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第十六話『カーマインの夢 前編』
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――懐かしい夢を見た。
俺が八歳になったばかりで、第三王子としてアルフォンスに、ほぼ毎日のように訓練場で、剣術の稽古をつけてもらっていた頃の夢だ。
「たぁ!」
「王子、踏み込みが甘いですよっ」
「うわぁッ」
あの頃の俺は、何度アルフォンスに向かっていっても、一撃を入れることが出来なくて悔しかったのを覚えている。
まぁ、八歳の子供が十八歳の騎士に向かっていくんだ。
普通に考えて、一撃を入れるなんて出来るはずがない。
それでも当時の俺は、アルフォンスに一撃を入れる事が出来ると信じて、ずっと向かっていった。
アルフォンスに向かって打ち込みをしては弾かれ、また打ち込みをしては弾かれを何度も繰り返した俺は、とうとう息を上げて床に倒れこむ。
そして、その倒れこんだ俺をおんぶして部屋まで運ぶのがアルフォンスの日課となっていた。
「……くそぉ。今日もアルフォンスに一撃を入れることが出来なかったか」
「いやはや、カイル様の上達ぶりには驚かされます。
今の時点でこれだけ出来るのであれば、将来が楽しみですよ」
一撃を入れることが出来ずに悔しがる俺を背負い、上達ぶりを褒めてくれるアルフォンス。
しかし、幼い頃の俺は頭を振る。
「――この程度ではダメなのだ。私はもっと、もっと強くならねばならぬ」
「何故ですか? 貴族の、それも騎士を目指す者であれば、真剣に稽古をする者もいるでしょう。
ですがカイル様は王族です。普通、王族の御子息はここまで真剣に稽古に励むことはありません。
せいぜい剣の型を覚えて嗜む程度です。
何がカイル様をそこまで駆り立てるのですか?」
アルフォンスの言うとおり、俺は幼少の頃から真剣に剣術の稽古に取り組んでいた。
当時の俺は気づかなかったが、後にアルフォンスからは、いつ一撃を入れられるか肝を冷やしていたという話を聞いたことがある。
そんな八歳の俺が、まだまだ力が足りないと嘆くのだ。
アルフォンスは、さぞ不思議に思ったことだろう。
だからこそ疑問を口にしたのだと思う。
「私にはな、夢があるのだ」
「夢――ですか?」
「あぁ、とても大きな夢だ。だが、今の私では到底叶えることは出来ない。
その夢を叶えるには権力だけではダメなのだ。私自身が強くあらねばならぬ。
今はまだ教えることは出来ないが、いつか必ず其方にも教えてやろう」
「そうでございましたか。どんな夢かは分かりませんが、カイル様が望む夢です。
きっと素晴らしい夢なのでしょうね。カイル様が行動される時には、非才の身ではありますが、微力ながらお手伝いさせて頂きます」
「そうかっ。礼を言うぞ、アルフォンス!」
俺の夢の話に対し、笑みを浮かべて手伝うと告げてくれたアルフォンスに、子供心に嬉しかったのを覚えている。
この頃から既にアルフォンスは俺にとって、なくてはならない存在となっていたのだ。
そう思っていると徐々に意識が浮上していくのを感じる――。
◇
「ッッ」
「! カーマイン! 気がついたのねッ。大丈夫?」
「大丈夫かい? カーマイン?」
目が覚めると目の前は森――ではなく、既にアニエス大森林を抜け、王都へ戻る途中だったようだ。
俺はエルリックに背負われている。
エルザとファラが心配そうな表情を浮かべて俺の顔を見ていた。
背負われている為、エルリックの表情こそ見えないが、口調から気遣ってくれているのが分かる。
――あの頃の夢を見たのは、これが原因のようだ。
「あぁ、大丈夫だ。心配かけて済まなかったな。
皆の方こそ大丈夫か?」
「私達は問題ないわ。ミノタウロス以外には魔物はいなかったし。
それよりもミノタウロスを倒した後に、気を失うものだからそっちが心配で……」
「……済まない。【英雄領域】だけじゃ勝てない相手だったからな。
新たな能力を使用したんだ。その反動だよ」
「新たな能力?」
「あぁ。能力の名前は【限界突破】。
百秒という時間制限があるが、その間は【英雄領域】のおよそ二倍の力を強制的に引き出すことが出来る」
