102 / 139
第四章『運命のいたずら』
折れかけた心
しおりを挟む
危機を脱したルナルは、アイオロスに抱えられたまま空を移動している。
「マスター様から万が一の時にはシッタに連れて帰るように言われている。しばらくはそのまま抱えられていてくれ」
「分かりました。……まったく、マスターってばこうなる事を予見していたのですね」
「それがマスター様だからな。あの方は、俺たちの考えの遠く及ばないとこに居られるんだ」
ルナルがぶつぶつと文句を言っていると、アイオロスも基本的には同じ考えのようで、すごく嫌そうな顔をしながらマスターの事を褒めていた。これははたして褒めているのだろうか?
「それにしても、現在の魔王である私を助けるとは、少々予想外でしたね」
「マスター様はずいぶんとお前の事を買っているみたいだからな。それに、俺も勝ち逃げされるのは嫌なんで、こうやって命令に従って助けたってわけだ」
「そういえばそんな事をさっきも言っていましたね。今回の事は恩に着ます」
「ふん、感謝するならマスター様にするんだな!」
アイオロスは前を向いたままそんな風に言っている。ちなみにアイオロスは魔王城に乱入した時からずっと人間形態である。風の力を暴発させて、魔王城に大穴を開けたのだ。
もう少しいえば、人間形態で突撃するように指示をしたのはマスターである。ドラゴン形態だと大きくて目立つからだ。
それに、人間形態なら小さいので小回りも利く。すべては計算され尽くされていたのだ。さすがマスターである。
「とりあえずもう少し我慢しろよ。俺はできればこういう事はやりたくないんだ」
「あのですね……。それが女性に対して言う言葉ですか。エウロパにも言いましょうか?」
「やめろ。頼むからエウロパだけはやめてくれ」
アイオロスの言い分にカチンときたルナル。エウロパの名前を出すと、アイオロスは完全にうろたえていた。なにせマスターにも堂々と意見する水智龍である。アイオロスも怖いのだった。
この後は目的地に着くまでの間、アイオロスはすっかり黙ったまま空を飛んでいたのだった。
霊峰シッタに到着したルナルとアイオロス。地面に降りると、そこにはエウロパが待ち構えていた。
「ルナル殿、ご無事でなによりです」
ルナルに対して頭を下げて言葉を掛けるエウロパである。
「やめて下さい。私は魔王ですし、立場的には五色龍の方が上です。軽々に頭を下げるべきではないと思います」
思わぬ態度を示されて、ルナルは慌てている。
「いえ、あのマスター様が対等と認められた方なのですから、私たちが敬意を示すのは当然の事でございます」
エウロパの方も頑として譲らなかった。五色龍からすれば、価値観の絶対はマスタードラゴンが基準なのだから。
その頑固さには、ルナルも諦めるくらいのものだった。
「それにしても、ルナル殿がここに居るという事は、マスター様が仰られた通りの事態に陥ったというわけですか」
エウロパはアイオロスに対して確認している。
「ああ、あのディランとかいう不死者、やる事にまったく躊躇がなかったぜ。あの様子なら、近いうちに次の行動も起こしてくれるだろうな」
アイオロスは淡々とエウロパと話をしている。この様子を見て、ルナルはつい慌ててしまう。
「ちょっと待って下さい。マスターはこの事態が起きる事を予見していたというわけですか?」
「その通りですよ。ですが、私たちは基本的には不干渉です。今回あなたを助けたような事は、本来は避けるべき事態なんですよ」
突っ掛かろうとするルナルに対して、エウロパは淡々と五色龍としての立場を述べていた。
「私たち五色龍のやるべき事は世界の均衡を保ち続ける事。ルナル殿を失う事は世界にとって大きな損失と見たからこそ、マスター様の指示の下、こうやって行動を起こしたのです」
「そう、なのですね……」
エウロパの言葉に、ルナルは五色龍たちの立場を理解して言葉をつぐんだ。
正直言えば、部下をたくさん失う前にディランの行動を潰してほしかった。しかし、五色龍というものは力を持つがゆえに、その力を振るう事は限定的にならざるを得ないのだった。過ぎたる力は、世界の構図を一変させてしまうのだ。
「分かりました。今回は助けて頂いたわけですし、これ以上の事は申しません。……私自らの手で取り戻してみせます」
ルナルはその拳をぎゅっと握りしめたのだった。
「その心意気ですね。次にあなたが取るべき行動は、すでにディランがその答えを示しております」
「……それは一体どういう事ですか?」
エウロパの言葉がよく分からないために、ルナルはつい質問を投げかけてしまう。だが、エウロパがそれに対して答える事はなかった。不干渉が基本的な姿勢がために、エウロパは答える事ができないのである。
「まぁ、あれこれ考えなくていいと思うぜ。単純にお前が信じる道を突き進めばいいんだよ」
それとは対照的に、アイオロスは楽観的に身構えていた。
「……その答えが出るには少し時間が必要でしょう。しばらくはここでゆっくりするといいですよ」
「分かりました。……そうさせて頂きます」
エウロパはアイオロスの態度に呆れながらも、ルナルに優しく声を掛けていた。
思いの外、ルナルの心は乱れていた。なので、気持ちの整理をするためにも、ルナルはエウロパの提案を受け入れたのだった。
「マスター様から万が一の時にはシッタに連れて帰るように言われている。しばらくはそのまま抱えられていてくれ」
「分かりました。……まったく、マスターってばこうなる事を予見していたのですね」
「それがマスター様だからな。あの方は、俺たちの考えの遠く及ばないとこに居られるんだ」
ルナルがぶつぶつと文句を言っていると、アイオロスも基本的には同じ考えのようで、すごく嫌そうな顔をしながらマスターの事を褒めていた。これははたして褒めているのだろうか?
