上 下
30 / 72
第二章

Let's 、デート!in王都

しおりを挟む
 
 ピィー!ピィー!!

 ギャビィー!ギャビー!

 小鳥たちの縄張り争いの声が頭にガンガンと響く。

 朝食は焼き鳥・・・有り寄りの有りだな。


 人生初デートへの緊張でろくに寝れなかった俺は普段よりも三時間早く行動開始。軽く顔を洗って寝間着から着替えると、意味もなくランニングに出た。

 まだみんなが眠りの中にいる静かな王都を軽快に走る。そして家に帰って牛乳を飲み、朝シャンを決めた。

 意識高い系イケメンがやってそうなルーティンを片っ端から試す。

 うん、効果はなし。

 そもそもの話、俺は牛乳が苦手だ。無理して飲んだのと緊張が重なって胃が痛くなってきたし、相変わらず心臓の鼓動もはやい。

 世のイケメン共みたいに俺も心にゆとりを持ってデートに臨めるようになりたいが、あいにく慣れそうにもないな。

 俺は洗面台の前に立つ。  

 服よし、髪型よし、口臭よし。

 身だしなみチェックは万全。 

「少し早いけど・・・もう行くか」
 
 デートで女性を待たせるのは言語道断。

 前世からのお決まり事項だ。

 一度ギャルゲーで俺は敢えて”わざと遅れてくる”という選択肢を選んだ。

 時間にルーズな奴は俺は嫌いだ。

 だけどネット見たんだよ。

 普段はきっちりしている真面目な男がデートに遅れてきて必死に弁明やら謝罪している姿にキュンとする女の子が一定数はいる、と。

 ネットの情報を鵜呑みにするのは危険だが、俺はこの理論に「あー、なるほど。一理ある」って思った。

 結果はどうだったと思う?

 ヒロインの子は既に待ち合わせ場所にはいなかったよ。残された手紙には『女の子を待たせるなんて信じらんない!人としても信用できないわ!』と書いてあった。

 後日、学園中に俺は約束を守らない最低男と言いふらされたせいで全ヒロインのルートが絶たれ、ゲームオーバーとなったのだ。

「あらマルス、もう行くの?朝ご飯はどうする?」

「はい、メーガンさ・・・ん!?」

 たった今、起床したメーガンさんに声をかけられる。

 俺は彼女の真っ黒な大人の女性の色気ムンムンのランジェリー姿によからぬ妄想が働いたが、頭を振って邪念を払った。

「ボーッとしちゃってどうしたの?ははぁーん、さてはまた夜更かししたんでしょ?」

 ジト目をするメーガンさんは、三十代なのにあざとい仕草が似合う女性だ。

「ち、違いますよ!ご飯は出先で食べてくるんで大丈夫です。メーガンさんもいつも仕事で疲れが溜まってそうですし、まだ寝ててください」

「そう?じゃあお言葉に甘えて寝させてもらうわね。マルスも気をつけて」

「はい・・・あっ、少しだけ時間いいですか?」

 リビングへと向かおうとするメーガンさんを呼び止める。それから少しの会話をして、俺はアテーネにバレないようにラウンズ武具店を出た。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ 

 俺がいる場所は王都の中心部アースガルズ噴水記念公園。ナリータと待ち合わせに定めた場所だ。 

 現在の時刻は午前九時三十分。約束の三十分前である。

 噴水の周辺には俺と同じようにデート相手を待っているであろう男共がそわそわしながら、時計台を確認したり、視線を彷徨わせて待ち人の来訪を今か今かと待つ。
 
 中にはメモ帳を取り出して、一晩中練りに練ったであろうデートプランの再確認を行っている者もいた。

 うん、復習は大事だよね。俺も昨晩から今日の朝にかけて寝る間も惜しんで熟考したけど、全く良い案が思い浮かばなかった。

 俺の知ってるデートプランといえば、映画やカラオケ、カフェに水族館に行くくらい。もちろんそんな店・遊び場はこの世界には存在しない。

 だから俺は今朝、さりげなくメーガンさんに尋ねたのだ。王都のおすすめデートスポットについて。

 緊張して質問する俺にメーガンさんは快く答えてくれた。

『まずは公園を回ってみたら?自然も豊かだし、お互いのことを知るにはうってつけよ!』

 てな感じでメーガンさんの教えは続く。

 そして最後に。

『お相手は誰かしら?シャーレット?それともフレイ?あっ!もしかしてアテーネとか!』

 目を輝かせて探ってくるメーガンさんに俺は。

『あはは、そんな感じです』

 と濁した。
  

 なんて回想にふけっていると、前方からパタパタと一人の女の子がこちらに駆け寄ってきた。

「お待たせしました!」
 
 おめかしをしたナリータ。髪は巻いてあり、口紅も薄く塗っている。めちゃくちゃ可愛かった。これがいわゆる目を奪われる美しさってやつだろう。

 周囲の男共の視線が痛い。

 君たちダメじゃないか、君たちには君たちのパートナーがいるだろ?あっ、遠くでパチンと乾いた音が鳴った。

 わかるよ。こんな可愛い子がいたらついつい目で追っちゃうよね。

「あのー・・・ど、どうですか?結構頑張ったんですけど・・・?」

 可愛い女の子を連れて歩く優越感に浸る俺に俯きがちのナリータが尋ねた。

 クルッと一回転して今日の彼女のコーデを見せてくれた。

 ゆるふわ系のスカートに肌の露出が控えめな上着を羽織っているナリータは一言で表せば天使。

「綺麗だよ。服もナリータに良く似合ってるし、こんな君の隣を歩けるなんて誇らしく感じる」

 昔からシャーレットにパーティーがある度、半ば強引にドレスの感想を言わされていた俺は、彼女による教育のおかげで、この程度ならばスラスラと言えるように躾られ済みだ。

 ただし、俺がこの能力を発揮するのは相手の服装を褒める際だけに限定される。王都の夜景を見渡せるロマンチックな場所で気の利いたロマンチックな台詞は吐けない。

「っ・・・!!あ、ありがとございます・・・」

 頬が上気し照れた様子のナリータ。

 彼女の反応を見て俺もこそばゆくなる。  

「じ、じゃあ行こうか」

「待ってください」

「ん?」

 俺が振り返ると彼女は片手を差し出していた。
 
 心做しかその頬は赤みが濃くなっている。

「はい」

「へ?」

「手!です」

 ん!と手を強調するナリータ。

 いくら恋愛経験が浅いどころか皆無な俺でも、ここまでされたら彼女の意図を汲み取るのは容易い。
 
 俺は恐る恐る彼女の手を握った。

 抱いた感想は、とにかく柔らかくてすべすべ。

 手汗よ、しばしの間耐えてくれ!

「さぁ、行きましょう!エスコートよろしくお願いしますね?」

「善処します」

 満足気な彼女と手を繋いで俺は噴水を後にしたのであった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...