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第三章『それぞれの道』
魔王 対 疾風龍
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貧民街のごたごたの後、どういうわけかルナルたちの姿はイプセルタにある闘技場にあった。
まったくもって状況が理解できないかも知れないが、現在のイプセルタには厳戒態勢が敷かれている事に原因があった。そんな状況下にあるにもかかわらず、建物が崩れるなどの被害が出るほどの行為が行われたがために、警備隊に連行されてしまったというわけだった。それは、いくら追いはぎたちから身を守るための正当防衛とはいえ、それをはるかに超えた破壊行動だったがために、無罪放免とはいかなかったのである。
そうした中、マスターと智将の二人が頑張って警備隊を説得したがために、なんとかマスター預かりという形で解放された。その際にマスターは警備隊に思いっきり戦える場所はないかと尋ねていた。その結果がこの現状というわけである。
「マスター、状況の説明をお願いします」
ルナルはとても怒っている。闘技場に連れてこられたのはもちろんの事、件のアイオロスが暴れ足りないとごねているからだ。その結果、消去法でルナルが戦う事になってしまったのだから、怒るなという方が無理なのだ。
「悪いな、ルナル。ちょっくら相手してやってくれ」
「あのですね。いつも巻き込まれるこちらの身になってくれませんか?!」
マスターが謝っているものの、ルナルの怒りが収まるわけもなかった。
「いやあ、本当に悪いとは思ってるが、いっその事ここで大暴れしてくれれば、こいつもおとなしくシッタに戻ってくれるはずだ」
「はあ、とにかく思いっきり暴れさせればいいわけですよね?」
「ま、そういうこった。頼んだぞ、ルナル」
マスターの態度がどこか楽しんでいるようなので、ルナルは呆れ果てて頭を左右に振っている。だが、すぐに顔を上げて、アイオロスを見ている。そして、その顔はどういうわけか楽しそうに笑っていた。
「正直面倒ですが、五色龍と戦えるまたとない機会ですからね。ちょっとは楽しめそうですね」
ルナルは自身の槍である『フラムグレイブ』を取り出す。
「私の得意属性は『炎』です。アイオロスは疾風龍の名の通り風属性でしょうから、属性の相性上は私の方が有利なんですよね」
ルナルは闘技場の隅の方でイライラと立っているアイオロスを見ながら、そう分析している。
「確かに、属性の相性上はそうだろうが、相手が五色龍となれば、その常識がどこまで通用するものかな?」
智将は冷静に分析している。
「ですね。こればかりはやって見ないと分かりませんね」
そういうルナルは、すでに準備万端のようだった。
「おい、いつまでふて腐れてるんだ。さすがに遠慮せずにやり過ぎたんだから、今回はお前が悪い。時期が悪いのもあるが、あれだけ派手に壊しちまったんだ。正直、これだけ庇えただけマシだぞ」
マスターは苛つきを隠せないアイオロスに声を掛ける。するとアイオロスはマスターに食いかかってきた。
「うるせえっ! なんだって俺がこんな目に遭わなきゃならねえんだ……」
マスター相手にも敬語を使わなくなったアイオロス。一瞬マスターと目が合うものの、すぐに逸らしてすぐさまぶつぶつと文句を言い続けていた。
「まあそうカリカリすんな。そのためにこの闘技場を貸してもらったんだからな。ほれ、あっちを見てみろ」
「ああ?!」
マスターの声に不機嫌丸出しで反応するアイオロス。マスターの指し示した方向を見ると、そこではルナルが体をほぐしていた。
「お前はこれからあいつと戦うんだ。実にいい勝負をすると思うぞ」
「はあ? なんであんな女と戦わなきゃならねえんだ。五色龍がハンターごときに負けるとでもいうのか?」
マスターのご機嫌そうな言葉とは対照的に、アイオロスの機嫌は相変わらず悪い。ルナルの事もただのハンターだと思って見下しているようである。
「おいおい、あいつは俺の率いるギルドでも最高クラスのハンターだぞ」
底抜けの明るさでマスターがルナルの紹介を始める。相変わらずアイオロスの機嫌は悪い。
「それにだ。あいつは俺の正体を知ってるし、ドラゴン形態の俺といい勝負をするんだぞ? ……どうだ、アイオロス。面白くないか?」