「それにしても、現在の魔王である私を助けるとは、少々予想外でしたね」
「マスター様はずいぶんとお前の事を買っているみたいだからな。それに、俺も勝ち逃げされるのは嫌なんで、こうやって命令に従って助けたってわけだ」
「そういえばそんな事をさっきも言っていましたね。今回の事は恩に着ます」
「ふん、感謝するならマスター様にするんだな!」
アイオロスは前を向いたままそんな風に言っている。ちなみにアイオロスは魔王城に乱入した時からずっと人間形態である。風の力を暴発させて、魔王城に大穴を開けたのだ。
もう少しいえば、人間形態で突撃するように指示をしたのはマスターである。ドラゴン形態だと大きくて目立つからだ。
それに、人間形態なら小さいので小回りも利く。すべては計算され尽くされていたのだ。さすがマスターである。
「とりあえずもう少し我慢しろよ。俺はできればこういう事はやりたくないんだ」
「あのですね……。それが女性に対して言う言葉ですか。エウロパにも言いましょうか?」
「やめろ。頼むからエウロパだけはやめてくれ」
アイオロスの言い分にカチンときたルナル。エウロパの名前を出すと、アイオロスは完全にうろたえていた。なにせマスターにも堂々と意見する水智龍である。アイオロスも怖いのだった。
この後は目的地に着くまでの間、アイオロスはすっかり黙ったまま空を飛んでいたのだった。
霊峰シッタに到着したルナルとアイオロス。地面に降りると、そこにはエウロパが待ち構えていた。
「ルナル殿、ご無事でなによりです」
ルナルに対して頭を下げて言葉を掛けるエウロパである。
「やめて下さい。私は魔王ですし、立場的には五色龍の方が上です。軽々に頭を下げるべきではないと思います」
思わぬ態度を示されて、ルナルは慌てている。
「いえ、あのマスター様が対等と認められた方なのですから、私たちが敬意を示すのは当然の事でございます」
エウロパの方も頑として譲らなかった。五色龍からすれば、価値観の絶対はマスタードラゴンが基準なのだから。
その頑固さには、ルナルも諦めるくらいのものだった。
「それにしても、ルナル殿がここに居るという事は、マスター様が仰られた通りの事態に陥ったというわけですか」
エウロパはアイオロスに対して確認している。
「ああ、あのディランとかいう不死者、やる事にまったく躊躇がなかったぜ。あの様子なら、近いうちに次の行動も起こしてくれるだろうな」
アイオロスは淡々とエウロパと話をしている。この様子を見て、ルナルはつい慌ててしまう。
「ちょっと待って下さい。マスターはこの事態が起きる事を予見していたというわけですか?」
「その通りですよ。ですが、私たちは基本的には不干渉です。今回あなたを助けたような事は、本来は避けるべき事態なんですよ」
突っ掛かろうとするルナルに対して、エウロパは淡々と五色龍としての立場を述べていた。
「私たち五色龍のやるべき事は世界の均衡を保ち続ける事。ルナル殿を失う事は世界にとって大きな損失と見たからこそ、マスター様の指示の下、こうやって行動を起こしたのです」
「そう、なのですね……」
エウロパの言葉に、ルナルは五色龍たちの立場を理解して言葉をつぐんだ。
正直言えば、部下をたくさん失う前にディランの行動を潰してほしかった。しかし、五色龍というものは力を持つがゆえに、その力を振るう事は限定的にならざるを得ないのだった。過ぎたる力は、世界の構図を一変させてしまうのだ。
「分かりました。今回は助けて頂いたわけですし、これ以上の事は申しません。……私自らの手で取り戻してみせます」
ルナルはその拳をぎゅっと握りしめたのだった。
「その心意気ですね。次にあなたが取るべき行動は、すでにディランがその答えを示しております」
「……それは一体どういう事ですか?」
エウロパの言葉がよく分からないために、ルナルはつい質問を投げかけてしまう。だが、エウロパがそれに対して答える事はなかった。不干渉が基本的な姿勢がために、エウロパは答える事ができないのである。
「まぁ、あれこれ考えなくていいと思うぜ。単純にお前が信じる道を突き進めばいいんだよ」
それとは対照的に、アイオロスは楽観的に身構えていた。
「……その答えが出るには少し時間が必要でしょう。しばらくはここでゆっくりするといいですよ」
「分かりました。……そうさせて頂きます」
エウロパはアイオロスの態度に呆れながらも、ルナルに優しく声を掛けていた。
思いの外、ルナルの心は乱れていた。なので、気持ちの整理をするためにも、ルナルはエウロパの提案を受け入れたのだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる