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第二章

ゾンビの簡単な倒し方

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 大きく跳躍する。

 俺は化け物の集団が途切れる隙間に着地した。

 しゃがみ込んで深くなった体勢から剣を振り上げ、一番近くにいた化け物の腕を斬り落とす。

「グアァァ!?」

 片腕を失った化け物は声を荒がながらも痛がる素振りを見せずにそのまま飛びついてくる。

 俺は地面に背をつけるように倒れ込むと、そいつを担ぎ胴に足を掛けて投げ飛ばした。

「上手く決まってよかった」

 柔道の授業中にふざけた陽キャ共によくやられた技だ。あいつらは特に真面目に武道を習っていたわけじゃないから普通に痛い。

 だけどあの時の俺は雰囲気を壊さない為に必死に耐えて愛想笑いを努めた。

 苦い記憶が蘇るけど、あいにく感傷に浸ってる暇はない。

 背後から襲う化け物。

 即座に俺は立ち上がり、回転して剣を横に薙ぎ払った。

 真っ二つに分断された化け物は上体だけで、地を這ってでも俺を喰おうと試みる。

 中々しぶとい。やっぱりゾンビだよこいつら。

 試しに首を切断してみた。すると奇声を発してしばらく。やがてゾンビは活動を停止した。

「マルス様!首を跳ね飛ばしてください。それが化け物を殺す唯一の方法です!」

 アテーネが叫ぶ。

 彼女の発言に対してデスラーは手を叩く。

「ご明察!そいつらは俺の血を混ぜた邪神酒を普段から飲ませて生み出した生きる屍の兵だ!」

「なんと外道な!」

「こいつらは金になるぜ?なんたって死なねぇんだからな。生物兵器としては最高だろ?だか、俺はそんな非道な真似はしねぇ。同じ邪教を崇拝する者同士だ。邪神様に再びこの世に生を受けて完全体となったゾンビたちを俺は誇りに思う」

 わけのわからない戯言を熱く語るデスラーを他所に俺たちはゾンビを斬って、斬って、斬って、斬って・・・・・・ずっと斬りまくっていた。

 だけど一向に減らないその数にだんだん嫌気が差し始めた頃に、俺よりも先にアテーネが痺れを切らした。

「マルス様、これではキリがありません!わたしに策がありますので化け物の動きを止めてください!」

 火や水属性魔法でゾンビの対処をしていたアテーネが言う。

「わかった。寒いけど我慢しろよ!テレンくんも!」

「おう!」

 遠くで勇ましい声が聞こえた。

 一旦ゾンビ群れと距離を取った俺は魔力を高める。

零度風来れいどふうらい

 全ての面において絶対零度の下位互換魔法だけど、化け物の動きを封じる程度だったら充分に事足りるはずだ。

 幾分か加減して放たれた冷風は広場全体へと広まり、化け物たちの動きは鈍くなった。完全に凍らせるとまではいかないが、なんせ死体だから腐った部位から冷気が侵入して行動不能に陥った。

「ナイスです!」

 アテーネは杖を天へと掲げて上空に向かって円をなぞった。

霊魂浄化れいこんじょうか

 ゾンビたちの体から白い光球が抜けて、天へと登ってゆく。広場に充満していた邪気は見事に浄化されて、術が解けたゾンビたちの姿は次第に薄くなり、やがて消えた。

 多く見積って約千体はいたであろうゾンビが一瞬にして消え去った。

 今の魔法は女神限定のチート技らしい。

 アンデッド系魔物に効果抜群なのは既に実証済みだからね。こんなこともあろうかと予め想定してた甲斐があったってもんだ。

 鎌+邪神=不死身の化け物、は俺が様々なジャンルのゲームをやって編み出した方程式。まさか役に立つ時が来るとは思いもしなかったけど、たまにはゲームでの知識も捨てたもんじゃないよな。

