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第三章『それぞれの道』
シグムス城の地下6・雷帝龍トール
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ミレルたちが身構えると、ドラゴンもまた戦闘態勢を取った。
「我が名は『雷帝龍トール』! マスタードラゴンに仕えし、五色の竜の一体! うぬらの力……見させてもらおう!」
トールの咆哮が書庫内に響き渡る。
辺りの空気がビリビリと震え、ミレルたちに底知れない緊張が走った。
「私が武術と魔法で接近戦を挑んで、あのドラゴン……トールの気を引きます。セインくんは距離を取りながら戦って下さい。ルルちゃんは魔法で援護をお願いします」
「分かった」
「はい!」
ミレルが作戦を伝えると、二人から元気よく返事があった。そして、改めてトールを見る。
「……サーチが効きませんね。どうやら、先程の失敗はトールの影響のようです」
ふうっと、ミレルはひとつ深呼吸をする。
「獣人の視力で見てみましたが、トールの体が雷に包まれています。通常、雷属性を持つものは水と風を弱点とします。そして、炎は効きづらくなります。できれば弱点を突いて攻撃したいですね」
この言葉と同時にミレルが構えると、続いてセインも構える。いざ攻撃だと思った時だった。
「ごめんなさい、戦いの前にちょっと魔法をいいですか?」
ルルがミレルたちに声を掛ける。そして、答えを待つ事なく詠唱を始める。
「ん、何を?」
「エーテルエクステンション!」
ルルが魔法を発動させると、ミレルたち三人の体が淡く光り始める。そして、気のせいか、少し力がみなぎってくる気がした。
「これは……?」
「潜在能力を引き出す魔法です。欠点は見ての通り光ってしまう事ですが、あのドラゴンに小細工は通じないと思います。あともう一つ、持続時間があまり長くない事ですね。頃合いを見て掛け直します」
「ふむ、確かに。光るという欠点はありますけれど、これなら少しはやり合えそうですね」
ミレルが笑ったのを見て、ルルも少し元気が出たようだ。
「あ、セインさんは調子に乗らないで下さいよ。ただでさえ危なっかしいんですから」
「うるせえ!」
ルルが念のため突っ込むと、セインが怒っていた。
「まあ、けんかはやめましょう。そろそろ戦いを始めませんとね。あちらさんはどういうわけか待ってくれていますし」
ミレルが言うのでセインたちがトールを見る。確かに、構えてはいるが何かをしてくるというわけではなさそうだった。
「……話は終わったか? 待ちくたびれたぞ」
「お待たせしました。では、お望み通り、私たちの力をお見せしましょう」
ミレルはそう言うと、真っ先に動き出す。
それに合わせてトールが迎え撃つようにしてブレスを吐く。
「おらあっ!」
セインが斬破を放ってブレスを斬り裂く。そのおかげでブレスはミレルに届かなかった。少し驚いたようなトールの隙を狙って、セインがもう一度斬破を放つ。
「猪口才な!」
ブレスを斬り裂いたとはいえど、この斬破の威力は大した事はないと判断したトールは、その手で斬破を止めようとする。だが、その斬破に違和感を感じたトールは、急遽てから雷を放って斬破を相殺した。
その際にトールの動きが一瞬止まった事を、ミレルは見逃さなかった。
素早くトールの真下に潜り込むと、トールの腹部に正拳突きを叩き込む。虚を突いた事で、思わずトールが少しだけ後ろに下がる。
「ぐぅ……。その拳、水をまとわせているのか」
わずかではあるものの自分をノックバックさせた攻撃を、トールはそう分析した。
「ええ、その通りですよ。もっとも、この砂漠の地で集められる水の力なんてたかが知れてますけれどね」
よく見ると、ミレルはその手に水を、その足に土の力をまとわせていた。そして、それらから拳や蹴りを繰り出していく。猫人の素早さも相まってか、思いの外トールに対して優勢に戦いを進めている。
ところが、その後方ではルルが苦戦をしていた。
その理由がここに漂うマナの存在だ。オアシスから離れた場所の砂漠の地下とあって、五色のうち火と土の魔法しかうまく発動できないのである。ミレルは水を使っているのだが、ルルはまだ未熟なせいかうまくマナを集められなかったのだ。そして、この火と土の魔法は、雷とは相性がそんなに良くないときている。ルルは正直補助魔法しか使えない手詰まり状態だったのだ。
それでもルルはなんとかしてトールを攻撃しようとする。
「大地に秘められし力よ。うねりとなって敵を食らえ! アースフラッド!」
なんとか使えないかとして発動したのは、ゴブリックの使った『グランドフラッド』の下位にあたる『アースフラッド』だった。だが、この狭い空間では当たる可能性が高いうねる土属性の魔法だ。ところが、その魔法はトールに見事命中したにもかかわらず、雷の衣を突き抜ける事ができなかったのだった。
「そ、そんな……」
あまりの無力さに、ルルは動きを止めてしまう。だが、そんな隙をトールが見逃してくれるわけもなかった。
「棒立ちとは感心しないな!」
ミレルとセインの攻撃を凌ぎながら、トールがルルに向けてブレスを吐く。
「あっ!」
急な事で反応が遅れてしまったルル。その場を動く事も魔法を使う事もできず、つい体の前で両腕を構えてしまう。ところが、そこに襲い掛かってきているのは五色龍の一体雷帝龍のブレスだ。まともに食らっていいものではなかった。
