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勇者を目指せ!?
第14話
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ゼノスたち生徒は用意された馬車に乗って移動を開始。
中立都市を出て南西に三十分ほど進むと、草原とその奥に広がる森が視界に入る。
この森こそが、ゴブリンが目撃された場所だ。
馬車を降りた生徒たちは、草原を歩いていく。
ゼノスも一緒に歩いていると、後ろから話しかけられた。
「ゼノスよ。教室での話だが、ゴブリンの上位種が出てきた場合、俺たちでは勝てないと言ったな」
話しかけてきたのはヴァナルガンド帝国の第一皇子、ユリウスである。
「ああ。あんただったらそれなりに動けるだろうが、他の連中じゃまず無理だ」
と、ゼノスが答えた。
「貴様! 我らを侮辱するかっ!!」
帝国の生徒たちが殺気立つが、ゼノスはまるで意に介さない。
「侮辱も何も、客観的な事実を言ってるだけなんだがな。魔力レベル10のお前らじゃゴブリンロードやゴブリンキングの相手は務まらねえよ」
「ぐっ!? 言わせておけば……ならば、貴様なら倒せると言うのか!」
「当たり前だろ」
「う、嘘をつくなっ! 貴様はまともに魔力測定すらできなかったではないか! 我らやユリウス様よりも上だと言っているように聞こえるぞ!」
「最初からそう言っているつもりだったんだが?」
ミノタウロスを瞬殺したゼノスにとって、ゴブリンロードやゴブリンキングは相手にならない。
だが、その事実を知っているのはゼノスとイリスのみである。
他の生徒が知る由もない。
ゼノスの言葉に帝国の生徒たちがいきり立った。
「何だとぉ! ゴブリンの前に、貴様を叩っきってやろうか!!」
「やめよ」
ユリウスが静かにたしなめる。
ポケットに手を入れ、剣の柄を抜きかけた帝国の生徒たちは、大人しく剣の柄を収めた。
「口だけならいかようにも言えるであろう。言葉を口にするのは容易いが、実際に実行するのは存外難しいものだ」
そう言いながら、ゼノスにちらりと視線を送る。
「そこで、だ。どうだろう、ゼノスよ。ここは一つ勝負をしないか」
「勝負?」
「ああ、そうだ」
ユリウスは鷹揚に頷く。
「ちなみにどんな勝負だ?」
「ちょうど俺たちはゴブリン討伐に来ているのだ。討伐したゴブリンの数が多い方が勝者となる。分かりやすかろう?」
「なるほどな、そりゃ面白そうだ」
「もしも貴様が勝ったら、そうだな……爵位をやろう」
「帝国の爵位!? ってことは、ゼノスが貴族に……?」
共和国の生徒たちが色めき立つ。
「なっ!? お、お待ちください、ユリウス様っ!」
帝国の生徒たちは慌てふためき、ユリウスに異を唱える。
「帝国民でもない者に軽々しく爵位を与えるのはいかがかと……」
「ふん、帝国は実力主義だぞ。力ある者にはそれに見合うだけの対価を与える。それは他国の者であろうと変わらぬわ。ただ、ゼノスは帝国民ではないからな。与える爵位は准男爵だ」
「准男爵ってのは?」
「一代限りの名誉職のようなものだ。当然領地などもない」
——ま、当然だろうな。
むしろ、この程度の勝負に勝ったくらいで領地を与えるとか言われたらビックリだ。
「それじゃあ、あんたが勝ったら?」
ゼノスの問いに、ユリウスは静かに口端を上げた。
「帝国に来い」
「帝国民になれと?」
「いいや、俺の側近として仕えてもらう。貴様は俺の帝国に必要な人材だ」
ユリウスは己の金の瞳を笑みの形に細める。
「あー、本気なんだな?」
「無論だ。入学初日に言ったであろう、貴様であれば歓迎しようと。それともあれだけの大口を叩いたというのに、負けるのが怖いか?」
