神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
41 / 139
第二章『西の都へ』

シグムス城

しおりを挟む
 智将に連れられて、ルナルたちはシグムス城へと到着する。街と城との間にも壁が張り巡らされており、その周辺はオアシスが広がっていた。本当にオアシスに城を築いていたようである。
 ふと見上げた城壁には、何やら見慣れない得体の知れない武器が備え付けられている。
「智将、あの武器って何なんだ?」
「あれは機械弓アーバレストというものでな、人が引き絞る普通の弓よりも強力な射撃が行える武器なんだ。時には矢ではなくて投擲槍ジャベリンを飛ばす事もある。ただ、もの凄い重量だから、移動させるのは困難だけどね」
 セインの失礼な言葉遣いを気にする事なく、智将は淡々と答えている。
「この砂漠に棲む魔物の中には、殻の固い連中も居る。そういった魔物に対して、とても有効な武器なんだ。みんながみんな、魔法を使えるってわけじゃないからな」
「へえ~」
 セインが驚きの声を上げているが、果たしてどこまで理解しているのやら。
「ちなみにその飛ばす矢や槍に仕掛けを施しておけば、目印にする事も出来るんですよ。本当に驚くような知恵や工夫を行う事で、シグムスは魔族や魔物たちの襲撃を幾度となく凌いできたんです」
 ルナルが説明を加えているが、セインにはどうにも理解ができているようには思えない。どうにも頭を使う事が苦手な若者のようである。その反応にはルナルも呆れるばかりだった。
「先程智将様も仰られた通り、この国の兵士たちは魔法を使えない一般兵が多いんです。そんな彼らでも魔族たちと戦えるようにと知恵と工夫を凝らしてきたんです。そういった努力の結晶なんですよ、あの武器は」
「ふっ、その通りだ。よく勉強してきているね」
「さすがルナル様です!」
 智将に褒められるルナルの姿に、感嘆の声を上げるルル。
「いえ、以前お会いした時にはお恥ずかしいばかりでしたから。そりゃもう、必死にお調べしましたよ」
「ふふっ、マスターくんと一緒に来られた時が懐かしいな」
 そう言って、ルナルと智将はお互いに笑っていた。
 ルナルたちは城の中を進んでいく。長い廊下を歩き、階段を上がる。そして、また長い廊下を歩き、角を曲がる。そうしてしばらくすると、目の前にきれいな絨毯が敷かれた廊下が現れた。
「さあ、そろそろ着くぞ」
 絨毯の敷かれた廊下を進んでいると、智将がとある部屋の前で止まる。様子から察するに、ここが智将の部屋のようだ。
 それにしても、装飾などが施されて豪華な飾りつけになっている廊下とは違い、一枚扉に取っ手がついているだけの簡素な扉がそこにある。かえって違和感が凄かった。
 智将が扉を開けて、ルナルたちを部屋へと招き入れる。
「お帰りなさいませ、智将様」
 すると、部屋の中にはすでに誰かが居たようで声を掛けられる。よく見ると、そこにはローブ風の軍服に身を包んだ女性が立っていた。
「なんだ、待っていたのか」
「はい、智将様が自ら客人をお迎えに向かわれたと聞きました。智将様がそのような対応をなされる客人を早く見てみたいと思いましたので、失礼だとは思いましたが、こうして部屋でお待ちしておりました」
 女性は頭を下げている。
 その女性を見たルナルは、明らかな動揺を見せる。目の前の女性はそれに気が付いたようで、くすっと小さく笑っていた。
「そこに来客対応用の机と椅子がある。長旅で疲れているだろうから、座ってくつろいでいてくれ。すぐに飲み物を持ってこさせる」
「では、お言葉に甘えて」
 智将の言葉に、ルナルたちは示された場所にあった椅子へと腰掛ける。そして、智将も腰掛けると、女性が既に持って来ていた飲み物をコップに注いで目の前に出す。それが終わると、女性も智将の隣へと腰掛けたのだった。
 こうして全員が椅子に座って落ち着くと、智将が話を切り出した。
「ルナル殿、イプセルタで行われる会議の話は聞いていますかな?」
「ええ、存じていますとも。アルファガドにも参加の要請が来ましたから」
 飲み物をひと口含むと、ルナルは質問に答える。
「そうか。では、ルナル殿も参加の予定なのかな?」
 ルナルの回答を聞いた智将は、再度質問をぶつける。
「はい。アルファガドからはギルドマスターであるマスターと私が参加する予定でございます」
 ルナルからの回答を聞いた智将は、顎を抱え込む。
「それで、動向というものが気になりますかな?」
「もちろんですよ。私とてハンターですからね。活動する上では世界の情勢というのには興味がありますよ」
 ルナルの返答を聞いて、智将は隣に座る女性に一度目を遣る。そして、再びルナルの方へと視線を向けると、思わぬ言葉をぶつけてきた。
「そうか、ハンターとしてか。……だが、本当は別の立場として、気になっているんじゃないのか?」
 話の蚊帳の外であるセインとルルは、智将の話をただ聞いているだけだったが、この言い回しにルナルだけは違った反応を見せた。
「別の立場ってどういう意味なんですか? 一体何が言いたいのですか、智将様」
 どういうわけかルナルが怒っている。それでも智将はまったく気にしないで話を進めようとしていた。
「ここで私の隣の女性を紹介しようと思う。彼女の名前は『サキ』といって、我がシグムス軍の副官を務めている。つまり、私の補佐官だ」
「サキと申します。以後お見知りおきを」
 さっきまでかぶっていたローブのフードを取って挨拶をするサキ。その姿を見たルナルは明らかに動揺しているし、セインとルルもわずかにだが驚いたような表情を見せた。
「やはり、その反応を見る限り知り合いのようだね。今までは冗談半分に聞いていたけれど、これでサキの言葉は事実だったと確認ができたよ」
「それは……どういう事ですか?」
 ルナルは眉をぴくりと動かし、睨むようにして智将の方を見る。だが、智将はその程度に怯むわけもなく、予想もしなかった言葉を口にしたのだった。
「それはだね、ルナル殿。だという事だよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

