神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
92 / 139
第四章『運命のいたずら』

シグムスの過去1

しおりを挟む
 サキは静かに、歴史書に記されていた歴史を語り出した。

 ―――

 プサイラ砂漠。
 現在のシグムス王国は、その砂漠の中にある最大級のオアシスを中心として建設された国である。
 だが、王国が建国される前にあったのは、小さな村ひとつ程度だった。砂漠という過酷な環境のためか定住する者も少なく、それは本当に寂れた小さな村だった。

 ある日の事、そんな村に傷付いた一人の騎士がたどり着いた。そのけがの程度は重く、さらにはどこの者とも分からないとあって、村人たちはその騎士を歓迎しなかった。騎士から放たれる雰囲気に恐れ、誰も近付こうとしなかった。
 ただ一人、当時の村長の娘だけは違っていた。娘は怖がるどころか、その騎士の介抱を買って出たのである。そんな彼女の献身的な介抱の結果、騎士のけがは少しずつ良くなっていった。
 ところが、傷が癒えるなり、騎士は村を追い出されてしまった。けが人だから、置いてやっただけというわけだった。
 一人去る事になった騎士を、村長の娘だけが見送りに来ていた。そんな娘に対して、騎士は声を掛ける。
「すまない、すっかり世話になってしまった。私の名はデューク。とある国の騎士団の一員だが、魔物の掃討作戦中に大けがを負い、さまよっているうちにここにたどり着いた。君は命の恩人だ、ありがとう」
「いえ……。それにしても災難でしたね。国にご無事に戻れる事を祈っております」
「この恩は忘れない」
 こうして、騎士は村を去った。
 実は、この騎士と娘の間には、特別の感情があったようだ。村長はそれに気が付き、騎士に対して更なる冷遇を行っていたのである。それゆえに、騎士は村を去る事に決めたのだった。

 その後、デュークは無事に国に戻る事ができた。しかし、そこでデュークを待ち構えていたのは、実に酷い扱いだった。
 魔物の掃討に失敗し、長い間戻ってこなかった彼は、恥さらしという扱いになっていたのだ。街の住人たちからは罵声や冷や水を浴びせられる始末である。もはや国中から嫌われている状態だった。
 その扱いにすっかり減んでしまうデューク。しかし、そんなデュークにも、声を掛けてくる存在が居た。
「お前も災難だな、デューク」
 すっかり自宅に閉じこもるようになってしまったデュークの元に、一人の男性がやって来たのである。
「……ザインか」
 同じ騎士団に所属するザインという男だった。
 辺境の村の出身であるザインだが、騎士に憧れて村を飛び出し、志願して騎士団へと入団した男である。
 最初こそ頼りない感じだったザインも、時を経るにつれめきめきと頭角を現し、今や将軍の一人を務めるまでになった現場叩き上げの武人である。
「こうなるのも仕方ないさ。私の隊は全滅の上、私一人だけがこうやっておめおめと国に舞い戻ったんだ。いろいろと疑念を持たれてしまうものだよ」
「確かに……それもそうだな」
 そう言いながら、ザインは持ってきた差し入れを取り出すと、デュークと飲み食いを始めた。
 そして、ある程度盛り上がったところで、ザインは突然真面目な表情をしてデュークに話し掛けてきた。
「デューク、聞いていいか?」
「どうした、ザイン」
「……お前、人間じゃなくなっているな? 戻ってきた時から違和感を感じてたんだが、目の前にしてそれがはっきり分かったよ。雰囲気が、まるで魔物のようだぜ」
 ザインから指摘されると、デュークは動きを黙り込んでしまった。
 とはいえ、デュークとザインの付き合いはかなり長い。さすがに隠し通せないとデュークは静かに口を開く。
「……さすがだな」
 その次の瞬間、ザインの目の前で驚くべき事が起きた。
 なんと、デュークの頭と胴体が離れてしまっていたのだ。だが、その状態でありながらデュークは動いているではないか。
「それは、呪術か……。むごいな」
「その通りだ。私はあの戦いで他の連中と共に魔族に殺されたんだ。……首を刎ねられてな」
 デュークは静かにこうなった経緯を話し始めた。
 それによれば、デュークが率いていた隊は魔物の待ち伏せに遭い、隊が全滅してしまった事。
 その際にデュークも首を刎ねられて死んでしまったのだが、魔族の呪術師の力によってデュラハンとして蘇らされた事。
 そして、その後の事も。
「……おそらく私が今も自分のままでいられるのは、君からもらったペンダントのおかげだろうな」
 デュークは首を元に戻すと、ポケットから淡い青色の光を放つペンダントを取り出した。
「呪術師の奴は私の事を洗脳しようとしていたみたいだが、これの力によって私は難を逃れたんだ。ただ、その際に魔族どもの一斉攻撃を食らってもう一度死にかけたんだがな」
 そう話しながらデュークは苦笑いをしている。
「しかし、このペンダントは不思議だな。こんなものを持っている事といい、その才能の事といい、君は本当に不思議な奴だな」
「まあそうだな。しかし、そのペンダントにそんな力があるとは思わなったぜ」
 この後、デュークとザインは思わず笑っていた。
「なあ、ザイン」
「なんだ、デューク」
「そろそろ魔王を討つ事になるのだろう?」
「ああ、被害も深刻化してきたからな。いよいよ黒幕を叩く事になった」
 デュークの問い掛けにザインが答えると、デュークは真剣な表情をしていた。
「だったら、私が道案内をしよう。私に呪術を掛けた魔族との間で、魔力のつながりがあるみたいなんだ。その関係か、今の私には奴の記憶が共有されているみたいなんだ」
「おいおい、そういう事は早く言えよ。魔王城に直接乗り込めるじゃないか」
「……すまないな。冷遇を受け続けて、どこか人間不信になっていたようだ」
 落ち込むデュークの肩を、無言で叩くザイン。そして、顔を上げたデュークに向けて、親指を立ててにかっと笑ってみせていた。
 その笑顔に安心したのか、デュークは魔王城の見取り図を描いて渡す。
「魔王の魔力に近付きすぎると、私はザインたちに牙を剥くかも知れない。最後まで付き合えない代わりにこれを持っていってくれ」
「分かった。お前の無念、きっと晴らしてやるからな」
 デュークとザインはお互いの拳を突き合わせるのだった。

 後日、二人を中心として魔王討伐に乗り出す事になる。そして、先の約束通り、デュークは魔王城の近くで別れた。
 すべてを友人に託し、デュークはある場所へと向かったのだ。
(すまない、私の一番の友人よ。できればその姿を、隣で見たかったものだ)
 デュークが走り去っていく中、ザインの手によって当時の魔王は討たれるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

最弱魔術師が初恋相手を探すために城の採用試験を受けたら、致死率90%の殺戮ゲームに巻き込まれました

和泉杏咲
ファンタジー
「私達が王のために犠牲になるべき存在になるのは、正しいことなのでしょうか」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 信じられますか? 全く予想もしていなかった方法で、瞬きすることすら許されずに命を刈り取られているという事実を……。 ここは、自然の四大元素を魔術として操ることができるようになった世界。 初心者魔術師スノウは、王都を彷徨っていた。 王宮に支えることができる特別な職「専属魔術師」の選抜試験が開かれることになっており、スノウはそれに参加するために訪れたのだった。 道に迷ったスノウは、瞬間移動の魔術を使おうとするが、失敗してしまう。 その時、助けてくれたのが全身をターバンとマントで覆った謎の男。 男は「高等魔術を使うな」とスノウに警告をして……?

処理中です...