いっそ挑戦的に見える眼差しと笑みを向け、ユリウスはゼノスに問いかけた。
——やれやれ、こりゃ本気で言ってやがるな。
俺と接点ができるという意味じゃ、どっちに転んでも奴にとっては得しかない気もするが、勝てば帝国の生徒もちょっかいをだそうとは思わなくなるだろう。
「いや、別にそれでいいぜ」
ゼノスもまた、ユリウスの問いを真正面から受け止める。
「ほう? 随分とあっさり承諾するのだな。本当にいいのだな?」
「構わねえよ、どうせ俺が勝つからな」
ゼノスの瞳とユリウスの瞳が交差する。
帝国の生徒たちが怒りのこもった視線をゼノスに向ける中、ユリウスはフッと笑みを浮かべた。
「……ふ、はははは! やはり、貴様は面白いやつだ。次期皇帝であるこの俺を前にそのような態度を取るものはいないぞ」
「そりゃどーも」
「何が何でもお前を傍に置いておきたくなった。覚悟しておくんだな」
ユリウスが言い終わると、ちょうど森に到着した。
「森の広さは約二キロ四方。森の中には山や川も流れています。今まで洞窟は確認されていませんが、ゴブリンを発見したということは洞穴くらいは作られているかもしれません。弱い魔族とはいえ複数いる場合は厄介ですから、注意してください」
ゼノスは森を見渡す。
薄気味悪さが漂っており、あちこちで魔力反応がある。
その殆どはゴブリンのものだが、
——こりゃ、思ってたよりもヤバいかもな。
ゴブリンよりも強い魔力反応が三つ。
しかも、ゴブリン自体の数もかなり多い。
勇者協会の報告よりも事態は急を要する状況のようだ。
「ウィリアム先生。もう始めてもいいんだよな?」
「え? ええ」
「それじゃ、先に行ってるぜ」
ゼノスはそう言うと、森に向かって走り出した。
そのあまりの速さに呆気にとられる生徒たちだったが、直ぐにユリウスが我に返る。
「何をしている、俺たちも行くぞ」
「はっ!」
中立都市を出て南西に三十分ほど進むと、草原とその奥に広がる森が視界に入る。
この森こそが、ゴブリンが目撃された場所だ。
馬車を降りた生徒たちは、草原を歩いていく。
ゼノスも一緒に歩いていると、後ろから話しかけられた。
「ゼノスよ。教室での話だが、ゴブリンの上位種が出てきた場合、俺たちでは勝てないと言ったな」
話しかけてきたのはヴァナルガンド帝国の第一皇子、ユリウスである。
「ああ。あんただったらそれなりに動けるだろうが、他の連中じゃまず無理だ」
と、ゼノスが答えた。
「貴様! 我らを侮辱するかっ!!」
帝国の生徒たちが殺気立つが、ゼノスはまるで意に介さない。
「侮辱も何も、客観的な事実を言ってるだけなんだがな。魔力レベル10のお前らじゃゴブリンロードやゴブリンキングの相手は務まらねえよ」
「ぐっ!? 言わせておけば……ならば、貴様なら倒せると言うのか!」
「当たり前だろ」
「う、嘘をつくなっ! 貴様はまともに魔力測定すらできなかったではないか! 我らやユリウス様よりも上だと言っているように聞こえるぞ!」
「最初からそう言っているつもりだったんだが?」
ミノタウロスを瞬殺したゼノスにとって、ゴブリンロードやゴブリンキングは相手にならない。
だが、その事実を知っているのはゼノスとイリスのみである。
他の生徒が知る由もない。
ゼノスの言葉に帝国の生徒たちがいきり立った。
「何だとぉ! ゴブリンの前に、貴様を叩っきってやろうか!!」
「やめよ」
ユリウスが静かにたしなめる。
ポケットに手を入れ、剣の柄を抜きかけた帝国の生徒たちは、大人しく剣の柄を収めた。
「口だけならいかようにも言えるであろう。言葉を口にするのは容易いが、実際に実行するのは存外難しいものだ」
