神槍のルナル

未羊

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第四章『運命のいたずら』

シグムスの過去3

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 どこからともなく放たれた一閃は、村人に襲い掛かる魔物たちを一瞬で倒してしまった。
 その直後、オアシスの水場近くの建物の屋根に一人の人影が降り立った。その人影のを見て、デュークはとても驚いていた。
「ざ、ザイン?!」
 そう、魔王討伐の際に別れたはずのザインだった。
「おう、久しぶりだな。元気してるか、デューク」
 デュークの声に振り返って、ニカッと笑うザイン。その姿はあの頃と変わらず、元気そうだった。
「ザイン、どうしてここに居るんだ!」
「なにって。まだ魔王軍の残党退治が終わってなくてな。その中でだが、こっちの方で腕の立つ騎士が居るって聞いてやって来たってわけさ」
 デュークと久しぶりの会話をしながらも、ザインは襲い来る魔物たちを倒していく。そして、ある程度数を減らすと、ザインは魔物たちの後方へと大声で呼び掛ける。
「さて、肩慣らしはこれくらいでいいか。いい加減に出てこいよ、魔物の隊長さんよ!」
 ザインのこの声に、魔物たちがぴたりと動きを止める。そして、ざざっと道を開けたかと思えば、その間を通って一人の魔族が姿を現した。
「おのれ……。お前さえ居なければ、今頃は我ら魔族の天下だったというのにな! お前だけは……、お前だけは許せぬ。ここで惨たらしく殺してやる!」
 姿を現した魔族は、怒りの感情をむき出しにしてザインへと憎悪を向けていた。
 だが、そのザインは知った事じゃないといった表情を見せている。それとは対照的な反応を見せたのは、デュークの方だった。
「お、お前はっ!」
 目の魔の魔族に対し、デュークは戦慄を覚えた。
 それもそのはずである。その魔族の事を、デュークは忘れた事はなかったのだ。
「……デューク、あの魔族に因縁があるようだな」
 むしろあり過ぎた。なにせデュークを不死者に変えた張本人なのだから。
 ザインは屋根の上から飛び降り、デュークの側へと合流する。
「黙っているところを見ると、相当のようだな。だが、詳しくは聞きやしねえ。俺とお前の仲だ、言葉なんざ要らねえぜ」
 そう言うと、ザインは剣を構える。
「って事だ。魔物どもは俺が引き受けた。デュークはあの魔族を狙え」
「わ、私も助太刀します!」
 いつの間にか追いついていた村長の娘も加わって、その姿と言葉に頼もしさを覚えるデューク。軽く顔を腕で擦ると、ザインたちの方を振り向かずに声を掛ける。
「……すまない、恩に着る」
「いいって事よ。こいつが片付いたら、ゆっくり話をしようぜ」
 ザインの言葉に、デュークは小さく頷いた。
「うん? その魔力は……。そうか、俺様を裏切った忌々しい出来損ないか! 魔物どもよ、あやつらを食らい尽くせ!」
 デュークの存在に気が付いた魔族は、村人の襲撃からデュークたちの襲撃へと魔物たちへの命令を変更する。村人たちに迫っていた魔物たちは動きを止め、じわじわとザインやデュークたちを取り囲むように集まってくる。
 今にも襲いかかろうとする魔物たちを前に、村長の娘も含めた三人はまったく動かなかった。
「ははははっ! 諦めたか! 食らい尽くせ!」
 その様子に高笑いをした魔族は、一斉に魔物たちに襲撃させる。
「うるせえ奴だな。力量も測れねえようなくそ魔族がよ!」
 ザインは一気に剣を振り抜く。すると、襲い掛かろうとしていた魔物たちは一瞬で倒されてしまっていた。
「この程度か……。もっと寄こせよ!」
 目を見開いてザインは魔族を挑発する。
「お、おのれっ!」
 その挑発に乗ってしまった魔族は激昂する。そして、次の攻撃を仕掛けようとして構えた時だった。
 強い衝撃が魔族を貫いたのだ。
「なん、だ?」
 一体何が起きたのか分からなかった。だが、視線を下に落とした時、自分の胸から飛び出ている剣が視界に入る。この時ようやく、魔族は自分の身に何が起きたのか理解したのだ。
「かはっ!」
 再び魔族を強い衝撃が襲う。自分を貫いていた剣が引き抜かれたのである。さすがに傷が深く、魔族はその場に倒れ込んでしまった。
「私を元に戻せ!」
 剣を突きつけ、鋭く魔族を睨むデューク。だが、そんなデュークを魔族は鼻で笑ってみせていた。
「はっ! ……そいつは無理な相談だ。お前……は、未来、永劫……、末代まで、俺、様の掛けた、術で、……苦しむがいい!」
 虫の息ながらに精一杯に笑みを浮かべて言い放つ魔族。次の瞬間、デュークはその魔族を一刀両断にしたのだった。
 率いていた魔族が息絶えると、魔物たちは急に戦意をなくし、散り散りとなって逃げ出していった。

 戦いは終わった。
 魔物の脅威が去った事で、村を守ってくれたザインとデューク、それと村長の娘に村人たちは村長を含めて頭を下げていた。
 この際に、デュークが魔族の呪いによって不死者になっていた事が告げられたのだが、これだけ必死に村のために戦ってくれた英雄を蔑むような事はなかった。
 村人たちが被害の復旧をしている中、ザインとデュークが話をしている。
「ザイン、お前は今何をしているんだ?」
「ちょっと言ったが、魔王軍の残党の討伐だな。少し休んだら、すぐに出発だよ」
「そうか」
 ザインの言葉に、デュークは少し残念そうにしている。
「まっ、お前はここでゆっくり腰を落ち着けていればいいさ。また寄らせてもらうからな」
 ザインはそう言いながら、デュークの方を叩いていた。
「それにだ、お前にはここに居たい理由もあるだろうしな」
 そう言いながら、ザインはちらりと視線を送る。その先には、村長の娘が立っていた。
 振り返ったデュークと村長の娘の視線が合うと、二人とも顔を赤らめて視線を外していた。
「はっはっはっ、青春だな。ってわけだ、お前はここで暮らすんだ。こいつはお祝い代わりにお前にくれてやるよ」
 ザインはそう言いながら、両腕につけていた籠手を外してデュークに渡していた。
「それじゃ、達者に暮らせよ」
 ザインはそう言い残すと、翌日には村を去っていったのだった。

 しばらくして、デュークは村長の娘と無事に結ばれた。
 そして、村はプサイラ砂漠における重要な拠点となり、規模が大きくなっていった。
 村はいつしか街となり、その際に村長の娘の名前を取って、『砂漠の交易街・シグメラ』と名付けられた。
 シグメラはさらに発展を続けて、やがてデュークを初代国王とする砂漠の国『シグムス』へと変貌を遂げた。そして、ザインから託された一対の籠手は、国宝として祀られる事となったのだった。
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