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第17話 身の程を知るのはどちら?
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外出の際、過度な露出を控える事で貴族――特に男性は――としての品性と謙虚さを現すのだと言われ、半ば強引にライベルから持たされてつけていたが、こういう時にはいい名分になるもんだ。
「お前、貴族だったのか!」
「それがどうした? こうなった以上もう収まらんぜ」
そいつが床に捨てたペンダントを拾いながら、ガンを飛ばす。
どんな理由であれ、手袋を投げつけられたら決闘に応じなければならない。
ライベルとの会話の中で拾った古い習慣だ。
実際の所、そんな事は一生の内に一回あるかないかレベルの頻度でしか起こらないらしいが。
この女の驚く顔、全く経験が無いのは確実だろう。
「いけません坊ちゃま! 元々ここにはお忍びで来たんですし……」
酷い目に合ってもなお俺を心配するライベルだが、その頼みだけは聞いてやる選択はない。
「ペンダント……」
「え?」
「ペンダント分ブチのめさねえと気が収まらねぇ」
「いいんですそんなの! どうせそんなに高いものじゃないし、坊ちゃまの身にもしもの事が」
「あるかどうかは終わってから確かめなァ……!」
懇願するライベルを余所に、目の前のクソアマを睨みつける。
一瞬身を竦めたように見えたが、それも直ぐに立ち直って胸を張って鼻で笑って来た。
「いいだろう。私も一人前のレディとしてジェントルの必死の頼みは聞いてやる。だが、こちらが勝ったらお前達は二人共私の言いなりになってもらうがいいな?」
「出来るもんならな」
「ふん、所詮貴族と言っても騎士爵程度の準貴族だろう? いっそ我が子爵家にその身を捧げたほうが裕福に生きられるというものだ。ははははは!」
コセルアが懐に手を入れようとするのを見て、俺がそれを手で押さえた。
お忍びの為に剣を持って来てねぇが、その服の下にはナイフが仕込まれている。
「坊ちゃま……」
「家を馬鹿にされたんだ気持ちはわかる。だからその分も俺がやってやる。黙って見てろ」
癇に障る高笑いを続けるその女。そうしていられるのも今の内だぜ。
◇◇◇
店を出て広場へと出る。
女の騎士二人が広場の人間に向かって偉そうに指示を出していた。
「散れ貴様ら! 今から神聖な決闘が始まる」
「平民共は我がお嬢様に感謝しろ! 見届け人の許可を出された事をな」
不満に思いつつも人が離れて行くのは、単純に関わり合いになりたくないからだろう。
「一体なんだよあいつら? どこの騎士の制服だ?」
「それにあのお嬢様。見た事無いが、よくも余所の領地に来て騒げるもんだな」
そんな事を言う連中が回りにいる、本人達が小さな声で話しているんだろうが俺にが聞こえていた。正確に言えばそんな事を言ってる奴らをかき分けて前へと出たからなんだが。
「ん? まさかあの男の子とやろうってのか!」
「嘘だろ? こんなの見せしめじゃねえのか!」
俺と女の体格差から見てそう思うんだろうな。俺が見物人の立場なら似たような事を考えていたかも知れないが。
「もう引っ込みはつかんがそれでもいいんだな? しかし安心しろ、これは互いの優劣を明白にするものであり、決して命までは取らない」
「一々うるせぇ女だ。ガタガタ抜かしてねぇでとっととやろうぜ。それとも本当はビビり散らして引き延ばしでもしてんのか?」
「ッ……。その減らず口、ますます気に入ったぞ。調教のし甲斐があるというもの!!」
口では余裕をかましているが、内心腹が立っているのが手に取るようにわかる。
女は腰に差している派手な鞘に入ったナイフを抜くと、俺に向けて突き付けて来た。
「さあ、そちらも獲物を取れ! 神聖な決闘ならばそれが礼儀だ!」
「さっきから……何が神聖だ? テメェ相手に気負うつもりなんざハナからねぇんだよ俺ァ……!」
「ぐっ……ほ、ほざけえええ!!!」
ついに切れたクソアマが勢いをつけて突進をしてくる。
……俺の計算通りにな。
「こ、コセルア卿!? 今からでも止められませんか? このままでは坊ちゃまが……!」
「ライベル君、こんな事を君に言っては余計に心配させるだけかも知れないが……それ程気にする事はない」
「え? な、なんでそんな事!」
「あの方は、何も単に血が上ってこんな事をしたのでは無い。畏れ多くもこの二ヶ月坊ちゃまの訓練に付き合ってきた私だ、だから言える。――勝利は揺らがない」
「……っ」
なるほど、自信があるだけあってか中々に足の速いもんだ。
だがこんな動き、仕留められるのは素人だけだ……!
