神槍のルナル

未羊

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第三章『それぞれの道』

その術は『召喚術』

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「来て下さい、ウンディーネ!」
 ルルのこの言葉に反応して、魔法陣が青い光を眩く放つ。そして、その光の中から全身青色の長い髪の女性が現れた。
「……私を呼び出したのは、あなたですか?」
 女性はルルを見て、静かに問い掛ける。
「……はい」
 少したじろぎはしたものの、ルルは問いに答える。
「……なにゆえ、私を呼び出したのですか?」
「あのドラゴンを倒すためです」
 ルルがトールに視線を向けて、指を差しながら力強く答える。
 それを追うようにして、女性はルルの指し示した方向を見る。そこには全身に雷をまとった黄色く光るドラゴンが居た。
「あれは……五色龍が一体『雷帝龍トール』ですね。なぜ彼がこのような場所に居るのでしょうか」
 女性は首を捻って考える。だが、すぐに何かを悟ったようだ。
「なるほど、あの人の戯れというわけですか。やれやれ、困ったものですね」
 このように愚痴のような事を呟く女性だが、ルルはどういう事なのかまったく理解できなかった。
 だが、女性はそんなルルの反応を気にする事なく、ルルに向き直って優しく微笑んでいる。
「事情は分かりました。本来ならそう簡単に力はお貸ししませんが、『召喚術』なんて実に久しいものを見せて頂きましたからね、この水の精霊『ウンディーネ』、あなたに力を貸しましょう」
 にっこりと微笑みを向けられたルルは、とても驚いていた。ここまでの結果が得られるなんて、思ってもみなかったからだ。つまり、呼び出すだけでも賭けで、後の結果についてはまったく考えていなかったというわけである。
「さて、可愛い幼き精霊さん。私に何をしてもらいたいのですか?」
 ウンディーネの表情がみるみる険しくなる。その力強い視線に飲まれそうになるルルだったが、ぎゅっと強く手を握ってウンディーネに告げる。
「この場を水のマナで埋め尽くして下さい!」
「そうですか……。ただ、ここは書庫のようですね。ですので本に害が及ばないようにしながら、その望みを叶えてあげましょう」
 ウンディーネはゆっくりと両手を掲げる。すると、周りの空気がじわじわと青く染まっていくような不思議な感覚になる。
「ぐっ……」
 それと同時にトールが苦悶の声を上げる。弱点である水のマナに満たされた事で、トールの雷が散り始めたのだ。
 一方、ミレルの両手にまとう水の力が一気に復活したように感じられた。ミレルはその状況に思わず驚き、ルルの方を再度確認する。そこには青く光る女性の姿が見えた。
(あれは……水の精霊ウンディーネ?! 魔王城の書庫にある本の中で見たような気がしましたが、まさか実在しているなんて……。そのウンディーネがルルちゃんの横に居るという事は、ルルちゃんが呼び出したという事かしら?)
 青く強く光ったせいで、その瞬間を見ていなかったがために、ミレルにはこんな疑問が湧いていた。しかし、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。急激に水の力が増した事で、トールが苦しんでいる。今こそ倒すチャンスなのである。
「セインくん、どうやら今は、トールは弱体化しているようです。私が隙を作りますので、タイミングを見計らって斬り掛かって下さい!」
「分かったぜ!」
 ミレルの作戦っぽくない作戦に、セインは元気よく返事をする。
 場には水のマナがあふれている。ミレルはそれを利用して、無詠唱でウォーターボールを放ったり、両手足に水をまとわせてトールを攻撃していく。
 ウンディーネの力により、まるで水中の中に居るかのような膨大な水のマナの量だが、水中との違いは動きがまったく鈍らない点である。猫人であるミレルの動きは、切れの良さを取り戻していた。
 だが、これだけ有利になっても、トールは油断の許されない強敵である。長引けば体力面でドラゴンに軍配が上がってしまう。いかに体力に余力がある間に勝負をつけられるか。実に時間の問題というわけである。
「場に水のマナが満ちあふれているとはいえ、この程度で勝てると思っているのなら、我も舐められたものよ! うぬらごときの単調な攻撃、我に通じると思うな!」
 動きの良さという点ではミレルとセインに軍配が上がる。だが、マスタードラゴンに使える五色の龍の一体であるトールには、あまり枷にはならないようである。動きが鈍るという状況下にありながら、ミレルとセインの攻撃を同時に受けても、それを凌いでみせていた。
 ミレルからは水球と水をまとった打撃、セインからは小刻みに放たれる斬破。双方合わせれば相当な頻度で攻撃にさらされているというのに、トールの牙城は崩れる事を知らなかった。ミレルとセインも決め手に欠けていたのだ。
 もう一押しが足りない。
 ミレルがそう考えていた時、ルルの居る方向から、何やらとんでもなく強い魔力を感じた。
「な、なんですか、これは!」
 思わずミレルが振り向くと、ルルが居るだろう場所に、青い魔力が渦巻き始めていたのだ。その光景に、ミレルは思わず手を止めて見入ってしまう。そして、その隙をトールが見逃すはずもなかった。
「よそ見をするとは愚かな! 戦場では一瞬の油断が命取りぞ!」
 トールはミレル目がけて尻尾を振り回す。気の散っていたミレルに、思い切り尻尾が命中する。
「ぐはっ!」
「ミレルさん!」
 ミレルは派手に吹っ飛んでいく。だが、命中の瞬間も素早く反応したために、持ち前の身体能力で見事にくるりと回って着地していた。それでもかなり強力だったようで、腕を押さえていた。痛そうにしてはいるが、すぐさま治癒魔法を使っているので、どうやら大丈夫そうである。
「私なら大丈夫です。何をするつもりか知らないですが、魔力の感じからすると大技のようですね。思いっきりやってしまって下さい」
「はいっ!」
 召喚術によって大きく消耗していたルルだったが、ウンディーネのマナで満たされているために、水属性の魔法なら思ったより軽い負担で強い魔法が放てそうだと考えた。そのためにわずかな魔力でありながらも、大技を使う魔力のチャージが素早く完了できたのだ。
「水よ、大きく渦巻き、敵を飲み込み切り刻め!」
 ミレルへと追撃しようとしていたトールに対し、素早く詠唱を終えたルルは、遠慮なく大技の魔法を放つ。
「メイルシュトローム!」
 その瞬間、トールの足元に大きな水の渦が出現したのであった。
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