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第5話 やっとの一休み
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『これ返すね』
そう言ってさっきまで使ってた剣を再び渡して来た棚見、いやお前の方が適任だろう。
そう思って抗議の睨みを向けるも、口笛を吹くだけでさっさと道を歩き始めた。
一体奴の思考回路はどうなっているのか? 今日だけでそんな事を数回考えたが、答えはいつも考えるだけ無駄という結論だった。
とっくに答えが出ているのについ考え込んでしまうのは、こいつに振り回されてる証拠だろうか?
正直嫌になるな。
手に切った剣を見る。ボロボロだった刀身は今は新品同様。
これを俺が成したというのだから、いよいよもってファンタジーの実感が強く沸き上がってくる。
(こうなると俺の能力とやら物を新品に戻すってことか? いやそう決めつけるのはさすがに早いか)
こういう場合、転移物の小説だと……。
「……ステータス。ステータスオープン……」
聞こえないようにボソッと呟く。しかし、何も起こらない。
空中にゲームのようなステータス画面が表示されて、自分のスキルやら職業やらを閲覧出来たりするんじゃないかと思ったが……あてが外れてしまった。
俺だけが出来る特殊スキルで成り上がり! といきたかったが。
出来ないものにこだわっても仕方ない
俺たちをここに呼び寄せたあの女、やはり相当性格がねじ曲がってるんじゃないか?
せめて何が出来るかくらい教えろっての。
「見て見て! 森を抜けたぜ香月くん! はぁ綺麗だなぁ……」
しばらく歩いてやっと森の出口を通り抜けた。
夕陽も降りた森の中は薄暗く、正直あの状況で化け物に襲われたらひとたまりもなかったが、結局あの猪以来何も出会わなったな。
はしゃぐ棚見じゃないが、森を抜けた草原の夜空はきらびやかだった。
満天の星空。
言葉にするとなんてことはないが、都会育ちの俺にはテレビやネットの中の産物でしかなかったそれが、まさに頭上に輝いてる。
「イエーイ! やっぱラッキーじゃんオレたち! 明日もきっといい事あるって」
何がそんなに楽しいのか、天に手を掲げて一人でやいやい騒いでいた。
(調子のいい奴……)
でもこの光景は素直に興奮出来た。
それにもう一つ、幸運な出来事があったのだ。
「見てよ、向こうの方ピカピカしてるっしょ! あれ町だよ町! あ、でももしかしたら村かもね」
そう、森の出口からそう遠くない場所に町らしきものを見つけたのだ。
「町……か」
目的の一つを達成出来そうになって、感慨深いものを感じる。
とは言ってももう夜だ。町の散策だなんだっていうのは今日はもう諦めた方がいいだろう。
「よーし競争だドーン!!」
「……は?」
突拍子もないことを言い放ちながら急に走り出した棚見。
これだから陽キャは意味がわかんないんだ!
「くっ、くそ。こっちは剣持ってんだぞ……!」
別に張り合うつもりはないが素直にムカつく。
「ホラホラ、置いてくよー!」
散歩時の犬のようなはしゃぎっぷりで、俺を置いて奴は走り去っていく。
その後ろ悪態をつきながら俺も走っていくのだった。
◇◇◇
「着いたね~町。ま、入り口だけどさ」
「……はぁっ……! ひぃ……ぁあ……ぅ……!」
結局距離を開けられながらそれでもたどり着いた時、俺の息は上がっていた。
体育の授業でもここまで全身で呼吸するような感覚に陥った事は無いのに。
授業では疲れきれない程度に適当に手を抜いて走ったりしていたから、この感覚は本当に久しぶりだった。
こっちは剣を抜き身で持って走って来たんだぞ! 運動能力だってこいつの方が上なのに……!