愛を知らないキミへ

樺純
恋愛
双子として生まれたアノン。いつも双子の姉であるラノンと比べられ、いつの間にか仲の良かった2人の間には距離が生まれ始める。そんな2人を不思議そうに見つめていたのは2人の幼馴染であるキヒヤ。アノンと仲の良かったキヒヤは何故か双子のラノンとは距離があった。 そんな3人が思春期を迎えたとき、繋いでいた糸が大きくもつれ絡まりはじめる。 キミが…アナタが…オマエが… 愛と憎しみと悲しみ。 絡み合ってしまった糸は解けることが出来るのだろうか?

星と花

佐々森りろ
ライト文芸
 小学校四年生の時、親友の千冬が突然転校してしまう事を知ったなずな。  卒業式であげようと思っていた手作りのオルゴールを今すぐ渡したいと、雑貨屋「星と花」の店主である青に頼むが、まだ完成していないと断られる。そして、大人になった十年後に、またここで会おうと千冬と約束する。  十年後、両親の円満離婚に納得のいかないなずなは家を飛び出し、青と姉の住む雑貨屋「星と花」にバイトをしながら居候していた。  ある日、挙動不審な男が店にやってきて、なずなは大事なオルゴールを売ってしまう。気が付いた時にはすでに遅く落ち込んでいた。そんな中、突然幼馴染の春一が一緒に住むことになり、幸先の不安を感じて落ち込むけれど、春一にも「星と花」へ来た理由があって──  十年越しに繋がっていく友情と恋。それぞれ事情を抱えた四人の短い夏の物語。

鑑定の結果、適職の欄に「魔王」がありましたが興味ないので美味しい料理を出す宿屋のオヤジを目指します

厘/りん
ファンタジー
 王都から離れた辺境の村で生まれ育った、マオ。15歳になった子供達は適正職業の鑑定をすることが義務付けられている。 村の教会で鑑定をしたら、料理人•宿屋の主人•魔王とあった。…魔王!?  しかも前世を思い出したら、異世界転生していた。 転生1回目は失敗したので、次はのんびり平凡に暮らし、お金を貯めて美味しい料理を出す宿屋のオヤジになると決意した、マオのちょっとおかしな物語。 ※世界は滅ぼしません ☆第17回ファンタジー小説大賞 参加中 ☆2024/9/16  HOT男性向け 1位 ファンタジー 2位  ありがとう御座います。        

貧乳を理由に婚約破棄された令嬢、最強の騎士と共に新しい愛を見つけます!

 (笑)
恋愛
黒騎士団のカミラと仲間たちは、王国を脅かす影の勢力に立ち向かうことを使命とする。王国中に広がる不気味な闇の力を封じ込めるため、彼らは光の神殿を目指し、数々の試練を乗り越えていく。次々に襲いかかる困難と強大な敵を前に、彼らは団結しながら進んでいくが、影の力は予想以上に強大で、封じ込めるのは容易ではない。果たして、黒騎士団は王国に平和を取り戻すことができるのか――勇気と友情が試される、壮大な冒険がここに幕を開ける。

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

【完結】では、さっさと離婚しましょうか 〜戻る気はありませんので〜

なか
恋愛
「離婚するか、俺に一生を尽くすか選べ」  夫である、ベクスア公爵家当主のデミトロに問われた選択肢。  愛されなくなり、虐げられた妻となった私––レティシアは……二人目の妻であるアーリアの毒殺未遂の疑いで責められる。  誓ってそんな事はしていないのに、話さえ聞く気の無いデミトロ。   ずさんな証拠で嵌められたと気付きながらも、私は暴力を受けるしかなかった。  しかし額に傷付けられた最中に、私は前世……本郷美鈴としての記憶を思い出す。  今世で臆病だった私に、前世で勝気だった本郷美鈴との記憶が混ざった時。  もう恐れや怯えなど無くなっていた。  彼の恋情や未練も断ち切り、人生を奪った彼らへの怒りだけが私を動かす。  だから。 「では、さっさと離婚しましょうか」  と、答えた。  彼から離れ、私は生きて行く。  そして……私から全てを奪った彼らから。同じように全てを奪ってみせよう。   これがレティシアであり、本郷美鈴でもある私の新たな生き方。  だが、私が出て行ったメリウス公爵家やデミトロには実は多くの隠しごとがあったようで……    ◇◇◇    設定はゆるめです。  気軽に楽しんで頂けると嬉しいです。 今作は、私の作品。 「死んだ王妃は〜」に出てくる登場人物の過去のお話となります。 上記のお話を読んでいなくても問題ないよう書いていますので、安心して読んでくださると嬉しいです。

仔猫のスープ

ましら佳
恋愛
 繁華街の少しはずれにある小さな薬膳カフェ、金蘭軒。 今日も、美味しいお食事をご用意して、看板猫と共に店主がお待ちしております。 2匹の仔猫を拾った店主の恋愛事情や、周囲の人々やお客様達とのお話です。 お楽しみ頂けましたら嬉しいです。

処理中です...