上 下
20 / 64

第20話 苦手な女性?

しおりを挟む
「ライベル君、こうして話をするのは初めてだが……キミは中々に粋なお店を知っているじゃないか。よし我が領地の者にも大々的に宣伝を……」

「そ、それはどうでしょうか! 裏通りにあるような佇まいのお店は、敢えてあまり人に知られないように営業なさってる場合が多いですし」

「そうかなるほど! つまり隠れ家的な演出があり、そして慎ましく清楚なお店と言うわけだ。ふふ、それに気づかずに勝手な事をしてしまうところだったよ。ボクに無知を悟らせたなんて、ますますキミは素晴らしいな!」

「え、えーっと。ありがとうございます……?」

 こっちを見るなライベル。
 さすがにいつまでもあいつに相手させる訳にもいかないか。

 仕方なく、仕方なくアルストレーラとかいう女に近づいて……行かなきゃならないなんてなぁ。

「で、結局なんでついて来た訳だ? 飯も食ったならとっとと自分の家にでも帰って……」

「……ふうむやはりな」

 何がやはりだ?
 ジロジロと俺を観察する女、こいつ俺の話聞いてねぇのかよ。

「何でお袋はこいつと婚約しろなんて……」

「あの、坊ちゃま。イレスカトラ様は少々……風変りな方ではありますが。同世代の男性方に大変人気のあるお方なんですよ?」

「あ? 何で?」

「まずそのお顔。端正な甘い顔立ちに厳しいマナー講義を乗り越えた優雅な振る舞いが合わさって、そっと微笑む様で気絶なされる方が後を絶たないとか」

「お前、本当に冗談がうまくなったな。今ならさっきよりは笑えそうだ」

「いえ本当にそういう噂があるんですよ!?」

 冗談って事にしてくれって言ってんだよ。
 笑っただけで気絶する? こっちの男連中ってはセンスがどうかしてんじゃねぇのか。

 何でこんなのに……。

「うん、やっぱりキミは変わったね。前とは全然違う」

「……ああ、そうか――」


「まるで全く別の誰かが乗り移ったかのようだ」


「――いッ!?!?」

「なぁんて、流石にそれは無いか! はっはっはっはっは!」

 はぁっ……ぅ……っ。

「ど、どうしたんですか急に胸を抑えて?」

「い、いや何でもねえ……。ビビらせやがって……」

 まさかの指摘に口から心臓が出るかと思ったぜ。まだ心臓がバクバクいってやがる。

 この女、見た目以上にやばいかも知れない……!

 俺の様子を見てか、コセルアが代わりに口を開いた。

「ん……、それでイレスカトラ様。お坊ちゃまには一体どのような御用でお近づきになられたのでしょうか? 失礼ながら、この度はお忍びでこの町を訪れたものですので表立って貴族同士の交流を行う事が出来ません。ご了承くださいませ」

「おおコセルア卿、貴女は今日も冷静な佇まいが眩しいな。勿論、貴族としての身分で話し合おうとした訳じゃない。見ての通りボクも世を忍んだ格好をしているからね」

(見ての通り……?)

「先ほどの騒動、最初はボクが身を乗り出して事を収めるつもりだったんだ。レディたるもの、ジェントルの剣となる心構えは常なのだから。まさか彼が決闘を申し込むと思わなかったが……。全てが終わってその後をつけて見れば――なんとそれが、終始そこにいるライベル君の為の行いだと知った! 牙無き者から不当な悪意を払いのけるそのあまりに貴い振る舞いには、真に高貴なる者の在り方を教えられたようで……! それで嬉しくなって止まらなくなってしまったんだ!!」

「そう、ですか……それはようございました」

 コセルアが押されてやがる。引いてるじゃねぇか。

 そんな事に気づきもせずに俺の手を取ってきて……?

「だから――今のキミの事をもっと知りたくなったのさ」

 手を取りつつ顔を近づけて来て、そして俺の耳に向けてそっとそんな風に囁いてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。

のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。 俺は先輩に恋人を寝取られた。 ラブラブな二人。 小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。 そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。 前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。 前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。 その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。 春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。 俺は彼女のことが好きになる。 しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。 つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。 今世ではこのようなことは繰り返したくない。 今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。 既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。 しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。 俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。 一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。 その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。 俺の新しい人生が始まろうとしている。 この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。 「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。 もしかして……また俺かよ!! 人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!! さいっっっっこうの人生送ってやるよ!! ────── こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。 先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!

田舎で師匠にボコされ続けた結果、気づいたら世界最強になっていました

七星点灯
ファンタジー
俺は屋上から飛び降りた。いつからか始まった、凄惨たるイジメの被害者だったから。 天国でゆっくり休もう。そう思って飛び降りたのだが── 俺は赤子に転生した。そしてとあるお爺さんに拾われるのだった。 ──数年後 自由に動けるようになった俺に対して、お爺さんは『指導』を行うようになる。 それは過酷で、辛くて、もしかしたらイジメられていた頃の方が楽だったかもと思ってしまうくらい。 だけど、俺は強くなりたかった。 イジメられて、それに負けて自殺した自分を変えたかった。 だから死にたくなっても踏ん張った。 俺は次第に、拾ってくれたおじいさんのことを『師匠』と呼ぶようになり、厳しい指導にも喰らいつけるようになってゆく。 ドラゴンとの戦いや、クロコダイルとの戦いは日常茶飯事だった。 ──更に数年後 師匠は死んだ。寿命だった。 結局俺は、師匠が生きているうちに、師匠に勝つことができなかった。 師匠は最後に、こんな言葉を遺した。 「──外の世界には、ワシより強い奴がうじゃうじゃいる。どれ、ワシが居なくなっても、お前はまだまだ強くなれるぞ」 俺はまだ、強くなれる! 外の世界には、師匠よりも強い人がうじゃうじゃいる! ──俺はその言葉を聞いて、外の世界へ出る決意を固めた。 だけど、この時の俺は知らなかった。 まさか師匠が、『かつて最強と呼ばれた冒険者』だったなんて。

転生幼女の引き籠りたい日常~何故か魔王と呼ばれておりますがただの引き籠りです~

暁月りあ
ファンタジー
転生したら文字化けだらけのスキルを手に入れていたコーラル。それは実は【狭間の主】という世界を作り出すスキルだった。領地なしの名ばかり侯爵家に生まれた彼女は前世からの経験で家族以外を苦手としており、【狭間の世界】と名付けた空間に引き籠る準備をする。「対人スキルとかないので、無理です。独り言ばかり呟いていても気にしないでください。デフォです。お兄様、何故そんな悲しい顔をしながら私を見るのですか!?」何故か追いやられた人々や魔物が住み着いて魔王と呼ばれるようになっていくドタバタ物語。

僕が守りたかったけれど

景空
ファンタジー
聖国の聖都近くの村で狩人として穏やかな生活をしていたフェイウェル。そこに勇者様が訪れ幼馴染で恋人のアーセルを奪っていく。失意の中、もう1人の幼馴染ミーアに支えられ立ち直る。ミーアと結ばれ今度こそ幸せにというところを魔物のスタンピードが襲う。幾度となく襲う悲劇に国を追われミーアとふたり大切なものを守れる力をと旅に出る。

わざわざ50男を異世界に転生?させたのは意味があるんですよね"神たま?"

左鬼気
ファンタジー
転生した中年男は何を思う。

恋人を寝取られた挙句イジメられ殺された僕はゲームの裏ボス姿で現代に転生して学校生活と復讐を両立する

くじけ
ファンタジー
 胸糞な展開は6話分で終わります。 幼い頃に両親が離婚し母子家庭で育った少年|黒羽 真央《くろは まお》は中学3年生の頃に母親が何者かに殺された。  母親の殺された現場には覚醒剤(アイス)と思われる物が発見される。  だがそんな物を家で一度も見た事ない真央は警察にその事を訴えたが信じてもらえず逆に疑いを掛けられ過酷な取調べを受ける。  その後無事に開放されたが住んでいた地域には母親と自分の黒い噂が広まり居られなくなった真央は、親族で唯一繋がりのあった死んだ母親の兄の奥さんである伯母の元に引き取られ転校し中学を卒業。  自分の過去を知らない高校に入り学校でも有名な美少女 |青海万季《おおみまき》と付き合う事になるが、ある日学校で一番人気のあるイケメン |氷川勇樹《ひかわゆうき》と万季が放課後の教室で愛し合っている現場を見てしまう。  その現場を見られた勇樹は真央の根も葉もない悪い噂を流すとその噂を信じたクラスメイト達は真央を毎日壮絶に虐めていく。  虐められる過程で万季と別れた真央はある日学校の帰り道に駅のホームで何者かに突き落とされ真央としての人生を無念のまま終えたはずに見えたが、次に目を覚ました真央は何故か自分のベッドに寝ており外見は別人になっており、その姿は自分が母親に最期に買ってくれたゲームの最強の裏ボスとして登場する容姿端麗な邪神の人間体に瓜二つだった。  またそれと同時に主人公に発現した現実世界ではあり得ない謎の能力『サタナフェクティオ』。  その能力はゲーム内で邪神が扱っていた複数のチートスキルそのものだった。  真央は名前を変え、|明星 亜依羅《みよせ あいら》として表向きは前の人生で送れなかった高校生活を満喫し、裏では邪神の能力を駆使しあらゆる方法で自分を陥れた者達に絶望の復讐していく現代転生物語。

処理中です...