かっちゃうかねぇ?」
「ハァ。分からねぇワケがねえだろ。
 ……そういや妖精から魔力を抜き出すって言ってたが、それが上手くいったのか?」
「そんなことは当然成功したに決まってるんだねぇ。
 今回で結構な魔力が貯まったからねぇ。ボク達の目的にもかなり近づくと思うんだねぇ」
「ほう、そいつはスゲエな! 俺も集めちゃいるんだが、中々上手くいかなくてよ」
「アハハ、グラーズのやり方は大雑把過ぎるからねぇ。もう少し加減ってものを覚えないとダメじゃないかねぇ」
「フンッ、ちまちましたやり方ってのは俺の主義じゃねえんだよっ!
 やるなら真正面からガツンとだ!」
「フフフ、グラーズならそう言うだろうと思ったよ。
 だけど、ボクの機嫌が良いのと魔力集めは関係ないんだねぇ」
「アーン? じゃあ一体何があったんだよ?」

 グラーズが胡乱げな目でマモンを見ながら問い返す。
 するとマモンが瞳を輝かせながら、グラーズの顔にグッと自分のものを寄せる。
 
「聞いてくれるかねぇっ!」
「ッッ、近えよッ!? 聞いてやるから少し離れろ!」

 グラーズは鬱陶しそうにマモンの顔を押しのけるが、マモンの笑みが崩れることはない。

「ンフフ。妖精を捕まえてたら、良い研究対象になりそうな人間に出会ったんだよねぇ」
「人間~? 人間なんざ簡単に潰れるような存在ザコだろ?
 お前の研究好きは知ってるけどよ、人間がお前の研究対象になり得んのかよ?」
「モチロンだねぇ。なんせ、ボクの【焦熱炎獄】を斬ったんだからねぇ」
「――へぇ」

 グラーズの目が大きく見開き、興味の色が灯る。今度はグラーズがマモンに顔を近づけた。

「お前の【焦熱炎獄】を斬るか、――そりゃ確かに面白そうだな。
 その人間は何て名前だ?」
「――グラーズ? 彼はボクのモノだからねぇ? 
 いくら君でも彼に手を出したら……タダじゃおかないよ?」
 
 グラーズの喉が一つ鳴った。
 今まで笑みを浮かべていたマモンの美しく端整な顔は、その柳眉を鋭くしていた。
 紫水晶の瞳に宿った色が、グラーズの背をゾクリと震わせる。
 マモンがこれ程の殺気を放つのは珍しい。
 四百年前の大戦が終結して以降ではなかったことだ。
 それほどの相手なのかと、グラーズは直感する。
 マモンを本気にさせるほどの相手。――り合ってみたい。だが、マモンを敵に回してまで戦うのはリスクが大きい。
 グラーズは迷う。
マモンと闘り合うのも、それはそれで楽しいだろう。だが、そこから※※※に※※※※の事がバレてしまう可能性がある。
 それだけは避けなければいけない。グラーズ達三魔将の悲願、それは※※※※※※※。これが他の何よりも優先すべき事だからだ。
 そこまで考えたグラーズは答えを出す。

「分かった分かった。そいつには手をださねぇから、そのおっかない殺気を消せ」

 グラーズは両手を上げて降参のポーズをする。
 それを見たマモンからフッと殺気が掻き消え、表情が元のニヤケたものに戻っていく。

「分かってくれたならそれでいいんだねぇ。あれほどの素材は四百年振りだからねぇ。
 誰にも渡しはしないし、逃がさないよ。――ンフフフフ」
「……どこの誰だかは知らねえが、マモンに目をつけられるとは運がないな」
「ヒドい言い方だねぇ。グラーズだって、面白そうな研究対象オモチャを見つけたら、誰にも渡したくはないんじゃないかねぇ?」
「ハハッ! 確かにそりゃそうだ」

 グラーズとマモンは口を吊り上げて笑い合う。
 と、そこで今まで静観を決め込んでいたアシュタロッテが、呆れ顔をしつつも鋭い目を二人に向けながら口を開く。

「――ハァ。お二人さん。楽しいのは結構やけどな、目的だけは忘れんときや」
「「ン?」」
「ン? じゃないやろ……。ウチらの最終目的は何や? ※※※※※※※やろ?
 そこだけは忘れんときや」
「……そう言えば、そうだったねぇ」
「お、俺は覚えてたぜ!」

 二人は微妙そうな顔をしてお互いの顔を見交わす。
 アシュタロッテは眉を顰める。これだから研究バカと戦闘バカは……。
 再度大きな溜め息を吐く。
 そしてアシュタロッテは顔の表情を一切消し、紫水晶の瞳を細め、平坦な声で話し始める。

「ええか? 確かにその人間はウチも面白そうな奴やとは思う。
 せやけども、いっちゃん大事なんは、※※※にバレへんように、※※※※※※※させるっちゅうことやからな?
 バレたら今までの苦労が水の泡や。
 せやから、全部終わるまではその人間に手を出すんも、おふざけも一切ナシや、――ええな?」
「そ、それくらいボクも分かってるよ。ねぇ? グラーズ?」
「お、おぅ。当たり前じゃねーか。
 ……だからアシュタロッテ、その威圧を消せ」

 二人はしどろもどろになりながらもアシュタロッテに答える。
 
「……はぁ。ホンマ頼むで」

 一つ溜め息を吐くと、アシュタロッテを中心に渦巻いていた威圧は、嘘のように消え去っていた。
 その様子を見たマモンとグラーズは嘆息する。
 アシュタロッテは表情を引き締めて、マモンに問いかける。

「まぁ分かっとるんならええわ。――それでマモン。
 後どれくらいで魔力は目的の量まで貯まりそうや?」
「ん~、そうだねぇ。今回の分を入れて残り一割を切ったからねぇ。
 ――おそらく一年もあれば確実に貯まるはずだねぇ」
「一年か……。まあ、今まで四百年も待ったんや。
 一年くらいどうってことないわな。※※※※※※※された後は――」
「※※※※※※※して、この退屈な日常を四百年前に戻す、だろ?」
「せや。うちらにとって、いっちゃんオモロかった時代がまたやってくるっちゅうワケや」
「ンフフフ。楽しみだねぇ」

 三人は円卓に備え付けられた椅子の背もたれに寄りかかり、瞳を細めて妖麗に笑った――。
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