神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
51 / 139
第三章『それぞれの道』

シグムス城の地下1・サーチの魔法

しおりを挟む
 シグムス王に向けて両手をかざし、ミレルが魔法を使う。
「我が魔力よ、隠されしものを我が前に示せ! サーチ!」
 ミレルが魔法を発動させると、シグムス王の体のあちこちに様々な色を放つ光の玉が浮かび上がる。
 実は、これがサーチの魔法の効果なのだ。初期魔法でありながら扱いには難のある魔法だが、術者の魔力によって様々な効果を得る事のできる魔法なのである。
 それこそ、探索から索敵、果ては病気や呪いの有無までも調べられるという探知系の万能魔法なのだった。
「ミレル、この光の玉は何なのですか?」
 付き添いで来ていたサキがミレルに問い掛ける。
「これは、シグムス王の体の状態を示すものです」
 ミレルの説明によれば、その光の色によって健康状態を知る事ができるらしい。良い方から『青、緑、黄、赤、黒』と色を変えて光る。詳しく言えば、問題のない状態が青で、黒では絶望的という事になる。
「説明は分かったのだけど、それには無かった『紫』の光は何なのです?」
「紫は『呪い』を示す色となります。シグムス王には何かしらの呪いが掛けられているという事になります。ただ、それが何なのかは分かりません」
 ミレルがそこまで説明して、言葉を詰まらせる。
「ミレル?」
「申し訳ございません。その紫の光がある場所をよく見て下さい」
 ミレルは喋る事を一度躊躇したものの、ここは医者としてはっきり言うべきだと判断して口を開く。
「なっ、こ、これはっ!?」
 サキが紫の光の位置を改めて確認して、酷く驚いて叫んだ。
 それもそうだろう。紫の光がある場所は心臓の位置。そして、その辺りには黒い光が固まって光っているのである。つまりそれはどういう事なのか。説明の通りだとすると、黒の光は絶望的な意味。それが心臓の位置に集中しているという事は、つまり、シグムス王は既に亡くなっており、何らかの理由で動いているいわゆるアンデッド、生ける屍の状態だという事なのである。
「ばかな、陛下はこうやって動いているというのに……! 間違いという事はないのですか?!」
 サキが取り乱してミレルに問い質す。
「この結果は間違いありません。もう何百、何千と使ってきた魔法ですから。精度ならば胸を張って言えるくらいに自信があります」
 だが、ミレルはきっぱりと言い切った。自分の魔法に間違いはないと。
「その答えを知る手がかりは、やはりこの紫の光、呪いにあるものだと思われます」
 ミレルのこの見解に、シグムス王が口を開く。
「その事についてだが、私に心当たりがある」
「そ、それは真ですか、陛下!」
 シグムス王の言葉に、サキは大声を出して驚く。それに対して、シグムス王は静かに頷いた。
「私も父上、先代の王から口伝てに聞いただけだから確証はない。だが、この城の地下にある書庫になら、おそらく建国から今までについてまとめられた歴史書があるはずだ。おそらく、それを見ればこの呪いの正体が分かるかも知れぬ」
「ですが、陛下。今の城の地下は魔物があふれかえっております。探し物をするにはかなり危険のはずです」
 シグムス王の提案に、サキが真っ先に反対した。
 実は魔王の宣言が行われて以来、魔物の動きが活発化していたのだ。勇者の籠手が安置されていた宝物庫の辺りは結界が張られており、地下に入ってからすぐのために安全に持ってくる事ができた。
 ところが、書庫となればまた訳が違う。本は湿気を嫌うために、オアシスから離れた場所に保管してあるのだ。そのために、宝物庫から奥へと続く通路を歩いていくしかないのだ。その通路には以前の見回りで魔物が入り込んでいる事が発覚しており、途中の通路はかなり荒れているようなのである。
 実のところ、書庫の辺りは城を守る結界から外れている。そのために魔物の侵入を許してしまったようなのである。
 では、書庫は無事なのかというと、書庫自体は城と同じように結界に守られているので、おそらく中身は無事だと思われる。
 だが、歴史書を持って帰ってくるとなるとかなりの冊数を運ぶ事になる。ただでさえ魔物が出るというのなら、帰りはより危険度を増すだろう。サキは考え込んで唸り始めた。
「でしたら、こう致しましょう」
 そこで口を開いたのがミレルだった。
「ミレル?」
「サキは智将様がイプセルタへ向かわれて不在な以上、シグムス軍の実質トップなのですよね?」
「ああ、確かにそうですが?」
 ミレルの言葉に、サキは考え事をしていたために戸惑っていた。
「だったら、私が取ってくる事に致しましょう。魔族の襲撃がいつあるか分からないのですから、備えていなければなりませんからね」
「いやまあ、それはそうなのですが、いいのですか?」
 心配するサキをよそに、ミレルはドンと胸を叩いて言う。
「サーチの魔法は万能なのです。探索、索敵何でも来いなのですから」
 まったく、驚くほどに生き生きとしているミレルである。
「……そういえば、あなたは猫人でしたね。はあ、魔物と聞いて戦闘民族の血が騒いだわけですか……」
「戦えるとなれば、そうですね」
 頭を抱えて左右に振るサキに対して、ものすごくルンルン気分のミレルである。
 しかし、いろいろと面倒な状況下にある今、この申し出は願ってもないものだった。サキは仕方なくこの申し出を受け入れた。
「では、ミレルに向かってもらいます。ですが、さすがに一人はきついと思いますので、ちょうどいい人物がこの国に居るのでその者たちを付き合わせましょう」
「へえ、どんな方でしょうか」
「ルナルの知り合いの子たちです。魔物が出るのですから、実戦経験を積ませるにはちょうどいいでしょう。ミレルも居るので、それほど危険ではないでしょうしね」
「ああ、ルナル様からお聞きしております。畏まりました。そのお二人の事は私にお任せ下さい」
 サキの提案に、ミレルはにこりと笑って答えていた。
 こうして話がまとまり、ミレル、セイン、ルルの三人でシグムス城の地下にある書庫へと向かう事になったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

きっと幸せな異世界生活

スノウ
ファンタジー
   神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。  そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。  時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。  異世界レメイアの女神メティスアメルの導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?  毎日12時頃に投稿します。   ─────────────────  いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。

最弱魔術師が初恋相手を探すために城の採用試験を受けたら、致死率90%の殺戮ゲームに巻き込まれました

和泉杏咲
ファンタジー
「私達が王のために犠牲になるべき存在になるのは、正しいことなのでしょうか」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 信じられますか? 全く予想もしていなかった方法で、瞬きすることすら許されずに命を刈り取られているという事実を……。 ここは、自然の四大元素を魔術として操ることができるようになった世界。 初心者魔術師スノウは、王都を彷徨っていた。 王宮に支えることができる特別な職「専属魔術師」の選抜試験が開かれることになっており、スノウはそれに参加するために訪れたのだった。 道に迷ったスノウは、瞬間移動の魔術を使おうとするが、失敗してしまう。 その時、助けてくれたのが全身をターバンとマントで覆った謎の男。 男は「高等魔術を使うな」とスノウに警告をして……?

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

処理中です...