抗議の目線を向ける。そんな俺に奴は肩に手を置いてきた。
「まぁまぁ、いい運動になったと思ってさ。ほら、今日はベッドでぐっすり眠ろうよ。せっかく町まで来たんだし。オレってつい最近までバイトとかしてたからちょっとしたお金持ちなんだよね~」
そう言って懐にしまってあった財布を取り出して見せて来た。
まあ、俺もはっきり言って疲れたしここは好意に甘えて……あっ。
「金……」
「ん? お金がどうかしたん?」
「日本円なんて、ここで役に立たないんじゃ……」
「…………あっ」
この時ばかりは俺もこいつも同じ心情だっただろうよ。
「ああ!!? オレたちってもしかしなくても無一文じゃん! ……どうすっぺ」
初めて見るこいつの困り顔。こんな奴でもこういう顔するんだなとか考えても仕方がないわけで。
これでじゃベッドどころか路地裏で一夜を明かすことになりかねん。どうしたものか……。
困り果てて何かないかと周りを見る。
……すると、手に持ってる剣に目がいき……。
◇◇◇
「ありがとうございましたー」
背中に店主の声を浴びながら店を出た俺達。
武器屋と思われる看板の店をくぐり抜けて、今日手に入れたばかりの剣を売っぱらう。
多少名残惜しいが、これも仕方ない。
一応俺の能力を使ってもう一度新品同様の状態で店主に見せた。
どうやらこの剣はこの辺りでは取り扱ってないものらしく、それなりにいい値段で売れた……と思う。
こっちの金の相場が今一つわからないから何とも言えないが。
「とりあえず今日のホテル代になったかな? どう思う?」
「……こういう町じゃホテルじゃなくて宿かもしれん」
傍から聞いたらどうでもいいようなやり取りをしながら、武器屋の店主についでに聞いた宿泊所の場所まで向かっていた。
「剣、売っちゃって良かったのかな?」
「金が無いんじゃ仕方ない」
せめて少しばかりの資金ぐらいおいて消えてくれたらよかったのに、あの妖しい連中め。
残った連中もきっと苦労することだろうな。
いや、もしかしたら売り物になるような道具を作れる能力を持った人間がいるかもしれない。
別に心配するわけじゃないが、同郷の人間が野垂れ死にしたりするんじゃないかと考えると思うところがある。
でもあの人数だったらいろんな能力で森も難なく抜けてこれるだろう、きっと。
ここいらで特に安い宿の扉を潜り抜ける。
「いらっしゃいませ」
若い女の店員の声が聞こえてきた。
入り口から入ってすぐのカウンターに立つ彼女に今日の宿泊の話をつければいいんだろうか。
「……あ、あの」
「お姉さん、今日二人で泊りたいんだけどぉオレ達ってあんまりお金持ってないんだよね。一番安い部屋って空いてる感じ?」
俺が言い終わる前に棚見が宿の状況について話を聞いていた。
さすがに口を開くのが早い男だ。
店員が料金の書かれた案内表を見せながら説明を始める。
「一番お安い部屋ですと一部屋開いていますが、ベッドが一つしかありません。申し訳ありませんがベッドが二つ以上でお安い部屋ですともう埋まっております。どうなさいますか?」
「どうする? 同じベッドで寝ちゃう?」
いや冗談じゃない、何が悲しくて野郎二人で寝なくちゃならないんだ。俺は全力で首を振った。
「ああ……。じゃあ床に布団とかって出来る?」
「可能です。その場合お部屋代も変わりませんが、本当に床に敷いてよろしいので?」
「まあ汚れてなかったらいいんじゃない? 野宿よりはマシだしね」
「承りました。では後程お布団の方はお部屋の方にお持ち致しますので、……こちらの鍵を持ってお先にお部屋へと上がられて下さい」
カウンターの下から鍵を取り出した女性店員は、その白い手に持った鍵をやさしく俺の手へと渡してきた。
「……」
「どったん? なんか難しい顔しちゃってさ」
「あ、いや。……あ、ありがとうございます」
受け取った鍵の部屋番号を確認して、部屋のある二階へと階段を上っていった。
……いやな記憶というのは不意の思い出すもんだな。
つまらない感傷に気分を落としたが、だからといってそのことで足を止めるわけでもなく、鍵と同じ番号が書かれたプレートのある部屋へとたどり着いた。
そう言ってさっきまで使ってた剣を再び渡して来た棚見、いやお前の方が適任だろう。
そう思って抗議の睨みを向けるも、口笛を吹くだけでさっさと道を歩き始めた。
一体奴の思考回路はどうなっているのか? 今日だけでそんな事を数回考えたが、答えはいつも考えるだけ無駄という結論だった。
とっくに答えが出ているのについ考え込んでしまうのは、こいつに振り回されてる証拠だろうか?
