24 / 139
第一章『ハンター・ルナル』
決着!ルナル対ジャグラー
しおりを挟む
ジャグラーへ向けて、斬り上げからの連続突きが繰り出される。
決まったかのように思われた天閃破だったが、どうやら想像以上にルナルの動きが鈍っており、ジャグラーには剣先が軽く触れる程度にしか命中しなかった。普段は槍を使っているので、間合いを見誤ったのだろうか。
「ふふふ……ふははははははっ! どうした、啖呵を切った割には攻撃が届いておらぬぞ?」
予想外の腑抜けた攻撃に、ジャグラーは余裕の表情を見せてあざ笑っている。ところが、そのジャグラーの態度に対して、ルナルは不敵な笑みを浮かべてジャグラーを見ている。
「ふん、気でも触れたか。だが、今ので最後の力も使い切っただろう。ならばお望み通り、今すぐにでも……ぬぅ?!」
肩で大きく息をするルナルに対してとどめを刺そうとしたジャグラーだったが、その様子が突然おかしくなった。
「ぐっ……。な、なんだ? ち、力が入らぬ……ぞ?」
急に足元がおぼつかなくなるジャグラー。手に持っている杖を使って、どうにか立つ事ができるものの、全身が震えてしまっている。
この状況に、セインは何が起こったのか分からないでいる。だが、彼の隣に立つソルトとアカーシャは、微動だにせずにその様子を見つめている。まるで、何が起こったのか分かっているかのように。
「ジャグラー、この剣が何だかわかりますか?」
ルナルが目立つように自分の前に剣を掲げて、ジャグラーに話し掛ける。その剣を見たジャグラーの顔が、みるみるうちに驚きの色に染まっていく。
「そ、それは……、その剣は、まさかっ!?」
「ふふっ、そのまさか、ですよ」
ジャグラーの反応に、ルナルは少し青ざめた表情をしながらも、必死に笑みを浮かべている。
「バカな! お前はまさか、そんなものを持ってこの俺と戦っていたというのか? 我々魔族にとって、それは紛れもなく自殺行為だぞ!」
恐るべきものを持って立っているルナルの姿に、ジャグラーが激しくうろたえている。
「ええ、そんなもの、百も承知ですよ! わたしなりの”けじめ”というものです!」
ルナルはそのまま剣を構えて、ジャグラーに大声で言い放つ。
「さあ、ジャグラー! お前もまた罪なき者たちへの贖罪として、ここで果てるのです!」
しかし、ルナルの体力の消耗も相当のものだ。立っているのも不思議なくらいにふらついているものの、その瞳は眼光鋭くジャグラーを見据えている。
一方のジャグラーだってこのまま引き下がれるものかと、必死に杖を構えて応戦する様相だ。
「俺様は誇り高き魔族だ! このままおめおめと死ぬような事があってはならん! たとえ死ぬとしても一人では死なん。その時は、お前たちも道連れだ!」
ジャグラーは素早く懐から何かを取り出す。そして、魔力を使ってルナルたちに向けて飛ばした。
飛ばしたそれは、赤黒く光る『魔眼石』だった。
「くははははっ! さあ、石に取り込まれてしまえ!」
ジャグラーが叫ぶ。
だが、ルナル、ソルト、アカーシャの三人にそんな攻撃が通じるわけもなく、石を切り裂いてしまった。ところが、セインだけはそうはいかなかった。
「ぐっ!」
魔眼石がセインに直撃し、うめき声を上げる。
「くははははっ、ぬかったな! 武器を取り上げるからこんな事になるのだ。さあ、小僧だけでも俺の傀儡となれ!」
ジャグラーは勝ち誇ったかのように笑っているが、ルナルたちは誰もまったく動じていなかった。
「まったく、勝ったつもりでいるとは片腹痛いですね。お前の行動は予想のうちですし、放った魔眼石はわざとセインには命中させたのですよ。ちょっと確認したい事がありましたからね」
「なに?」
ルナルがそう言った瞬間、セインの体が眩く光る。そして、次の瞬間、セインの体に命中した魔眼石はセインの体に張り付いたままではあったものの、色を失って砂のように崩れ去ってしまっていくではないか。この様子を目の当たりにして、ジャグラーはただただ驚くしかなかった。
「ば、バカな……。この光はまさか、まさか奴はあの男の生まれ変わりだとでもいうのか!?」
「おそらくは。生まれ変わりではなく、その力が蘇ったと考えるべきでしょうかね。この剣は彼の家に代々受け継がれてきたものだと聞いていますから」
万策尽きたのか、ジャグラーは力なく首を垂れる。そして、しばらくすると突如として体を震わせ始め、
「くそっ! こうなったらやぶれかぶれだ! 誇り高き魔族として、せめてお前くらいは殺してやらねば気が済まぬ!」
