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第三章『それぞれの道』
シグムス城の地下1・サーチの魔法
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シグムス王に向けて両手をかざし、ミレルが魔法を使う。
「我が魔力よ、隠されしものを我が前に示せ! サーチ!」
ミレルが魔法を発動させると、シグムス王の体のあちこちに様々な色を放つ光の玉が浮かび上がる。
実は、これがサーチの魔法の効果なのだ。初期魔法でありながら扱いには難のある魔法だが、術者の魔力によって様々な効果を得る事のできる魔法なのである。
それこそ、探索から索敵、果ては病気や呪いの有無までも調べられるという探知系の万能魔法なのだった。
「ミレル、この光の玉は何なのですか?」
付き添いで来ていたサキがミレルに問い掛ける。
「これは、シグムス王の体の状態を示すものです」
ミレルの説明によれば、その光の色によって健康状態を知る事ができるらしい。良い方から『青、緑、黄、赤、黒』と色を変えて光る。詳しく言えば、問題のない状態が青で、黒では絶望的という事になる。
「説明は分かったのだけど、それには無かった『紫』の光は何なのです?」
「紫は『呪い』を示す色となります。シグムス王には何かしらの呪いが掛けられているという事になります。ただ、それが何なのかは分かりません」
ミレルがそこまで説明して、言葉を詰まらせる。
「ミレル?」
「申し訳ございません。その紫の光がある場所をよく見て下さい」
ミレルは喋る事を一度躊躇したものの、ここは医者としてはっきり言うべきだと判断して口を開く。
「なっ、こ、これはっ!?」
サキが紫の光の位置を改めて確認して、酷く驚いて叫んだ。
それもそうだろう。紫の光がある場所は心臓の位置。そして、その辺りには黒い光が固まって光っているのである。つまりそれはどういう事なのか。説明の通りだとすると、黒の光は絶望的な意味。それが心臓の位置に集中しているという事は、つまり、シグムス王は既に亡くなっており、何らかの理由で動いているいわゆるアンデッド、生ける屍の状態だという事なのである。
「ばかな、陛下はこうやって動いているというのに……! 間違いという事はないのですか?!」
サキが取り乱してミレルに問い質す。
「この結果は間違いありません。もう何百、何千と使ってきた魔法ですから。精度ならば胸を張って言えるくらいに自信があります」
だが、ミレルはきっぱりと言い切った。自分の魔法に間違いはないと。
「その答えを知る手がかりは、やはりこの紫の光、呪いにあるものだと思われます」
ミレルのこの見解に、シグムス王が口を開く。
「その事についてだが、私に心当たりがある」
「そ、それは真ですか、陛下!」
シグムス王の言葉に、サキは大声を出して驚く。それに対して、シグムス王は静かに頷いた。
「私も父上、先代の王から口伝てに聞いただけだから確証はない。だが、この城の地下にある書庫になら、おそらく建国から今までについてまとめられた歴史書があるはずだ。おそらく、それを見ればこの呪いの正体が分かるかも知れぬ」
「ですが、陛下。今の城の地下は魔物があふれかえっております。探し物をするにはかなり危険のはずです」
シグムス王の提案に、サキが真っ先に反対した。
実は魔王の宣言が行われて以来、魔物の動きが活発化していたのだ。勇者の籠手が安置されていた宝物庫の辺りは結界が張られており、地下に入ってからすぐのために安全に持ってくる事ができた。
ところが、書庫となればまた訳が違う。本は湿気を嫌うために、オアシスから離れた場所に保管してあるのだ。そのために、宝物庫から奥へと続く通路を歩いていくしかないのだ。その通路には以前の見回りで魔物が入り込んでいる事が発覚しており、途中の通路はかなり荒れているようなのである。
