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兄を応援する妹
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今日も私は王都にいた。
再びマクギリアスから招待を受けたからだ。
今回は小雨がちらついていることもあり、馬車でお城に向かっている。
一緒に乗っているのはレボルではなくセバスだ。
私がマクギリアスに会いに行くと言うと、目に見えて嫌そうな顔をしていたのを思い出した。
「どうかなさいましたか?」
セバスの言葉の意味をすぐには理解できなかったが、顔に触れてみて納得がいった。
どうやら気づかぬうちに笑っていたらしい。
「ふふ、たいしたことじゃないのよ。ただ、私がお城に行くと言ったときのレボル様の顔を思い出したらつい、ね」
「お嬢様に対するレボル様のお気持ちを考えれば仕方のないことかと」
「あら? 私がマクギリス様に恋をするとでも思っているのかしら?」
整った容姿をしていることは認めるけれど、ただそれだけでなびくようなことは決してない。
その程度で恋に落ちるのであれば、地球にいた頃にとっくにしているはずだ。
そんなことはレボルも分かっていると思っていたのだけど。
「そのようなことは考えていらっしゃらないでしょう。ただ、自分の目の届かないところで自分以外の男性と会って欲しくはない、そういう気持ちが表情に出てしまったのではないかと愚考します」
……人間から畏怖される存在の魔王様が、そんなことを思うかしら。
まあ、好意を抱いているのは知っているからセバスの言うこともあながち的外れなものではないのかもしれない。
私よりもセバスの方がレボルの感覚に近いでしょうし。
戻ったら直接本人に聞いてみようかしら。
話は、先日起きたという襲撃の報告に変わる。
「襲撃者は全て撃退した後に教育を施しました。また、首謀者である侯爵3人から今後いっさいの手出しをしないという誓約書にサインを頂戴しましたので、この件に関しましてはご安心ください」
「ご苦労様。私が手を下す前に終わらせるなんて、さすがセバスね」
「もったいないお言葉です」
私の労いの言葉に、セバスが恭しく頭を下げる。
セバスを脅して私をおびき寄せたかったんでしょうけど、相手が悪かったとしか言いようがない。
この世界でセバスの相手が務まるのは、私を除けばアンとレボルくらいしかいないもの。
「侯爵以外で私たちと敵対しそうな者はいる?」
「今のところはおりません。可能性がある者たちはすべて侯爵派の貴族ばかりでしたし、侯爵3人には下がしでかした場合もあなた方の責任ですよ、とお伝えしております」
「それなら安心ね」
侯爵自身が私たちに敵対しなかったとしても、派閥の者が敵対したら連帯責任を取らされるのだ。
必死になって止めるだろう。
これで悩みがひとつ減ったことになる。
亜人の方は協力者がいるし、魔王レボルとも友好的な関係を築けていると思っている。
女神たち3人とも協力関係を結んだ。
現状、悩みというほどのことではないけれど、こうしてお城に招待されることが増えたことくらいか。
今日はいったいどういう用件かしら?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
先日マクギリアスから渡された通行証を門番に見せると、驚くほどすんなり通ることができた。
馬車を降りると出迎えてくれたのは侍従長だった。
「お待ちしておりました。マクギリス様とロザリア様がお待ちです」
今日もロザリアが一緒なのね。
前を歩く侍従長の後を歩きながらそんなことを考えていた。
今回面会するのは私だけで、セバスは馬車で待っている。
「エリー様をお連れしました」
侍従長が部屋の入口で言った。
「ようこそ、エリー殿」
前回と同じ応接室に入室した後、マクギリアスとロザリアに挨拶し、会釈をする。
「再びお招きいただきありがとうございます」
マクギリアスの正面に腰を下ろす。
彼の隣には前回同様、ロザリアが座っている。
「それで、本日はどういったご用件でしょう?」
「あー……それなのだが、特別な用があったというわけではない」
「はい?」
特に用事もないのにお城に招待したの?
訳が分からず、マクギリアスを見れば、彼は少し眉を下げて困ったような笑みを浮かべている。
私としても別に話があるわけでもなければ、聞きたいことがあるというわけでもないのだ。
仕方がないので視線を隣にいるロザリアに向ける。
すると、ロザリアはコホンと小さく咳をした。
「お兄様。嘘はいけませんよ。今日はエリー様にお伝えしたことがあってお呼びしたのでしょう」
そうなの?
