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第五章『思いはひとつ!』
恨みの積もる土地へ
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ディランが降伏した事で、イプセルタを襲撃していた魔族たちは全員おとなしくなり、アカーシャとソルトに睨まれながら魔王城へと引き上げていく。
そんな中、ルナルとミレルの二人で、ディランとマイアを引き連れてシグムスに向かう。
「くそっ、なんだって俺がこんな事を……」
文句を言うのはアイオロスである。
「仕方がないでしょう。あなたが一番速いんですから」
ルナルに窘められるアイオロスである。
というのもマスターが命令したからこんな事になっているのだ。
「まったく、無茶な頼みを聞いた分、あとでしっかり報酬をもらうからな」
「戦いたいんでしたら、いつでもお受けしますよ」
ルナルとアイオロスのやり取りに、他の面々は困惑しっぱなしだった。
そんななんとも言えない空気の中、シグムスへ向けてアイオロスは一直線に飛ぶのであった。
そんなこんなで砂漠の国シグムスに到着する。
「あれが今のシグムスか。俺の居た頃と見た目は変わらんな」
「はい、そのようでございますね」
アイオロスの背中から見下ろすディランとマイアは、シグムスに少々懐かしさを感じているようだった。
「アイオロス、とりあえず近くに降りて下さい。智将とサキが居るとはいえ、下手に近寄ると攻撃されかねませんからね」
「はいはい、んじゃ、あの辺りでいいか」
しょうがないなという感じで地上に降りていくアイオロス。
ところが、地上に降りたところで思わぬ出迎えを受けた。
「うげっ、トールのじじい、まだ居たのかよ……」
そう、シグムスに滞在しっぱなしになっていた雷帝龍トールである。マスターや他の五色龍の例に漏れず、やはりトールも人間形態を持っていたようだ。年寄りくさい喋り方をしていたのだが、人間の姿もそれ相応の姿だった事に、ミレルは驚くしかなかった。
「これはこれはトール様。わざわざお出迎えとは驚きました。地下から動かれたのですね」
「おやおや、誰かと思えば破邪の剣を持つ青年と精霊のお嬢ちゃんと一緒に来ていた子か。久しぶりだな」
立派なひげが特徴的な年寄りの姿のトールが話し掛けてきた。
「主から話は聞いておる。我について参れ」
くるりと振り返るトール。
「そっちの二人もおとなしくついてくるがよい。なに、今のシグムス相手に何も警戒する必要はないからな」
雷帝龍トールの言葉とはいえ、ディランとマイアの二人は信じる事はできなかった。なにせ一部の魔族はドラゴンたちとも敵対関係なのだから。
しかし、今は敗北者の身ゆえ、ディランはおとなしくトールの案内について行く。
「城も昔と変わらないな……」
「ええ、そうですね」
ディランは懐かしそうにシグムス王城を見上げている。
ルナルとミレルの二人が居るために、ここまで問題なく進めてこれた。そして、もちろん城の中にもすんなり入れる。
そうした一行が向かったのは、シグムス王国の現国王の部屋だった。
部屋の前には近衛兵が立っているが、手に持っている槍を突きつけてくるような事はなかった。
「国王陛下、トール様がルナル殿たちを連れてお戻りになられました」
それどころか、すぐさま中へと声を掛けていた。
「うむ、通せ」
「はっ!」
国王からの許可が下りた事で、扉が開いて中へと通されるルナルたち。
扉に入った先には、国王はもちろん、智将やサキも待ち構えていた。
「な……、なぜ魔族がこのシグムスに居るのだ」
ディランは驚きを隠せなかった。なにせ自分は不死者になる事を受け入れた事で国を追われたのだから。それがゆえに、シグムス国内に魔族が居る事が信じられずにいるのだ。
「サキは私の優秀な副官だよ。私が彼女の力を認め、こうやって置いているのだ」
智将はさらりと言い放っていた。
「認めん……、俺は認めぬぞ!」
攻撃を仕掛けようとするディラン。
「おとなしくせぬか!」
トールの手によってあっという間に制圧されてしまった。
見た目は年寄りとはいえ、さすがは五色龍の1体である。ルナルでもそこそこ苦戦した相手を、たった腕一本で制圧してみせたのだから。
「トール様、そちらの方はどなたですかな?」
智将が尋ねてくる。
「うむ、こやつはディランと申す者でな、魔王軍の副官を務める者だ」
「ほう」
最初に現在の職を告げるトールである。
「だが、こやつの正体は、昔にシグムス王国を追われた王子ディラン・シグムスなのだ。隣の魔族はその専属侍女だったマイアだ」
「なんだと?!」
続けてトールから放たれた言葉に、国王も智将も、そしてサキも驚いている。魔王軍の要職にある人物が、まさかの自分たちの関係者だったのだから。
「うわさくらいには聞いた事がある。その存在を疎まれ歴史から葬り去られた王子が居ると……」
国王はちらりと視線を向ける。それに対して顔を背けるディランである。
ディランにとってシグムス王家は恨みの積もった相手だ。そう簡単に顔が合わせられたものではないのである。