実のところ、書庫の辺りは城を守る結界から外れている。そのために魔物の侵入を許してしまったようなのである。
では、書庫は無事なのかというと、書庫自体は城と同じように結界に守られているので、おそらく中身は無事だと思われる。
だが、歴史書を持って帰ってくるとなるとかなりの冊数を運ぶ事になる。ただでさえ魔物が出るというのなら、帰りはより危険度を増すだろう。サキは考え込んで唸り始めた。
「でしたら、こう致しましょう」
そこで口を開いたのがミレルだった。
「ミレル?」
「サキは智将様がイプセルタへ向かわれて不在な以上、シグムス軍の実質トップなのですよね?」
「ああ、確かにそうですが?」
ミレルの言葉に、サキは考え事をしていたために戸惑っていた。
「だったら、私が取ってくる事に致しましょう。魔族の襲撃がいつあるか分からないのですから、備えていなければなりませんからね」
「いやまあ、それはそうなのですが、いいのですか?」
心配するサキをよそに、ミレルはドンと胸を叩いて言う。
「サーチの魔法は万能なのです。探索、索敵何でも来いなのですから」
まったく、驚くほどに生き生きとしているミレルである。
「……そういえば、あなたは猫人でしたね。はあ、魔物と聞いて戦闘民族の血が騒いだわけですか……」
「戦えるとなれば、そうですね」
頭を抱えて左右に振るサキに対して、ものすごくルンルン気分のミレルである。
しかし、いろいろと面倒な状況下にある今、この申し出は願ってもないものだった。サキは仕方なくこの申し出を受け入れた。
「では、ミレルに向かってもらいます。ですが、さすがに一人はきついと思いますので、ちょうどいい人物がこの国に居るのでその者たちを付き合わせましょう」
「へえ、どんな方でしょうか」
「ルナルの知り合いの子たちです。魔物が出るのですから、実戦経験を積ませるにはちょうどいいでしょう。ミレルも居るので、それほど危険ではないでしょうしね」
「ああ、ルナル様からお聞きしております。畏まりました。そのお二人の事は私にお任せ下さい」
サキの提案に、ミレルはにこりと笑って答えていた。
こうして話がまとまり、ミレル、セイン、ルルの三人でシグムス城の地下にある書庫へと向かう事になったのだった。
「我が魔力よ、隠されしものを我が前に示せ! サーチ!」
ミレルが魔法を発動させると、シグムス王の体のあちこちに様々な色を放つ光の玉が浮かび上がる。
実は、これがサーチの魔法の効果なのだ。初期魔法でありながら扱いには難のある魔法だが、術者の魔力によって様々な効果を得る事のできる魔法なのである。
それこそ、探索から索敵、果ては病気や呪いの有無までも調べられるという探知系の万能魔法なのだった。
「ミレル、この光の玉は何なのですか?」
付き添いで来ていたサキがミレルに問い掛ける。
「これは、シグムス王の体の状態を示すものです」
ミレルの説明によれば、その光の色によって健康状態を知る事ができるらしい。良い方から『青、緑、黄、赤、黒』と色を変えて光る。詳しく言えば、問題のない状態が青で、黒では絶望的という事になる。
「説明は分かったのだけど、それには無かった『紫』の光は何なのです?」
「紫は『呪い』を示す色となります。シグムス王には何かしらの呪いが掛けられているという事になります。ただ、それが何なのかは分かりません」
ミレルがそこまで説明して、言葉を詰まらせる。
「ミレル?」
「申し訳ございません。その紫の光がある場所をよく見て下さい」
ミレルは喋る事を一度躊躇したものの、ここは医者としてはっきり言うべきだと判断して口を開く。
「なっ、こ、これはっ!?」
サキが紫の光の位置を改めて確認して、酷く驚いて叫んだ。
それもそうだろう。紫の光がある場所は心臓の位置。そして、その辺りには黒い光が固まって光っているのである。つまりそれはどういう事なのか。説明の通りだとすると、黒の光は絶望的な意味。それが心臓の位置に集中しているという事は、つまり、シグムス王は既に亡くなっており、何らかの理由で動いているいわゆるアンデッド、生ける屍の状態だという事なのである。
