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第三章『それぞれの道』
赤色の空間
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イプセルタの闘技場の中央で、ルナルとアイオロスが睨み合っている。
ルナルが自分の武器である炎槍『フラムグレイブ』を持っているのに対し、アイオロスはなんと手ぶらであり、これといって何かを取り出すような様子はない。
(体術使いでしょうか。ですが、相手は疾風龍。何が飛び出してくるかは分かりませんね。となると……)
槍を構えながらアイオロスの分析を行うルナル。だが、相手が未知の存在となると、ルナルはこの手しかないと腹を括る。
「それじゃ二人ともいいな。始め!」
マスターが開始の合図を行う。
「先手必勝! 槍竜閃!」
ルナルは開始と同時に槍を突いて強力な一撃を放つ。そう、ルナルが出した結論は先手を取る事だった。自分のペースに持ち込んでしまえば、相手の攻撃手段など封じる事ができると考えたのだ。
槍から繰り出された鋭い渦巻く衝撃波だが、アイオロスは余裕で躱す。
だが、この程度はルナルにとっても予想の範疇だ。すかさず次の攻撃を繰り出す。
ルナルが手をかざすと、今度はゴオッといくつもの炎の筋が走る。
次の手をしてルナルが使ったのは、なんと魔法だった。しかも驚くべき事に無詠唱による発動である。さすがにこれにはアイオロスも驚いていた。
「なんだと?! これは上級の炎の魔法『サンシャイン』じゃねえか。それを無詠唱で放つだと?!」
そう、これはシグムス城の地下でルルがやっとの思いで発動させていた人間の魔法である『サンシャイン』である。だが、そんな魔法も、魔王であるルナルにかかればこの通りだった。炎の属性を得意とするルナルにとって人間の魔法だろうと苦も無く放てるし、その上で無詠唱でも扱えてしまうのである。
「ふん、さすがに驚かされたが、この程度遅すぎる!」
アイオロスは持ち前のスピードで、襲い来る炎の無数の筋を躱していく。躱しながらルナルとの距離も詰めていくあたり、アイオロスもそれなりに戦い慣れをしているようだった。
だが、ルナルだってこれで終わりなわけがない。当然のように次なる手を繰り出していた。
今度は槍の先から炎の塊を飛ばしていくルナル。ところが、その炎はアイオロス目がけて飛んでいった後、弾け飛んで炎の雨と変化する。
これは炎の炸裂弾である『フレイムクラスター』だ。『サンシャイン』や『エクスプロード』よりは劣るものの、広範囲に炎を散らせる魔法で、『ファイアーボール』の上位魔法にあたる。
ルナルによるこれでもかと言わんばかりの炎の魔法の連発。しかもすべてが無詠唱。さすがに風属性を持っているアイオロスにとっては相性の悪い属性だけに、少々苛立ちを強めていた。その苛立ちゆえに、風で炎を吹き飛ばす事など忘れてしまうくらいだった。
それでも、『疾風龍』の二つ名は伊達ではなかった。これだけ隙間なく降り注ぐ炎の魔法にもかかわず、実はわずかな隙間が生じている。その隙間を掻い潜って、アイオロスはルナルへの攻撃のタイミングを窺っている。
その時だった。炎の中に大きな隙間ができた。これを見つけたアイオロスは、攻撃態勢を作るためにその隙間へと入っていく。……これがルナルによって作られた罠とも知らずに。
「鳳華落翼撃!」
わざと作った隙間に誘い込んだルナルは、アイオロス目がけて炎をまとって急降下攻撃を繰り出す!
「ちぃっ! 小賢しい真似をっ!」
何という事だろうか。誘い込まれた瞬間に放たれたこの攻撃を、アイオロスは躱してしまう。だが、さすがに完全に躱しきれなかったようで、頬と腕に攻撃がかすって傷が付いていた。
「う……ぐっ……。てめえ、よくもやりやがったな! もはや女だろうと関係ねえっ! 俺様の風でみじん切りにしてくれる!」
肌を焦がされた上に切り傷までつけられたアイオロスのプライドは、見える傷以上に大きく傷付けられたようである。
アイオロスが叫んだ瞬間、闘技場内に暴風が吹き荒れ始めた。どうやらプライドを傷付けられた事で、アイオロスが自身の魔力を大きく爆発させたようだった。その凄まじさはというと、闘技場内を埋め尽くしていたルナルの炎を一瞬ですべて消し去ってしまうくらいだった。これにはさすがのルナルも驚きを隠せないようだ。
(さすがは五色龍の一体である疾風龍……。相性をものともせずに、私の炎をすべて吹き飛ばして消してしまうとは……)
ルナルがそう思った瞬間だった。突然、ルナルの頬に激痛が走る。
(これは……?)