顔を上げたジャグラーは目を血走らせてルナルに襲い掛かってきた。
「往生際が悪いですよ、ジャグラー!」
ルナルはどこまでも冷静だった。ふらつく体に力を籠め、剣に炎をまとわせる。
「鳳華落翼撃!」
垂直に跳び上がったルナルは、ジャグラー目がけて急降下する。体力と魔力、そして冷静さを欠いたジャグラーに、もうその攻撃を躱すだけの余力は残っていなかった。
「ぐはっ!!」
突き出されたルナルの剣にあえなく貫かれ、炎に包まれながらその場に崩れ落ちた。
「くくく……、俺様を倒した事は、褒めてやろう……」
ジャグラーはまだ生きていた。
「だがな、お前が人間側についたと知れば、一体どれくらいの魔族が、お前に対して牙を剥く、だろうかな……?」
瀕死の重傷を負い、炎に包まれながらも、ジャグラーの口は減る事を知らなかった。
「俺様を倒したくらいで……いい気になるなよ。もうすでに、多くの魔族が、動き、出している……。くくく……、その現実に、せいぜい苦しむ……んだな、……うぼぁっ!」
そして、言いたい事を言い終えるとついに息絶え、体は崩れ去り、魔力の霧となって散り散りになったのだった。
多くの者を操り苦しめてきたジャグラー。彼を討ち取り、その者たちの無念を晴らしたというのに、その場には何とも言えない、重苦しい空気が漂っていたのだった。
決まったかのように思われた天閃破だったが、どうやら想像以上にルナルの動きが鈍っており、ジャグラーには剣先が軽く触れる程度にしか命中しなかった。普段は槍を使っているので、間合いを見誤ったのだろうか。
「ふふふ……ふははははははっ! どうした、啖呵を切った割には攻撃が届いておらぬぞ?」
予想外の腑抜けた攻撃に、ジャグラーは余裕の表情を見せてあざ笑っている。ところが、そのジャグラーの態度に対して、ルナルは不敵な笑みを浮かべてジャグラーを見ている。
「ふん、気でも触れたか。だが、今ので最後の力も使い切っただろう。ならばお望み通り、今すぐにでも……ぬぅ?!」
肩で大きく息をするルナルに対してとどめを刺そうとしたジャグラーだったが、その様子が突然おかしくなった。
「ぐっ……。な、なんだ? ち、力が入らぬ……ぞ?」
急に足元がおぼつかなくなるジャグラー。手に持っている杖を使って、どうにか立つ事ができるものの、全身が震えてしまっている。
この状況に、セインは何が起こったのか分からないでいる。だが、彼の隣に立つソルトとアカーシャは、微動だにせずにその様子を見つめている。まるで、何が起こったのか分かっているかのように。
「ジャグラー、この剣が何だかわかりますか?」
ルナルが目立つように自分の前に剣を掲げて、ジャグラーに話し掛ける。その剣を見たジャグラーの顔が、みるみるうちに驚きの色に染まっていく。
「そ、それは……、その剣は、まさかっ!?」
「ふふっ、そのまさか、ですよ」
ジャグラーの反応に、ルナルは少し青ざめた表情をしながらも、必死に笑みを浮かべている。
「バカな! お前はまさか、そんなものを持ってこの俺と戦っていたというのか? 我々魔族にとって、それは紛れもなく自殺行為だぞ!」
恐るべきものを持って立っているルナルの姿に、ジャグラーが激しくうろたえている。
「ええ、そんなもの、百も承知ですよ! わたしなりの”けじめ”というものです!」
ルナルはそのまま剣を構えて、ジャグラーに大声で言い放つ。
「さあ、ジャグラー! お前もまた罪なき者たちへの贖罪として、ここで果てるのです!」
しかし、ルナルの体力の消耗も相当のものだ。立っているのも不思議なくらいにふらついているものの、その瞳は眼光鋭くジャグラーを見据えている。
一方のジャグラーだってこのまま引き下がれるものかと、必死に杖を構えて応戦する様相だ。
「俺様は誇り高き魔族だ! このままおめおめと死ぬような事があってはならん! たとえ死ぬとしても一人では死なん。その時は、お前たちも道連れだ!」
ジャグラーは素早く懐から何かを取り出す。そして、魔力を使ってルナルたちに向けて飛ばした。
飛ばしたそれは、赤黒く光る『魔眼石』だった。
「くははははっ! さあ、石に取り込まれてしまえ!」
ジャグラーが叫ぶ。
だが、ルナル、ソルト、アカーシャの三人にそんな攻撃が通じるわけもなく、石を切り裂いてしまった。ところが、セインだけはそうはいかなかった。
「ぐっ!」
魔眼石がセインに直撃し、うめき声を上げる。
「くははははっ、ぬかったな! 武器を取り上げるからこんな事になるのだ。さあ、小僧だけでも俺の傀儡となれ!」
