上 下
7 / 11

第7話

しおりを挟む
 それからもしばらく怒り続けたお嬢様。落ち着かせようと、どうどうとジェスチャーしたらまた怒るんだもんな。血圧上がっちゃうよ? 若さに身を任せるのも程々にしないと。

 やっと解放されたのは開始から二十分後、それでもプリプリしながら離れていった。あそこまで怒り続けられるんだからホントにアグレッシブだなぁ。

 ま、いいや。だったら壁の花にでも徹しようじゃないか。そう思って、壁に背を預けながら会場内を見渡していると、傍のテーブルには美味しそうな食べ物がたっくさんあるじゃないか!
 これ食べていいの? いやいいよね、私一応ゲストだしぃ。という訳でいっただきまーす! あ、これ美味い! あ、これも美味い! このビスケットの上に載ってるクリームはクルミかな? はっはぁ、美味すぎて止まらないぜぇ! このラスクも爽やかな甘味が堪らんサクサク。おっ、こっちのタルトも涎もの。どれ一口……。

「やあ、お嬢さん」

「ふぉお? おふぉうふぁんふぇわふぁひふぇふふぁ?」

「フフ、食べてからで構わないよ。むしろ、お食事を邪魔したこちらが悪い。済まなかったね」

 そういういう事なら遠慮無く。咥えていたタルトを、多少名残惜しいがごっくんとすると、マスカットのジュースでリフレッシュ。……これ美味しい! もう一杯飲んじゃおっと。

「ぐびっ……と。う~ん! あ、はしたないとこ見せちゃって。まっことすまない話ですわ」

「さっきも言った通り、食事中に話しかけたこちらが悪い。マナー違反をお詫びしたい」

「いえいえ~。ま、そこら辺はお相子って事で……はい、終わり! ってね」

 その人物は口元に手をやるとお上品に笑みを浮かべた。
 あらま! 良く見てみるととんでもないイケメンさんだ。年は私と変わらない位だろうけど、物腰が紳士だぜ。ウチの学園の男子共には欠片も無い要素だな。
 海色の青い髪に、深海のような深い青の瞳。まるで王子様みたいにキラキラ輝いているぞ。上流階級特有のキラキラだろうか?

「それで、私に何か用事でも? しかしこんな深窓の壁の花に声を掛けるとは、お兄さん目の付け所が違いますなぁ。はっはっは!」

「君は本当に面白いね。だけど用事という程のもので話しかけた訳では無いんだ。ただ、君と話をしてみたくて、ね?」

「ナンパですかい? いやん照れちゃう! ……といってもこんな所で殿方とのロマンスにふけってるとお嬢様に叱れられそうなので。また何処かでお会いしたら、その時こそお茶でもしばきましょう! へへへへ、奢ってくれるなら尚の事嬉しいんですがね」

「これは袖にされてしまったかな? 残念だ。ならばせめて、この哀れな男に貴女と会話をする権利を下さりはしないだろうか?」

「うむ、くるしゅうない! ……へへ、お兄さん中々のお上手ですね。それでは私が直々に質問タイムを設けようではないか! さぁ何でも聞いてくれたまえよ! スリーサイズ? あ、それは乙女の秘密って事で」

「そうだね。僕が一番気になるのは、君の名前かな? 見た所、コッテンパー家の人間には見えないけれど」

 なるほど、確かに見慣れない人間が居たら気にもするわね。
 ま、減るもんじゃなし。ご近所におすそ分けする感じに教えたりましょう。

「いやはや、アタイはロモラッド・ド・レモレッドなんていうケチな女でさぁ。以後お見知りおきをってなもんで」

「そう。僕は……ラピウート、とでも名乗っておこうかな?」

「こりゃまた……そちらさんの方が身持ちはお固いようで」

「すまないね、これ以上は勘弁して貰えるかな?」

「もち! ま、人それぞれの事情ってもんもあるでしょう。出来た女なんで、その辺りは飲み込みますよ、ぐいっとね! あ、ぐいついでにジュースをもう一杯」

「フフ……。いや、本当に君と話が出来て幸運だな僕は」

 それから、他愛もない話は続く訳で。
 しかしながらこのお兄さんも聞き上手なもんで、スイスイーっと話ちゃう私。あかん、このお兄さんと話してるとスベり知らずと勘違いしちゃうね。

「もうラピさんったらお上手~。どこかのお固いお嬢様とは大違い」

「いやいや、聞く事の重要性を父から教えられて来ただけさ。それに、彼女は多少融通が利かないかもしれないが、それでもいい所は沢山あるさ」

「ええ、あんな面白い人中々いませんからね。相方見つけて地方営業とかしたらものすごい仕事持ってきそう、みたいな?」

「その例えも簡単に出てくるものじゃないと思うけど」

 そんな会話を楽しんでいた時だ。会話をしながらヒョイヒョイ抓んでいたからお腹は空いていないお昼の一二時頃、どん! と大広間の扉は開かれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

もふきゅな
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。 守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。 だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。 それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。

悪役令嬢は婚約破棄され、転生ヒロインは逆ハーを狙って断罪されました。

まなま
恋愛
悪役令嬢は婚約破棄され、転生ヒロインは逆ハーを狙って断罪されました。 様々な思惑に巻き込まれた可哀想な皇太子に胸を痛めるモブの公爵令嬢。 少しでも心が休まれば、とそっと彼に話し掛ける。 果たして彼は本当に落ち込んでいたのか? それとも、銀のうさぎが罠にかかるのを待っていたのか……?

悪役令嬢は王子の溺愛を終わらせない~ヒロイン遭遇で婚約破棄されたくないので、彼と国外に脱出します~

可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。第二王子の婚約者として溺愛されて暮らしていたが、ヒロインが登場。第二王子はヒロインと幼なじみで、シナリオでは真っ先に攻略されてしまう。婚約破棄されて幸せを手放したくない私は、彼に言った。「ハネムーン(国外脱出)したいです」。私の願いなら何でも叶えてくれる彼は、すぐに手際を整えてくれた。幸せなハネムーンを楽しんでいると、ヒロインの影が追ってきて……※ハッピーエンドです※

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。 ――というのは表向きの話。 婚約破棄大成功! 追放万歳!!  辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。 ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19) 第四王子の元許嫁で転生者。 悪女のうわさを流されて、王都から去る   × アル(24) 街でリリィを助けてくれたなぞの剣士 三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ 「さすが稀代の悪女様だな」 「手玉に取ってもらおうか」 「お手並み拝見だな」 「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」 ********** ※他サイトからの転載。 ※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

婚約者に嫌われた伯爵令嬢は努力を怠らなかった

有川カナデ
恋愛
オリヴィア・ブレイジャー伯爵令嬢は、未来の公爵夫人を夢見て日々努力を重ねていた。その努力の方向が若干捻れていた頃、最愛の婚約者の口から拒絶の言葉を聞く。 何もかもが無駄だったと嘆く彼女の前に現れた、平民のルーカス。彼の助言のもと、彼女は変わる決意をする。 諸々ご都合主義、気軽に読んでください。数話で完結予定です。

処理中です...