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第四章『運命のいたずら』
黒幕の存在
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マスターが前線へと向かっている最中も、アカーシャとソルトの二人によって魔物たちは次々と打ち倒されていた。だが、どういうわけかまったく魔物の数は減っているようには見えず、むしろその数を増やしているようにさえ見えた。
「ちぃっ、キリがないな!」
「ええ、いくらなんでもこの状況は異常よ。連携が取れているし、こいつらを操る元凶を倒さない限り、止められそうにもないわ!」
状況の深刻さに、アカーシャもソルトも険しい表情をしている。
ミムニア軍の将軍であるサイキスはかろうじて動けるがかなり消耗している。その彼を守りながらの戦いは、本来なら二人には余裕でこなせそうなものである。
ところが、無限に湧き続ける魔物が相手とあっては、さすがの魔王軍のトップである二人とはいえ、かなり厳しいものがある。いくら二人は魔族で瘴気を気にしなくてもいいとはいえ、体力は無限ではない。徐々に疲労の色が見え始め、苦戦は必至の状態となっていた。
その時だった。
「グラウンドハウリング!」
アカーシャとソルトの目の前を、大地が魔物を飲み込みながら通り過ぎていく。突然の事に驚いた二人が大地が走ってきた方向を見ると、そこにはアルファガドのギルドマスターであるマスターの姿があった。
「ソルトちゃん、アカーシャちゃん、無事かい?」
なんと、先程の魔法はマスターが放ったものだった。
普段はその軽口に悩まされる事も多い二人だが、さすがにこんな状況の下では安心したようにほっとした表情を見せていた。
「さすがにこの程度の魔物にやられるほど、やわじゃないですよ」
「ああ、まったくだ。だが、なにぶんその数が多い。さすがのあたしたちでも、少し不安になってしまうところだったよ」
二人がマスターにそのように言うと、マスターも含めてちらりとサイキスの方へと視線を向ける。
「まったく、サイキス殿。無茶をされたようですな」
マスターは呆れ加減に言葉を漏らす。
「ああ、まったくだ。大見得を切ったというのにこの様だ。まったくふがいないと言う他ないな」
さすがのサイキスもこの時ばかりはがくりと肩を落としていた。責任を感じているようである。
「だが、無事でなにより。で、現在の戦況は?」
マスターが確認を取ると、三人で戦況をマスターに伝える。この間も魔物たちは襲い掛かって来るものの、話をしながらもきちんと撃退している。マスターにいたってはまったくのノールックだ。さすがは冒険者ギルドのマスター、やる事の規格が違った。
「なるほどなぁ、魔物を操る存在か……」
マスターはそう呟くと、魔物たちの方へと目を向ける。しばらく魔物たちを観察していたかと思えば、突然遠くにある山の方を睨み付けた。
「……見つけたぞ」
いきなり飛び出したマスターの言葉に、サイキスたちは驚いている。
「マスター、見つけたって魔物を操っている奴の事か?」
アカーシャがもの凄い剣幕で尋ねるものだから、マスターは黙ってこくりと頷いた。
「というわけだ。俺は今からひとっ走りして、魔物を操っている奴を倒してくるぜ。その間、ここはソルトちゃんたちに任せたぞ」
「承知しました」
返事を済ませると、ソルトは早速魔法でもって魔物たちを倒していく。アカーシャもその剣でもって魔物たちを斬り伏せていく。その二人に負けじと、サイキスも弱っているとはいえど必死にサポートをしていた。
その三人の姿をちらりと振り返って確認したマスターは、この魔物たちを操る黒幕の居る場所へと走っていく。
「邪魔だ!」
その行く先には魔物たちが立ちふさがるが、マスターがひと睨み利かせると、怯えてその進路を開けていた。その開けた進路をマスターは颯爽と走り抜けていった。
魔物との交戦が続く場所は、離れた高台からは丸見えだった。当然ながら、マスターの動きもばっちり見えている。
ところが、その高台に構える影には焦りの色が浮かんでいた。
それもそうだろう。マスターが気迫だけで魔物を退けている上に、一直線に自分の居る所へと向かってきているからだ。
(な、なんだあの男は?! 魔物を戦わずに退けている上に、まっすぐ俺の所へ向かってきている。……このままではまずい。さっさと撤退せねば)
危機感を覚えた影は、その場所を離れようとする。
だが、それは阻止されてしまう。
「うっ!」
突如として体に大量の蔦が絡みついてきたのだ。
「待たぬか、このうつけが!」
暴れる影は、響き渡る声に反応して顔を向ける。そして、そこに居た人物を見て顔を青ざめさせる。
「ば、バカな! なぜお前がここに居るのだ。近いとはいえ、ここはお前の行動範囲外のはずだぞ!」
「愚かな奴よのう。我が聖域を荒らしておいて、その言い草……。実に愚かしいぞ、不死の者よ」
そう、そこに現れたのは妖精とも魔法使いとも取れる姿をした女性、『還らずの森』の主である『フォル』が居たのだ。
「我が配下の魔物にまで手を出しおってからになぜだとは、実に片腹が痛い。その罪、軽く済むと思うでないぞ」
狼狽える影を一喝するフォル。それと同時に、マスターがこの場にたどり着いた。
「おお、龍族の」
