神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
79 / 139
第三章『それぞれの道』

炎の試練

しおりを挟む
 炎の谷でイフリートに会えたミレルたちだが、今現在、絶体絶命の危機にさらされている。
 ミレルたちの左右には炎の壁がそびえ立ち、ミレルの前にはイフリート、セインとルルの前にはフレインことサラマンダーが立ちふさがっている。四方を完全に囲まれてしまっているのだ。さすがにこの状況となってしまうと、身軽さを利用して相手をかく乱する戦法を使う猫人のミレルには、厳しい戦いになりそうだった。
「縦横無尽に動き回るのが戦闘民族たる猫人の私の戦法なのですが、この状況で精霊相手となると、1対1はかなり厳しいものがありますね」
 こういうミレルの格好は、ひざ丈ほどのスカートを持つメイド服だ。それでなくてもひらひらしており、戦いに不向きな格好である。それだというのに、ミレルはそんな格好で身軽な動きで格闘術を使って戦っているのである。
 思い悩むミレルを見かねたのか、何かを思いついたルルがミレルに話し掛ける。
「精霊には精霊を、ですよ」
 背中合わせの位置に居るルルは、ミレルに向けてそう言うと、持っている杖を掲げてこう叫ぶ。
「ウンディーネ、お願いします!」
 その声に呼応するように、ルルの持っている杖が光り輝く。激しい水流が起きたかと思えば、そこから水の精霊ウンディーネが姿を現した。そして、状況を確認したウンディーネは、イフリートの姿を認めて体ごと視線を向ける。
「あら、お久しぶりですね、イフリート。相変わらず暑苦しいお姿ですね」
「ふん、会うなり皮肉るな。それにしても驚きだな。お前がそんなひよっこ精霊に手を貸すとは、相変わらずの気まぐれ具合だな」
 皮肉に皮肉を返すイフリートである。思ったよりは頭の切れはいいようだ。
 だが、そのやり取りにくすっと笑うだけのウンディーネは、くるりとルルの方へと振り向いた。
「今回はあの猫人のサポートをすればいいのですね。本来、精霊同士は不干渉なのですが、なるほど、精霊ではないものの手助けをするのであれば、その限りではないというわけですね」
「はい、お願いします」
 ルルはにこりと笑う。まるで約束事の穴を狙うかのような戦法である。ウンディーネはイフリートと直接戦えないというが、ミレルを手助けするのであれば、イフリートと対峙できるというわけなのだ。
 だが、それならルルとフレインも同じような制約を受けるはずなのだが、こちらも半分人間に足を突っ込んでいるのでその体で戦っているというわけである。なんというか抜け道が多すぎる制約である。
 さて、ルルの言葉に頷いたウンディーネは、今居る部屋の中へ自分の力を精一杯影響させる。だが、それでも炎の勢いを削ぐだけで、イフリートたちが出現させた炎の壁までは消す事ができなかった。
「あの炎の壁は無理のようですね。さすがに炎系の精霊2体分の力ですから、私だけでは相殺できないようです。どうか気を付けて下さい」
「分かりました。かなり炎の力を中和できただけでも助かります」
 ウンディーネの忠告に、ルルたちはこくりと頷いていた。
「さて、ウンディーネよ。これ以上の手出しはよしてもらうとしようか。これはあくまでも俺様による試練だ」
 自身の放つ炎のマナの大部分を中和させられた事で、イフリートはかなり怒り心頭のようだった。だが、それに対して、ウンディーネは涼しい顔をして言葉を返す。
「ええ、これ以上は何もしませんよ。私に火の粉が及ばなければね」
 その言葉を聞いたイフリートはガハハと笑うと、サラマンダーに声を掛ける。
「サラマンダーよ、久々に楽しもうではないか。存分に暴れてお前の力を見せてやれ!」
「御意に!」
 イフリートの呼び掛けに返事をしたフレイン。それと同時に、イフリートはミレルへと向かって突進を仕掛ける。そして、ミレル目がけて大きく振りかぶる。だが、そんな大振りの攻撃など猫人に通じるわけがない。ミレルはイフリートの攻撃をひらりと躱すと、水のマナをまとわせた拳をイフリートへと叩き込んでいく。
 ミレルのスピードと、イフリートのパワー。まったくタイプの違う二人の一進一退の攻防が始まった。
 一方のフレインの方は、シグムスの兵士とあってか、戦いの前にきちんと一度構えを取っている。
「さあ、セインくん。私たちも始めるとしましょうか。そこのユグドラシルの精霊と一緒で構わない。智将様が認められた君たちの力、しっかりと見させてもらう!」
 そう宣言したフレインは駆け出していく。
 通常、サラマンダーというのは大きな火蜥蜴ひとかげの事である。その蜥蜴の状態であれば、巨体ゆえにあまり動きは速くないはずである。だが、フレインは精霊となって人間の姿を取っている状態だ。その法則にはまったく当てはまらなかった。
 地を蹴ったかと思った次の瞬間、甲冑を着ているとは思えないスピードで一気にセインとの距離を詰める。

 ガキーン!

