神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
127 / 139
第五章『思いはひとつ!』

決着がついて……

しおりを挟む
「それからというものの、生活は大変でしたよ。どうにかたどり着いた魔族の村で暮らしてましたが、そこも先日襲われて命からがら逃げ出してさまよって……」
 マイアは涙いっぱいになって、声を詰まらせながら話している。
「でも、そんな生活も、ようやく報われるんです。……ディラン様に会えましたから」
 涙を流しながら笑顔を見せるマイアに、その場に居た誰もが言葉を出せなかった。残虐な魔族たちですらである。
 たった一つの思いのために、ここまでできるものだろうか。その執念たるの凄まじさは、魔族の心にすら響いたのだ。
 そこへ、ルナルがすっと歩み出てくる。
「ディラン、あなたを大切に思う人がいるのですから、これ以上ばかな真似はやめなさい」
 ルナルの言葉に対して、ディランはキッと強烈な睨みを向ける。
「うるさい。魔王としてぬくぬくと育ってきたお前に何が分かる。苦労を重ねてきた俺たちの何が分かるというのだ」
 ディランの言い分はもっともだった。
 ルナルは確かに魔族のエリート系の出身なのだ。魔王になるまでもあまり苦労した事はなかったのは事実なのである。
「貴様、ルナル様に何たることを!」
 アカーシャが詰め寄ってくるが、ルナルはそれを制止する。そして、ディランへと声を掛ける。
「ええ、確かにそうです。でも、私だって悩みはあるんですよ。人間を支配するのは魔族としての使命なところはありましたが、よく思えば私は人間を知りません。なぜ今までの魔王は倒されてきたのか、それを知るために私は人間の中に紛れたんですよ」
「なんだと?!」
 ルナルの告白に、驚きを隠せないディラン。
 その様子に微笑みを浮かべたルナル。
「長らく私は迷っていました。でも、ようやく結論が出たのですよ」
 こう話すとイプセルタ城の方へと顔を向ける。
「私は以前、世界を壊すと言ってしまいました。ですが、その言葉を実行しようかと思います」
 このルナルの言葉に、イプセルタ場内はどよめきに包まれ、魔族たちからは期待の声が漏れる。
 しかし、その声はすぐに収まってしまう。
「現在の魔王として宣言します。人間と魔族のいがみ合うこの世界を壊し、共存できる世界を目指す事を」
 ルナルのこの宣言には、人間と魔族の双方に衝撃が走る。
 ただ、ルナルの味方についていた面々は、納得したようにうんうんと頷いていた。
「バカな、人間どもと仲良くするだと?」
「ふざけるな。そんな事ができるわけがないだろうが」
 当然ながら、魔族たちからは反発が出る。
「ふっ、はたしてそうかな?」
 その声に最初に反応したのは、目の前に居たフォルだった。
「わしと妹分ルルは精霊ぞ? それだけではあるまいて、なぁマスタードラゴン」
「まったくだ。第一ルナルはこの俺が認めたやつだ。不可能だと思うか?」
「ぐっ……」
 世界の秩序を担うマスタードラゴンとユグドラシルの分体であるフォルという、ものすごい説得力を持った二人に睨まれれば、魔族たちは反論ができなかった。
「だが、お前たちの言い分も分かる。今すぐにというのも無茶だし、ずっと無理だという奴らもいるだろう。何も押し付けるつもりはないから安心しろ」
「ええ、その通りです。私として今までの世界を否定しているわけではありません。ただ、むやみやたらに血を流す世界を終わりにしたいだけです。私には、魔王として魔族を守る義務がありますからね」
 マスターの言葉にルナルが付け加えておく。
「おーい、ルナル」
「ルナル様、ご無事ですか?」
 セインやルルたちが走って合流してくる。
「どうしたんだよ。暴れていたアンデッドどもが突然崩れ落ちたもんだから驚いたぜ」
「ふふっ、全部決着したんですよ」
 セインに対してにこやかに対応するルナルである。
「というか、マスター様ってばマスター様だったんですね。驚いちゃいましたよ」
「おや、フォルの方が気がついていたのにな。まだまだひよっこだな」
「ぶぅ」
 マスターが笑いながら言うものだから、ルルは頬を膨らませていた。どうも子ども扱いされるのは嫌なようである。
「ルナル様、この後はどう致しましょうか」
 ソルトが問い掛けてくる。
「そうですね。あなたとアカーシャは、ミントとディランの部下を連れて城へ戻って下さい」
「畏まりました」
 ルナルの指示にソルトたちは従う。これには魔族たちも驚いている。
「命まで取るつもりはありませんよ。ただし、反乱の責任はそれなりに取ってもらいますけれどね」
 向けられた笑顔に凍り付く魔族たちである。
「マスターはセインとルルちゃんたちをお願いします。しばらくはこのままイプセルタでの対応かと思いますが。あと、ミーアもうまく使って下さい」
「任せておけ。というわけだ、エウロパ。お前も頼むぞ」
 マスターの声に、もう胃が痛そうなエウロパである。
「で、ディランとマイアちゃんですが、私と一緒にシグムスへ参りましょう。ミレルもよろしいですか?
「もちろんでございます」
 ルナルの提案に驚きを隠せないディランとマイア。いい思い出のない国なのだ。戸惑うのも無理はないだろう。
「今のシグムスは昔とは違います。その目で見てみるのもいいと思いますよ」
 戦いが決着して、それぞれに事後処理にあたる事になったのだった。
 はたして、ルナルの願いは叶うのだろうか。
 そんな中、ルナルはディランたちを連れてシグムスに向かう事になったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

離縁された猫耳侯爵令嬢は、隣国の王子に溺愛される

銀黒
恋愛
親と王家により契約結婚をさせられた主人公リリディアが、横暴な王子に離婚を突きつけられてしまい、追放される。 追放されてからも、王子の秘密を知っていることで命を狙われるが、偶然出会った隣国の王子に見そめられ、幸せになっていく。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー

ジミー凌我
ファンタジー
 日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。  仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。  そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。  そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。  忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。  生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。  ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。 この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。 冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。 なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。

処理中です...