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第二十話『情報』
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屋敷に入ってすぐの玄関ホールは、外観に負けず劣らず素晴らしいものだった。
銀の光が太い柱に散らばっており、置かれている燭台も全て銀で作られているようだ。
吹き抜けになっている造りで、正面には豪華な大階段がある。
壁際に鎮座している銀の彫像は、六人の女神を象ったもので、左右それぞれに三体ずつ置かれていた。
応接室に通されることになった俺達だが、エルザだけ一旦着替えることになり、玄関ホールで別れた。
ここではノルダール伯爵なのだから、それなりの服装というものがあるのだろう。
ミルノに案内された応接室には、高い天井に華美なシャンデリア、豪華なソファが備えられていた。
ソファに腰掛けて待っていると、ガレフとダリル、そしてエルザの順に部屋に入ってきたのだが……。
いつもと違うエルザの格好に俺達は息を呑み、視線はエルザに釘付けになる。
すると、それに気付いたエルザが途端に恥ずかしそうに目を背けた。
「何よ? 恥ずかしいからあんまりジロジロ見ないでよねっ」
「うん? 何を言っておるんじゃエルザは。
エルザの姿が恥ずかしいなどあるわけなかろう!
愛らしい天使のようじゃ! 光り輝いて見えるわい! ぶわっはっはっは!」
「お祖父様っ! もぅ……」
顔を背けながら照れるエルザにガレフが祖父バカ発言をする。エルザの格好はいつもの赤い戦闘服ではなく、翡翠色のドレスだ。
ドレスにはたくさんのレースがあしらわれている。
普通のドレスのはずなのだが、しっかりと谷間が強調されてしまっているのは、立派な胸を持つエルザだからだろうか。
正直、視線に困ってしまう。
例えるなら某国のお姫様……と言うのとはまた違うのかもしれないが、今のエルザには可憐さと美しさが同居している。
「――綺麗だ」
「えっ?」
「あ! いや、何というか、うん。よく似合ってるよ」
「そ、そう? ありがとう」
エルザははにかんで、笑った。
その表情に目を奪われてしまう。
周りからは苦笑するエルリックに囃し立てるファラ。
ミルノはポーカーフェイスだが、ダリルは意味深な笑みを浮かべている。
「うぉおおおおおおおおお! お祖父ちゃんは許さんぞっ!
絶対許さんぞおおおおっ!!」
「――ミルノ」
「畏まりました」
「むうぅう!?」
一人だけガレフが絶叫しているが、次の瞬間にはダリルが一言発し、そしてミルノがガレフを捕獲している。
何かを持っているようには見えないのだが、どういう原理なのだろうか。
「お祖父様! 巫山戯てばかりいないで座って下さい!
戻ってきたのには理由があるのですから」
「むうっ……仕方ないのう。ほれ、ミルノよ。いい加減離さんか!」
「既に解いております」
「うぐっ。……まあ良い。それで、理由とはなんじゃ?」
「はい。実は――」
そう言ってエルザは、これまでの経緯をかいつまんで、ガレフ達に説明した。
俺達の出会いから、ゴブリン討伐、護衛任務、妖精リルとの出会い、アニエス大森林での謎の黒づくめとの遭遇、そして大量の妖精の連れ去りまで。
途中何度も目を丸くしていたガレフだったが、全ての話を聞き終えると眉間に皺を寄せ、険しい表情へと変わっていく。
「大量の妖精を連れ去る者か……。
うーむ、ノルダール伯爵領でもそんな話は聞いたことがないのう。
ミルノは何か知っておるか?」
「私も妖精については何も存じ上げません。
ですが、一つ気になる情報は入ってきております」
「ほう、何じゃ? 言うてみよ」
「はい。ここから南に廃墟となった町がございます」