その割には一向に喋ろうとしないけれど。
「う、む」
「う、む。ではありません! エリー様、ちょっと失礼します」
そう言って立ち上がると、マクギリアスを連れて壁際に寄った。
「お兄様。エリー様が来る前はあれほど意気込んでいたではありませんか。2人で出掛けようと誘うのだと」
「すまん、いざエリーを前にしたら緊張してしまってな」
「緊張……いい大人が何を言っているのです。この前来られた時は普通に話をしていたではありませんか」
「話すだけなら問題はない。ただ、いざ誘うとなるとどうもな……。今まで女性と出掛けたことなどないのだぞ」
「はあ……情けない」
ロザリアは大きなため息をついている。
ええっと、小声で話をしているつもりなのかもしれないけれど、ばっちり聞こえているわよ?
どうやらマクギリアスは私をデートに誘うために呼んだようだが、私の顔を見て躊躇しているらしい。
妹に叱られてへこむ王子というのも貴重だが、そんな姿すら絵になるのはやはりマクギリアスが整った顔をしているからだろう。
他の女性が今のマクギリアスの顔を見たらキュンとするのかしら。
そんなことを思いながら眺めていると、不意にロザリアが振り返った。
「エリー様! 来週末ですが、なにかご予定は入っていらっしゃいますか?」
「今のところは何もありませんが」
「そうですか、それは良かったです。どうでしょう、エリー様さえ良ければお兄様と一緒にお出掛けしてみませんか?」
「マクギリアス様とお出掛け、ですか?」
「ええ。いかがでしょう?」
「出掛けるくらいでしたら構いません」
私の返事にロザリアはホッとした表情を浮かべ、マクギリアスは嬉しそうにガッツポーズをしている。
いや、ロザリアのおかげだからね?
「当日はこちらから迎えに行きます。そうですよね、お兄様」
「ああ!」
頷くマクギリアスの顔は自信に満ちたものになっていた。
再びマクギリアスから招待を受けたからだ。
今回は小雨がちらついていることもあり、馬車でお城に向かっている。
一緒に乗っているのはレボルではなくセバスだ。
私がマクギリアスに会いに行くと言うと、目に見えて嫌そうな顔をしていたのを思い出した。
「どうかなさいましたか?」
セバスの言葉の意味をすぐには理解できなかったが、顔に触れてみて納得がいった。
どうやら気づかぬうちに笑っていたらしい。
「ふふ、たいしたことじゃないのよ。ただ、私がお城に行くと言ったときのレボル様の顔を思い出したらつい、ね」
「お嬢様に対するレボル様のお気持ちを考えれば仕方のないことかと」
「あら? 私がマクギリス様に恋をするとでも思っているのかしら?」
整った容姿をしていることは認めるけれど、ただそれだけでなびくようなことは決してない。
その程度で恋に落ちるのであれば、地球にいた頃にとっくにしているはずだ。
そんなことはレボルも分かっていると思っていたのだけど。
「そのようなことは考えていらっしゃらないでしょう。ただ、自分の目の届かないところで自分以外の男性と会って欲しくはない、そういう気持ちが表情に出てしまったのではないかと愚考します」
……人間から畏怖される存在の魔王様が、そんなことを思うかしら。
まあ、好意を抱いているのは知っているからセバスの言うこともあながち的外れなものではないのかもしれない。
私よりもセバスの方がレボルの感覚に近いでしょうし。
戻ったら直接本人に聞いてみようかしら。
話は、先日起きたという襲撃の報告に変わる。
「襲撃者は全て撃退した後に教育を施しました。また、首謀者である侯爵3人から今後いっさいの手出しをしないという誓約書にサインを頂戴しましたので、この件に関しましてはご安心ください」
「ご苦労様。私が手を下す前に終わらせるなんて、さすがセバスね」
「もったいないお言葉です」
私の労いの言葉に、セバスが恭しく頭を下げる。
セバスを脅して私をおびき寄せたかったんでしょうけど、相手が悪かったとしか言いようがない。
この世界でセバスの相手が務まるのは、私を除けばアンとレボルくらいしかいないもの。
「侯爵以外で私たちと敵対しそうな者はいる?」