マスターのこの言葉に、アイオロスの耳がぴくりと動く。ハンターごときがマスタードラゴンと勝負になると聞いて、急に興味が湧いたようだった。
「はっ、あんな細腕の女に、そんな力があるってのか? マスター、俺の事をからかってねえよね?」
相変わらず敬語が吹き飛んでいるアイオロスだが、マスターの言葉を聞いてルナルの事を凝視しているようである。そして、ルナルの方へと近付いていく。
「おい、女!」
「何でしょうか、暴れん坊さん」
女と適当な言い方をしてくれたので、ルナルの方も負けじと煽るように言葉を返す。
「マスターといい勝負をするらしいが、俺はそんなのは信じねえ。だから、俺の不満の捌け口になってもらうぜ!」
「あらあら、ずいぶんと言ってくれますね。後で泣いても知りませんからね?」
自信たっぷりに見下してくるアイオロスに対し、ルナルもにこにこしながらしっかり応戦している。そのルナルの態度に、アイオロスはさらにキレている。
「はっ! ……その態度、気に食わねえな。泣こうが叫ぼうが、ずたずたになるまで俺の風で切り刻んでやる!」
「ふふっ、やれるものならやってみて下さい」
煽り合う二人の間に、マスターが割って入る。
「おいおい、盛り上がるのはいいが、ちょっくら待て」
二人を止めると、マスターはぬんと気合いを入れる。すると、辺りを不思議な光が包み込んでいた。
「これでこの闘技場が壊れる事はない。二人とも、思う存分暴れて大丈夫だからな」
「はははっ、ありがてえ! 俺の風ですべてをみじん切りにしてやるぜ!」
どす黒い笑顔を浮かべて笑うアイオロス。その姿はもはやただの悪役である。そのアイオロスの姿を、ルナルたち三人は呆れた様子で見ている。
「それじゃ、智将殿はその隅辺りで見ていてくれ」
「うむ、この辺りかな?」
「そうそう、その辺でいい。ぬうんっ!」
マスターが気合いを入れ直すと、智将の近辺にも不思議な光があふれかえった。
「こいつらが本気でやり合うと、智将殿はひとたまりもないだろうからな。とりあえずこれで安心のはずだ」
「すまないな」
智将への対応を終えると、マスターはルナルとアイオロスを連れて、闘技場の中央へと移動する。
「さてと、勝負の内容は時間無制限、勝敗は降参または気絶した時点で決する。これでいいな?」
マスターの問い掛けに、二人揃って頷く。
こうして、魔王と疾風龍による戦いの火ぶたが切って下ろされたのだ。
まったくもって状況が理解できないかも知れないが、現在のイプセルタには厳戒態勢が敷かれている事に原因があった。そんな状況下にあるにもかかわらず、建物が崩れるなどの被害が出るほどの行為が行われたがために、警備隊に連行されてしまったというわけだった。それは、いくら追いはぎたちから身を守るための正当防衛とはいえ、それをはるかに超えた破壊行動だったがために、無罪放免とはいかなかったのである。
そうした中、マスターと智将の二人が頑張って警備隊を説得したがために、なんとかマスター預かりという形で解放された。その際にマスターは警備隊に思いっきり戦える場所はないかと尋ねていた。その結果がこの現状というわけである。
「マスター、状況の説明をお願いします」
ルナルはとても怒っている。闘技場に連れてこられたのはもちろんの事、件のアイオロスが暴れ足りないとごねているからだ。その結果、消去法でルナルが戦う事になってしまったのだから、怒るなという方が無理なのだ。
「悪いな、ルナル。ちょっくら相手してやってくれ」
「あのですね。いつも巻き込まれるこちらの身になってくれませんか?!」
マスターが謝っているものの、ルナルの怒りが収まるわけもなかった。
「いやあ、本当に悪いとは思ってるが、いっその事ここで大暴れしてくれれば、こいつもおとなしくシッタに戻ってくれるはずだ」
「はあ、とにかく思いっきり暴れさせればいいわけですよね?」
「ま、そういうこった。頼んだぞ、ルナル」
マスターの態度がどこか楽しんでいるようなので、ルナルは呆れ果てて頭を左右に振っている。だが、すぐに顔を上げて、アイオロスを見ている。そして、その顔はどういうわけか楽しそうに笑っていた。
「正直面倒ですが、五色龍と戦えるまたとない機会ですからね。ちょっとは楽しめそうですね」
ルナルは自身の槍である『フラムグレイブ』を取り出す。
「私の得意属性は『炎』です。アイオロスは疾風龍の名の通り風属性でしょうから、属性の相性上は私の方が有利なんですよね」