「確か……十年ほど前に大量発生した魔物によって滅ぼされた町じゃったな。
その廃墟となった町がどうしたのじゃ?」
「その町なのですが、最近魔物を目撃したと、領民からの報告で上がってきております。
報告によると何やら統率されているようで、何かを運び込んでいるという話もございます」
「何かを運びこむ統率された魔物か……匂うのぅ」
ミルノの情報を聞き、目を鋭く光らせるガレフ。
確かに話を聞く限りでは、アニエス大森林で遭遇した魔物の動きとよく似た点がある。
何かを運び込んでいるというのも怪しい。
俺はミルノに向かって口を開く。
「その場所へはここからどれくらいで行けますか?」
「そうですね……徒歩で半日、馬車で二時間といったところでしょうか。
――向かわれるのですね?」
「えぇ。俺達は少しでも妖精に関する情報が欲しくて、ここまでやってきました。
もしかしたら無駄足になるかもしれませんが、選択せずに後で後悔したということだけはしたくないので」
俺がそう言うと、ガレフは目を見開き、一瞬ではあるが相好を崩した。
その後直ぐに気難しい顔に戻ると、鼻息を荒くしながら俺の顔を見る。
「ふんっ! その意気だけは良しと認めてやろう。
――ミルノよ。お主がついて行ってやれ」
「畏まりました」
「えっ! いいのですか!?」
俺は驚きのあまり、反射的にガレフに問い返す。
「いいも何もないわい。お前達だけなら全然気にかけなどせんが、儂の可愛いエルザも一緒に行くんじゃろう?」
「当たり前でしょ、お祖父様。今の私はノルダール伯爵じゃないの。
一人の冒険者エルザで、カーマイン達の仲間よ!」
ソファから立ち上がり高らかに宣言するエルザは、当然といった表情をしている。
その姿を見たガレフは、諦めにも似た顔をしながら苦笑した。
「そう言うと思っておったわい。であるならば、魔物が出現するという廃墟に、お前達三人だけで行かせるはずがないじゃろう。
なあに、ミルノはこれでも元は凄腕の剣士よ。セレナからも多少じゃが手ほどきを受けておる。
それに儂を抑えることの出来る、数少ない手練じゃからな。
きっと役に立つじゃろう」
「分かりました。それでしたら有り難く。
ミルノさん、宜しくお願いしますね」
「非才の身ではありますが、戦闘はそれなりに自信がございます。
宜しくお願い致します」
「ミルノがついて来てくれるなら安心ねっ!
頼りにしてるわよ、ミルノ!」
「はっ。私の命に替えましてもエルザ様をお守り致します」
エルザはミルノに絶大な信頼を寄せているのだろう。
ミルノに向ける目はキラキラと輝いており、不安な様子は一つもない。
ミルノの表情も柔らかく、目を細めながらエルザに対して微かに微笑んでいるように見えた。
その光景を眺めていた俺達だったが、不意にガレフが何かを思い出したように手を叩く。
「そうじゃ! 大事な話を忘れておったわい。――エルザよ」
「何かしら、お祖父様?」
「ダリルが後六ヶ月で十五歳になる。
その時に合わせて伯爵位をエルザからダリルに変更するが、問題はないな?」
「えぇ、問題ありませんわ。最初からダリルが成人するまでの代理という話でしたし」
「エルザが伯爵位を継いだ時は急であったので省略されたが、本来爵位を変更する場合は、前任者と後任者の二人とも王都に居られる国王の前で行う必要がある故、必ず出席するように」
「分かったわ、お祖父様」
話を聞くと、エルザのお父上である先代ノルダール伯爵が殺された際に、ダリルが継ぐはずであったのだが、爵位を継ぐ条件として『成人していること』と決められているそうだ。
その為、当時十五歳になったばかりのエルザが代理として伯爵位を継いだという。
領地経営自体は先々代のガレフがいたので特に問題はなかった。
「姉上、ご足労をおかけします」
「何言ってるの。ダリルが気にすることじゃないのよ?