「ばかな、陛下はこうやって動いているというのに……! 間違いという事はないのですか?!」
サキが取り乱してミレルに問い質す。
「この結果は間違いありません。もう何百、何千と使ってきた魔法ですから。精度ならば胸を張って言えるくらいに自信があります」
だが、ミレルはきっぱりと言い切った。自分の魔法に間違いはないと。
「その答えを知る手がかりは、やはりこの紫の光、呪いにあるものだと思われます」
ミレルのこの見解に、シグムス王が口を開く。
「その事についてだが、私に心当たりがある」
「そ、それは真ですか、陛下!」
シグムス王の言葉に、サキは大声を出して驚く。それに対して、シグムス王は静かに頷いた。
「私も父上、先代の王から口伝てに聞いただけだから確証はない。だが、この城の地下にある書庫になら、おそらく建国から今までについてまとめられた歴史書があるはずだ。おそらく、それを見ればこの呪いの正体が分かるかも知れぬ」
「ですが、陛下。今の城の地下は魔物があふれかえっております。探し物をするにはかなり危険のはずです」
シグムス王の提案に、サキが真っ先に反対した。
実は魔王の宣言が行われて以来、魔物の動きが活発化していたのだ。勇者の籠手が安置されていた宝物庫の辺りは結界が張られており、地下に入ってからすぐのために安全に持ってくる事ができた。
ところが、書庫となればまた訳が違う。本は湿気を嫌うために、オアシスから離れた場所に保管してあるのだ。そのために、宝物庫から奥へと続く通路を歩いていくしかないのだ。その通路には以前の見回りで魔物が入り込んでいる事が発覚しており、途中の通路はかなり荒れているようなのである。
実のところ、書庫の辺りは城を守る結界から外れている。そのために魔物の侵入を許してしまったようなのである。
では、書庫は無事なのかというと、書庫自体は城と同じように結界に守られているので、おそらく中身は無事だと思われる。
だが、歴史書を持って帰ってくるとなるとかなりの冊数を運ぶ事になる。ただでさえ魔物が出るというのなら、帰りはより危険度を増すだろう。サキは考え込んで唸り始めた。
「でしたら、こう致しましょう」
そこで口を開いたのがミレルだった。
「ミレル?」
「サキは智将様がイプセルタへ向かわれて不在な以上、シグムス軍の実質トップなのですよね?」
「ああ、確かにそうですが?」
ミレルの言葉に、サキは考え事をしていたために戸惑っていた。
「だったら、私が取ってくる事に致しましょう。魔族の襲撃がいつあるか分からないのですから、備えていなければなりませんからね」
「いやまあ、それはそうなのですが、いいのですか?」
心配するサキをよそに、ミレルはドンと胸を叩いて言う。
「サーチの魔法は万能なのです。探索、索敵何でも来いなのですから」
まったく、驚くほどに生き生きとしているミレルである。
「……そういえば、あなたは猫人でしたね。はあ、魔物と聞いて戦闘民族の血が騒いだわけですか……」
「戦えるとなれば、そうですね」
頭を抱えて左右に振るサキに対して、ものすごくルンルン気分のミレルである。
しかし、いろいろと面倒な状況下にある今、この申し出は願ってもないものだった。サキは仕方なくこの申し出を受け入れた。
「では、ミレルに向かってもらいます。ですが、さすがに一人はきついと思いますので、ちょうどいい人物がこの国に居るのでその者たちを付き合わせましょう」
「へえ、どんな方でしょうか」
「ルナルの知り合いの子たちです。魔物が出るのですから、実戦経験を積ませるにはちょうどいいでしょう。ミレルも居るので、それほど危険ではないでしょうしね」
「ああ、ルナル様からお聞きしております。畏まりました。そのお二人の事は私にお任せ下さい」
サキの提案に、ミレルはにこりと笑って答えていた。
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