神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
137 / 139
第五章『思いはひとつ!』

ルルの里帰り

しおりを挟む
「ふぅ、久しぶりですね、ここも」
 ギルドに戻ってくつろいだのも束の間。ルナルは、ルルとセインを連れて、とある場所へとやって来ていた。
「本当ですね。お父さんやお母さんは元気にしているかな」
「すっかりここも平和な村になっちまってるな。あんな悲惨な状態だったのが嘘みたいだぜ」
 ルルのセリフから分かる通り、ここはルルが育った村である。
 ルナルたちがやって来た時はゴブリンに支配されており、セインの言った通り、実に見るに堪えないような状態に陥っていた。
 それを救ったのが、魔族の暗躍を調査していたルナルたちである。
 その戦いの際にゴブリンのリーダーを討ち取り、その後互いに和解。今では村人とゴブリンたちは一緒に平和に暮らしている。
 ルナルたちが村へと近付くと、入口付近にいた村人が気が付いたようだ。
「おお、ルナル様。ルルも居るじゃないか。おーい、ルルが帰ってきたぞーっ!」
 ルナルとルルに気が付いて、村人は叫びながら走り去っていく。
「……おい、俺は?」
 一人名前がハブられたセインが、顔を引きつらせて立っている。あまりのおかしさに、ルナルとルルは笑っていた。
 村人が走り去っていくそばから、ひょこひょこと顔を出してくる村人たち。そこには、ルルに服を与えてくれてゴブリンの夫婦の姿もあった。
「あっ、あなたたちは」
 その姿を見つけて、ルルは駆け寄っていく。
「おお、ルルちゃん。よく戻ってきたね」
「はい。ここはなんといっても私の育った村ですからね」
 ゴブリン夫婦を相手に胸を張ってドヤ顔を決めるルル。その姿を見て笑うゴブリン夫婦。実に和やかなものである。
「ルル!」
 どこからともなく呼ぶ声が聞こえる。
 声のした方を見ると、ルルは懐かしい顔を見つけてさっきまでの笑顔が崩れている。
「お父さん、お母さん……」
 涙を浮かべながら育ての両親を見るルル。両親の方もまた、ルルを見ながら涙を浮かべて今にも泣きそうだった。
 その様子を見ていたルナルが、ルルの背中を軽く押す。驚いて一瞬ルナルを振り返るルルだったが、その時のルナルの表情を確認すると両親に向かって駆けていった。
 両親と抱き合うルルは、とても嬉しそうに笑顔をこぼしている。両親も泣きながらルルを抱きしめる。その姿をルナルとセインはしばらく無言で眺めていた。
「ルルちゃん、私たちは村長様とお会いしてきますので、せっかくの再会なんですからゆっくりしていて下さい」
「ありがとうございます、ルナル様」
 手を振るルナルたちに、ルルの両親は何度も頭を下げていた。

「おお、ルナル様。よくぞお越し下さいました」
 村長の家にやって来ると、そこにはゴブリンの代表であるゴブールの姿もあった。
「お久しゅうございます、ルナル様。まさか魔王様とは存ぜず、いろいろ無礼を働いたこと、お許し下さいませ」
 目が合うなり、跪いて謝罪をしてくるゴブール。その姿に思わずびっくりしてしまうルナルである。
「あ、頭を上げて下さい。黙っていたのはこちらですし、あなた方が謝る必要なんてありませんよ」
「おお、なんと心の広いお方なのだ。お気遣い感謝致します」
 いちいち頭を下げてくるゴブールに、対応に困るルナルだった。
「それにしても、しばらく見ない間にずいぶんと立派になっちまったな」
「それはもう、ゴブール殿たちのおかげですよ」
「この村には迷惑を掛けた。このくらいは当然ですよ」
 セインが家の中を見回しながら呟くと、村長とゴブールは顔を見合わせながら状況を説明してくれた。思いの外、すっかり仲が良くなっているようだ。
 その様子に安心したルナルは、あれこれと村長たちと言葉を交わす。
 ルルを連れて村を出ていってから起きたできごとに、村長たちはとても驚いていたようだ。
「そうですか。あの子は精霊だったのですか」
「はい。あの持っていた杖も、その精霊だけが持ちえる特殊な装備でしたからね」
 ルルの正体を知った村長たちは、驚いてはいたものの、どこか察したらしくて反応は控えめなものだった。
「しかし、あの子がルナル様のお役に立てたのは嬉しい限りですね。わしどもでは何もできなかったでしょうからね」
 嬉しそうに涙を流し始める村長。急に泣き始めるものだから、ルナルはつい戸惑ってしまう。
 しばらくして、ようやく落ち着いた村長たち。
 その彼らを目の前にして、ルナルはとあることを切り出す。
「それでなのですが、今回村に寄ったのには他にも理由があるんですよ」
「ほう、それはどういうことなのですか?」
 ルナルの言葉に、村長は身を乗り出している。とても興味があるといった感じである。
 だが、ルナルが続けた言葉は、期待とは裏腹なものだった。
「実は……、ルルちゃんを村にお返ししようとか思うんです。やはり家族は揃っていた方がいいと思いますからね」
 その時、村長の家の入口から何かが地面に落ちる音が響く。
 視線を向けてみると、そこにはルルと両親の姿があった。
「えっ……、嘘ですよね、ルナル様……」
 耳を疑うルルは、ルナルに駆け寄って服に掴みかかる。
「私は嫌ですよ。絶対離れませんからね、私はルナル様について行くって決めたんですから」
「ルルちゃん……」
 泣きじゃくるルルの姿に、心が痛むルナル。
「お二人は、どのようにお考えですか?」
 そして、念のためにルルの両親にも問い掛ける。
「私たちは、ルルの判断に任せようと思います」
「ええ、時々でいいから戻ってきてくれれば、それだけでも十分ですから」
「そうですか……」
 ルルの判断を尊重するのであれば、ルナルにはもう何も言うことはなかった。
「……分かりました。ルルちゃんの事は、私にお任せ下さい」
 ルナルのこの言葉に、ルルは表情を明るくしてしっかりとルナルに抱きついたのだった。

 こうして、ルルの里帰りは無事に終わり、この三人のパーティーが維持されたまま村を後にしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

子育て失敗の尻拭いは婚約者の務めではございません。

章槻雅希
ファンタジー
学院の卒業パーティで王太子は婚約者を断罪し、婚約破棄した。 真実の愛に目覚めた王太子が愛しい平民の少女を守るために断行した愚行。 破棄された令嬢は何も反論せずに退場する。彼女は疲れ切っていた。 そして一週間後、令嬢は国王に呼び出される。 けれど、その時すでにこの王国には終焉が訪れていた。 タグに「ざまぁ」を入れてはいますが、これざまぁというには重いかな……。 小説家になろう様にも投稿。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...