上 下
44 / 54
勇者を目指せ!?

第44話 

しおりを挟む
 やって来たのは、グランレイヴから北西の小さな森だった。
 馬車で三十分ほどの場所で直ぐ近く横には街道も通っているが、魔族の目撃情報もない、比較的安全な場所だ。

「今だ、撃て!」

 指揮をとるゼノスの合図と同時に、アルカディア共和国の生徒たちは一斉に氷と風、土の魔法を放つ。
 魔法は弧を描きながら一直線に飛んでいき、ゴブリンの体を貫く。

「やった!」

 魔法を命中させた生徒が喜ぶ。

「浮かれるな! 来るぞっ」

 不快な鳴き声とともにバタバタと地面に倒れるが、攻撃を逃れたゴブリンたちが生徒たち目掛けてやって来た。
 刃こぼれした剣や棍棒を振りかざし、怒りの形相で近づいてくる。

 しかし、その動きはどれも遅い。
 所詮はレベル2の魔族である。
 これまで幾度となく実習を重ねてきた生徒たちにとって、ゴブリン程度の魔族など相手になるはずもない。
 アルカディア共和国の生徒たちは、落ち着いてゴブリンの攻撃に対処できている。

 ――ってか、見れば見るほど本物そっくりだな。

 ゼノスはそんなことを考えながら、近づいてきたゴブリンを一刀のもとに斬り倒していた。
 周囲を見渡すとアルカディア共和国だけでなく、イリスやレティシアたちのクラスも難なくゴブリンを倒していた。

 今、ゼノスたちの目の前にいるゴブリンは、アルヴィナ先生の召喚魔法によって出現したものだ。
 召喚魔法とは、術者の魔力を消費することで魔族を呼び出して使役する魔法で、今もアルヴィナ先生が黒く光る魔法陣から、次々と魔族を召喚している。
 現れるのはゴブリンだけではなく、スライムや大蛙トード蜥蜴リザードと様々だ。
 召喚された魔族は既に五十を超える。

 しかし、召喚された魔族に共通して言えるのはどれもレベルが低い、ということである。
 大蛙はレベル3、蜥蜴もレベル4だ。
 レベルの低い魔族であるほど、消費する魔力も少なくて済むらしい。
 しかも、召喚した魔族は術者の支配下にあるため、攻撃の威力もコントロールできるという。

 ということは、だ。
 今までよりも安全に実習が行えるということになる。
 何より移動時間が短くて済むのは助かる。
 実習をしようにも必ず魔族がいるとは限らないし、魔族が潜んでいそうな場所まで向かおうとすると、どうしても遠出をしなくてはならない。
 アルヴィナ先生の召喚魔法は、グランレイヴ魔術学院の生徒たちにとって非常に役立つはずだ。

 最終的には百体近くの魔族が召喚されたが、所詮はレベル4までの魔族しか召喚されていない。
 召喚の速さに驚いた生徒たちだったが、魔族は十分ほどですべて倒された。
 生徒たちは、オルフェウス学院長とアルヴィナ先生の前に整列する。

「ほっほっほ! どうじゃな、アルヴィナ先生の召喚魔法は。凄いじゃろう」

 白髭を撫でながらオルフェウス学院長は我が事のように笑みを浮かべていた。
 隣に立つアルヴィナ先生は一言も発することなく、無表情で立っている。
 レベルが低いとはいえ、百体近くの魔族を召喚しコントロールしていたのだ。
 魔力はそれなりに消費しているはずなのに、いっさい表情を変えず疲れた素振りすら見せていない。

 それだけ魔力量が多いってことか。
 魔術学院の生徒よりも、勇者協会の方が侮れねえ気がするな。

 魔術学院の生徒は才能はあるにはあるが、イリスやレティシアといった一部の生徒を除けば、ゼノスが脅威と思えるようなレベルではない。
 彼らに比べたら目の前にいるアルヴィナ先生の方がよっぽど警戒に値する。

 どのレベルの魔族まで召喚させて使役できるかは分からないが、基本的に魔法陣はどこでも作りだすことができる。
 すなわちグランレイヴ魔術学院内でも可能だ。

 勇者協会から派遣されたアルヴィナ先生が、そんなことをするとは思えないが、ウィリアム先生の件もある。
 
 先ほどの召喚魔法によって現れた魔族の攻撃を受ける生徒も一定数いた。
 だが、アルヴィナ先生がダメージをコントロールしてくれていたのか、それとも単に魔族のレベルが低かったからか、悲鳴を上げる生徒は一人もいなかった。

 これが例えばミノタウロスやヒュドラといった魔族だったら、攻撃を受けた生徒たちはどうなるのだろう。
 そもそもアルヴィナ先生がレベル13や15クラスの魔族を召喚できるのかといった疑問が浮かんだが、召喚の前提として今まで倒したことのある魔族であれば召喚可能とオルフェウス学院長が説明していた。
 なら可能性はゼロではないはずだ。

 可能性がある以上、警戒しておくべきだ。
 いつ、またカイナみたいな魔族が現れるかもしれないんだからな。

 ゼノスは左にちらりと視線を送る。
 視線の先にはイリスがいた。
 ゼノスの視線に気づいたのかイリスと目が合う。
 イリスは笑みを浮かべるが、すぐに顔を引き締めた。
 そして、周囲にバレないように下の方で小さく手を振って応える。
 その仕草が堪らなく可愛い。

 俺が守ってやらねえと。

 イリスの中に眠っている魔王ルキフェの魂。
 そのことを知っているのがカイナだけであるはずがない。
 きっと、他にもいるはずだ。

 大半の魔族はバエルに従っているが、一部の魔族は頑なにバエルに従うことを拒否している。
 それが魔王ルキフェの側近たちだ。
 
 今までは何で親父に従わないのか不思議だった。
 だが、今なら分かる。
 奴らは知っていたのだ。
 魔王ルキフェの魂が眠っていることを。
 そして、復活を目論んでいるのだと。

 ゼノスがニッと笑い返すと、イリスはぽっと頬を染める。
 頬だけではない、耳も少し赤らんでいるのが分かる。
 ゼノスは心の中で何度も「マジで可愛い」と繰り返した。

 イリスは俺が守る。
 改めてゼノスはそう決意すると、前に向き直った。

 オルフェウス学院長の話はまだ続いていた。
 アルヴィナ先生は変わらず無表情のままだ。
 いや、視線がある一点に集中していることに気づく。

 どこだ、どこを見てやがる。

 ゼノスが視線を辿ると、ジッとイリスを見つめていた。
 アルヴィナ先生の表情からは、何を考えているのか窺い知ることはできない。

 しかし、アルヴィナ先生の眼差しはどこか不気味で――そして、妖艶だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...