正直嫌になるな。
手に切った剣を見る。ボロボロだった刀身は今は新品同様。
これを俺が成したというのだから、いよいよもってファンタジーの実感が強く沸き上がってくる。
(こうなると俺の能力とやら物を新品に戻すってことか? いやそう決めつけるのはさすがに早いか)
こういう場合、転移物の小説だと……。
「……ステータス。ステータスオープン……」
聞こえないようにボソッと呟く。しかし、何も起こらない。
空中にゲームのようなステータス画面が表示されて、自分のスキルやら職業やらを閲覧出来たりするんじゃないかと思ったが……あてが外れてしまった。
俺だけが出来る特殊スキルで成り上がり! といきたかったが。
出来ないものにこだわっても仕方ない
俺たちをここに呼び寄せたあの女、やはり相当性格がねじ曲がってるんじゃないか?
せめて何が出来るかくらい教えろっての。
「見て見て! 森を抜けたぜ香月くん! はぁ綺麗だなぁ……」
しばらく歩いてやっと森の出口を通り抜けた。
夕陽も降りた森の中は薄暗く、正直あの状況で化け物に襲われたらひとたまりもなかったが、結局あの猪以来何も出会わなったな。
はしゃぐ棚見じゃないが、森を抜けた草原の夜空はきらびやかだった。
満天の星空。
言葉にするとなんてことはないが、都会育ちの俺にはテレビやネットの中の産物でしかなかったそれが、まさに頭上に輝いてる。
「イエーイ! やっぱラッキーじゃんオレたち! 明日もきっといい事あるって」
何がそんなに楽しいのか、天に手を掲げて一人でやいやい騒いでいた。
(調子のいい奴……)
でもこの光景は素直に興奮出来た。
それにもう一つ、幸運な出来事があったのだ。
「見てよ、向こうの方ピカピカしてるっしょ! あれ町だよ町! あ、でももしかしたら村かもね」
そう、森の出口からそう遠くない場所に町らしきものを見つけたのだ。
「町……か」
目的の一つを達成出来そうになって、感慨深いものを感じる。
とは言ってももう夜だ。町の散策だなんだっていうのは今日はもう諦めた方がいいだろう。
「よーし競争だドーン!!」
「……は?」
突拍子もないことを言い放ちながら急に走り出した棚見。
これだから陽キャは意味がわかんないんだ!
「くっ、くそ。こっちは剣持ってんだぞ……!」
別に張り合うつもりはないが素直にムカつく。
「ホラホラ、置いてくよー!」
散歩時の犬のようなはしゃぎっぷりで、俺を置いて奴は走り去っていく。
その後ろ悪態をつきながら俺も走っていくのだった。
◇◇◇
「着いたね~町。ま、入り口だけどさ」
「……はぁっ……! ひぃ……ぁあ……ぅ……!」
結局距離を開けられながらそれでもたどり着いた時、俺の息は上がっていた。
体育の授業でもここまで全身で呼吸するような感覚に陥った事は無いのに。
授業では疲れきれない程度に適当に手を抜いて走ったりしていたから、この感覚は本当に久しぶりだった。
こっちは剣を抜き身で持って走って来たんだぞ! 運動能力だってこいつの方が上なのに……!