「今のところはおりません。可能性がある者たちはすべて侯爵派の貴族ばかりでしたし、侯爵3人には下がしでかした場合もあなた方の責任ですよ、とお伝えしております」
「それなら安心ね」
侯爵自身が私たちに敵対しなかったとしても、派閥の者が敵対したら連帯責任を取らされるのだ。
必死になって止めるだろう。
これで悩みがひとつ減ったことになる。
亜人の方は協力者がいるし、魔王レボルとも友好的な関係を築けていると思っている。
女神たち3人とも協力関係を結んだ。
現状、悩みというほどのことではないけれど、こうしてお城に招待されることが増えたことくらいか。
今日はいったいどういう用件かしら?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
先日マクギリアスから渡された通行証を門番に見せると、驚くほどすんなり通ることができた。
馬車を降りると出迎えてくれたのは侍従長だった。
「お待ちしておりました。マクギリス様とロザリア様がお待ちです」
今日もロザリアが一緒なのね。
前を歩く侍従長の後を歩きながらそんなことを考えていた。
今回面会するのは私だけで、セバスは馬車で待っている。
「エリー様をお連れしました」
侍従長が部屋の入口で言った。
「ようこそ、エリー殿」
前回と同じ応接室に入室した後、マクギリアスとロザリアに挨拶し、会釈をする。
「再びお招きいただきありがとうございます」
マクギリアスの正面に腰を下ろす。
彼の隣には前回同様、ロザリアが座っている。
「それで、本日はどういったご用件でしょう?」
「あー……それなのだが、特別な用があったというわけではない」
「はい?」
特に用事もないのにお城に招待したの?
訳が分からず、マクギリアスを見れば、彼は少し眉を下げて困ったような笑みを浮かべている。
私としても別に話があるわけでもなければ、聞きたいことがあるというわけでもないのだ。
仕方がないので視線を隣にいるロザリアに向ける。
すると、ロザリアはコホンと小さく咳をした。
「お兄様。嘘はいけませんよ。今日はエリー様にお伝えしたことがあってお呼びしたのでしょう」
そうなの?
その割には一向に喋ろうとしないけれど。
「う、む」
「う、む。ではありません! エリー様、ちょっと失礼します」
そう言って立ち上がると、マクギリアスを連れて壁際に寄った。
「お兄様。エリー様が来る前はあれほど意気込んでいたではありませんか。2人で出掛けようと誘うのだと」
「すまん、いざエリーを前にしたら緊張してしまってな」
「緊張……いい大人が何を言っているのです。この前来られた時は普通に話をしていたではありませんか」
「話すだけなら問題はない。ただ、いざ誘うとなるとどうもな……。今まで女性と出掛けたことなどないのだぞ」
「はあ……情けない」
ロザリアは大きなため息をついている。
ええっと、小声で話をしているつもりなのかもしれないけれど、ばっちり聞こえているわよ?
どうやらマクギリアスは私をデートに誘うために呼んだようだが、私の顔を見て躊躇しているらしい。
妹に叱られてへこむ王子というのも貴重だが、そんな姿すら絵になるのはやはりマクギリアスが整った顔をしているからだろう。
他の女性が今のマクギリアスの顔を見たらキュンとするのかしら。
そんなことを思いながら眺めていると、不意にロザリアが振り返った。
「エリー様! 来週末ですが、なにかご予定は入っていらっしゃいますか?」
「今のところは何もありませんが」
「そうですか、それは良かったです。どうでしょう、エリー様さえ良ければお兄様と一緒にお出掛けしてみませんか?」
「マクギリアス様とお出掛け、ですか?」
「ええ。いかがでしょう?」
「出掛けるくらいでしたら構いません」
私の返事にロザリアはホッとした表情を浮かべ、マクギリアスは嬉しそうにガッツポーズをしている。
いや、ロザリアのおかげだからね?
「当日はこちらから迎えに行きます。そうですよね、お兄様」
「ああ!」
頷くマクギリアスの顔は自信に満ちたものになっていた。
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