 セインとフレインの互いの剣がぶつかる音が響き渡る。
「ほう……、これを防ぐか。そうこなくては、面白くもない!」
 セインはフレインの剣をしっかりと受け止めている。さすがルナルやアカーシャに鍛えられ、そこそこの場数も踏んできただけの事はある。
 フレインは目を見開きながら剣を弾くと、いったんセインとの間に距離を取る。
「さてさて、そこそこの実力はありそうですが、我が剣術を一体どこまで止められるかな? ……実に楽しみだ!」
 すっと体勢を整えると、フレインは再びセインへと斬り掛かる。その攻撃はさっきと同じようなものだったために、セインは難なく受け止める事ができた。だが、その瞬間だった。

 ボワッ!

 フレインの剣から突如として炎が噴き上がる。
「あっつ……!」
 なんと発生した炎は剣を伝わり、セインへと襲い掛かってきた。驚いたセインは咄嗟にフレインから離れ、ルルが水魔法を使って消化したためにほとんどダメージにならずに済んだ。
「火なんて出せるのかよ……」
「それはもちろんだよ。私は火の精霊サラマンダーだからね」
 セインが驚いていると、何を言っているんだと言わんばかりにフレインは鼻で笑っていた。
「それにしても、なかなかいい反応だよ。だが、この魔法剣を一体いつまで躱し続けられるかな?」
 剣を構え直すフレインの顔は、実に不気味な笑みを浮かべていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

書道が『神級』に昇格!?女神の失敗で異世界転移して竜皇女と商売してたら勇者!聖女!魔王!「次々と現れるので対応してたら世界を救ってました」

銀塊 メウ
ファンタジー
書道が大好き(強制)なごくごく普通の 一般高校生真田蒼字、しかし実際は家の 関係で、幽霊や妖怪を倒す陰陽師的な仕事 を裏でしていた。ある日のこと学校を 出たら目の前は薄暗い檻の中なんじゃ こりゃーと思っていると、女神(駄)が 現れ異世界に転移されていた。魔王を 倒してほしんですか?いえ違います。 失敗しちゃった。テヘ!ふざけんな! さっさと元の世界に帰せ‼ これは運悪く異世界に飛ばされた青年が 仲間のリル、レイチェルと楽しくほのぼの と商売をして暮らしているところで、 様々な事件に巻き込まれながらも、この 世界に来て手に入れたスキル『書道神級』 の力で無双し敵をバッタバッタと倒し 解決していく中で、魔王と勇者達の戦いに 巻き込まれ時にはカッコよく(モテる)、 時には面白く敵を倒して(笑える)いつの 間にか世界を救う話です。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

魔力ゼロの魔法使い、杖で殴って無双する。

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
 柊(ひいらぎ) 奏多(かなた)は高校三年の春、卒業式当日の帰り道に道路で車に轢かれあっさり死んだ。  目を覚ませばそこは夢にまで見た異世界である。職業は『魔法使い』。魔法が撃てる! と喜んだのも束の間、魔法使いなのに何故か魔力ゼロで魔法が撃てない。なら剣を……と思うも他の武器を持つことさえ許されなかった。  開き直った柊は持っていた杖をひたすら振り回しレベルを上げていく。戦闘の度に杖が折れる日々。 しかし杖は折れても心は折れない―― 「魔法使いなのに新しい杖を買えず同じ杖を買う日々……屈辱だ」 ……ことはなく、折れることもある。 更にレベルを上げ手に入れていくスキルは、全て”物理に特化”したものだった。 「……俺って本当に魔法使いなのか?」 ――これは魔法が使えない魔法使いが物理型(?)として無双する、ふざけた魔法使いの物語である。  --- ♡やお気に入り登録、感想など頂けるとモチベーションに繋がりますので是非よろしくお願いいたします! ■ 現在毎日22時→21時に投稿しています。 ※それとは別に不定期で朝、昼にも投稿する場合がございます。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

出来損ないと呼ばれた公爵令嬢の結婚

奏千歌
恋愛
[できそこないと呼ばれても][魔王]  努力をしてきたつもりでした。  でもその結果が、私には学園に入学できるほどの学力がないというものでした。  できそこないと言われ、家から出ることを許されず、公爵家の家族としても認めてもらえず、使用人として働くことでしか、そこに私の居場所はありませんでした。  でも、それも、私が努力をすることができなかった結果で、悪いのは私のはずでした。  私が悪いのだと、何もかもを諦めていました。  諦めた果てに私に告げられたことは、魔法使いとの結婚でした。  田舎町に住む魔法使いさんは、どんな方なのか。  大きな不安を抱え、長い長い道のりを歩いて行きました。

処理中です...