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第二章

デスラーと教祖の間

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 デスラーは邪神教の信徒の中でも限られた存在のみ入室が許される”教祖の間”と呼ばれる部屋で本日の祈りを捧げていた。

 毎日決まった時刻になると、部屋に入る。酒と米一合分を用意し、台座の上に供えて祈祷は始まるのだ。

 信徒の誰よりも熱狂的に邪教を信仰するのは間違いなくデスラー。私生活では適当に物事を進めたり、組織の仕事でもクロースらに比べれば、お世辞にも取り組む姿勢も積極的とは言い難い。

 そんな男だが、自分が崇拝する邪神に対してはまるで別人の姿を見せる。時間は守り、供え物は欠かさない。服装にも気を遣い、埃一つ無い清潔な死装束を身に纏い四六時中それを着続けている。

 この徹底して邪教を信仰する背中に信徒達は焚き付けられ自分も続こう、と信仰心を深めていくのだった。


 そんな彼の元に信徒の男が訪ねてきた。

「・・・・・・誰だ?」

「シーントンです」

「入れ」
 
 告げられた名前を記憶の中から探る。

 一秒足らずで顔と名前の合点がいったデスラーは彼を室内に招き入れた。

「お帰りなさいませ、教祖様。幹部らとの夕食会の準備が整いましたのでお呼びに参りました」

 頭を下げて淡々と話すシーントン。

 どうやらデスラーを呼びに来たらしい。

 忠実な信徒だが、このシーントンと名乗る信徒はデスラーにとって大変に許し難いミスを犯したのであった。

「ああ、それは了解した。だがな・・・祈祷中は俺の邪魔をするなと言ったはずだが・・・?」
 
 デスラーが眉間にシワを寄せた。

「申し訳ございません!ダラン様に急ぐようにと仰せつかったものでして・・・」

 額を地面につけ謝罪する。

 立場が上の者同士の間で板挟み状態な彼は、可哀想な下っ端なのだ。

「次やったら殺すからな。もういい、出ろ」

「は、はっ!」

 デスラーの剣幕に怯えるシーントンはすぐに扉に手をかけた。

「あ、待て」

 一旦退室を促すデスラーであったが、一転してシーントンを呼び止める。

「明日の邪神祭に俺の客人がくる。幹部たちに伝えとけ。街中にあるありったけの棺桶を広場に集めろってな」

「なぜでしょうか?」

「あぁ?そんなもんせっかくこんな辺境まで足を運んだ客を盛大にもてなす為に決まってんだろ?てめぇは邪神様の御尊顔に泥を塗る気かよ」

 髪をかきあげるデスラー。

 鋭い眼光でシーントンを睨む。 

「も、申し訳ございません!そのようなつもりは無く・・・」

「わかったならいい、はやく出てけ。・・・それと今後祈祷中に入ってきたら・・・殺すからな」

「か、かしこまりました」

 シーントンは逃げるように退室した。
  
 再び静寂が訪れた教祖の間。

 祈祷の続きを再開する為にデスラーは座禅を組み直した。

「ったく、どいつもこいつも。信仰が足らなねぇんだよ」

 他者にも自分と同じ熱量を求めるデスラーは、ここ最近の信徒らの体たらくをボヤいた。

 二年前まではデスラーが注意しなくとも自身の人生全てを邪教へと捧げる気概を持つ、信仰の厚い信徒達が揃っていたのだ。しかし、デスラーがリターンズの仕事に赴いている隙を狙ったように現れた一人の少女によって上層部は壊滅状態に追い込まれた。デスラーが急いで戻った時には、時すでに遅し。

 追い払えはしたが、邪教は思いもよらない甚大な被害を受けてしまった。

 生き残った上層部の者達と、寝る間を惜しんでの布教活動を行い、やっとの事でここまで勢力を盛り返せたのだ。

「いつ思い出しても腸が煮えくり返るな。邪神様・・・明日はとびっきりの生贄を捧げます。どうか我らにご加護を与えくださいませ・・・」

 デスラーの目の前に君臨するのは巨大な石像。

 背には刃のように硬質な翼が一対生えており、頭には先端を鋭く尖らせた大きな角が二本。目と口は横に大きく裂けて、魔物顔負けの牙が羅列する、邪神像がデスラーを冷たく見下ろしていた。

「さあ、マルスくんよ。楽しい楽しい邪神祭といこうじゃねぇか」

 誰もいない教祖の間で不敵に笑うデスラーなのであった。
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