神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
52 / 139
第三章『それぞれの道』

シグムス城の地下2・無詠唱魔法

しおりを挟む
 ミレルはサキに連れられて、訓練場にてセインとルルの二人に出会う。
「そういうわけだ。ここからは彼女の指揮下に入ってもらう。いいな」
「魔族の下って……。でも、ルナルの知り合いなら仕方ないか」
「ミーアさんのお姉さんなんですね、よろしくお願いします」
「ミーアの姉であるミレルと申します。こちらの子は礼儀正しいですね」
 簡単に挨拶を交わすと、三人でシグムス城の地下へと向かった。
 本来はいざという時の避難所も兼ねているシグムスの地下。そのためか宝物庫や書庫以外にも部屋が点在しており、それらをつなぐ通路は少々入り組んでいた。
「うへえ……、結構気味が悪いな」
「サキさんから念のために地下の図面をお借りしましたが、辺りの空気が変わったあたりからあちこちに横穴が開いていますね。これが魔物の仕業というわけでしょう」
 サキの話によれば、地下の通路は街よりも外まで続いているらしく、結界に守られている場所は魔物のが侵入できないらしい。ただ、書庫がある場所など結界の外にある場所には魔物が多数侵入していたそうだ。侵入が確認されてから間がない事と、地上への影響が認められない事を踏まえて、事実上放置されていたようである。
「これだけ穴が開いているのに、よく崩れませんね」
 周りを見れば、本当に穴ぼこだらけである。ルルがこう思ってしまうのも無理のない話だった。
「ここは城の真下を外れていますし、元々が避難所の予定のために頑丈に造られたそうなので、だから持ちこたえているのでしょうね」
 ミレルは通路や部屋が崩れていない理由をそのように分析していた。だが、あまりにも穴が多いのでいつまで持ちこたえられるか分からない。三人は書庫へと急ぐ。
 その時、カランと小さく石が落ちる音が響く。
 その音に三人は周囲を警戒する。すると、ゴゴゴゴ……と地鳴りがして、地面から何かが飛び出てきた。
「キシャーーーッ!」
 大きな咆哮と共に現れたのは、気味の悪い大きな芋虫だった。
「サンドクロウラですか。強さとしては大した事はないですが、慣れていないと少々厄介な相手ですね」
 セインたちは構える。同時にミレルが叫ぶ。
「糸が来ます、避けて下さい!」
 サンドクロウラが仰け反って、口から粘っこい糸を吐き出してきた。これで相手を捕えて動けなくして捕食するのが、このサンドクロウラの攻撃パターンだ。初見ではこの糸に絡めとられてしまうのである。
 ミレルの声のおかげで、セインとルルは糸をうまく躱す事ができた。
 だが、サンドクロウラの攻撃はこれだけではない。糸を躱したと思ったら糸が崩れて土埃へと姿を変える。そう、砂嵐や土埃を起こして相手の視界を奪うのだ。この土埃には、二人はうまく対処できていない。早めに決着をつけるべきと見たミレルは、
「今回は私に任せて下さい」
 そう言ってサンドクロウラに睨みを利かせる。次の瞬間、セインとルルの目に信じられない光景が飛び込んできた。

 ズドドドドッ!