そう言いながら、ゼノスにちらりと視線を送る。
「そこで、だ。どうだろう、ゼノスよ。ここは一つ勝負をしないか」
「勝負?」
「ああ、そうだ」
ユリウスは鷹揚に頷く。
「ちなみにどんな勝負だ?」
「ちょうど俺たちはゴブリン討伐に来ているのだ。討伐したゴブリンの数が多い方が勝者となる。分かりやすかろう?」
「なるほどな、そりゃ面白そうだ」
「もしも貴様が勝ったら、そうだな……爵位をやろう」
「帝国の爵位!? ってことは、ゼノスが貴族に……?」
共和国の生徒たちが色めき立つ。
「なっ!? お、お待ちください、ユリウス様っ!」
帝国の生徒たちは慌てふためき、ユリウスに異を唱える。
「帝国民でもない者に軽々しく爵位を与えるのはいかがかと……」
「ふん、帝国は実力主義だぞ。力ある者にはそれに見合うだけの対価を与える。それは他国の者であろうと変わらぬわ。ただ、ゼノスは帝国民ではないからな。与える爵位は准男爵だ」
「准男爵ってのは?」
「一代限りの名誉職のようなものだ。当然領地などもない」
——ま、当然だろうな。
むしろ、この程度の勝負に勝ったくらいで領地を与えるとか言われたらビックリだ。
「それじゃあ、あんたが勝ったら?」
ゼノスの問いに、ユリウスは静かに口端を上げた。
「帝国に来い」
「帝国民になれと?」
「いいや、俺の側近として仕えてもらう。貴様は俺の帝国に必要な人材だ」
ユリウスは己の金の瞳を笑みの形に細める。
「あー、本気なんだな?」
「無論だ。入学初日に言ったであろう、貴様であれば歓迎しようと。それともあれだけの大口を叩いたというのに、負けるのが怖いか?」
いっそ挑戦的に見える眼差しと笑みを向け、ユリウスはゼノスに問いかけた。
——やれやれ、こりゃ本気で言ってやがるな。
俺と接点ができるという意味じゃ、どっちに転んでも奴にとっては得しかない気もするが、勝てば帝国の生徒もちょっかいをだそうとは思わなくなるだろう。
「いや、別にそれでいいぜ」
ゼノスもまた、ユリウスの問いを真正面から受け止める。
「ほう? 随分とあっさり承諾するのだな。本当にいいのだな?」
「構わねえよ、どうせ俺が勝つからな」
ゼノスの瞳とユリウスの瞳が交差する。
帝国の生徒たちが怒りのこもった視線をゼノスに向ける中、ユリウスはフッと笑みを浮かべた。
「……ふ、はははは! やはり、貴様は面白いやつだ。次期皇帝であるこの俺を前にそのような態度を取るものはいないぞ」
「そりゃどーも」
「何が何でもお前を傍に置いておきたくなった。覚悟しておくんだな」
ユリウスが言い終わると、ちょうど森に到着した。
「森の広さは約二キロ四方。森の中には山や川も流れています。今まで洞窟は確認されていませんが、ゴブリンを発見したということは洞穴くらいは作られているかもしれません。弱い魔族とはいえ複数いる場合は厄介ですから、注意してください」
ゼノスは森を見渡す。
薄気味悪さが漂っており、あちこちで魔力反応がある。
その殆どはゴブリンのものだが、
——こりゃ、思ってたよりもヤバいかもな。
ゴブリンよりも強い魔力反応が三つ。
しかも、ゴブリン自体の数もかなり多い。
勇者協会の報告よりも事態は急を要する状況のようだ。
「ウィリアム先生。もう始めてもいいんだよな?」
「え? ええ」
「それじゃ、先に行ってるぜ」
ゼノスはそう言うと、森に向かって走り出した。
そのあまりの速さに呆気にとられる生徒たちだったが、直ぐにユリウスが我に返る。
「何をしている、俺たちも行くぞ」
「はっ!」
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