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第3話 蹂躙第一号
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「て、てめぇ一体何をしやがった!?」
「何の事を言ってるか知らんがよ、そんなに気になるんだったら……ほら、この手鏡貸してやるよ」
奴はひったくるように俺の懐から取り出した鏡で自分の顔をまじまじめと見る。
恐怖体験だろう、こんなことは。
今朝まで見慣れた自分の顔が、いや顔だけじゃない自分の姿そのものが――。
美少女へと変貌してるんだからな。
「な、な、なァァ!!?」
言葉にはならない悲鳴がある意味心地がいい。俺の手にかかった奴の大半は、似たようなリアクションを取る。
そしてこの後のパターンも把握済みだ。
「ま、まさか!?」
奴は急いで近くの男子トイレに駆け込んだ後、数分とせず走って戻ってきた。
「どうしたそんなに慌てて? そんなに走ると転んじゃうぞぉ」
軽く笑いを交じりながら問いかける。こういう瞬間は単純に楽しいもんだ。
こいつでヤンキーしか相手にしないタイプの男だったらこんなことはしなかった。弱いものをいじめをするような奴に容赦をする理由なんかないんだ。
「お、俺の体に一体何をしやがった?!!」
吠える元強面のヤンキー。しかし今となっては、ただの美少女の見た目だ。怖さは限りなくゼロだな。
「何って? だから一体何の事を言ってるのか、まるで分からないな」
我慢ができず軽く笑い声を上げる俺。そんな俺を見て、ヤンキーの野郎は見るからに腰が引けていた。それも仕方がない。こんな得体の知れない人間の毒牙に掛かったかも知れないんだからな。
俺の能力、これは手に入れるのに長い時間がかかった。
あの世界の仲間はみんな、自分の属性を見つけ巧みに操っていた中、俺は単なる荷物持ちとしての役割しか持ってなかった。あいつらはそれでも十分助かると言っていたが、心苦しさが晴れることはなかった。
そんな俺に差した一筋の光。それがこの力。
鍛えあげれば誰でも使える属性すら全く扱えなかったこの俺だけの能力。
勇者の血族だけが使えた属性『タイプ・ライト』のような固有の能力。
「もしかしたら奇病か何かかもしれんな。でも、病気に感謝したらどうだ? 見るに足りなかった面から、誰からも好かれるような可愛らしい姿になったんだからな」
それも――残すものはきっちりと残してよ。
最後の台詞は口にこそ出さなかったものの、代わりに喉の奥からククと笑い声がこぼれてしまった。
そうこれこそが俺の、俺だけの能力。どんな強大な力を持つ屈強な男だろうと、容赦なくその姿を変えさせる悪魔めいた力――『タイプ・シーメール』だ。
しかもオプションで、ささやかながら胸と尻も大きくしてやったぞ? これからは精々変質者にでも気をつける事だな。
「て、てめぇ!! 元に戻しやがれ!!!」
「おいおい、一体俺にどんな力があったら人間の体を一瞬で変えられるんだ? 生憎と魔法使いじゃないんだ、皆目見当つかないな。しかしなんだな、いっそ明日から女子の制服でも来て登校するか? はっはっはっは!」
元に戻ることができないという事実に絶望したのか、そのまま廊下の床にへたり込んでしまった。
さてそろそろチャイムも鳴る、教室に行くとするか。
「病院にでも行くといい。もしかしたら原因が分かるかもしれんぞ? ふっ」
奴の傍に放置された手鏡を拾うと、俺は名も知らぬヤンキーを放置して自分の教室へと向かうのだった。
それで俺の教室は確か一年の……。
今の時間は始業開始の十分前。なんとかあやふやな記憶を頼りに自分の教室とたどり着くことができた。
途中で野本と呼ばれていたあのいじめられ男子と出会って心配されたが、問題は片付いたと言ったら驚かれた。もうあんまり心配することもないし、何かあったらまた俺を頼れと言って別れた。一応アフターフォローも必要だろう。
しかし俺の力はこっちでもちゃんと使えるんだな。それが確認できただけでも良かった。
この能力を身につけてからは、例えば大活躍する俺たちのパーティーをやっかんで嫌がらせをしてくる輩の姿を変えて黙らせ。卑劣な罠を仕掛けてくる敵魔族の姿を変えて黙らせ。そうやって俺はパーティーに貢献した。
今までの鬱憤を晴らすかのような大活躍だったと我ながら思う。
俺の能力はあくまでも男を女に近い姿に変えるだけで性別まで変えることはできない。だが、敵にとっては十分驚異的な能力だろう。
奴らの鍛え上げた筋肉を脂肪に変えて胸や尻を膨らませる。これだけでも肉体的な戦闘能力を大幅に奪うことができた。無論、筋肉をそのまま残す事も可能だが敵に対してそこまで優しくしてやる理由なんかない。
この不可逆の力はどんな魔法を使っても元の姿に戻ることはできない、まさに悪魔めいた力だ。
……ただ、偶にだが自分からこの力に掛かりたがる男がいる。なぜ自分から女に近い姿になりたがるのか?