ジャグラーは勝ち誇ったかのように笑っているが、ルナルたちは誰もまったく動じていなかった。
「まったく、勝ったつもりでいるとは片腹痛いですね。お前の行動は予想のうちですし、放った魔眼石はわざとセインには命中させたのですよ。ちょっと確認したい事がありましたからね」
「なに?」
ルナルがそう言った瞬間、セインの体が眩く光る。そして、次の瞬間、セインの体に命中した魔眼石はセインの体に張り付いたままではあったものの、色を失って砂のように崩れ去ってしまっていくではないか。この様子を目の当たりにして、ジャグラーはただただ驚くしかなかった。
「ば、バカな……。この光はまさか、まさか奴はあの男の生まれ変わりだとでもいうのか!?」
「おそらくは。生まれ変わりではなく、その力が蘇ったと考えるべきでしょうかね。この剣は彼の家に代々受け継がれてきたものだと聞いていますから」
万策尽きたのか、ジャグラーは力なく首を垂れる。そして、しばらくすると突如として体を震わせ始め、
「くそっ! こうなったらやぶれかぶれだ! 誇り高き魔族として、せめてお前くらいは殺してやらねば気が済まぬ!」
顔を上げたジャグラーは目を血走らせてルナルに襲い掛かってきた。
「往生際が悪いですよ、ジャグラー!」
ルナルはどこまでも冷静だった。ふらつく体に力を籠め、剣に炎をまとわせる。
「鳳華落翼撃!」
垂直に跳び上がったルナルは、ジャグラー目がけて急降下する。体力と魔力、そして冷静さを欠いたジャグラーに、もうその攻撃を躱すだけの余力は残っていなかった。
「ぐはっ!!」
突き出されたルナルの剣にあえなく貫かれ、炎に包まれながらその場に崩れ落ちた。
「くくく……、俺様を倒した事は、褒めてやろう……」
ジャグラーはまだ生きていた。
「だがな、お前が人間側についたと知れば、一体どれくらいの魔族が、お前に対して牙を剥く、だろうかな……?」
瀕死の重傷を負い、炎に包まれながらも、ジャグラーの口は減る事を知らなかった。
「俺様を倒したくらいで……いい気になるなよ。もうすでに、多くの魔族が、動き、出している……。くくく……、その現実に、せいぜい苦しむ……んだな、……うぼぁっ!」
そして、言いたい事を言い終えるとついに息絶え、体は崩れ去り、魔力の霧となって散り散りになったのだった。
多くの者を操り苦しめてきたジャグラー。彼を討ち取り、その者たちの無念を晴らしたというのに、その場には何とも言えない、重苦しい空気が漂っていたのだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
【完結】 黒猫サファイアと三毛猫さくらの日常 ~ 猫魈?猫又! 日常は妖怪、吹き溜まり !! ~
るしあん@猫部
ファンタジー
とある本屋さんには、昔から居る黒猫が居る。
看板猫のサファイアは、子供達から大人まで人気のある本屋さんのアイドルとして有名です。
そんなサファイアには秘密があり……
るしあん 十 作目の作品です。😺
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界帰りの【S級テイマー】、学校で噂の美少女達が全員【人外】だと気付く
虎戸リア
ファンタジー
過去のトラウマで女性が苦手となった陰キャ男子――石瀬一里<せきせ・いちり>、高校二年生。
彼はひょんな事から異世界に転移し、ビーストテイマーの≪ギフト≫を女神から授かった。そして勇者パーティに同行し、長い旅の末、魔王を討ち滅ぼしたのだ。
現代日本に戻ってきた一里は、憂鬱になりながらも再び高校生活を送りはじめたのだが……S級テイマーであった彼はとある事に気付いてしまう。
転校生でオタクに厳しい系ギャルな犬崎紫苑<けんざきしおん>も、
後輩で陰キャなのを小馬鹿にしてくる稲荷川咲妃<いなりがわさき>も、
幼馴染みでいつも上から目線の山月琥乃美<さんげつこのみ>も、
そして男性全てを見下す生徒会長の竜韻寺レイラ<りゅういんじれいら>も、
皆、人外である事に――。
これは対人は苦手だが人外の扱いはS級の、陰キャとそれを取り巻く人外美少女達の物語だ。
・ハーレム
・ハッピーエンド
・微シリアス
*主人公がテイムなどのスキルで、ヒロインを洗脳、服従させるといった展開や描写は一切ありません。ご安心を。
*ヒロイン達は基本的に、みんな最初は感じ悪いです()
カクヨム、なろうにも投稿しております
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる