神槍のルナル

未羊

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第五章『思いはひとつ!』

願いは果たされた

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 墓の中にあふれた光が、徐々に晴れていく。するとそこには、すっかり血色の回復したデュークが立っていた。
『ふぅ、成功したな……。禁忌ともいえる方法に手を染めたかいがあるというものだぜ……』
 剣から浮かび上がるザインの姿は、すっかり疲れ切ったかのように座り込んでいた。
『お前を救えたとあれば、俺ももう満足だ。このまま永遠に剣の中で眠り続けるとしようか……』
「まったく、無茶苦茶が過ぎるなお前は」
 ザインの言葉に、デュークは呆れるほかできなかった。
 ほんわかとした空気が漂う中、智将とサキが驚きの声を上げる。
「へ、陛下?!」
「おお……、これは?」
 驚きの声を聞いたシグムス王が、自分の体を見ている。
 なんということだろうか。ザインの放った光に巻き込まれたがためなのか、シグムス王の血色もすっかり元に戻っていたのだ。
「なんということだ。……ザイン殿の力に、私の巻き込まれたということか」
『おそらくはそうというより、間違いなくそうだろうな』
 思ってもみなかった状況に、ザインも驚いたような感じである。
 そもそもはデュークの呪いを解く事が目的だったのだが、そのために使った光がシグムス王をも巻き込んだため、シグムス王も呪いが解けたようだった。
「おお、陛下……」
 思わず智将も跪いてしまう。
「シグムス王家を巣食ってきた呪いも、この時をもって消え去ったのですな……」
「そのようだな」
 いまいち実感の湧かないシグムス王。その目の前では、智将とサキがともに嬉し泣きをしていた。
「ってことはなんだ。もしかして、あのディランとかいうやつの呪いも解けたのか?」
 そんな感動的な場面の中で、セインがぽろっと言葉を漏らす。
『ああ、あの不死者か。彼は不死を受け入れてから時間が長い。不死にさせられたデュークと、不死を受け入れて間がないこの国王とはわけが違う』
「ということは、そのままである可能性の方が強いと、そういうわけですか」
『そうだな。まあ、彼の場合は魔族になった慕う者が側にいるから、不死のままの方がいいだろう。今さら人間に戻っても、不幸になるだけだ』
 ザインはそのように推測していた。
 しかし、この感動もそう長くは続かなかった。ザインの姿がぼやけ始めたのだ。
『おっと、目的は果たした事で、限界が来てしまったようだな……』
「ザイン、お前……」
 デュークが何かを悟ったような表情をしている。
『ああ、お前の想像通りさ。目的を果たして魔力も生命力も尽きた俺は、完全に剣と同化しちまうってわけだ。元々、ユグドラシルにもそう言われていたからな。自分も納得した上だから後悔はない』
「ザイン……」
 悔しそうな表情でザインを見つめるデューク。
『そんな顔をするなって。言っただろう、俺は納得していると。物言わぬ剣になっちまうが、今まで通り剣を通して見させてもらうぜ』
「……まったく、久しぶりに会ったというのに、世の中というのは残酷なものだな」
 あっけらかんとした感じで話すザインとは対照的に、デュークは悔しくて情けなくてたまらなかった。
『嘆くんじゃねえよ、デューク。やっと長くお前を苦しめていたものから解放されたんだ。胸張って自分のやった事の結果を見るんだな』
 それに対して、ザインはデュークを励ましていた。
『っと、もう時間がねえな』
 そう呟いたザインの体は、淡く光を帯び始めていた。どうやら姿を見せていられる限界が来たようだった。
 その姿をルナルたちは黙ってじっと見つめていた。
『まったく湿っぽい雰囲気を醸し出しやがって……。最後だから言っといてやるか』
 頭を掻くザインは、改めてルナルたちの方を見る。
『そこの坊主、セインとかいったな。頼むからもう二度と剣を錆びさせんじゃねえぞ。おかげで、最悪の場合、目的果たせずに死ぬところだったんだからよ』
「……悪かったよ。これからはちゃんと手入れするから、もう勘弁してくれ」
 痛いところを突かれて、セインはたじろぎながら言い返していた。
『ルナルといったかな、今の魔王は。剣を蘇らせてくれてありがとう。君の理想が実現することを見守っているよ』
「ありがとうございます」
 ルナルはザインの言葉に頭を下げる。
『そっちのちびっこは、ユグドラシルに感謝を伝えておいてくれ。おかげで親友を救う事ができたと』
「わ、分かりました」
 ルルはザインの頼みを快く引き受けた。
 だが、ザインの姿はもうほとんど見えなくなっている。もう限界のようだった。
『ったく、思ったより長くなかったな』
 舌打ちをするザイン。
『とりあえずこれでシグムスは不死者の呪いから解き放たれたはずだ。デュークがつくった国だ。これからもしっかりと守っていってやってくれ』
「承りました。安心して下さい、必ずや長く続く国としてみせます」
 シグムス王がしっかりと答えると、ザインは静かに目を閉じていた。
『はあ、どうにか言うだけは言えたな。それじゃ、俺はもう眠らさせてもらうぜ……』
 すべてを伝え終えたザインは、そのまますっと姿を消したのだった。
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