ルナルが気になって頬に触れてみれば、触れた手に血がついていたのだ。どうやら、突風に紛れて鋭い一撃が飛んできていたようである。
「うふ、ふふふふ……。この私に傷を負わせるとは……ね。マスターに言わせれば若いドラゴンのようですけれど、さすがは五色龍にその名を連ねた実力者ですね」
傷を負わされた事にショックを受けるどころか、むしろ怖い笑みを浮かべるくらいに高揚しているようである。
ルナルは再び構えを取り、怒りに打ち震えて暴風を巻き起こしているアイオロスへと視線を向けたのだった。
ルナルが自分の武器である炎槍『フラムグレイブ』を持っているのに対し、アイオロスはなんと手ぶらであり、これといって何かを取り出すような様子はない。
(体術使いでしょうか。ですが、相手は疾風龍。何が飛び出してくるかは分かりませんね。となると……)
槍を構えながらアイオロスの分析を行うルナル。だが、相手が未知の存在となると、ルナルはこの手しかないと腹を括る。
「それじゃ二人ともいいな。始め!」
マスターが開始の合図を行う。
「先手必勝! 槍竜閃!」
ルナルは開始と同時に槍を突いて強力な一撃を放つ。そう、ルナルが出した結論は先手を取る事だった。自分のペースに持ち込んでしまえば、相手の攻撃手段など封じる事ができると考えたのだ。
槍から繰り出された鋭い渦巻く衝撃波だが、アイオロスは余裕で躱す。
だが、この程度はルナルにとっても予想の範疇だ。すかさず次の攻撃を繰り出す。
ルナルが手をかざすと、今度はゴオッといくつもの炎の筋が走る。
次の手をしてルナルが使ったのは、なんと魔法だった。しかも驚くべき事に無詠唱による発動である。さすがにこれにはアイオロスも驚いていた。
「なんだと?! これは上級の炎の魔法『サンシャイン』じゃねえか。それを無詠唱で放つだと?!」
そう、これはシグムス城の地下でルルがやっとの思いで発動させていた人間の魔法である『サンシャイン』である。だが、そんな魔法も、魔王であるルナルにかかればこの通りだった。炎の属性を得意とするルナルにとって人間の魔法だろうと苦も無く放てるし、その上で無詠唱でも扱えてしまうのである。
「ふん、さすがに驚かされたが、この程度遅すぎる!」
アイオロスは持ち前のスピードで、襲い来る炎の無数の筋を躱していく。躱しながらルナルとの距離も詰めていくあたり、アイオロスもそれなりに戦い慣れをしているようだった。
だが、ルナルだってこれで終わりなわけがない。当然のように次なる手を繰り出していた。
今度は槍の先から炎の塊を飛ばしていくルナル。ところが、その炎はアイオロス目がけて飛んでいった後、弾け飛んで炎の雨と変化する。
これは炎の炸裂弾である『フレイムクラスター』だ。『サンシャイン』や『エクスプロード』よりは劣るものの、広範囲に炎を散らせる魔法で、『ファイアーボール』の上位魔法にあたる。
ルナルによるこれでもかと言わんばかりの炎の魔法の連発。しかもすべてが無詠唱。さすがに風属性を持っているアイオロスにとっては相性の悪い属性だけに、少々苛立ちを強めていた。その苛立ちゆえに、風で炎を吹き飛ばす事など忘れてしまうくらいだった。
それでも、『疾風龍』の二つ名は伊達ではなかった。これだけ隙間なく降り注ぐ炎の魔法にもかかわず、実はわずかな隙間が生じている。その隙間を掻い潜って、アイオロスはルナルへの攻撃のタイミングを窺っている。
その時だった。炎の中に大きな隙間ができた。これを見つけたアイオロスは、攻撃態勢を作るためにその隙間へと入っていく。……これがルナルによって作られた罠とも知らずに。
「鳳華落翼撃!」
わざと作った隙間に誘い込んだルナルは、アイオロス目がけて炎をまとって急降下攻撃を繰り出す!
「ちぃっ! 小賢しい真似をっ!」
何という事だろうか。誘い込まれた瞬間に放たれたこの攻撃を、アイオロスは躱してしまう。だが、さすがに完全に躱しきれなかったようで、頬と腕に攻撃がかすって傷が付いていた。
「う……ぐっ……。てめえ、よくもやりやがったな! もはや女だろうと関係ねえっ! 俺様の風でみじん切りにしてくれる!」
肌を焦がされた上に切り傷までつけられたアイオロスのプライドは、見える傷以上に大きく傷付けられたようである。
アイオロスが叫んだ瞬間、闘技場内に暴風が吹き荒れ始めた。どうやらプライドを傷付けられた事で、アイオロスが自身の魔力を大きく爆発させたようだった。その凄まじさはというと、闘技場内を埋め尽くしていたルナルの炎を一瞬ですべて消し去ってしまうくらいだった。これにはさすがのルナルも驚きを隠せないようだ。
(さすがは五色龍の一体である疾風龍……。相性をものともせずに、私の炎をすべて吹き飛ばして消してしまうとは……)
ルナルがそう思った瞬間だった。突然、ルナルの頬に激痛が走る。
(これは……?)
ルナルが気になって頬に触れてみれば、触れた手に血がついていたのだ。どうやら、突風に紛れて鋭い一撃が飛んできていたようである。
「うふ、ふふふふ……。この私に傷を負わせるとは……ね。マスターに言わせれば若いドラゴンのようですけれど、さすがは五色龍にその名を連ねた実力者ですね」
傷を負わされた事にショックを受けるどころか、むしろ怖い笑みを浮かべるくらいに高揚しているようである。
ルナルは再び構えを取り、怒りに打ち震えて暴風を巻き起こしているアイオロスへと視線を向けたのだった。
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