39 / 139
第二章『西の都へ』
プサイラの魔物
しおりを挟む
目の前には広大な砂漠がどこまでも続いている。
特に目印になるようなものもほとんどなく、一面の砂、砂、砂……。
これが砂漠の国シグムスのある『プサイラ砂漠』である。
「あ、あぢぃ……。一体どこまで続いてんだよ、この砂漠は」
どこまでも続く変わり映えのない景色と焼けつくような暑さに、砂漠初体験のセインはすでに限界を迎えそうになっている。ルナルの前に座って外套を被っているルルも、同じようにあまりの暑さに疲れた様子を見せている。
「我慢して下さい。砂漠に入って半分くらいは進みましたので、夕暮れまでにはシグムスに着けると思います」
魔王であり、トップクラスのハンターでもあるルナルは、この状況下でも涼しげな顔をしていた。確かに汗をかいてはいるものの、そこは旅慣れした経験者らしさがあった。
「夕暮れまでに、ねえ……」
セインが疑いの眼差しを向ける。
まあ、それも無理もない話だ。視線の先はどこを見ても何もない砂漠が続いているのだから。
シグムスに向けて進む一行を、太陽は高い位置から容赦なく照らしている。そして、それが一面砂地の地面に反射する。この合わせ技によって、とんでもない熱気が襲い続けている。もはや限界は近いのだった。
と、その時だった。
ゴゴゴゴゴ……。
突然、遠くから地鳴りのような音が聞こえ始めたのだった。
ルナルはその音に気が付いたようで、ペンタホーンの走る速度を上げる。それに合わせるようにセインの乗るペンタホーンも速度を上げた。
「な、一体どうしたんだ?!」
あまりに突然だったので、セインが驚いて声を上げる。
「まずいですね。どうやら砂漠の主に目を付けられてしまったようです」
「さ、砂漠の主?!」
聞き慣れないというか聞いた事のない単語である。
「このプサイラ砂漠に生息する、砂に潜って獲物を狙う大型の魔物です」
ルナルが説明するには、砂漠の中を水中と同じように泳げるようになった『デザートシャーク』という魔物らしい。突如、砂の中からかち上げるように現れて獲物を食べるのだという。
今回のように地鳴りを響かせる事が多いので、接近に気付く事ができるのだが、相手は砂の中に潜っているので対処が難しい。ゆえに、砂漠に慣れた隊商たちでも、出くわすと被害が避けられないという、なかなかに危険度の高い魔物なのだ。
「倒すって選択肢は?」
「何を言っているのですか。やつが砂の中に居る間は、さすがの私といっても対処が難しいのです。ましてや倒すなんて、厳しすぎます。今は先を急いでいるのですから、構っている暇なんてありませんよ!」
ルナルはそう言うと、ペンタホーンの速度をさらに上げる。
ところが、今回のデザートシャークは予想以上に泳ぐ速度が速い。ルナルたちが駆るペンタホーンに徐々に迫ってきており、このままでは追いつかれてしまう。どうやらこれは、戦うという選択肢しかなくなりそうだった。
「くっ、なんて速さ。このままでは追いつかれます!」
ルナルが焦っている。その時、ルナルの前に座っているルルが声を掛けてきた。
「ルナル様、デザートシャークを砂から追い出せばいいんですか?」
「えっ?」
突然の事に、ルナルは驚いている。
「無理を言ってついて来たんです。私だってお役に立ってみせます」
暑さのせいで疲れた顔をしてはいるが、ルルは魔法の詠唱を始める。
「精霊よ、私に力を貸して! サウザンドニードル!」
ルルが魔法を唱えると、砂漠の中から針の山が突如として現れた。この魔法、本来ならば針のように尖った土の塊を相手に無数に飛ばす魔法なのだが、今回は自分たちの後ろに地中から出現させたのだ。
「あそこです!」
ルルが指差す方向に、砂の中からデザートシャークが勢いよく飛び出してきた。砂の中から一瞬で針の山が出現したので、その勢いに押し出されたのだ。しかも、その威力が高かったのか、デザートシャークはかなりの高さまで打ち上がってしまっていた。
「ルルちゃん、助かります」
デザートシャークが打ち上がるのを見たルナルは、ペンタホーンを止め、その場に降りて槍を構える。砂の上という事で足場は不安定だが、湿地帯やら岩場やら経験してきたハンターにとって、その程度苦でもなかった。
「この一瞬を逃しません! 今まで苦しめてきた者のすべての恨みをその身に食らいなさい、槍竜虚空閃!」
力を込めて槍を一気に突き出す。衝撃波を放つ様は槍竜閃と同じである。
しかし、その威力は明らかに違った。