単調で何の繊細さも無い、この二ヶ月鍛えてくれたコセルアとは月とスッポン以上に差がある。
散々手加減してくれたあいつの足元にも及ばない。
距離を詰める直前、引いていたナイフを前へと突き出すクソアマ。
「貰ったぞッ!!」
「――くれたんだろ?」
「お前、貴族だったのか!」
「それがどうした? こうなった以上もう収まらんぜ」
そいつが床に捨てたペンダントを拾いながら、ガンを飛ばす。
どんな理由であれ、手袋を投げつけられたら決闘に応じなければならない。
ライベルとの会話の中で拾った古い習慣だ。
実際の所、そんな事は一生の内に一回あるかないかレベルの頻度でしか起こらないらしいが。
この女の驚く顔、全く経験が無いのは確実だろう。
「いけません坊ちゃま! 元々ここにはお忍びで来たんですし……」
酷い目に合ってもなお俺を心配するライベルだが、その頼みだけは聞いてやる選択はない。
「ペンダント……」
「え?」
「ペンダント分ブチのめさねえと気が収まらねぇ」
「いいんですそんなの! どうせそんなに高いものじゃないし、坊ちゃまの身にもしもの事が」
「あるかどうかは終わってから確かめなァ……!」
懇願するライベルを余所に、目の前のクソアマを睨みつける。
一瞬身を竦めたように見えたが、それも直ぐに立ち直って胸を張って鼻で笑って来た。
「いいだろう。私も一人前のレディとしてジェントルの必死の頼みは聞いてやる。だが、こちらが勝ったらお前達は二人共私の言いなりになってもらうがいいな?」
「出来るもんならな」
「ふん、所詮貴族と言っても騎士爵程度の準貴族だろう? いっそ我が子爵家にその身を捧げたほうが裕福に生きられるというものだ。ははははは!」
コセルアが懐に手を入れようとするのを見て、俺がそれを手で押さえた。
お忍びの為に剣を持って来てねぇが、その服の下にはナイフが仕込まれている。
「坊ちゃま……」
「家を馬鹿にされたんだ気持ちはわかる。だからその分も俺がやってやる。黙って見てろ」
癇に障る高笑いを続けるその女。そうしていられるのも今の内だぜ。
◇◇◇
店を出て広場へと出る。
女の騎士二人が広場の人間に向かって偉そうに指示を出していた。
「散れ貴様ら! 今から神聖な決闘が始まる」
「平民共は我がお嬢様に感謝しろ! 見届け人の許可を出された事をな」
不満に思いつつも人が離れて行くのは、単純に関わり合いになりたくないからだろう。
「一体なんだよあいつら? どこの騎士の制服だ?」
「それにあのお嬢様。見た事無いが、よくも余所の領地に来て騒げるもんだな」
そんな事を言う連中が回りにいる、本人達が小さな声で話しているんだろうが俺にが聞こえていた。正確に言えばそんな事を言ってる奴らをかき分けて前へと出たからなんだが。
「ん? まさかあの男の子とやろうってのか!」
「嘘だろ? こんなの見せしめじゃねえのか!」
俺と女の体格差から見てそう思うんだろうな。俺が見物人の立場なら似たような事を考えていたかも知れないが。
「もう引っ込みはつかんがそれでもいいんだな? しかし安心しろ、これは互いの優劣を明白にするものであり、決して命までは取らない」
「一々うるせぇ女だ。ガタガタ抜かしてねぇでとっととやろうぜ。それとも本当はビビり散らして引き延ばしでもしてんのか?」
「ッ……。その減らず口、ますます気に入ったぞ。調教のし甲斐があるというもの!!」
口では余裕をかましているが、内心腹が立っているのが手に取るようにわかる。
女は腰に差している派手な鞘に入ったナイフを抜くと、俺に向けて突き付けて来た。
「さあ、そちらも獲物を取れ! 神聖な決闘ならばそれが礼儀だ!」
「さっきから……何が神聖だ? テメェ相手に気負うつもりなんざハナからねぇんだよ俺ァ……!」
「ぐっ……ほ、ほざけえええ!!!」
ついに切れたクソアマが勢いをつけて突進をしてくる。
……俺の計算通りにな。
「こ、コセルア卿!? 今からでも止められませんか? このままでは坊ちゃまが……!」
「ライベル君、こんな事を君に言っては余計に心配させるだけかも知れないが……それ程気にする事はない」
「え? な、なんでそんな事!」
「あの方は、何も単に血が上ってこんな事をしたのでは無い。畏れ多くもこの二ヶ月坊ちゃまの訓練に付き合ってきた私だ、だから言える。――勝利は揺らがない」
「……っ」
なるほど、自信があるだけあってか中々に足の速いもんだ。
だがこんな動き、仕留められるのは素人だけだ……!
単調で何の繊細さも無い、この二ヶ月鍛えてくれたコセルアとは月とスッポン以上に差がある。
散々手加減してくれたあいつの足元にも及ばない。
距離を詰める直前、引いていたナイフを前へと突き出すクソアマ。
「貰ったぞッ!!」
「――くれたんだろ?」
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