一方のシグムス王も、ディランたちにかける言葉が見つからなかった。
国王の部屋の中には、しばらくの間重い沈黙が漂い続けたのだった。
そんな中、ルナルとミレルの二人で、ディランとマイアを引き連れてシグムスに向かう。
「くそっ、なんだって俺がこんな事を……」
文句を言うのはアイオロスである。
「仕方がないでしょう。あなたが一番速いんですから」
ルナルに窘められるアイオロスである。
というのもマスターが命令したからこんな事になっているのだ。
「まったく、無茶な頼みを聞いた分、あとでしっかり報酬をもらうからな」
「戦いたいんでしたら、いつでもお受けしますよ」
ルナルとアイオロスのやり取りに、他の面々は困惑しっぱなしだった。
そんななんとも言えない空気の中、シグムスへ向けてアイオロスは一直線に飛ぶのであった。
そんなこんなで砂漠の国シグムスに到着する。
「あれが今のシグムスか。俺の居た頃と見た目は変わらんな」
「はい、そのようでございますね」
アイオロスの背中から見下ろすディランとマイアは、シグムスに少々懐かしさを感じているようだった。
「アイオロス、とりあえず近くに降りて下さい。智将とサキが居るとはいえ、下手に近寄ると攻撃されかねませんからね」
「はいはい、んじゃ、あの辺りでいいか」
しょうがないなという感じで地上に降りていくアイオロス。
ところが、地上に降りたところで思わぬ出迎えを受けた。
「うげっ、トールのじじい、まだ居たのかよ……」
そう、シグムスに滞在しっぱなしになっていた雷帝龍トールである。マスターや他の五色龍の例に漏れず、やはりトールも人間形態を持っていたようだ。年寄りくさい喋り方をしていたのだが、人間の姿もそれ相応の姿だった事に、ミレルは驚くしかなかった。
「これはこれはトール様。わざわざお出迎えとは驚きました。地下から動かれたのですね」
「おやおや、誰かと思えば破邪の剣を持つ青年と精霊のお嬢ちゃんと一緒に来ていた子か。久しぶりだな」
立派なひげが特徴的な年寄りの姿のトールが話し掛けてきた。
「主から話は聞いておる。我について参れ」
くるりと振り返るトール。
「そっちの二人もおとなしくついてくるがよい。なに、今のシグムス相手に何も警戒する必要はないからな」
雷帝龍トールの言葉とはいえ、ディランとマイアの二人は信じる事はできなかった。なにせ一部の魔族はドラゴンたちとも敵対関係なのだから。
しかし、今は敗北者の身ゆえ、ディランはおとなしくトールの案内について行く。
「城も昔と変わらないな……」
「ええ、そうですね」
ディランは懐かしそうにシグムス王城を見上げている。
ルナルとミレルの二人が居るために、ここまで問題なく進めてこれた。そして、もちろん城の中にもすんなり入れる。
そうした一行が向かったのは、シグムス王国の現国王の部屋だった。
部屋の前には近衛兵が立っているが、手に持っている槍を突きつけてくるような事はなかった。
「国王陛下、トール様がルナル殿たちを連れてお戻りになられました」
それどころか、すぐさま中へと声を掛けていた。
「うむ、通せ」
「はっ!」
国王からの許可が下りた事で、扉が開いて中へと通されるルナルたち。
扉に入った先には、国王はもちろん、智将やサキも待ち構えていた。
「な……、なぜ魔族がこのシグムスに居るのだ」
ディランは驚きを隠せなかった。なにせ自分は不死者になる事を受け入れた事で国を追われたのだから。それがゆえに、シグムス国内に魔族が居る事が信じられずにいるのだ。
「サキは私の優秀な副官だよ。私が彼女の力を認め、こうやって置いているのだ」
智将はさらりと言い放っていた。
「認めん……、俺は認めぬぞ!」
攻撃を仕掛けようとするディラン。
「おとなしくせぬか!」
トールの手によってあっという間に制圧されてしまった。
見た目は年寄りとはいえ、さすがは五色龍の1体である。ルナルでもそこそこ苦戦した相手を、たった腕一本で制圧してみせたのだから。
「トール様、そちらの方はどなたですかな?」
智将が尋ねてくる。
「うむ、こやつはディランと申す者でな、魔王軍の副官を務める者だ」
「ほう」
最初に現在の職を告げるトールである。
「だが、こやつの正体は、昔にシグムス王国を追われた王子ディラン・シグムスなのだ。隣の魔族はその専属侍女だったマイアだ」
「なんだと?!」
続けてトールから放たれた言葉に、国王も智将も、そしてサキも驚いている。魔王軍の要職にある人物が、まさかの自分たちの関係者だったのだから。
「うわさくらいには聞いた事がある。その存在を疎まれ歴史から葬り去られた王子が居ると……」
国王はちらりと視線を向ける。それに対して顔を背けるディランである。
ディランにとってシグムス王家は恨みの積もった相手だ。そう簡単に顔が合わせられたものではないのである。
一方のシグムス王も、ディランたちにかける言葉が見つからなかった。
国王の部屋の中には、しばらくの間重い沈黙が漂い続けたのだった。
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