あと、この力のせいかサキュバスを始めとした女魔族からは本気で命を狙われていたが。ま、今となっては全て過去だ。
「何の事を言ってるか知らんがよ、そんなに気になるんだったら……ほら、この手鏡貸してやるよ」
奴はひったくるように俺の懐から取り出した鏡で自分の顔をまじまじめと見る。
恐怖体験だろう、こんなことは。
今朝まで見慣れた自分の顔が、いや顔だけじゃない自分の姿そのものが――。
美少女へと変貌してるんだからな。
「な、な、なァァ!!?」
言葉にはならない悲鳴がある意味心地がいい。俺の手にかかった奴の大半は、似たようなリアクションを取る。
そしてこの後のパターンも把握済みだ。
「ま、まさか!?」
奴は急いで近くの男子トイレに駆け込んだ後、数分とせず走って戻ってきた。
「どうしたそんなに慌てて? そんなに走ると転んじゃうぞぉ」
軽く笑いを交じりながら問いかける。こういう瞬間は単純に楽しいもんだ。
こいつでヤンキーしか相手にしないタイプの男だったらこんなことはしなかった。弱いものをいじめをするような奴に容赦をする理由なんかないんだ。
「お、俺の体に一体何をしやがった?!!」
吠える元強面のヤンキー。しかし今となっては、ただの美少女の見た目だ。怖さは限りなくゼロだな。
「何って? だから一体何の事を言ってるのか、まるで分からないな」
我慢ができず軽く笑い声を上げる俺。そんな俺を見て、ヤンキーの野郎は見るからに腰が引けていた。それも仕方がない。こんな得体の知れない人間の毒牙に掛かったかも知れないんだからな。
俺の能力、これは手に入れるのに長い時間がかかった。
あの世界の仲間はみんな、自分の属性を見つけ巧みに操っていた中、俺は単なる荷物持ちとしての役割しか持ってなかった。あいつらはそれでも十分助かると言っていたが、心苦しさが晴れることはなかった。
そんな俺に差した一筋の光。それがこの力。
鍛えあげれば誰でも使える属性すら全く扱えなかったこの俺だけの能力。
勇者の血族だけが使えた属性『タイプ・ライト』のような固有の能力。
「もしかしたら奇病か何かかもしれんな。でも、病気に感謝したらどうだ? 見るに足りなかった面から、誰からも好かれるような可愛らしい姿になったんだからな」
それも――残すものはきっちりと残してよ。
最後の台詞は口にこそ出さなかったものの、代わりに喉の奥からククと笑い声がこぼれてしまった。
そうこれこそが俺の、俺だけの能力。どんな強大な力を持つ屈強な男だろうと、容赦なくその姿を変えさせる悪魔めいた力――『タイプ・シーメール』だ。
しかもオプションで、ささやかながら胸と尻も大きくしてやったぞ? これからは精々変質者にでも気をつける事だな。
「て、てめぇ!! 元に戻しやがれ!!!」
「おいおい、一体俺にどんな力があったら人間の体を一瞬で変えられるんだ? 生憎と魔法使いじゃないんだ、皆目見当つかないな。しかしなんだな、いっそ明日から女子の制服でも来て登校するか? はっはっはっは!」
元に戻ることができないという事実に絶望したのか、そのまま廊下の床にへたり込んでしまった。
さてそろそろチャイムも鳴る、教室に行くとするか。
「病院にでも行くといい。もしかしたら原因が分かるかもしれんぞ? ふっ」
奴の傍に放置された手鏡を拾うと、俺は名も知らぬヤンキーを放置して自分の教室へと向かうのだった。
それで俺の教室は確か一年の……。
今の時間は始業開始の十分前。なんとかあやふやな記憶を頼りに自分の教室とたどり着くことができた。
途中で野本と呼ばれていたあのいじめられ男子と出会って心配されたが、問題は片付いたと言ったら驚かれた。もうあんまり心配することもないし、何かあったらまた俺を頼れと言って別れた。一応アフターフォローも必要だろう。
しかし俺の力はこっちでもちゃんと使えるんだな。それが確認できただけでも良かった。
この能力を身につけてからは、例えば大活躍する俺たちのパーティーをやっかんで嫌がらせをしてくる輩の姿を変えて黙らせ。卑劣な罠を仕掛けてくる敵魔族の姿を変えて黙らせ。そうやって俺はパーティーに貢献した。
今までの鬱憤を晴らすかのような大活躍だったと我ながら思う。
俺の能力はあくまでも男を女に近い姿に変えるだけで性別まで変えることはできない。だが、敵にとっては十分驚異的な能力だろう。
奴らの鍛え上げた筋肉を脂肪に変えて胸や尻を膨らませる。これだけでも肉体的な戦闘能力を大幅に奪うことができた。無論、筋肉をそのまま残す事も可能だが敵に対してそこまで優しくしてやる理由なんかない。
この不可逆の力はどんな魔法を使っても元の姿に戻ることはできない、まさに悪魔めいた力だ。
……ただ、偶にだが自分からこの力に掛かりたがる男がいる。なぜ自分から女に近い姿になりたがるのか?
あと、この力のせいかサキュバスを始めとした女魔族からは本気で命を狙われていたが。ま、今となっては全て過去だ。
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