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第三章『それぞれの道』
炎の精霊イフリート
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地面が揺れ、だんだんと地鳴りが近付いてきている。この状況にセインだけが驚いているが、残りの三人は極めて冷静だった。何かが近付いてきているその気配に、表情を引き締めて身構えている。
だが、突如として地鳴りがやんだ。
「うん? 音がやんだのか? ははっ、なんだよ、脅かしやがって……」
急に地鳴りがやんだ事でセインはほっとしている。だが、それも束の間の事だった。
ドゴォッ!!
ミレルたちの目の前の地面が急激に盛り上がり、勢いよく何かが飛び出してきた。しかし、その姿を確認しようとしても飛び散る地面の破片や水蒸気などでまったく確認する事ができない。そんな状況の中でも、ミレルとルルはその尋常ではない魔力を敏感に感じ取っていた。
徐々にその視界が晴れていく。それに従って勢いよく飛び出してきた何かの正体が明らかになっていく。
逆立った髪の毛のように燃え盛る火炎を頭部に持つ、真っ赤な肌を持つ筋骨隆々の屈強な肉体の男の姿の人物がそこには居た。そう、姿を現した彼こそが、ミレルたちが探しに来た炎の精霊イフリートである。
「この地に人の子が足を踏み入れるのは、一体いつぞやぶりだろうな!!」
体格のいい精霊だけに声がかなり大きかった。しかもその息吹すらも熱風である。さすがは炎の精霊である。
それにしても、見ているだけで実に暑苦しい。その体はあちこちから炎を噴き出して激しく燃え上がっているので、実際かなり暑苦しいものだった。
その並々ならぬ体格と風貌、そして雰囲気に、ミレルたちはますます深く構えて警戒する。
ミレルたちのその姿に気が付いたイフリートは、にやりと笑みを浮かべる。
「ほほぉ、よく分かってるじゃないか。お前たちは久しぶりの客だ。ここまで来たその力、早速見せてもらおうじゃないか!」
イフリートはそう言い放つと、胸の前で拳をかち合わせ、思いっきり右の拳を振り上げて突如として襲い掛かってきた。
「ちょっ、いきなりかよ!」
セインだけは慌てたものの、さすがにミレルたちは落ち着いて後ろへと跳ぶ。セインも飛び退いて誰も居なくなった場所へと、燃え盛るイフリートの拳が叩きつけられた。
だが、そこには驚くべき光景が広がっていた。
拳を叩きつけられ弾け飛ぶかと思われた地面。ところが、その地面は破片となって砕け散らずに、なんとあまりの熱量に溶けてしまい、赤く変色して凹み込んでいた。
この光景にはさすがに青ざめてしまう。何の対策も無しにまともに食らえば、その場で蒸発してしまいそうな威力だったからだ。さすがは炎の精霊の攻撃といったところである。
「セインくん、私が肉弾戦で牽制しますので、ルルちゃんと一緒に援護をお願い致します」
「分かった!」
ミレルはすぐに作戦を立てて実行に移す。
すぐさまミレルは、両手両足にウンディーネの加護を利用して水をまとわせ、イフリートに飛び掛かって攻撃を仕掛ける。
「行くぞ、がきんちょ!」
「はいっ!」
セインの呼び掛けに元気よく返事をするルル。
「そこの甲冑野郎もな!」
「……」
フレインはセインの呼び掛けに無言で頷いた。
イフリートとの戦いが始まった。
「はあっ!」
まずはミレルが水をまとった拳と蹴りで連撃を叩き込み、イフリートの注意を引く。そこへセインが斬破を放って気を逸らし、さらにミレルが拳や蹴りを叩き込む。完全にイフリートの意識が二人に向いたところで、ルルが魔法を打ち込む。そういう戦法である。
「水よ、我らを阻む者を吹き飛ばせ! スプラッシュ!」
「ぶっはっ!」
ミレルとセインで気を引いてイフリートの注意が逸れているために、うまくルルの魔法が命中する。
スプラッシュは中級の水属性の攻撃魔法だ。足元から水を勢いよく噴き出させ、さらには弾け飛んで水飛沫で攻撃するという魔法である。攻撃魔法としては弱い部類に入るのだが、相性の関係でイフリートにはものすごく効いているようである。弾け飛んだ水飛沫がいい目くらましにもなっている。
水の勢いに押されてイフリートが怯んだところに、ミレルとセインがさらに攻撃を叩き込んでいく。これの繰り返しで、今のところは優勢に戦いを進めている。
ところが、ミレルにはある疑問が過っていた。
それは、ルルよりもさらに後方に居るフレインの事である。
実はこのフレイン、イフリートの攻撃を躱してはいるものの、攻撃にはまったく参加していないのである。
フレインは元々ここまでの道案内役としてついて来ている。だが、シグムスの兵士として、客人であるミレルたちに加勢しないというのは、どう考えても不自然すぎるのである。この状況をミレルはずっと疑問に感じているのである。
(おかしいですね。なぜ彼はまったく戦いに参加しないのでしょうか……)
ミレルがそう思った時だった。そのミレルの視界に、信じられない光景が飛び込んできた。
「ルルちゃん、危ない!」
「えっ?」
つい叫んでしまうミレル。
それもそうだろう。この時ミレルが目撃したのは、後方で魔法による支援を行っているルルに、今にも斬り掛かろうとしているフレインの姿だったのだから。
だが、突如として地鳴りがやんだ。
「うん? 音がやんだのか? ははっ、なんだよ、脅かしやがって……」
急に地鳴りがやんだ事でセインはほっとしている。だが、それも束の間の事だった。
ドゴォッ!!