強力に渦巻く衝撃波が、宙を舞うデザートシャークに命中する。驚いた事に、なんとその衝撃波がデザートシャークに突き刺さって留まっているではないか。そう、これで終わりではないのである。
「私たちに襲い掛かった事を後悔して散りなさい、とどめっ!」
突き出した槍を一気に引き戻すと、デザートシャークに突き刺さった衝撃波が一気に大爆発を起こした。
「す、すげえ……」
あまりの凄まじさに、一人だけ何もできなかったセインが、その光景を呆然と眺めていた。
「さあ、これで脅威は去りました。先を急ぎましょう」
槍をしまったルナルは、再びペンタホーンに跨る。
「ふふっ、ありがとうございます、ルルちゃん」
「えへへ」
ルナルに頭を撫でられると、ルルはとても満足そうな笑顔を見せたのだった。
特に目印になるようなものもほとんどなく、一面の砂、砂、砂……。
これが砂漠の国シグムスのある『プサイラ砂漠』である。
「あ、あぢぃ……。一体どこまで続いてんだよ、この砂漠は」
どこまでも続く変わり映えのない景色と焼けつくような暑さに、砂漠初体験のセインはすでに限界を迎えそうになっている。ルナルの前に座って外套を被っているルルも、同じようにあまりの暑さに疲れた様子を見せている。
「我慢して下さい。砂漠に入って半分くらいは進みましたので、夕暮れまでにはシグムスに着けると思います」
魔王であり、トップクラスのハンターでもあるルナルは、この状況下でも涼しげな顔をしていた。確かに汗をかいてはいるものの、そこは旅慣れした経験者らしさがあった。
「夕暮れまでに、ねえ……」
セインが疑いの眼差しを向ける。
まあ、それも無理もない話だ。視線の先はどこを見ても何もない砂漠が続いているのだから。
シグムスに向けて進む一行を、太陽は高い位置から容赦なく照らしている。そして、それが一面砂地の地面に反射する。この合わせ技によって、とんでもない熱気が襲い続けている。もはや限界は近いのだった。
と、その時だった。
ゴゴゴゴゴ……。
突然、遠くから地鳴りのような音が聞こえ始めたのだった。
ルナルはその音に気が付いたようで、ペンタホーンの走る速度を上げる。それに合わせるようにセインの乗るペンタホーンも速度を上げた。
「な、一体どうしたんだ?!」
あまりに突然だったので、セインが驚いて声を上げる。
「まずいですね。どうやら砂漠の主に目を付けられてしまったようです」
「さ、砂漠の主?!」
聞き慣れないというか聞いた事のない単語である。
「このプサイラ砂漠に生息する、砂に潜って獲物を狙う大型の魔物です」
ルナルが説明するには、砂漠の中を水中と同じように泳げるようになった『デザートシャーク』という魔物らしい。突如、砂の中からかち上げるように現れて獲物を食べるのだという。
今回のように地鳴りを響かせる事が多いので、接近に気付く事ができるのだが、相手は砂の中に潜っているので対処が難しい。ゆえに、砂漠に慣れた隊商たちでも、出くわすと被害が避けられないという、なかなかに危険度の高い魔物なのだ。
「倒すって選択肢は?」
「何を言っているのですか。やつが砂の中に居る間は、さすがの私といっても対処が難しいのです。ましてや倒すなんて、厳しすぎます。今は先を急いでいるのですから、構っている暇なんてありませんよ!」
ルナルはそう言うと、ペンタホーンの速度をさらに上げる。
ところが、今回のデザートシャークは予想以上に泳ぐ速度が速い。ルナルたちが駆るペンタホーンに徐々に迫ってきており、このままでは追いつかれてしまう。どうやらこれは、戦うという選択肢しかなくなりそうだった。
「くっ、なんて速さ。このままでは追いつかれます!」
ルナルが焦っている。その時、ルナルの前に座っているルルが声を掛けてきた。
「ルナル様、デザートシャークを砂から追い出せばいいんですか?」
「えっ?」
突然の事に、ルナルは驚いている。
「無理を言ってついて来たんです。私だってお役に立ってみせます」
暑さのせいで疲れた顔をしてはいるが、ルルは魔法の詠唱を始める。
「精霊よ、私に力を貸して! サウザンドニードル!」
ルルが魔法を唱えると、砂漠の中から針の山が突如として現れた。この魔法、本来ならば針のように尖った土の塊を相手に無数に飛ばす魔法なのだが、今回は自分たちの後ろに地中から出現させたのだ。
「あそこです!」
