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第二章

狙え!玉の輿!

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 マルスとのデートを終えたナリータは寮へと帰宅した。

 昼にパスタを食べたのであまりお腹が減ってなかったナリータは、保存食として常備しておいた干し肉を一切れ食べる程度に済まして、化粧などを落とすためすぐに洗面台に向かう。

「今日も一日頑張ったわね。お疲れ様」

 鏡に映る自分に労いの言葉をかける。これは彼女のルーティンで、その日の出来事を思い返し頑張ったこと、失敗したことなどを自分と向き合って語ることでおさらいするのだ。

「こんなもんかしら?はぁ・・・さっさとシャワーしちゃいましょう。髪を洗いたいわ」 

 衣擦れの音と共にナリータの着ていた衣服が床に落ちる。全て脱ぎ終えた彼女は、真っ白な肌を隠すように真っ白なタオルで包み込むと浴室へと消えていった。



 ベッドに腰をかけて傍にあった枕に顔を埋める。

 当然ながら部屋には自分一人しかいない。完全なるプライベート空間。

 ナリータは大きく口を開き、顔周りのありったけの空気を吸い込む。

 そして、隣に迷惑にならない声量で叫んだ。

「なによあのヘタレ!このわたしが誘ってあげてるのに手を出さないなんて信じらんない!!」

 ナリータは憤慨していた。

 女の自分が恥を忍んで誘惑したにも関わらず、やんわりと断られた。密かにシャーレット並に高い乙女のプライドに傷が付いたのだ。怒らない方が無理だろう。

「マルスくんめぇ~!紳士ぶったのかもしんないけど、女の子に恥をかかせるなんて以ての外よ!!」

 枕に顔を押し付けて愚痴を吐くナリータ。

 おわかりだろうが彼女はマルスの前では猫を被って接していた。お淑やかな女の子を演じていたのだ。

 特に何もしなくても引く手数多のナリータがパッとしない男の権化マルス・エルバイスを攻略する理由。

 彼女がマルスに固執する理由は彼が四英傑の息子だから、それだけの理由。四英傑の跡取りがどんなものなのか彼女は知らない。だが、遥か昔から語り継がれるくらいに有名な家系な為、富と名声は兼ね備えているはずと彼女は考えているのだ。
 
「四英傑のうち一人は女の子で一人は同じ獣人族だから、変に手を出したくない・・・で、もう一人の人間は王女の婚約者候補に挙がっている人物・・・無理よね」

 消去法でナリータが標的に定めたのがマルス・エルバイスだ。

 人づてに聞く限り大人しそうな性格に女の子に手を挙げるような乱暴者でもない。噂によれば最弱の四英傑と馬鹿にされているらしいがナリータにとってみれば噂が先行して、お世辞にもモテる部類に入らない、浮気の心配をする必要のない優良物件であるのだ。 

 ただし、マルス本人の思惑は彼女が知る由もない。

 ナリータは容姿端麗。魔法の素質もあり人望も兼ね備える、一見すると完璧美少女。

 しかし生まれてこの方、未だに縁がないものがあるのだ。

 苦手な学業も必死に取り組み成績上位をキープする努力家な彼女が唯一手に入らないもの。

 それが”財力”である。

 幼い頃の彼女には夢があった。

 ”お金持ちになりたい!!”

 幼子にしては随分のませた夢と思われがちだか、ナリータがその夢を抱いたのには深い訳があったのだ。

 ナリータの父親は定職に就かずに日雇い労働をこなしてその日の生活資金を調達していた。母はそんな父に呆れて彼女が六歳の誕生日を迎えた翌日、愛想を尽かして出ていってしまう。それからの生活は困窮して、以前よりも日を追う事に苦しくなる一方であった。

 そんな苦しい生活を続けるうちに、幼い頃の可愛らしい少女の夢は時が経つにつれて、執拗なまでに富へ拘る金の盲者へと変貌していたのだ。

 彼女が狙うはただ一つ・・・

「絶対に成功させてやるんだから!玉の輿ぃぃぃい!!!!」

 ナリータによるマルス籠絡計画が本格的に始動した。
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