 まあとにかくこれで邪魔な は駆除したわけだから、いよいよ迫るのは本命との戦いだ。

「ちぇー・・・せっかく用意したのによぉ・・・つまんねぇなぁ」

 ちっとも悔しさが見られない表情のデスラー。

「マルス様!アテーネ様!さすがですな!ナイスコンビネーションですぜ!!」

 賞賛をくれるテレンくん。

「八割がわたし。二割がマルス様の力ですね!」

 とぼけたことをぬかすアテーネは無視。

「お前ら面白ぇな。いいぜ、俺が相手してやるよ。スカイムを倒したっつぅー、マルスくんの力も試したいからな」

 鎌を舌で舐めるデスラーはステージへと降り立つ。

「お手並み拝見といこうか。ほら、かかってこいや!」

 片手に巨大な鎌を構えたデスラー。

 近接でいくか?それとも遠距離?

 俺が悩んでいると、先にデスラーが動き出す。

「ああ、待ちきれねえ。俺から行くぜ?」

 最後まで聞き終える前にデスラーは姿を消した。

 と思ったのも束の間。

「うっ・・・!!」

「おっ、良い反応するなぁ!!」

 俺の目の前には鎌が迫っていた。

 咄嗟にグランデルで防ぐ。

 強烈な剣圧に足元の地面に亀裂が入る。

 魔力を込めて振り払うと距離を取るために後ろに跳ぶ。

 が、即間合いは潰される。

 逃げようとする俺をデスラーは許さない。

 鎌を横薙ぎに俺の首を狙う。

 あ、死んだ────そう錯覚する程に素早いデスラーの攻撃。

 しかし、俺は一人で戦ってるんじゃない。

光雷弾こうらいだん

 ビリッとした感覚が肌を掠め、雷の弾丸がデスラーの鎌と衝突。

 目だけを動かし後方を見るとアテーネが杖を構えていた。

「マルス様、今のうちです!」

 そこに生まれた一瞬の遅れを活かして、辛うじて腰を落とし避ける。

 俺の頭上を鎌が通過。

 凄まじい切れ味を誇る刃。切られた俺の髪がヒラヒラと舞う。

 こんなの食らったら一溜りもないな。

 今度こそ後ろに大きく飛び退って、デスラーとの間合いをとる。

 そしてすかさずに魔法の詠唱体勢に入った。

氷床ひょうとこ

 辺り一面が氷に覆われる。

 これで少しは戦いを有利に進めれるはずだ。

「なるほど、俺の足を封じようってわけか。狙いとしては悪くねぇ⋯が、甘いな」

 デスラーの足元が青白い光に包まれる。すると、凍りついていたデスラーの足裏がゆっくりと地面から離れた。

「魔力を足裏に纏えば問題ねぇよな?俺は魔法は使えねぇが、魔力は使えるぞ?」

 ですよね。やっぱり弱点としては物足りない気がしてた。

「なぬ!?マルス様!申し訳ございません!!おれっちの考えが浅かったせいで⋯おれっちに出来ることがあればなんでも言ってくだせぇ!!」 

 テレンくんが気迫の籠った顔で言う。

「大丈夫だよ。テレンくんはアテーネの身をまもっててくれ。アテーネも!援護頼むよ!」

 弱点に関しては元から期待してなかったしね。

 そしてなにより一人の方が集中出来る。

「余裕そうだな?もっとその氷魔法ってやつを見せてくれよ」

「では、ご期待に添えて」

 見たいって言うなら見せなきゃね。

 デスラーはどうやら魔法を使うのを待っててくれる様子だ。

 貰った機会は活かさなきゃ損。俺は魔力を練り上げ、イメージを膨らませる。

 俺の真上、両隣に出現するのは三つの魔法陣。 

雹乱弾ひょうらんだん

 魔法陣から飛び出すのはサッカーボールサイズの雹。

 それが絶え間なく無数にデスラー目掛けて向かっていくのだ。

「へぇ⋯」

 デスラーは自身へと迫る雹の弾丸を見る。

 彼の口角が僅かに上がった。
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