ルルが指差す方向に、砂の中からデザートシャークが勢いよく飛び出してきた。砂の中から一瞬で針の山が出現したので、その勢いに押し出されたのだ。しかも、その威力が高かったのか、デザートシャークはかなりの高さまで打ち上がってしまっていた。
「ルルちゃん、助かります」
デザートシャークが打ち上がるのを見たルナルは、ペンタホーンを止め、その場に降りて槍を構える。砂の上という事で足場は不安定だが、湿地帯やら岩場やら経験してきたハンターにとって、その程度苦でもなかった。
「この一瞬を逃しません! 今まで苦しめてきた者のすべての恨みをその身に食らいなさい、槍竜虚空閃!」
力を込めて槍を一気に突き出す。衝撃波を放つ様は槍竜閃と同じである。
しかし、その威力は明らかに違った。
強力に渦巻く衝撃波が、宙を舞うデザートシャークに命中する。驚いた事に、なんとその衝撃波がデザートシャークに突き刺さって留まっているではないか。そう、これで終わりではないのである。
「私たちに襲い掛かった事を後悔して散りなさい、とどめっ!」
突き出した槍を一気に引き戻すと、デザートシャークに突き刺さった衝撃波が一気に大爆発を起こした。
「す、すげえ……」
あまりの凄まじさに、一人だけ何もできなかったセインが、その光景を呆然と眺めていた。
「さあ、これで脅威は去りました。先を急ぎましょう」
槍をしまったルナルは、再びペンタホーンに跨る。
「ふふっ、ありがとうございます、ルルちゃん」
「えへへ」
ルナルに頭を撫でられると、ルルはとても満足そうな笑顔を見せたのだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
私、異世界で魔族になりました!〜恋愛嫌いなのに、どうしろと?〜
星宮歌
恋愛
男なんて、ロクなものじゃない。
いや、そもそも、恋愛なんてお断り。
そんなことにうつつを抜かして、生活が脅かされるなんて、もう御免よ!
そう、思っていたのに……魔族?
愛に生きる種族?
片翼至上主義って、何よっ!!
恋愛なんて、絶対に嫌だと主張してきた異世界転生を遂げた彼女は、この地で、ようやく愛されることを知る……。
新片翼シリーズ、第二弾!
今回は、サブタイトルもつけてみました(笑)
それでは、どうぞ!
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
家の猫がポーションとってきた。
熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。
ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。
瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。
始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。
神々に育てられた人の子は最強です
Solar
ファンタジー
突如現れた赤ん坊は多くの神様に育てられた。
その神様たちは自分たちの力を受け継ぐようその赤ん
坊に修行をつけ、世界の常識を教えた。
何故なら神様たちは人の闇を知っていたから、この子にはその闇で死んで欲しくないと思い、普通に生きてほしいと思い育てた。
その赤ん坊はすくすく育ち地上の学校に行った。
そして十八歳になった時、高校生の修学旅行に行く際異世界に召喚された。
その世界で主人公が楽しく冒険し、異種族達と仲良くし、無双するお話です
初めてですので余り期待しないでください。
小説家になろう、にも登録しています。そちらもよろしくお願いします。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
嫌味なエリート治癒師は森の中で追放を宣言されて仲間に殺されかけるがギフト【痛いの痛いの飛んでいけぇ〜】には意外な使い方があり
竹井ゴールド
ファンタジー
森の中で突然、仲間に追放だと言われた治癒師は更に、
「追放出来ないなら死んだと報告するまでだ、へっへっへっ」
と殺されそうになる。
だが、【痛いの痛いの飛んでけぇ〜】には【無詠唱】、【怪我移植(移植後は自然回復のみ)】、【発動予約】等々の能力があり·······
【2023/1/3、出版申請、2023/2/3、慰めメール】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる