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第二章
Let's 、デート!in王都
しおりを挟むピィー!ピィー!!
ギャビィー!ギャビー!
小鳥たちの縄張り争いの声が頭にガンガンと響く。
朝食は焼き鳥・・・有り寄りの有りだな。
人生初デートへの緊張でろくに寝れなかった俺は普段よりも三時間早く行動開始。軽く顔を洗って寝間着から着替えると、意味もなくランニングに出た。
まだみんなが眠りの中にいる静かな王都を軽快に走る。そして家に帰って牛乳を飲み、朝シャンを決めた。
意識高い系イケメンがやってそうなルーティンを片っ端から試す。
うん、効果はなし。
そもそもの話、俺は牛乳が苦手だ。無理して飲んだのと緊張が重なって胃が痛くなってきたし、相変わらず心臓の鼓動もはやい。
世のイケメン共みたいに俺も心にゆとりを持ってデートに臨めるようになりたいが、あいにく慣れそうにもないな。
俺は洗面台の前に立つ。
服よし、髪型よし、口臭よし。
身だしなみチェックは万全。
「少し早いけど・・・もう行くか」
デートで女性を待たせるのは言語道断。
前世からのお決まり事項だ。
一度ギャルゲーで俺は敢えて”わざと遅れてくる”という選択肢を選んだ。
時間にルーズな奴は俺は嫌いだ。
だけどネット見たんだよ。
普段はきっちりしている真面目な男がデートに遅れてきて必死に弁明やら謝罪している姿にキュンとする女の子が一定数はいる、と。
ネットの情報を鵜呑みにするのは危険だが、俺はこの理論に「あー、なるほど。一理ある」って思った。
結果はどうだったと思う?
ヒロインの子は既に待ち合わせ場所にはいなかったよ。残された手紙には『女の子を待たせるなんて信じらんない!人としても信用できないわ!』と書いてあった。
後日、学園中に俺は約束を守らない最低男と言いふらされたせいで全ヒロインのルートが絶たれ、ゲームオーバーとなったのだ。
「あらマルス、もう行くの?朝ご飯はどうする?」
「はい、メーガンさ・・・ん!?」
たった今、起床したメーガンさんに声をかけられる。
俺は彼女の真っ黒な大人の女性の色気ムンムンのランジェリー姿によからぬ妄想が働いたが、頭を振って邪念を払った。
「ボーッとしちゃってどうしたの?ははぁーん、さてはまた夜更かししたんでしょ?」
ジト目をするメーガンさんは、三十代なのにあざとい仕草が似合う女性だ。
「ち、違いますよ!ご飯は出先で食べてくるんで大丈夫です。メーガンさんもいつも仕事で疲れが溜まってそうですし、まだ寝ててください」
「そう?じゃあお言葉に甘えて寝させてもらうわね。マルスも気をつけて」
「はい・・・あっ、少しだけ時間いいですか?」
リビングへと向かおうとするメーガンさんを呼び止める。それから少しの会話をして、俺はアテーネにバレないようにラウンズ武具店を出た。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
俺がいる場所は王都の中心部アースガルズ噴水記念公園。ナリータと待ち合わせに定めた場所だ。
現在の時刻は午前九時三十分。約束の三十分前である。
噴水の周辺には俺と同じようにデート相手を待っているであろう男共がそわそわしながら、時計台を確認したり、視線を彷徨わせて待ち人の来訪を今か今かと待つ。
中にはメモ帳を取り出して、一晩中練りに練ったであろうデートプランの再確認を行っている者もいた。
うん、復習は大事だよね。俺も昨晩から今日の朝にかけて寝る間も惜しんで熟考したけど、全く良い案が思い浮かばなかった。
俺の知ってるデートプランといえば、映画やカラオケ、カフェに水族館に行くくらい。もちろんそんな店・遊び場はこの世界には存在しない。
だから俺は今朝、さりげなくメーガンさんに尋ねたのだ。王都のおすすめデートスポットについて。
緊張して質問する俺にメーガンさんは快く答えてくれた。
『まずは公園を回ってみたら?自然も豊かだし、お互いのことを知るにはうってつけよ!』
てな感じでメーガンさんの教えは続く。
そして最後に。
『お相手は誰かしら?シャーレット?それともフレイ?あっ!もしかしてアテーネとか!』
目を輝かせて探ってくるメーガンさんに俺は。
『あはは、そんな感じです』
と濁した。
なんて回想にふけっていると、前方からパタパタと一人の女の子がこちらに駆け寄ってきた。
「お待たせしました!」
おめかしをしたナリータ。髪は巻いてあり、口紅も薄く塗っている。めちゃくちゃ可愛かった。これがいわゆる目を奪われる美しさってやつだろう。
周囲の男共の視線が痛い。
君たちダメじゃないか、君たちには君たちのパートナーがいるだろ?あっ、遠くでパチンと乾いた音が鳴った。
わかるよ。こんな可愛い子がいたらついつい目で追っちゃうよね。
「あのー・・・ど、どうですか?結構頑張ったんですけど・・・?」
可愛い女の子を連れて歩く優越感に浸る俺に俯きがちのナリータが尋ねた。
クルッと一回転して今日の彼女のコーデを見せてくれた。
ゆるふわ系のスカートに肌の露出が控えめな上着を羽織っているナリータは一言で表せば天使。
「綺麗だよ。服もナリータに良く似合ってるし、こんな君の隣を歩けるなんて誇らしく感じる」
昔からシャーレットにパーティーがある度、半ば強引にドレスの感想を言わされていた俺は、彼女による教育のおかげで、この程度ならばスラスラと言えるように躾られ済みだ。
ただし、俺がこの能力を発揮するのは相手の服装を褒める際だけに限定される。王都の夜景を見渡せるロマンチックな場所で気の利いたロマンチックな台詞は吐けない。
「っ・・・!!あ、ありがとございます・・・」
頬が上気し照れた様子のナリータ。
彼女の反応を見て俺もこそばゆくなる。
「じ、じゃあ行こうか」
「待ってください」
「ん?」
俺が振り返ると彼女は片手を差し出していた。
心做しかその頬は赤みが濃くなっている。
「はい」
「へ?」
「手!です」
ん!と手を強調するナリータ。
いくら恋愛経験が浅いどころか皆無な俺でも、ここまでされたら彼女の意図を汲み取るのは容易い。
俺は恐る恐る彼女の手を握った。
抱いた感想は、とにかく柔らかくてすべすべ。
手汗よ、しばしの間耐えてくれ!
「さぁ、行きましょう!エスコートよろしくお願いしますね?」
「善処します」
満足気な彼女と手を繋いで俺は噴水を後にしたのであった。
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