ルナルは闘技場の隅の方でイライラと立っているアイオロスを見ながら、そう分析している。
「確かに、属性の相性上はそうだろうが、相手が五色龍となれば、その常識がどこまで通用するものかな?」
智将は冷静に分析している。
「ですね。こればかりはやって見ないと分かりませんね」
そういうルナルは、すでに準備万端のようだった。
「おい、いつまでふて腐れてるんだ。さすがに遠慮せずにやり過ぎたんだから、今回はお前が悪い。時期が悪いのもあるが、あれだけ派手に壊しちまったんだ。正直、これだけ庇えただけマシだぞ」
マスターは苛つきを隠せないアイオロスに声を掛ける。するとアイオロスはマスターに食いかかってきた。
「うるせえっ! なんだって俺がこんな目に遭わなきゃならねえんだ……」
マスター相手にも敬語を使わなくなったアイオロス。一瞬マスターと目が合うものの、すぐに逸らしてすぐさまぶつぶつと文句を言い続けていた。
「まあそうカリカリすんな。そのためにこの闘技場を貸してもらったんだからな。ほれ、あっちを見てみろ」
「ああ?!」
マスターの声に不機嫌丸出しで反応するアイオロス。マスターの指し示した方向を見ると、そこではルナルが体をほぐしていた。
「お前はこれからあいつと戦うんだ。実にいい勝負をすると思うぞ」
「はあ? なんであんな女と戦わなきゃならねえんだ。五色龍がハンターごときに負けるとでもいうのか?」
マスターのご機嫌そうな言葉とは対照的に、アイオロスの機嫌は相変わらず悪い。ルナルの事もただのハンターだと思って見下しているようである。
「おいおい、あいつは俺の率いるギルドでも最高クラスのハンターだぞ」
底抜けの明るさでマスターがルナルの紹介を始める。相変わらずアイオロスの機嫌は悪い。
「それにだ。あいつは俺の正体を知ってるし、ドラゴン形態の俺といい勝負をするんだぞ? ……どうだ、アイオロス。面白くないか?」
マスターのこの言葉に、アイオロスの耳がぴくりと動く。ハンターごときがマスタードラゴンと勝負になると聞いて、急に興味が湧いたようだった。
「はっ、あんな細腕の女に、そんな力があるってのか? マスター、俺の事をからかってねえよね?」
相変わらず敬語が吹き飛んでいるアイオロスだが、マスターの言葉を聞いてルナルの事を凝視しているようである。そして、ルナルの方へと近付いていく。
「おい、女!」
「何でしょうか、暴れん坊さん」
女と適当な言い方をしてくれたので、ルナルの方も負けじと煽るように言葉を返す。
「マスターといい勝負をするらしいが、俺はそんなのは信じねえ。だから、俺の不満の捌け口になってもらうぜ!」
「あらあら、ずいぶんと言ってくれますね。後で泣いても知りませんからね?」
自信たっぷりに見下してくるアイオロスに対し、ルナルもにこにこしながらしっかり応戦している。そのルナルの態度に、アイオロスはさらにキレている。
「はっ! ……その態度、気に食わねえな。泣こうが叫ぼうが、ずたずたになるまで俺の風で切り刻んでやる!」
「ふふっ、やれるものならやってみて下さい」
煽り合う二人の間に、マスターが割って入る。
「おいおい、盛り上がるのはいいが、ちょっくら待て」
二人を止めると、マスターはぬんと気合いを入れる。すると、辺りを不思議な光が包み込んでいた。
「これでこの闘技場が壊れる事はない。二人とも、思う存分暴れて大丈夫だからな」
「はははっ、ありがてえ! 俺の風ですべてをみじん切りにしてやるぜ!」
どす黒い笑顔を浮かべて笑うアイオロス。その姿はもはやただの悪役である。そのアイオロスの姿を、ルナルたち三人は呆れた様子で見ている。
「それじゃ、智将殿はその隅辺りで見ていてくれ」
「うむ、この辺りかな?」
「そうそう、その辺でいい。ぬうんっ!」
マスターが気合いを入れ直すと、智将の近辺にも不思議な光があふれかえった。
「こいつらが本気でやり合うと、智将殿はひとたまりもないだろうからな。とりあえずこれで安心のはずだ」
「すまないな」
智将への対応を終えると、マスターはルナルとアイオロスを連れて、闘技場の中央へと移動する。
「さてと、勝負の内容は時間無制限、勝敗は降参または気絶した時点で決する。これでいいな?」
マスターの問い掛けに、二人揃って頷く。
こうして、魔王と疾風龍による戦いの火ぶたが切って下ろされたのだ。
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