神槍のルナル

未羊

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第二章『西の都へ』

力の差

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 智将の剣が鋭く振り抜かれる!
 智将の剣から繰り出された空をも切り裂く衝撃波は、セインの放った衝撃波である斬破を相殺どころかかき消してしまい、そのまま真っすぐセイン目がけて飛んできている。
「噓だろ?!」
 セインが手加減なしに撃ったはずの衝撃波をものともせずに突き抜けてきた衝撃波に、セインはものすごく慌てている。
「風よ、渦巻きすべてを吹き飛ばせ! サイクロン!」
 セインの後方に居たルルは、意外と落ち着いて素早く詠唱を済ませると、強力な風の渦を巻き起こす。その強力な風は、智将の放った風の衝撃波を飲み込み、そのまま智将たち目がけて突き進んでいった。
「セインさん、何をやってるんですか!」
「いや、何って言われてもな……」
「相手はルナル様が一目置かれている方たちなのですよ? 少し気が緩んでるんじゃありませんか?」
 年下のルルに、セインはぼろくそに言われている。とはいえ、明らかにセインよりも戦闘経験のない少女にここまで言われて、セインが黙っているわけがなかった。
「くそっ、がきんちょのくせに生意気言いやがって。そんなに言うのなら、俺の力を見せてやろうじゃねえか!」
 智将たちはルルの放ったサイクロンの対処の真っ最中だ。この瞬間を逃すわけにはいかない。セインは次の手に打って出る。
「虎襲斬!」
 セインは素早く、智将に向けて鋭く踏み込んでいく。
「甘いな、サキ!」
「はっ!」
 ところが、智将たちがそんなに甘いわけがなかった。セインの動きを見てもまったく動じていない。落ち着いてサキがサイクロンを相殺すると、すっかり態勢を立て直してしまっていた。そして、斬り掛かってきたセインの剣をしっかりと受け止める。
「なっ!」
 あっさりと受け止められたセインはショックを受けている。だが、智将の対処はそこで終わるわけがない。智将は剣を滑らせてセインの体勢を崩す。そして、後ろに回り込むと素早くセインの背中を剣の柄で突いた。
「ぐっ!」
 セインの動きを警戒してか、智将は隙の小さな攻撃で追撃を行ったのである。この思いがけない攻撃に、セインは大きく体勢を崩してしまった。だが、そこへ智将の更なる追撃が襲い掛かる。
 それでもさすがにルナルとアカーシャに鍛えられたセインである。そこから智将の攻撃に反応している。智将の斬撃を見事に躱してみせたのだ。
「ほお、なかなかいい反応と動きだ。だが、安心するのはまだ早いぞ」
 智将の薙ぎ払いの攻撃を躱したセインだが、それが精一杯のためにまだ態勢が大きく崩れているのである。実に隙だらけだった。
烈華閃れっかせん!」
 セインの体勢が崩れているところへ、智将は鋭い連続の突きを繰り出してくる。ちなみに天閃破てんせんはとの違いは、最初に斬り上げる動作があるかどうかである。
 ところが、体勢が崩れているというのにセインはその突きを躱している。そして、すべて躱して反撃に出ようとした、その時だった。
「う……ぐ……」
 セインは腹部に激痛を感じた。よく見ると、そこには智将が打ち込んだ剣の鞘が刺さっていたのだ。なんと、突きを全部躱されたとみると、素早く空いた左手で剣の鞘を掴んで打ち出していたのだ。
 この一撃はさすがに重く、セインは腹部を押さえてその場にうずくまってしまった。そのセインに対して、智将が声を掛ける。
「いい線はいっているようだが、まだまだ経験不足だな。もう少し視野を広く持つようにしないと、戦場で生き残る事はできない。まだ若いんだ、もっと経験を積みなさい」
 その言葉にセインが項垂れるのを見届けると、智将は剣を鞘に収めたのだった。
「それにしても、ルナル殿と出会ってから2か月だったかな? その割にはいい動きをしていた。もともとそういう素質はあったんだろうな。磨けばもっと強くなれる、自信を持つ事だな」
 智将が褒めてくれるのだが、セインはまったく嬉しくはなかった。悔しさのあまり、その拳を地面に強く叩きつけたのだった。その姿に、智将は満足げな表情を浮かべた。
「さて、あちらはどうなっているかな?」
 智将が気にしているのは、自分の副官であるサキと幼い魔法使いであるルルの戦いだった。魔法使い同士で行われる魔法合戦は、それは見るからに派手なものだった。
「むぅ~~、まったく当たらないよ~……」
 これでもかと魔法をじゃんじゃん放つルルだが、サキがそのすべてに落ち着いて対処をしており、ルルは苛立ちを覚えていた。なにせサキはまったく攻撃を仕掛けてこないのだから、余計にイライラとしてくるのである。
(あの子のあの杖は、おそらく『宿り木の杖』でしょうね。その杖を持つ理由は分からないですが、それを抜きにしてもこれだけの多彩な魔法と、それを放ち続けられるだけの魔力量。見た目に反して恐ろしい子ね……)
 ルルの魔法を相殺しながら、サキは冷静にルルの事を分析していた。
 だが、サキが冷静であればあるほど、ルルの苛立ちはどんどんと募っていく。その我慢もいよいよ限界を迎えそうになっていた。
「むぅ~、もう我慢なりません。一気に決めちゃいます!」
 とうとうキレたルルが、大技の詠唱を始める。
「魔力の矢よ、雨となりて彼の者を貫け!」
 詠唱を終えたルルは、杖を高く振り上げる!
「スコールアロー!」
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