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第二章『西の都へ』
帰還
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ルナルたちはペンタホーンを駆り、ベティスへ向けてひたすら疾走していた。
「すごい、速い速い!」
ルナルの前に座るルルは、ペンタホーンが疾走する様子にとても興奮しているようだった。
「ルナル様、私たちはどこに向かっているのですか?」
「私たちの拠点ですよ」
ルルの質問にルナルはにこりと笑いながら答える。
「ですが、今は喋らない事をお勧めしますよ。全力疾走していますから、舌を噛みかねません」
しかし、すぐさまルナルは忘れずにルルを注意しておく。すると、ルルは慌てて口をぎゅっと結んでいた。行動の一つ一つが大げさなせいで、ついついルルが可愛く見えてしまう。そのために、ルナルは思わずお姉さん気分になって笑ってしまうのだった。
こうして、三人を乗せたペンタホーンはようやくガンヌ街道へと出る。ここから先は道なりなので、もう迷う事はない。ルナルたちは、一路ベティスを目指してガンヌ街道を突き進んでいった。
ようやく目の前にベティスの街が見えてきた。夕暮れも過ぎ、完全に陽が沈んでしまった今、辺りには夜の闇が広がりつつあった。
街の前に到着すると、ルナルたちはペンタホーンを歩かせる。さすがに街の中で走ると、周りに迷惑を掛けてしまうから仕方がない。そうやってペンタホーンをてくてくと歩かせていると、とある建物の前でぴたりと歩みを止めたのだった。
「さあ、着きましたよ。でも、中に入る前にペンタホーンたちを馬小屋につないできませんとね」
ルナルたちは、建物の裏手に回り、馬小屋に到着するとようやくペンタホーンから降りた。
「はあ、ここも久しぶりだな」
ペンタホーンから降りたセインがしみじみと言っている。
「そうですね。依頼を受けてばかりで戻る暇がありませんでしたものね。依頼達成の報告も忘れないようにしませんとね」
ルナルはルルを抱えてペンタホーンから降ろしつつ、苦笑いを浮かべながらセインの言葉に同意していた。そう、依頼を受けるだけ受けておいて報告をしていなかったのだ。それがルナルの苦笑いの理由なのである。
「さて、ギルドの中へと移動しましょうか」
「だな」
ルナルとセインはルルを連れてアルファガドの本拠地の建物へと向かった。
カランカラン……。
入口の扉を開けると、いつものように鐘の音が響く。
中は酒場となっているために、今日も多くのハンターたちが集まって騒いでいる。その雰囲気に驚いて、ルルはルナルの後ろへと隠れてしまった。
「おー、お前たち。戻って来たか」
酒場の奥の方から、聞き慣れた耳障りな声が聞こえてくる。
「うにゃあ、いらっしゃいませにゃー!」
それと同時に、猫なで声のようなトーンの高い声が聞こえてきた。
「えっ?!」
その声に、ルナルは激しく動揺している。その一方、猫なで声の主はルナルを見つけて興奮している。
「うにゃーい、ルナル様だー、うぎゅっ!」
猫耳に尻尾、それでいてメイド服に身を包んだ女性が、ルナルに飛びつこうと駆け出した……のだが、そこをマスターに首根っこを掴まれて止められていた。
「さて、ミーア。まずはその手に持っている料理を客の所まで運ぼうか」
「う……にゃー……、分かりましたにゃー……」
誰が見ても分かるくらいに耳と尻尾をしょげしょげにしおらせたミーアは、渋々手に持っている料理を注文した客のテーブルまで運んでいた。
「お待たせしましたにゃー」
テーブルに着いた時には笑顔で対応している。さすがメイドである。
「おー、獣人が働いているとは珍しいな。新人なのかな?」
「はいにゃ。ミーアはメイドにゃ。昨日からお世話になってますにゃ」
ミーアは料理をテーブルに置きながら、客からの言葉に対応している。そのミーアに対して、テーブルの男の手が怪しい動きを見せている。マスターはそれを見逃さずに、すかさず声を掛ける。
「おいおい、やめておけ。その子は猫人だ。五体満足でいたいのなら手を出さないこったな」
「ひっ! そいつは勘弁してくれ」
男は慌てて手を引っ込めている。それに対して、ミーアはどうしたんだろうかと首を傾げていた。
「それにしても猫人なんて戦い好きの魔族じゃねえか。そんな魔族を手なずけて手元に置いちまうたあ、さすがマスターさんだぜ!」
「はっはっはっ、俺を褒めたって何も出やしねえ。ツケもありゃしねえからな?」
「わ、分かってますぜ。手加減なしだな、マスターさんはよ」
男とマスターがお互いにがっはっはっと大声で笑い合っている。その姿にルナルたちは呆然としてやり取りを見つめていた。
(それはともかくとして、なんでここにミーアが居るわけなのですか? とはいえ、今は聞くわけにはいきません、我慢です、我慢……)
ルナルは予想もしてなかった人物が居た事に驚きを隠せなかった。
「おーい、ルナル。いつまで入口に立ってるんだ。出入りの邪魔だから、さっさとこっちに来いよ」
マスターが大声でルナルに呼び掛けている。
「呼ばれてるぜ。とりあえずさっさと行こうぜ、ルナル」
「はあ……、そうですね」
セインもそう言っているので、盛大なため息を吐きながらも同意するルナル。
