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第四章『運命のいたずら』
巡る因縁
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「5年ぶりでしょうかね。ついに戻ってきましたよ、ここへ」
ルナルの眼前には、禍々しいまでの雰囲気を放つ巨大な城がそびえ立っていた。
この古びた城こそ、魔族たちの中心である魔王が君臨する魔王城である。辺り一帯には、この世とも思えぬほどの濃い瘴気が漂っている。
その濃さがどれほどのものかといえば、並大抵の人間であるなら一瞬で意識を失ってしまうほどのものである。それなりに耐性のあるハンターでも、吐き気を催し、体が重く感じられるほどのものだ。
ただでさえこの瘴気だというのに、景観も怖気づかせるには十分の迫力を持っている。
空には雷雲が立ち込めていて辺りはかなり暗い。そこに佇む魔王城も城全体に蔦が絡まっているし、その風貌はまるで廃墟のようなのである。そう、この景色を見てその雰囲気に飲まれてしまうというわけなのだ。
だが、この魔王城には実は誰も知らない大きな秘密があった。
それが何かというと、その立地だ。
「おやおや、今日もドラゴンが舞っていますね。あれだと、おそらくはイグニスの配下のドラゴンでしょうかね」
空を見上げながら、ルナルはそんな事を言っている。
「まさかこの魔王城の位置が、マスタードラゴンが住むという霊峰シッタの麓だなんて、一体誰が思い至るのでしょうかね」
続けざまに呟くルナル。
そう、この魔王城は霊峰シッタの麓にあるのだ。だが、その中でも深い絶壁と濃い瘴気を併せ持つ場所がゆえに、その事を知るのは魔族の中でもほんの一握りなのである。まさか宿敵たるマスタードラゴンのお膝元に城を構えているとは、誰も思わないのだ。
「こんな場所にあっても、たどり着けてしまう人はたどり着けてしまうんですよね。弱い魔族でも音を上げてしまうようなこの場所にたどり着いた上に、当時の魔王を倒してしまうなんて、ザインとかいう人物はすごいと言う他ありませんね」
ルナルは久しぶりに戻った魔王城を見ながら、シグムスで聞いた過去話を思い出していた。
「とはいえ、どうしてここに魔王城を建てようと思ったのでしょうね。私も知った時は驚きましたよ」
ルナルは独り言を言いながら、思わず笑ってしまっていた。そのくらいにはこの立地は奇抜だったのである。
「さて、そろそろ本来の姿に戻りましょうかね」
突然、表情を険しくするルナル。次の瞬間、ルナルの背中には魔王を象徴する3つ6枚の翼が展開される。魔王たる魔力を放ちながら、ルナルは魔王城へと歩を進めた。
5年ぶりに戻ってきた魔王城。ところが、魔王城の雰囲気に早々に違和感を感じるルナルである。
こうなってしまうのも無理はない。ルナルは魔王として、部下たちには慕われているのだ。だというのに、誰一人として出迎えに姿を見せないのである。
第一、ミレルとミーアの姉であるミントは城に居るはずだ。そのミントですら姿を見せないのだから、ルナルはさすがに嫌な予感を感じ始めていた。
ルナルとて、魔王の座に就いた頃に魔族たちから相手にされなかった事はあるが、今回は明らかに様子がおかしいと言わざるを得ない。
現在の魔王の配下は、少なくとも10万を数えている。それに加えて従者なども居るのだから、魔王軍の軍勢は相当な数にのぼる。全員が常に城に滞在しているとは限らないとはいえ、その気配を感じられないのは異常事態だった。
この数の軍勢を一瞬で消してしまえる方法などあるだろうか。ルナルは警戒を強めながら魔王城の中へと歩み入っていく。
5年ぶりとなる魔王城の中を見て回るルナル。だが、いくら歩けど、部屋を覗けど、驚くほどに誰の気配も感じない。一体何が起きたというのだろうか。ルナルはその首を傾げるばかりである。
(一体どういう事なのかしら。本当に誰も居ないだなんて、あり得る事じゃないわ。……何らかの魔法が使われたという事なのかしら)
腕を組んで首を捻るルナルは、とある一室へと足を運ぶ。
扉を開けてみるが、やはりその部屋にも誰の姿も見当たらなかった。
「一体どうしてしまったというのですか……」
ルナルが立ち尽くすその部屋は、魔王軍の執務室だ。普段はここでソルトたち文官が忙しそうに書類の処理に追われている。
だというのに、まったくもって人っ子一人居ないし、書類も山積みの状態で残されていた。おかしな事ばかりである。
ルナルは執務室の中を進み、そこから繋がっている玉座の間へと歩を進める。
その玉座の間もまた、誰一人とし見当たらずに静まり返っていた。ルナルが玉座の間に足を踏み入れ、玉座に近付いたその時だった。
「おやおや、誰かと思えばルナル様ではないですか。……お久しぶりでございます」
突如として聞こえてきた声に、ルナルは勢いよく振り向く。そこに立っていたのはディランだった。どうやら、玉座の間の柱の陰に隠れていたようだった。
「ディラン……」
ルナルはディランを睨み付けている。なぜなら、ディランが不敵な笑みを浮かべていたからだ。
ところが、ディランはルナルの睨みにも涼しい表情である。
「ははっ、あなたがお帰りになるのを、ずっとお待ちしておりましたよ」
その言葉と同時に、ディランはまとっているマントを大きく翻し、更なる言葉を続けた。ルナルを蔑むような視線とともに、大声で。
