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悪役令嬢は転落した

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突然絶叫した私に侍女達は驚いた視線を向けています。
居たたまれなくなってゆっくりと深呼吸して心を落ち着けます。


口元を軽く覆って目に涙を浮かべながら


「あの、取り乱してごめんなさい。ちょっと考え事をしてて…。」


と言えば侍女達は一斉に侮蔑の眼差しを向けてきました。
今まであまり感じたことのない視線に思わず緊張が走ります。
侍女達の態度はシスル子爵家から正式に婚約破棄の連絡が来た事が原因です。
お父様までもがとても怒っています。
カーキス様は婚約破棄の理由を私が王子と5SPに色目を使って誘惑したからだと仰ったらしいのです。そして人前ではしたなくも王子と抱き合っていたと・・・。首筋に王子の残した痕が幾つもあったことがカーキス様の嘘の信憑性を高めました。ひどい話です。私が嫌がっていたことなんて近くで見ていたカーキス様が一番ご存じのはずなのに・・・
侍女達はそれを信じてしまい・・・ああ、人生なんて先に言った者の言葉が優先されるのね。
ただ一人、昔から私の面倒見てくれているミラだけは私を信じてくれてますが、悪意のある噂の方が人を楽しませるものなのでしょうか、全く聞き入れられません。
それに、この流れは完全に悪役令嬢の未来に繋がっています。
あの優しい父が何故私を見捨てるのか不思議でしょうがなかったのですが、原因は王子でしたか。
こんな事になるなら誕生日パーティーなんて行かなければ良かった・・・


哀しくて辛くて涙が頬を伝います。


今までならすぐに慰めてくれた優しい雰囲気はそこにはありません。
ただ義務のように涙を拭くためのハンカチが置かれただけでした。


自分で涙を堪えて、冷たいタオル(ミラが用意してくれた)で目の腫れを抑えます。
そんな最中、父が私を呼びました。
急いでドレスを整えて下に降りるとそこにはかなり体格の良いちょっと意地悪な顔をした男性が堂々と座っていました。


「・・・来たか。お待たせして申し訳ない。バリン殿。これが私の娘のフローライトです。フローライト、ここら一帯で一番大きく商売をなさっているバリン様だ。」


紹介にできる限り綺麗な礼をします。何故かバリン様の隣に座らされました。
バリン様は「噂通り美しいですなぁ。」と言って舐めるように私を見ます。
背筋がぞわぞわしますが、顔には微笑みを貼り付けてバリン様のお話を聞きます。
私には全く関係のない商売のお話でした。お話の間、時々バリン様の手が私のお尻に向かいます。
最初は軽く触れて、段々と強くなで回されました。
お父様に視線で助けを求めましたが気付いても貰えません。

30分ほどでバリン様は帰られましたがとても苦痛な時間でした。
玄関の外まで出て丁寧にバリン様を見送った後父の態度が急変し私にこう言い放ったのです
「学園にいる間に結婚相手が見つからない場合、今のバリン様に嫁がせようと思っている。ご商売は順調なようだから多少の贅沢はどうにかなるだろう。しっかりと務めなさい」
この言い方だと父の中で私はバリン様に嫁がされることで決定しているのでしょう。先ほどの視線や態度からバリン様も了承済みと思われます。
父は私をチラリと見るとため息をついてスタスタと家の中に入ってしまいました。


何故こんな目にあうのでしょうか。
私はカーキス様と幸せに暮らせればそれで良かったのに・・・
王子の乱入のせいで私が王子を誑かしたと噂され、男爵令息令嬢達のパーティーにも呼ばれません。
このままでは噂を消すことも否定して回ることも出来ません。


それにさっきのバリンという商人、どこかで見たことがあるような・・・


暫く考えてバリン様の正体に気付いたとき、恐怖で目の前が真っ白になりました。
バットエンドで私を一部屋に監禁し商売の道具としていろんな男に抱かせる商人こそあのバリン様だったのです。


やっと学園で悪役令嬢が嫌がりながらも彼らから離れられなかったのかわかりました。
誰か一人だけでもキープできればバリン様の妻にならなくても済むのです。
そしてその候補者を奪っていくヒロインが本当に怖かったに違いありません。
ヒロインへの嫌がらせはその恐怖心の発露でしょう。


自室に戻り、ドレスに皺が寄るとわかっていながらベッドにダイブします。
ミラは食事の時間ですし、いつもならミラノ代わりに誰かが控えていてくれたこの部屋に、今は誰も居ません。

私の味方はミラだけです。


それ以外の全てを失ってしまいました。


「・・・・何勝手に出てきて人の人生めちゃくちゃにしてるのよ。」


恐怖でも絶望でもなく怒りで前が見えません。
私は純真無垢で優しい深窓のお嬢様にはなれません。
流されてヒロインの行動一つ一つに翻弄されて決まっていく運命に恐怖しているような、そんな大人しい人間では居られないのです

決めた!私は私の幸せをこの手で掴み取りましょう!
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