抗議の目線を向ける。そんな俺に奴は肩に手を置いてきた。
「まぁまぁ、いい運動になったと思ってさ。ほら、今日はベッドでぐっすり眠ろうよ。せっかく町まで来たんだし。オレってつい最近までバイトとかしてたからちょっとしたお金持ちなんだよね~」
そう言って懐にしまってあった財布を取り出して見せて来た。
まあ、俺もはっきり言って疲れたしここは好意に甘えて……あっ。
「金……」
「ん? お金がどうかしたん?」
「日本円なんて、ここで役に立たないんじゃ……」
「…………あっ」
この時ばかりは俺もこいつも同じ心情だっただろうよ。
「ああ!!? オレたちってもしかしなくても無一文じゃん! ……どうすっぺ」
初めて見るこいつの困り顔。こんな奴でもこういう顔するんだなとか考えても仕方がないわけで。
これでじゃベッドどころか路地裏で一夜を明かすことになりかねん。どうしたものか……。
困り果てて何かないかと周りを見る。
……すると、手に持ってる剣に目がいき……。
◇◇◇
「ありがとうございましたー」
背中に店主の声を浴びながら店を出た俺達。
武器屋と思われる看板の店をくぐり抜けて、今日手に入れたばかりの剣を売っぱらう。
多少名残惜しいが、これも仕方ない。
一応俺の能力を使ってもう一度新品同様の状態で店主に見せた。
どうやらこの剣はこの辺りでは取り扱ってないものらしく、それなりにいい値段で売れた……と思う。
こっちの金の相場が今一つわからないから何とも言えないが。
「とりあえず今日のホテル代になったかな? どう思う?」
「……こういう町じゃホテルじゃなくて宿かもしれん」
傍から聞いたらどうでもいいようなやり取りをしながら、武器屋の店主についでに聞いた宿泊所の場所まで向かっていた。
「剣、売っちゃって良かったのかな?」
「金が無いんじゃ仕方ない」
せめて少しばかりの資金ぐらいおいて消えてくれたらよかったのに、あの妖しい連中め。
残った連中もきっと苦労することだろうな。
いや、もしかしたら売り物になるような道具を作れる能力を持った人間がいるかもしれない。
別に心配するわけじゃないが、同郷の人間が野垂れ死にしたりするんじゃないかと考えると思うところがある。
でもあの人数だったらいろんな能力で森も難なく抜けてこれるだろう、きっと。
ここいらで特に安い宿の扉を潜り抜ける。
「いらっしゃいませ」
若い女の店員の声が聞こえてきた。
入り口から入ってすぐのカウンターに立つ彼女に今日の宿泊の話をつければいいんだろうか。
「……あ、あの」
「お姉さん、今日二人で泊りたいんだけどぉオレ達ってあんまりお金持ってないんだよね。一番安い部屋って空いてる感じ?」
俺が言い終わる前に棚見が宿の状況について話を聞いていた。
さすがに口を開くのが早い男だ。
店員が料金の書かれた案内表を見せながら説明を始める。
「一番お安い部屋ですと一部屋開いていますが、ベッドが一つしかありません。申し訳ありませんがベッドが二つ以上でお安い部屋ですともう埋まっております。どうなさいますか?」
「どうする? 同じベッドで寝ちゃう?」
いや冗談じゃない、何が悲しくて野郎二人で寝なくちゃならないんだ。俺は全力で首を振った。
「ああ……。じゃあ床に布団とかって出来る?」
「可能です。その場合お部屋代も変わりませんが、本当に床に敷いてよろしいので?」
「まあ汚れてなかったらいいんじゃない? 野宿よりはマシだしね」
「承りました。では後程お布団の方はお部屋の方にお持ち致しますので、……こちらの鍵を持ってお先にお部屋へと上がられて下さい」
カウンターの下から鍵を取り出した女性店員は、その白い手に持った鍵をやさしく俺の手へと渡してきた。
「……」
「どったん? なんか難しい顔しちゃってさ」
「あ、いや。……あ、ありがとうございます」
受け取った鍵の部屋番号を確認して、部屋のある二階へと階段を上っていった。
……いやな記憶というのは不意の思い出すもんだな。
つまらない感傷に気分を落としたが、だからといってそのことで足を止めるわけでもなく、鍵と同じ番号が書かれたプレートのある部屋へとたどり着いた。
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