「二倍ですって!?」
エルザは驚きで目を見開く。
「ああ。【英雄領域】は、自身の全てのステータスを上昇させる。
しかし、それはあくまで英雄と呼ばれる存在の枠内に収まる範囲でしかないんだ」
「十分すごい事だと思うんだけど?」
「確かに十分有用な能力ではあるけど、相手によっては通じない事もあるんだ。
……今回のようにな」
「それは……」
「奴が何者かは分からないが、今回のように自分よりも強い者と戦うことはあるはずだ。
【英雄領域】で倒す事の出来ない相手を打倒する為の力、それが【限界突破】というわけさ。
ただし、【限界突破】は諸刃の剣だ。
使用後の身体は、今みたいに反動で身体を動かす事もままならない状態になってしまう」
俺が告げた驚愕の事実に、二人共愕然とした表情をしていた。
エルザは目にうっすらと涙を浮かべている。
「おいおい、そんなに心配しなくても大丈夫だ。
今回は気を失ってしまったが、俺の【生命癒術】で癒すことは出来るんだから。
……あれ?」
「どうしたの?」
「いや、どうやら【限界突破】を使用した後は、一時的に制限がかかるみたいだ。
能力が使えなくなってる……」
「なッ!? 大丈夫なの!?」
「多分、一日休めば問題ないと思う。だがそうなると……兄さん、済まない。
このまま王都まで戻ってもらわなきゃいけない。
……鎧を着ていないとはいえ、重いだろ?」
申し訳なくなった俺はエルリックに謝った。
能力に使用制限が掛けられているのは盲点だった。
こういう時の事も考えて、どの能力も一度は使って試しておくべきだったな……。
「ああ、大丈夫だよ。確かに昔背負った時に比べたら重いことは重いけど、弟を助けるのは兄として当たり前さ。
弟なんだから、変に責任を感じる必要はないんだよ」
「……ありがとう、兄さん」
そう言って笑うエルリックの姿が、夢の中のアルフォンスと重なる。
あの頃から、ずっと俺の力になってくれているエルリック。
――そろそろ、俺の夢について話してもいいかもしれない。
俺は意志を固めて、皆に話しかける。
「皆。王都の宿屋に戻ったら話しておきたいことがあるんだ――」
俺が八歳になったばかりで、第三王子としてアルフォンスに、ほぼ毎日のように訓練場で、剣術の稽古をつけてもらっていた頃の夢だ。
「たぁ!」
「王子、踏み込みが甘いですよっ」
「うわぁッ」
あの頃の俺は、何度アルフォンスに向かっていっても、一撃を入れることが出来なくて悔しかったのを覚えている。
まぁ、八歳の子供が十八歳の騎士に向かっていくんだ。
普通に考えて、一撃を入れるなんて出来るはずがない。
それでも当時の俺は、アルフォンスに一撃を入れる事が出来ると信じて、ずっと向かっていった。
アルフォンスに向かって打ち込みをしては弾かれ、また打ち込みをしては弾かれを何度も繰り返した俺は、とうとう息を上げて床に倒れこむ。
そして、その倒れこんだ俺をおんぶして部屋まで運ぶのがアルフォンスの日課となっていた。
「……くそぉ。今日もアルフォンスに一撃を入れることが出来なかったか」
「いやはや、カイル様の上達ぶりには驚かされます。
今の時点でこれだけ出来るのであれば、将来が楽しみですよ」
一撃を入れることが出来ずに悔しがる俺を背負い、上達ぶりを褒めてくれるアルフォンス。
しかし、幼い頃の俺は頭を振る。
「――この程度ではダメなのだ。私はもっと、もっと強くならねばならぬ」
「何故ですか? 貴族の、それも騎士を目指す者であれば、真剣に稽古をする者もいるでしょう。
ですがカイル様は王族です。普通、王族の御子息はここまで真剣に稽古に励むことはありません。
せいぜい剣の型を覚えて嗜む程度です。
何がカイル様をそこまで駆り立てるのですか?」
アルフォンスの言うとおり、俺は幼少の頃から真剣に剣術の稽古に取り組んでいた。
当時の俺は気づかなかったが、後にアルフォンスからは、いつ一撃を入れられるか肝を冷やしていたという話を聞いたことがある。
そんな八歳の俺が、まだまだ力が足りないと嘆くのだ。
アルフォンスは、さぞ不思議に思ったことだろう。
だからこそ疑問を口にしたのだと思う。
