神槍のルナル

未羊

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第三章『それぞれの道』

シグムス城の地下3・魔物の群れ

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 ミレルたちはシグムス城の地下を書庫へと向けてひたすら進む。
 だが、最初に数体サンドクロウラが出てきた以降は、これといって魔物は出現していない。実はこれには理由があった。
「念のために穴を塞いでもらって正解でしたね」
「まったくだな。魔物の巣窟になっていると言っていたのに、まったく出てくる気配がないぜ」
 そう、ルルの魔法で横穴を全部塞いでもらったのだ。
 なぜルルに魔法を使ってもらったのかというと、ミレルは先のサンドクロウラとの戦いで無詠唱魔法を使って少し消耗していたからだ。そもそも戦闘民族である猫人なので、魔力量はたかが知れているのだ。ちなみにルルが穴を塞ぐのに使った魔法は『アースウォール』という魔法である。文字通り土の壁を出現させる魔法なのだが、ルルの魔法が思ったより使ったらしく、魔物は地下通路に戻って来れなくなったようなのだ。なので、ミレルたちは安全に地下を進んでいるのである。
「ものすごく頑丈みたいですからね、これなら新たに掘らない事にはサンドクロウラたちはここには戻って来れないでしょう。しかし、油断は禁物です。他にも魔物が居る可能性がありますからね」
「どんな魔物が来ようと、倒してみせるぜ!」
 セインが意気込むと、ミレルは微笑ましく笑っていた。
 だが、ちょうど少し広い部屋に出た時だった。ミレルが急に立ち止まった。セインがよそ見をしていてその背中に思い切りぶつかってしまう。
「いってぇ……、急にどうしたんだよ」
 セインが問い掛けるものの、ミレルは当たりを見回している。だが、薄暗い部屋の中には瓦礫が散乱しているものの、何かが居るようには見えなかった。
「参りましたね……、どうやら囲まれているようです」
「囲まれ?! 一体何が居るってんだよ」
 ミレルの言葉に、セインが反応したその時だった。
「ひぃっ! き、気持ち悪ーい!」
 ルルの悲鳴が響き渡った。
 その声にミレルが灯している光を強めると、床はおろか壁や天井に至るまで、無数のねばねばした物体、スライムがひしめき合っていたのだ。この光景に悲鳴を上げるなという方が無理だった。
「な、何なんだよ、こいつら!」
「この魔物はスライムです。弾力のある体を持つがゆえに、物理攻撃は一切通じないと思って下さい。なにせ、生半可に攻撃しようなら分裂して増えていく厄介な魔物ですからね。それに……あれを見て下さい」
 ミレルが指差すスライムを見る。そのスライムの体内には、何やら骨の方なものが見えている。
「スライムたちは基本的に雑食です。骨が見えるという事は、あいつらは動物を捕食して食べているという事ですね」
 ミレルの説明の最中に、ネズミが一匹通りかかる。そのネズミをスライムが感知したらしく、素早くネズミを捕らえ、その体内へと飲み込んでいく。
 するとどうだろうか、捕食されたネズミはスライムの体内で少しずつ溶けていっていた。あまりのグロテスクさに、ルルは思わず口を押さえて目を背けてしまった。
「気持ちは分かりますが、ルルちゃん、ここはあなたが頼りなんです。今はあのスライムたちを全滅させるために、今しばらく我慢して下さい」
「は、はい」
 落ち着いているミレルの言葉に、ルルはどうにか返事をする。
「あのスライムたちは、一般的なスライム同様に炎が弱点のようですね。ルルちゃん、炎の魔法は使えますか?
 サーチでスライムの弱点を探ったミレルが、ルルに問い掛ける。
「は、はい。五色の魔法は、ひと通り使えます」
 ルルが言う五色の魔法とは、赤の火、青の水、緑の風、茶の土、黄の雷のご属性の事である。ルルはこれらをひと通りには使う事ができるらしい。さすがは精霊の分体である。
 それを聞いたミレルは、ルルに作戦を伝える。
「では、私が囮となりますので、ルルちゃんは一気に高威力の魔法で焼き払って下さい」
「えっ?! でも、ミレルさんも炎の魔法が使えるんじゃ……」
 ルルの反応にミレルは困った顔をする。
「私が使えるのはせいぜい中級の『ファイアーボール』までですよ。肉弾戦を得意とする猫人に過度の期待は禁物ですよ」
「そ、そうなんですね。……分かりました」
 ミレルはルルの説得に成功する。そして、今度はセインの方を見る。
「スライム相手となると物理攻撃しかできない君には厳しいと思いますが、ルルちゃんをしっかり守って下さいね。彼女の魔法が鍵なのですから」
「分かった」
 セインはこくりと頷く。それを確認したミレルは、改めて周りのスライムを見る。
「行くも返すもスライムの群れの中です。私たちが時間を稼ぐ間に、ルルちゃんはルナル様も驚くようなすごい魔法をお願いしますね」
 ミレルがそう言いながらルルに笑顔を向けると、ルルはびっくりした顔をしながらも、すぐにきゅっと口を閉じて凛々しい顔つきになる。その表情を確認したミレルは、スライムの群れの中へと突っ込んでいく。
「ギギッ?!」
 スライムたちが反応して、ミレルに襲い掛かろうとする。
 だが、その時ミレルは両手を掲げ、挨拶代わりとばかりに四方八方へと火炎球を放ったのだった。
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