ミレルたちの目の前の地面が急激に盛り上がり、勢いよく何かが飛び出してきた。しかし、その姿を確認しようとしても飛び散る地面の破片や水蒸気などでまったく確認する事ができない。そんな状況の中でも、ミレルとルルはその尋常ではない魔力を敏感に感じ取っていた。
徐々にその視界が晴れていく。それに従って勢いよく飛び出してきた何かの正体が明らかになっていく。
逆立った髪の毛のように燃え盛る火炎を頭部に持つ、真っ赤な肌を持つ筋骨隆々の屈強な肉体の男の姿の人物がそこには居た。そう、姿を現した彼こそが、ミレルたちが探しに来た炎の精霊イフリートである。
「この地に人の子が足を踏み入れるのは、一体いつぞやぶりだろうな!!」
体格のいい精霊だけに声がかなり大きかった。しかもその息吹すらも熱風である。さすがは炎の精霊である。
それにしても、見ているだけで実に暑苦しい。その体はあちこちから炎を噴き出して激しく燃え上がっているので、実際かなり暑苦しいものだった。
その並々ならぬ体格と風貌、そして雰囲気に、ミレルたちはますます深く構えて警戒する。
ミレルたちのその姿に気が付いたイフリートは、にやりと笑みを浮かべる。
「ほほぉ、よく分かってるじゃないか。お前たちは久しぶりの客だ。ここまで来たその力、早速見せてもらおうじゃないか!」
イフリートはそう言い放つと、胸の前で拳をかち合わせ、思いっきり右の拳を振り上げて突如として襲い掛かってきた。
「ちょっ、いきなりかよ!」
セインだけは慌てたものの、さすがにミレルたちは落ち着いて後ろへと跳ぶ。セインも飛び退いて誰も居なくなった場所へと、燃え盛るイフリートの拳が叩きつけられた。
だが、そこには驚くべき光景が広がっていた。
拳を叩きつけられ弾け飛ぶかと思われた地面。ところが、その地面は破片となって砕け散らずに、なんとあまりの熱量に溶けてしまい、赤く変色して凹み込んでいた。
この光景にはさすがに青ざめてしまう。何の対策も無しにまともに食らえば、その場で蒸発してしまいそうな威力だったからだ。さすがは炎の精霊の攻撃といったところである。
「セインくん、私が肉弾戦で牽制しますので、ルルちゃんと一緒に援護をお願い致します」
「分かった!」
ミレルはすぐに作戦を立てて実行に移す。
すぐさまミレルは、両手両足にウンディーネの加護を利用して水をまとわせ、イフリートに飛び掛かって攻撃を仕掛ける。
「行くぞ、がきんちょ!」
「はいっ!」
セインの呼び掛けに元気よく返事をするルル。
「そこの甲冑野郎もな!」
「……」
フレインはセインの呼び掛けに無言で頷いた。
イフリートとの戦いが始まった。
「はあっ!」
まずはミレルが水をまとった拳と蹴りで連撃を叩き込み、イフリートの注意を引く。そこへセインが斬破を放って気を逸らし、さらにミレルが拳や蹴りを叩き込む。完全にイフリートの意識が二人に向いたところで、ルルが魔法を打ち込む。そういう戦法である。
「水よ、我らを阻む者を吹き飛ばせ! スプラッシュ!」
「ぶっはっ!」
ミレルとセインで気を引いてイフリートの注意が逸れているために、うまくルルの魔法が命中する。
スプラッシュは中級の水属性の攻撃魔法だ。足元から水を勢いよく噴き出させ、さらには弾け飛んで水飛沫で攻撃するという魔法である。攻撃魔法としては弱い部類に入るのだが、相性の関係でイフリートにはものすごく効いているようである。弾け飛んだ水飛沫がいい目くらましにもなっている。
水の勢いに押されてイフリートが怯んだところに、ミレルとセインがさらに攻撃を叩き込んでいく。これの繰り返しで、今のところは優勢に戦いを進めている。
ところが、ミレルにはある疑問が過っていた。
それは、ルルよりもさらに後方に居るフレインの事である。
実はこのフレイン、イフリートの攻撃を躱してはいるものの、攻撃にはまったく参加していないのである。
フレインは元々ここまでの道案内役としてついて来ている。だが、シグムスの兵士として、客人であるミレルたちに加勢しないというのは、どう考えても不自然すぎるのである。この状況をミレルはずっと疑問に感じているのである。
(おかしいですね。なぜ彼はまったく戦いに参加しないのでしょうか……)
ミレルがそう思った時だった。そのミレルの視界に、信じられない光景が飛び込んできた。
「ルルちゃん、危ない!」
「えっ?」
つい叫んでしまうミレル。
それもそうだろう。この時ミレルが目撃したのは、後方で魔法による支援を行っているルルに、今にも斬り掛かろうとしているフレインの姿だったのだから。
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