「私にはな、夢があるのだ」
「夢――ですか?」
「あぁ、とても大きな夢だ。だが、今の私では到底叶えることは出来ない。
その夢を叶えるには権力だけではダメなのだ。私自身が強くあらねばならぬ。
今はまだ教えることは出来ないが、いつか必ず其方にも教えてやろう」
「そうでございましたか。どんな夢かは分かりませんが、カイル様が望む夢です。
きっと素晴らしい夢なのでしょうね。カイル様が行動される時には、非才の身ではありますが、微力ながらお手伝いさせて頂きます」
「そうかっ。礼を言うぞ、アルフォンス!」
俺の夢の話に対し、笑みを浮かべて手伝うと告げてくれたアルフォンスに、子供心に嬉しかったのを覚えている。
この頃から既にアルフォンスは俺にとって、なくてはならない存在となっていたのだ。
そう思っていると徐々に意識が浮上していくのを感じる――。
◇
「ッッ」
「! カーマイン! 気がついたのねッ。大丈夫?」
「大丈夫かい? カーマイン?」
目が覚めると目の前は森――ではなく、既にアニエス大森林を抜け、王都へ戻る途中だったようだ。
俺はエルリックに背負われている。
エルザとファラが心配そうな表情を浮かべて俺の顔を見ていた。
背負われている為、エルリックの表情こそ見えないが、口調から気遣ってくれているのが分かる。
――あの頃の夢を見たのは、これが原因のようだ。
「あぁ、大丈夫だ。心配かけて済まなかったな。
皆の方こそ大丈夫か?」
「私達は問題ないわ。ミノタウロス以外には魔物はいなかったし。
それよりもミノタウロスを倒した後に、気を失うものだからそっちが心配で……」
「……済まない。【英雄領域】だけじゃ勝てない相手だったからな。
新たな能力を使用したんだ。その反動だよ」
「新たな能力?」
「あぁ。能力の名前は【限界突破】。
百秒という時間制限があるが、その間は【英雄領域】のおよそ二倍の力を強制的に引き出すことが出来る」
「二倍ですって!?」
エルザは驚きで目を見開く。
「ああ。【英雄領域】は、自身の全てのステータスを上昇させる。
しかし、それはあくまで英雄と呼ばれる存在の枠内に収まる範囲でしかないんだ」
「十分すごい事だと思うんだけど?」
「確かに十分有用な能力ではあるけど、相手によっては通じない事もあるんだ。
……今回のようにな」
「それは……」
「奴が何者かは分からないが、今回のように自分よりも強い者と戦うことはあるはずだ。
【英雄領域】で倒す事の出来ない相手を打倒する為の力、それが【限界突破】というわけさ。
ただし、【限界突破】は諸刃の剣だ。
使用後の身体は、今みたいに反動で身体を動かす事もままならない状態になってしまう」
俺が告げた驚愕の事実に、二人共愕然とした表情をしていた。
エルザは目にうっすらと涙を浮かべている。
「おいおい、そんなに心配しなくても大丈夫だ。
今回は気を失ってしまったが、俺の【生命癒術】で癒すことは出来るんだから。
……あれ?」
「どうしたの?」
「いや、どうやら【限界突破】を使用した後は、一時的に制限がかかるみたいだ。
能力が使えなくなってる……」
「なッ!? 大丈夫なの!?」
「多分、一日休めば問題ないと思う。だがそうなると……兄さん、済まない。
このまま王都まで戻ってもらわなきゃいけない。
……鎧を着ていないとはいえ、重いだろ?」
申し訳なくなった俺はエルリックに謝った。
能力に使用制限が掛けられているのは盲点だった。
こういう時の事も考えて、どの能力も一度は使って試しておくべきだったな……。
「ああ、大丈夫だよ。確かに昔背負った時に比べたら重いことは重いけど、弟を助けるのは兄として当たり前さ。
弟なんだから、変に責任を感じる必要はないんだよ」
「……ありがとう、兄さん」
そう言って笑うエルリックの姿が、夢の中のアルフォンスと重なる。
あの頃から、ずっと俺の力になってくれているエルリック。
――そろそろ、俺の夢について話してもいいかもしれない。
俺は意志を固めて、皆に話しかける。
「皆。王都の宿屋に戻ったら話しておきたいことがあるんだ――」
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