「ギシャーーッ!」
 サンドクロウラが無数の岩の槍に貫かれていたのだ。よく見るとミレルは手を前に出しただけ。手を出しただけで無数の岩の槍を発動させ、サンドクロウラを串刺しにしたのである。これによってサンドクロウラは断末魔を上げて息絶えてしまっていた。これには、セインとルルは一体何が起こったのか分からなかった。
「いかがでしょうか。これが私の戦闘スタイルの一つ、『無詠唱魔法』です」
「む、無詠唱魔法?!」
 魔法使いであるルルが驚いている。
 それもそのはず。通常、魔法というものはその威力と精度を高めるために詠唱を行う。だが、無詠唱魔法というのはその詠唱を省いてしまうために、通常ならば威力や精度は格段に低下してしまうはずなのだ。
 ところが、どうだろうか。先程ミレルが放った魔法は、岩の槍を生み出して放つ『ロックランス』という魔法だ。土属性の中級魔法に分類されるのだが、サンドクロウラを一撃で倒すほどの威力を持っていた。
「私やミーアは猫人ワーキャットと呼ばれる戦闘民族ですが、私は魔法というものに興味を持っていて、ルナル様に仕えるようになってから魔王城にあったありとあらゆる書物を読み漁りました」
 ミレルは話の途中だが、何かを感じて視線が鋭くなる。するとまたサンドクロウラが出現したので、拳に炎をまとわせて叩き込んで沈黙させてしまう。メイド服を着た猫耳の女性が炎をまとった拳を振るう姿を見て、セインとルルはまた驚いていた。
「とまあ、こんな感じに戦うのが猫人本来の姿です。高い身体能力を活かして肉弾戦を行うのです。ですが、体術というのは隙のない攻撃を高い頻度で繰り出しますので、魔法の詠唱っていうのはどうしても邪魔になってしまうのですよ」
 この詠唱が邪魔という言葉には、なんとルルも頷いていた。どうやらルルもそう思っているらしい。
「読み漁っていた書物の中にたまたま無詠唱の心得を見つけましたので、必死に特訓をしてようやく身に付けたんですよ」
「無詠唱魔法って魔法使いでも難しいのに、魔法が苦手な猫人で身に付けちゃうなんて、ミレルさんすごいです!」
 ルルは感激して、ミレルを尊敬の目で見ている。だが、この中でまったく魔法の心得がないセインは、話の内容についていけずに完全に置いてきぼりだった。
「どうやら君は、魔法にはあまり興味がなさそうですね」
 セインの様子に気が付いたミレルが声を掛けてくる。
「べ、別にそういうわけじゃないんだが……」
「いいのですよ。君はその剣を使いこなせるようになる事が先決ですからね」
 セインたちとの話を終えたミレルは、くるりと進む方向へと視線を向ける。
「さて、ここは危険のようですから、ゆっくりと話をするのは後にしましょうか。とにかく今は先を急ぎましょう」
 セインとルルが頷くと、三人は再び書庫を目指して行動を開始するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

そして、アドレーヌは眠る。

緋島礼桜
ファンタジー
長く続いた大戦、それにより腐りきった大地と生命を『奇跡の力』で蘇らせ終戦へと導いた女王――アドレーヌ・エナ・リンクス。 彼女はその偉業と引き換えに長い眠りについてしまいました。彼女を称え、崇め、祀った人々は彼女の名が付けられた新たな王国を創りました。 眠り続けるアドレーヌ。そこに生きる者たちによって受け継がれていく物語―――そして、辿りつく真実と結末。 これは、およそ千年続いたアドレーヌ王国の、始まりと終わりの物語です。 *あらすじ* ~第一篇~ かつての大戦により鉄くずと化し投棄された負の遺産『兵器』を回収する者たち―――狩人(ハンター)。 それを生業とし、娘と共に旅をするアーサガ・トルトはその活躍ぶりから『漆黒の弾丸』と呼ばれていた。 そんな彼はとある噂を切っ掛けに、想い人と娘の絆が揺れ動くことになる―――。 ~第二篇~ アドレーヌ女王の血を継ぐ王族エミレス・ノト・リンクス王女は王国東方の街ノーテルの屋敷で暮らしていた。 中肉中背、そばかすに見た目も地味…そんな引け目から人前を避けてきた彼女はある日、とある男性と出会う。 それが、彼女の過去と未来に関わる大切な恋愛となっていく―――。 ~第三篇~ かつての反乱により一斉排除の対象とされ、長い年月虐げられ続けているイニム…ネフ族。 『ネフ狩り』と呼ばれる駆逐行為は隠れ里にて暮らしていた青年キ・シエの全てを奪っていった。 愛する者、腕、両目を失った彼は名も一族の誇りすらも捨て、復讐に呑まれていく―――。 ~第四篇~ 最南端の村で暮らすソラはいつものように兄のお使いに王都へ行った帰り、謎の男二人組に襲われる。 辛くも通りすがりの旅人に助けられるが、その男もまた全身黒尽くめに口紅を塗った奇抜な出で立ちで…。 この出会いをきっかけに彼女の日常は一変し歴史を覆すような大事件へと巻き込まれていく―――。 * *2020年まで某サイトで投稿していたものですがサイト閉鎖に伴い、加筆修正して完結を目標に再投稿したいと思います。 *他小説家になろう、アルファポリスでも投稿しています。 *毎週、火・金曜日に更新を予定しています。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました

まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。 ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。 変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。 その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。 恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

処理中です...