それに王都にいることも多いから、大した問題じゃないわ」
「そう言っていただけると助かります」
「いいのよ。じゃあ、この話はおしまいにしましょう。
――話を戻すわよ。今日は一泊して、明日の朝に廃墟となった町に向かう。
それでいいわよね、カーマイン?」
「ああ。それで構わない」
エルザの声に頷き合った俺達は、明日に備えてノルダール伯爵家の屋敷で一夜を過ごした。
銀の光が太い柱に散らばっており、置かれている燭台も全て銀で作られているようだ。
吹き抜けになっている造りで、正面には豪華な大階段がある。
壁際に鎮座している銀の彫像は、六人の女神を象ったもので、左右それぞれに三体ずつ置かれていた。
応接室に通されることになった俺達だが、エルザだけ一旦着替えることになり、玄関ホールで別れた。
ここではノルダール伯爵なのだから、それなりの服装というものがあるのだろう。
ミルノに案内された応接室には、高い天井に華美なシャンデリア、豪華なソファが備えられていた。
ソファに腰掛けて待っていると、ガレフとダリル、そしてエルザの順に部屋に入ってきたのだが……。
いつもと違うエルザの格好に俺達は息を呑み、視線はエルザに釘付けになる。
すると、それに気付いたエルザが途端に恥ずかしそうに目を背けた。
「何よ? 恥ずかしいからあんまりジロジロ見ないでよねっ」
「うん? 何を言っておるんじゃエルザは。
エルザの姿が恥ずかしいなどあるわけなかろう!
愛らしい天使のようじゃ! 光り輝いて見えるわい! ぶわっはっはっは!」
「お祖父様っ! もぅ……」
顔を背けながら照れるエルザにガレフが祖父バカ発言をする。エルザの格好はいつもの赤い戦闘服ではなく、翡翠色のドレスだ。
ドレスにはたくさんのレースがあしらわれている。
普通のドレスのはずなのだが、しっかりと谷間が強調されてしまっているのは、立派な胸を持つエルザだからだろうか。
正直、視線に困ってしまう。
例えるなら某国のお姫様……と言うのとはまた違うのかもしれないが、今のエルザには可憐さと美しさが同居している。
「――綺麗だ」
「えっ?」
「あ! いや、何というか、うん。よく似合ってるよ」
「そ、そう? ありがとう」
エルザははにかんで、笑った。
その表情に目を奪われてしまう。
周りからは苦笑するエルリックに囃し立てるファラ。
ミルノはポーカーフェイスだが、ダリルは意味深な笑みを浮かべている。
「うぉおおおおおおおおお! お祖父ちゃんは許さんぞっ!
絶対許さんぞおおおおっ!!」
「――ミルノ」
「畏まりました」
「むうぅう!?」
一人だけガレフが絶叫しているが、次の瞬間にはダリルが一言発し、そしてミルノがガレフを捕獲している。
何かを持っているようには見えないのだが、どういう原理なのだろうか。
「お祖父様! 巫山戯てばかりいないで座って下さい!
戻ってきたのには理由があるのですから」
「むうっ……仕方ないのう。ほれ、ミルノよ。いい加減離さんか!」
「既に解いております」
「うぐっ。……まあ良い。それで、理由とはなんじゃ?」
「はい。実は――」
そう言ってエルザは、これまでの経緯をかいつまんで、ガレフ達に説明した。
俺達の出会いから、ゴブリン討伐、護衛任務、妖精リルとの出会い、アニエス大森林での謎の黒づくめとの遭遇、そして大量の妖精の連れ去りまで。
途中何度も目を丸くしていたガレフだったが、全ての話を聞き終えると眉間に皺を寄せ、険しい表情へと変わっていく。
「大量の妖精を連れ去る者か……。
うーむ、ノルダール伯爵領でもそんな話は聞いたことがないのう。
ミルノは何か知っておるか?」
「私も妖精については何も存じ上げません。
ですが、一つ気になる情報は入ってきております」
「ほう、何じゃ? 言うてみよ」
「はい。ここから南に廃墟となった町がございます」
「確か……十年ほど前に大量発生した魔物によって滅ぼされた町じゃったな。
その廃墟となった町がどうしたのじゃ?」
「その町なのですが、最近魔物を目撃したと、領民からの報告で上がってきております。
報告によると何やら統率されているようで、何かを運び込んでいるという話もございます」