「新たなる魔族の時代の生贄となる、愚かな魔王様の帰還をな!」
ルナルの眼前には、禍々しいまでの雰囲気を放つ巨大な城がそびえ立っていた。
この古びた城こそ、魔族たちの中心である魔王が君臨する魔王城である。辺り一帯には、この世とも思えぬほどの濃い瘴気が漂っている。
その濃さがどれほどのものかといえば、並大抵の人間であるなら一瞬で意識を失ってしまうほどのものである。それなりに耐性のあるハンターでも、吐き気を催し、体が重く感じられるほどのものだ。
ただでさえこの瘴気だというのに、景観も怖気づかせるには十分の迫力を持っている。
空には雷雲が立ち込めていて辺りはかなり暗い。そこに佇む魔王城も城全体に蔦が絡まっているし、その風貌はまるで廃墟のようなのである。そう、この景色を見てその雰囲気に飲まれてしまうというわけなのだ。
だが、この魔王城には実は誰も知らない大きな秘密があった。
それが何かというと、その立地だ。
「おやおや、今日もドラゴンが舞っていますね。あれだと、おそらくはイグニスの配下のドラゴンでしょうかね」
空を見上げながら、ルナルはそんな事を言っている。
「まさかこの魔王城の位置が、マスタードラゴンが住むという霊峰シッタの麓だなんて、一体誰が思い至るのでしょうかね」
続けざまに呟くルナル。
そう、この魔王城は霊峰シッタの麓にあるのだ。だが、その中でも深い絶壁と濃い瘴気を併せ持つ場所がゆえに、その事を知るのは魔族の中でもほんの一握りなのである。まさか宿敵たるマスタードラゴンのお膝元に城を構えているとは、誰も思わないのだ。
「こんな場所にあっても、たどり着けてしまう人はたどり着けてしまうんですよね。弱い魔族でも音を上げてしまうようなこの場所にたどり着いた上に、当時の魔王を倒してしまうなんて、ザインとかいう人物はすごいと言う他ありませんね」
ルナルは久しぶりに戻った魔王城を見ながら、シグムスで聞いた過去話を思い出していた。
「とはいえ、どうしてここに魔王城を建てようと思ったのでしょうね。私も知った時は驚きましたよ」
ルナルは独り言を言いながら、思わず笑ってしまっていた。そのくらいにはこの立地は奇抜だったのである。
「さて、そろそろ本来の姿に戻りましょうかね」
突然、表情を険しくするルナル。次の瞬間、ルナルの背中には魔王を象徴する3つ6枚の翼が展開される。魔王たる魔力を放ちながら、ルナルは魔王城へと歩を進めた。
5年ぶりに戻ってきた魔王城。ところが、魔王城の雰囲気に早々に違和感を感じるルナルである。
こうなってしまうのも無理はない。ルナルは魔王として、部下たちには慕われているのだ。だというのに、誰一人として出迎えに姿を見せないのである。
第一、ミレルとミーアの姉であるミントは城に居るはずだ。そのミントですら姿を見せないのだから、ルナルはさすがに嫌な予感を感じ始めていた。
ルナルとて、魔王の座に就いた頃に魔族たちから相手にされなかった事はあるが、今回は明らかに様子がおかしいと言わざるを得ない。
現在の魔王の配下は、少なくとも10万を数えている。それに加えて従者なども居るのだから、魔王軍の軍勢は相当な数にのぼる。全員が常に城に滞在しているとは限らないとはいえ、その気配を感じられないのは異常事態だった。
この数の軍勢を一瞬で消してしまえる方法などあるだろうか。ルナルは警戒を強めながら魔王城の中へと歩み入っていく。
5年ぶりとなる魔王城の中を見て回るルナル。だが、いくら歩けど、部屋を覗けど、驚くほどに誰の気配も感じない。一体何が起きたというのだろうか。ルナルはその首を傾げるばかりである。
(一体どういう事なのかしら。本当に誰も居ないだなんて、あり得る事じゃないわ。……何らかの魔法が使われたという事なのかしら)
腕を組んで首を捻るルナルは、とある一室へと足を運ぶ。
扉を開けてみるが、やはりその部屋にも誰の姿も見当たらなかった。
「一体どうしてしまったというのですか……」
ルナルが立ち尽くすその部屋は、魔王軍の執務室だ。普段はここでソルトたち文官が忙しそうに書類の処理に追われている。
だというのに、まったくもって人っ子一人居ないし、書類も山積みの状態で残されていた。おかしな事ばかりである。
ルナルは執務室の中を進み、そこから繋がっている玉座の間へと歩を進める。
その玉座の間もまた、誰一人とし見当たらずに静まり返っていた。ルナルが玉座の間に足を踏み入れ、玉座に近付いたその時だった。
「おやおや、誰かと思えばルナル様ではないですか。……お久しぶりでございます」
突如として聞こえてきた声に、ルナルは勢いよく振り向く。そこに立っていたのはディランだった。どうやら、玉座の間の柱の陰に隠れていたようだった。
「ディラン……」
ルナルはディランを睨み付けている。なぜなら、ディランが不敵な笑みを浮かべていたからだ。
ところが、ディランはルナルの睨みにも涼しい表情である。
「ははっ、あなたがお帰りになるのを、ずっとお待ちしておりましたよ」
その言葉と同時に、ディランはまとっているマントを大きく翻し、更なる言葉を続けた。ルナルを蔑むような視線とともに、大声で。
「新たなる魔族の時代の生贄となる、愚かな魔王様の帰還をな!」
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