このルルのピンチに動いたのは、なんとセインだった。
「うおおおおおっ!!」
大声で叫びながら、セインはブレスに向けて剣を力いっぱい振り抜いたのだった。
「我が名は『雷帝龍トール』! マスタードラゴンに仕えし、五色の竜の一体! うぬらの力……見させてもらおう!」
トールの咆哮が書庫内に響き渡る。
辺りの空気がビリビリと震え、ミレルたちに底知れない緊張が走った。
「私が武術と魔法で接近戦を挑んで、あのドラゴン……トールの気を引きます。セインくんは距離を取りながら戦って下さい。ルルちゃんは魔法で援護をお願いします」
「分かった」
「はい!」
ミレルが作戦を伝えると、二人から元気よく返事があった。そして、改めてトールを見る。
「……サーチが効きませんね。どうやら、先程の失敗はトールの影響のようです」
ふうっと、ミレルはひとつ深呼吸をする。
「獣人の視力で見てみましたが、トールの体が雷に包まれています。通常、雷属性を持つものは水と風を弱点とします。そして、炎は効きづらくなります。できれば弱点を突いて攻撃したいですね」
この言葉と同時にミレルが構えると、続いてセインも構える。いざ攻撃だと思った時だった。
「ごめんなさい、戦いの前にちょっと魔法をいいですか?」
ルルがミレルたちに声を掛ける。そして、答えを待つ事なく詠唱を始める。
「ん、何を?」
「エーテルエクステンション!」
ルルが魔法を発動させると、ミレルたち三人の体が淡く光り始める。そして、気のせいか、少し力がみなぎってくる気がした。
「これは……?」
「潜在能力を引き出す魔法です。欠点は見ての通り光ってしまう事ですが、あのドラゴンに小細工は通じないと思います。あともう一つ、持続時間があまり長くない事ですね。頃合いを見て掛け直します」
「ふむ、確かに。光るという欠点はありますけれど、これなら少しはやり合えそうですね」
ミレルが笑ったのを見て、ルルも少し元気が出たようだ。
「あ、セインさんは調子に乗らないで下さいよ。ただでさえ危なっかしいんですから」
「うるせえ!」
ルルが念のため突っ込むと、セインが怒っていた。
「まあ、けんかはやめましょう。そろそろ戦いを始めませんとね。あちらさんはどういうわけか待ってくれていますし」
ミレルが言うのでセインたちがトールを見る。確かに、構えてはいるが何かをしてくるというわけではなさそうだった。
「……話は終わったか? 待ちくたびれたぞ」
「お待たせしました。では、お望み通り、私たちの力をお見せしましょう」
ミレルはそう言うと、真っ先に動き出す。
それに合わせてトールが迎え撃つようにしてブレスを吐く。
「おらあっ!」
セインが斬破を放ってブレスを斬り裂く。そのおかげでブレスはミレルに届かなかった。少し驚いたようなトールの隙を狙って、セインがもう一度斬破を放つ。
「猪口才な!」
ブレスを斬り裂いたとはいえど、この斬破の威力は大した事はないと判断したトールは、その手で斬破を止めようとする。だが、その斬破に違和感を感じたトールは、急遽てから雷を放って斬破を相殺した。
その際にトールの動きが一瞬止まった事を、ミレルは見逃さなかった。
素早くトールの真下に潜り込むと、トールの腹部に正拳突きを叩き込む。虚を突いた事で、思わずトールが少しだけ後ろに下がる。
「ぐぅ……。その拳、水をまとわせているのか」
わずかではあるものの自分をノックバックさせた攻撃を、トールはそう分析した。
「ええ、その通りですよ。もっとも、この砂漠の地で集められる水の力なんてたかが知れてますけれどね」
よく見ると、ミレルはその手に水を、その足に土の力をまとわせていた。そして、それらから拳や蹴りを繰り出していく。猫人の素早さも相まってか、思いの外トールに対して優勢に戦いを進めている。
ところが、その後方ではルルが苦戦をしていた。
その理由がここに漂うマナの存在だ。オアシスから離れた場所の砂漠の地下とあって、五色のうち火と土の魔法しかうまく発動できないのである。ミレルは水を使っているのだが、ルルはまだ未熟なせいかうまくマナを集められなかったのだ。そして、この火と土の魔法は、雷とは相性がそんなに良くないときている。ルルは正直補助魔法しか使えない手詰まり状態だったのだ。
それでもルルはなんとかしてトールを攻撃しようとする。
「大地に秘められし力よ。うねりとなって敵を食らえ! アースフラッド!」
なんとか使えないかとして発動したのは、ゴブリックの使った『グランドフラッド』の下位にあたる『アースフラッド』だった。だが、この狭い空間では当たる可能性が高いうねる土属性の魔法だ。ところが、その魔法はトールに見事命中したにもかかわらず、雷の衣を突き抜ける事ができなかったのだった。
「そ、そんな……」
あまりの無力さに、ルルは動きを止めてしまう。だが、そんな隙をトールが見逃してくれるわけもなかった。
「棒立ちとは感心しないな!」
ミレルとセインの攻撃を凌ぎながら、トールがルルに向けてブレスを吐く。
「あっ!」
急な事で反応が遅れてしまったルル。その場を動く事も魔法を使う事もできず、つい体の前で両腕を構えてしまう。ところが、そこに襲い掛かってきているのは五色龍の一体雷帝龍のブレスだ。まともに食らっていいものではなかった。
このルルのピンチに動いたのは、なんとセインだった。
「うおおおおおっ!!」
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