「何かを運びこむ統率された魔物か……匂うのぅ」
ミルノの情報を聞き、目を鋭く光らせるガレフ。
確かに話を聞く限りでは、アニエス大森林で遭遇した魔物の動きとよく似た点がある。
何かを運び込んでいるというのも怪しい。
俺はミルノに向かって口を開く。
「その場所へはここからどれくらいで行けますか?」
「そうですね……徒歩で半日、馬車で二時間といったところでしょうか。
――向かわれるのですね?」
「えぇ。俺達は少しでも妖精に関する情報が欲しくて、ここまでやってきました。
もしかしたら無駄足になるかもしれませんが、選択せずに後で後悔したということだけはしたくないので」
俺がそう言うと、ガレフは目を見開き、一瞬ではあるが相好を崩した。
その後直ぐに気難しい顔に戻ると、鼻息を荒くしながら俺の顔を見る。
「ふんっ! その意気だけは良しと認めてやろう。
――ミルノよ。お主がついて行ってやれ」
「畏まりました」
「えっ! いいのですか!?」
俺は驚きのあまり、反射的にガレフに問い返す。
「いいも何もないわい。お前達だけなら全然気にかけなどせんが、儂の可愛いエルザも一緒に行くんじゃろう?」
「当たり前でしょ、お祖父様。今の私はノルダール伯爵じゃないの。
一人の冒険者エルザで、カーマイン達の仲間よ!」
ソファから立ち上がり高らかに宣言するエルザは、当然といった表情をしている。
その姿を見たガレフは、諦めにも似た顔をしながら苦笑した。
「そう言うと思っておったわい。であるならば、魔物が出現するという廃墟に、お前達三人だけで行かせるはずがないじゃろう。
なあに、ミルノはこれでも元は凄腕の剣士よ。セレナからも多少じゃが手ほどきを受けておる。
それに儂を抑えることの出来る、数少ない手練じゃからな。
きっと役に立つじゃろう」
「分かりました。それでしたら有り難く。
ミルノさん、宜しくお願いしますね」
「非才の身ではありますが、戦闘はそれなりに自信がございます。
宜しくお願い致します」
「ミルノがついて来てくれるなら安心ねっ!
頼りにしてるわよ、ミルノ!」
「はっ。私の命に替えましてもエルザ様をお守り致します」
エルザはミルノに絶大な信頼を寄せているのだろう。
ミルノに向ける目はキラキラと輝いており、不安な様子は一つもない。
ミルノの表情も柔らかく、目を細めながらエルザに対して微かに微笑んでいるように見えた。
その光景を眺めていた俺達だったが、不意にガレフが何かを思い出したように手を叩く。
「そうじゃ! 大事な話を忘れておったわい。――エルザよ」
「何かしら、お祖父様?」
「ダリルが後六ヶ月で十五歳になる。
その時に合わせて伯爵位をエルザからダリルに変更するが、問題はないな?」
「えぇ、問題ありませんわ。最初からダリルが成人するまでの代理という話でしたし」
「エルザが伯爵位を継いだ時は急であったので省略されたが、本来爵位を変更する場合は、前任者と後任者の二人とも王都に居られる国王の前で行う必要がある故、必ず出席するように」
「分かったわ、お祖父様」
話を聞くと、エルザのお父上である先代ノルダール伯爵が殺された際に、ダリルが継ぐはずであったのだが、爵位を継ぐ条件として『成人していること』と決められているそうだ。
その為、当時十五歳になったばかりのエルザが代理として伯爵位を継いだという。
領地経営自体は先々代のガレフがいたので特に問題はなかった。
「姉上、ご足労をおかけします」
「何言ってるの。ダリルが気にすることじゃないのよ?
それに王都にいることも多いから、大した問題じゃないわ」
「そう言っていただけると助かります」
「いいのよ。じゃあ、この話はおしまいにしましょう。
――話を戻すわよ。今日は一泊して、明日の朝に廃墟となった町に向かう。
それでいいわよね、カーマイン?」
「ああ。それで構わない」
エルザの声に頷き合った俺達は、明日に備えてノルダール伯爵家の屋敷で一夜を過ごした。
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