正直言って状況の整理がつかないルナルだったが、ルルの手を引きながら、マスターが待ち構えているカウンターへと歩いていったのだった。
「すごい、速い速い!」
ルナルの前に座るルルは、ペンタホーンが疾走する様子にとても興奮しているようだった。
「ルナル様、私たちはどこに向かっているのですか?」
「私たちの拠点ですよ」
ルルの質問にルナルはにこりと笑いながら答える。
「ですが、今は喋らない事をお勧めしますよ。全力疾走していますから、舌を噛みかねません」
しかし、すぐさまルナルは忘れずにルルを注意しておく。すると、ルルは慌てて口をぎゅっと結んでいた。行動の一つ一つが大げさなせいで、ついついルルが可愛く見えてしまう。そのために、ルナルは思わずお姉さん気分になって笑ってしまうのだった。
こうして、三人を乗せたペンタホーンはようやくガンヌ街道へと出る。ここから先は道なりなので、もう迷う事はない。ルナルたちは、一路ベティスを目指してガンヌ街道を突き進んでいった。
ようやく目の前にベティスの街が見えてきた。夕暮れも過ぎ、完全に陽が沈んでしまった今、辺りには夜の闇が広がりつつあった。
街の前に到着すると、ルナルたちはペンタホーンを歩かせる。さすがに街の中で走ると、周りに迷惑を掛けてしまうから仕方がない。そうやってペンタホーンをてくてくと歩かせていると、とある建物の前でぴたりと歩みを止めたのだった。
「さあ、着きましたよ。でも、中に入る前にペンタホーンたちを馬小屋につないできませんとね」
ルナルたちは、建物の裏手に回り、馬小屋に到着するとようやくペンタホーンから降りた。
「はあ、ここも久しぶりだな」
ペンタホーンから降りたセインがしみじみと言っている。
「そうですね。依頼を受けてばかりで戻る暇がありませんでしたものね。依頼達成の報告も忘れないようにしませんとね」
ルナルはルルを抱えてペンタホーンから降ろしつつ、苦笑いを浮かべながらセインの言葉に同意していた。そう、依頼を受けるだけ受けておいて報告をしていなかったのだ。それがルナルの苦笑いの理由なのである。
「さて、ギルドの中へと移動しましょうか」
「だな」
ルナルとセインはルルを連れてアルファガドの本拠地の建物へと向かった。
カランカラン……。
入口の扉を開けると、いつものように鐘の音が響く。
中は酒場となっているために、今日も多くのハンターたちが集まって騒いでいる。その雰囲気に驚いて、ルルはルナルの後ろへと隠れてしまった。
「おー、お前たち。戻って来たか」
酒場の奥の方から、聞き慣れた耳障りな声が聞こえてくる。
「うにゃあ、いらっしゃいませにゃー!」
それと同時に、猫なで声のようなトーンの高い声が聞こえてきた。
「えっ?!」
その声に、ルナルは激しく動揺している。その一方、猫なで声の主はルナルを見つけて興奮している。
「うにゃーい、ルナル様だー、うぎゅっ!」
猫耳に尻尾、それでいてメイド服に身を包んだ女性が、ルナルに飛びつこうと駆け出した……のだが、そこをマスターに首根っこを掴まれて止められていた。
「さて、ミーア。まずはその手に持っている料理を客の所まで運ぼうか」
「う……にゃー……、分かりましたにゃー……」
誰が見ても分かるくらいに耳と尻尾をしょげしょげにしおらせたミーアは、渋々手に持っている料理を注文した客のテーブルまで運んでいた。
「お待たせしましたにゃー」
テーブルに着いた時には笑顔で対応している。さすがメイドである。
「おー、獣人が働いているとは珍しいな。新人なのかな?」
「はいにゃ。ミーアはメイドにゃ。昨日からお世話になってますにゃ」
ミーアは料理をテーブルに置きながら、客からの言葉に対応している。そのミーアに対して、テーブルの男の手が怪しい動きを見せている。マスターはそれを見逃さずに、すかさず声を掛ける。
「おいおい、やめておけ。その子は猫人だ。五体満足でいたいのなら手を出さないこったな」
「ひっ! そいつは勘弁してくれ」
男は慌てて手を引っ込めている。それに対して、ミーアはどうしたんだろうかと首を傾げていた。
「それにしても猫人なんて戦い好きの魔族じゃねえか。そんな魔族を手なずけて手元に置いちまうたあ、さすがマスターさんだぜ!」
「はっはっはっ、俺を褒めたって何も出やしねえ。ツケもありゃしねえからな?」
「わ、分かってますぜ。手加減なしだな、マスターさんはよ」
男とマスターがお互いにがっはっはっと大声で笑い合っている。その姿にルナルたちは呆然としてやり取りを見つめていた。
(それはともかくとして、なんでここにミーアが居るわけなのですか? とはいえ、今は聞くわけにはいきません、我慢です、我慢……)
ルナルは予想もしてなかった人物が居た事に驚きを隠せなかった。
「おーい、ルナル。いつまで入口に立ってるんだ。出入りの邪魔だから、さっさとこっちに来いよ」
マスターが大声でルナルに呼び掛けている。
「呼ばれてるぜ。とりあえずさっさと行こうぜ、ルナル」
「はあ……、そうですね」
セインもそう言っているので、盛大なため息を吐きながらも同意するルナル。
正直言って状況の整理がつかないルナルだったが、ルルの手を引きながら、マスターが待ち構えているカウンターへと歩いていったのだった。
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