「おや、あなたは確かユグドラシル殿の……」
「実に久しいのう。お互い積もる話があるじゃろうが、まずはこやつを懲らしめんとなぁ」
フォルはちらりと影の方を見る。
蔦から逃れられずに焦る影。そこに捕らえられていたのは、一体何者なのだろうか。
「ちぃっ、キリがないな!」
「ええ、いくらなんでもこの状況は異常よ。連携が取れているし、こいつらを操る元凶を倒さない限り、止められそうにもないわ!」
状況の深刻さに、アカーシャもソルトも険しい表情をしている。
ミムニア軍の将軍であるサイキスはかろうじて動けるがかなり消耗している。その彼を守りながらの戦いは、本来なら二人には余裕でこなせそうなものである。
ところが、無限に湧き続ける魔物が相手とあっては、さすがの魔王軍のトップである二人とはいえ、かなり厳しいものがある。いくら二人は魔族で瘴気を気にしなくてもいいとはいえ、体力は無限ではない。徐々に疲労の色が見え始め、苦戦は必至の状態となっていた。
その時だった。
「グラウンドハウリング!」
アカーシャとソルトの目の前を、大地が魔物を飲み込みながら通り過ぎていく。突然の事に驚いた二人が大地が走ってきた方向を見ると、そこにはアルファガドのギルドマスターであるマスターの姿があった。
「ソルトちゃん、アカーシャちゃん、無事かい?」
なんと、先程の魔法はマスターが放ったものだった。
普段はその軽口に悩まされる事も多い二人だが、さすがにこんな状況の下では安心したようにほっとした表情を見せていた。
「さすがにこの程度の魔物にやられるほど、やわじゃないですよ」
「ああ、まったくだ。だが、なにぶんその数が多い。さすがのあたしたちでも、少し不安になってしまうところだったよ」
二人がマスターにそのように言うと、マスターも含めてちらりとサイキスの方へと視線を向ける。
「まったく、サイキス殿。無茶をされたようですな」
マスターは呆れ加減に言葉を漏らす。
「ああ、まったくだ。大見得を切ったというのにこの様だ。まったくふがいないと言う他ないな」
さすがのサイキスもこの時ばかりはがくりと肩を落としていた。責任を感じているようである。
「だが、無事でなにより。で、現在の戦況は?」
マスターが確認を取ると、三人で戦況をマスターに伝える。この間も魔物たちは襲い掛かって来るものの、話をしながらもきちんと撃退している。マスターにいたってはまったくのノールックだ。さすがは冒険者ギルドのマスター、やる事の規格が違った。
「なるほどなぁ、魔物を操る存在か……」
マスターはそう呟くと、魔物たちの方へと目を向ける。しばらく魔物たちを観察していたかと思えば、突然遠くにある山の方を睨み付けた。
「……見つけたぞ」
いきなり飛び出したマスターの言葉に、サイキスたちは驚いている。
「マスター、見つけたって魔物を操っている奴の事か?」
アカーシャがもの凄い剣幕で尋ねるものだから、マスターは黙ってこくりと頷いた。
「というわけだ。俺は今からひとっ走りして、魔物を操っている奴を倒してくるぜ。その間、ここはソルトちゃんたちに任せたぞ」
「承知しました」
返事を済ませると、ソルトは早速魔法でもって魔物たちを倒していく。アカーシャもその剣でもって魔物たちを斬り伏せていく。その二人に負けじと、サイキスも弱っているとはいえど必死にサポートをしていた。
その三人の姿をちらりと振り返って確認したマスターは、この魔物たちを操る黒幕の居る場所へと走っていく。
「邪魔だ!」
その行く先には魔物たちが立ちふさがるが、マスターがひと睨み利かせると、怯えてその進路を開けていた。その開けた進路をマスターは颯爽と走り抜けていった。
魔物との交戦が続く場所は、離れた高台からは丸見えだった。当然ながら、マスターの動きもばっちり見えている。
ところが、その高台に構える影には焦りの色が浮かんでいた。
それもそうだろう。マスターが気迫だけで魔物を退けている上に、一直線に自分の居る所へと向かってきているからだ。
(な、なんだあの男は?! 魔物を戦わずに退けている上に、まっすぐ俺の所へ向かってきている。……このままではまずい。さっさと撤退せねば)
危機感を覚えた影は、その場所を離れようとする。
だが、それは阻止されてしまう。
「うっ!」
突如として体に大量の蔦が絡みついてきたのだ。
「待たぬか、このうつけが!」
暴れる影は、響き渡る声に反応して顔を向ける。そして、そこに居た人物を見て顔を青ざめさせる。
「ば、バカな! なぜお前がここに居るのだ。近いとはいえ、ここはお前の行動範囲外のはずだぞ!」
「愚かな奴よのう。我が聖域を荒らしておいて、その言い草……。実に愚かしいぞ、不死の者よ」
そう、そこに現れたのは妖精とも魔法使いとも取れる姿をした女性、『還らずの森』の主である『フォル』が居たのだ。
「我が配下の魔物にまで手を出しおってからになぜだとは、実に片腹が痛い。その罪、軽く済むと思うでないぞ」
狼狽える影を一喝するフォル。それと同時に、マスターがこの場にたどり着いた。
「おお、龍族の」
「おや、あなたは確かユグドラシル殿の……」
「実に久しいのう。お互い積もる話があるじゃろうが、まずはこやつを懲らしめんとなぁ」
フォルはちらりと影の方を見る。
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