神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
23 / 139
第一章『ハンター・ルナル』

魔族の決戦

しおりを挟む
 薄暗い部屋の中で、ルナルとジャグラーが対峙をしている。ところが、お互いに出方を窺っているためか、双方ともに動きがなかった。
「はっ、さっきまでの威勢はどうした。来ないというのなら、こっちから行くぞっ!」
 しびれを切らしたのか、ジャグラーは杖を構えて魔法の詠唱を始める。
「我が使徒よ、我に抗う愚か者に鉄槌を下せ!」
 杖の先から濃い血色の魔力が一気にあふれ出す。
「ブラッディスコール!」
 あふれ出た魔力は一気に天井を埋め尽くし、雨のように降り注ぐ。
「ふっ、子ども騙しですね!」
 辺り一面をジャグラーの魔力が包み込んでも、ルナルは実に冷静だった。
「灼熱の風よ、我らに仇なす者を焼き尽くせ!」
 ルナルが剣を構えて魔法の詠唱を始める。すると、ルナルの周りに炎の渦が生じ始めた。
「フレイムストーム!」
 ルナルが魔法を発動すると、ルナルを中心に炎の風が巻き起こる。その風はジャグラーが発生させた血の雨を焼き尽くしていった。
 それと同時に、ルナルはジャグラーに向かって突進をする。
 ジャグラーの起こした雨をルナルが起こした炎で焼く事で魔力の蒸気が立ち上っていたのだ。それが目くらましとなり、ジャグラーの視界を奪っていた。つまり、ルナルの攻撃は死角からの攻撃となったのである。
 ところが、苦もやしとも呼ばれているジャグラーとはいえ、さすがは魔族といったところか。目で追えなくなったためにギリギリとはなってしまったものの、ルナルの攻撃を見事躱したのだ。
「けけっ、実に小賢しい攻撃、よなっ!」
 ジャグラーは躱しながら杖を横一線に振り抜く。すると、ルナル目がけて魔力の刃が放たれた。ルナルはそれを難なく剣で相殺する。
「なかなかやるなぁ……。ならば、これはどうだ?」
 純粋に魔法使い系であるジャグラーとはいえ、その動きは意外と機敏なものだった。自室の中なのでそれほど広くはないものの、うまくルナルと距離を取りつつ、次なる魔法の詠唱をしていた。
「ホーミングシャドウ!」
 ジャグラーの杖から次々と暗黒の魔力弾が放たれる。しかし、その魔力弾はあまり速くなく、ルナルは余裕で躱す事ができた。
「ふふっ、余裕か。だが、それもいつまでもつかな?」
「何だと?」
 ジャグラーが余裕の笑みを浮かべている。それもそのはず。ルナルが躱した魔力弾は、ぐぐぐっと向きを変えて再びルナルへと迫ってきた。
「追尾弾とは、厄介なものを使いますね」
 ぎりっと唇を噛むルナルだったが、急に立ち止まって顔の前で剣を構えた。
「少し、あなたの力をお借り致します」
 ルナルは剣に小さく語り掛けて、息を整える。
「剣に宿りし、聖なる力よ」
 詠唱を始めるルナルの姿を見て、見守ると決めたはずのソルトの顔色が急激に変わっていく。
「いけません、ルナル様! その魔法を使ってはいけません!」
 冷静なはずのソルトが青ざめて叫び、慌ててルナルを止めようとする。
「心正しき者の呼び掛けに応え、穢れし輩を焼き払え!」
 ソルトがアカーシャに止められる中、ルナルが詠唱を完了させて魔法を発動する。
「セイクリッドサンシャイン!」
 次の瞬間、剣から眩いばかりの光が放たれてルナルの頭上に集まっていく。そして、そこから幾重もの光の帯が、部屋の中へと降り注いだ。
 ジャグラーの放った暗黒の追尾弾はすべて光の帯に焼かれて消滅してしまった。
「ば、バカな! 魔王という純然たる魔族が、神聖魔法を使うだと!? ありえん、絶対にありえない!」
 ルナルが発動した神聖魔法は、ジャグラーの魔法弾だけではなく、その身体と精神にもかなりのダメージを与えたようである。そのために、ジャグラーの動揺は相当なもので、畳みかけるなら今が絶好の機会である。
 ところがどうだろうか。魔法を放ったルナルには次の動きがない。よく見れば、かなり呼吸が荒れているのである。ジャグラーの攻撃はまったく受けていないし、それほど激しく動いたわけでもない。だというのに汗もかなりかいており、疲れているのが誰の目にも明らかだったのだ。
「クッハッハッハッ! どうした、さっきの攻撃で力を使い果たしたか?」
 動かないルナルに、全身ボロボロになりながらもジャグラーは余裕の様子だ。だが、この煽りにもルナルは無言のままである。
「ふん。どうやら答える気力も残っていないようだな。よかろう、ならば死ねぃ!」
 魔王を討ち取る最大の好機と見たジャグラーは、魔力を集めて杖の先に刃を生み出し、ルナルへと斬りかかろうとして走り出す。それだというのに、ルナルはまったく動かない。
「ルナル!」
「ルナル様!」
「……」
 窓辺から見守っていたセインたちに動揺が走る。
 その間にもジャグラーはルナルの目の前まで迫り、思いっきり杖を振りかぶった。ジャグラーがにやりと笑みを浮かべた瞬間だった。
「……この瞬間を待っていました」
「なに?!」
 ジャグラーの攻撃が当たろうかという瞬間、ルナルが顔を上げてジャグラーを見据える。
「くっ!」
 その時のルナルの表情に、一瞬ジャグラーは飲まれかける。
「だが遅い! 死ねっ、俺が新しい魔王だ!」
 ジャグラーは気を持ち直してそのまま攻撃を続けるが、その一瞬のためらいのせいか、ルナルには難なく躱されてしまう。
「なにっ?!」
 ジャグラーは驚き、体を起こそうとする。その瞬間の事だった。
「その身に受けなさい、この剣の力を!」
 ルナルは剣を構え、ジャグラーの体が起きたところへと攻撃を繰り出した。
「防御の暇なんて与えません! 食らいなさい、天閃破!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

きっと幸せな異世界生活

スノウ
ファンタジー
   神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。  そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。  時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。  異世界レメイアの女神メティスアメルの導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?  毎日12時頃に投稿します。   ─────────────────  いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

出来損ないと呼ばれた公爵令嬢の結婚

奏千歌
恋愛
[できそこないと呼ばれても][魔王]  努力をしてきたつもりでした。  でもその結果が、私には学園に入学できるほどの学力がないというものでした。  できそこないと言われ、家から出ることを許されず、公爵家の家族としても認めてもらえず、使用人として働くことでしか、そこに私の居場所はありませんでした。  でも、それも、私が努力をすることができなかった結果で、悪いのは私のはずでした。  私が悪いのだと、何もかもを諦めていました。  諦めた果てに私に告げられたことは、魔法使いとの結婚でした。  田舎町に住む魔法使いさんは、どんな方なのか。  大きな不安を抱え、長い長い道のりを歩いて行きました。

【第二章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 のんびり、マイペース、気まぐれ。一緒にいると気が抜けるけど超絶イケメン。  俺は桜井渚。高校二年生。趣味は寝ることと読書。夏の海で溺れた幼い弟を助けて死にました。終わったなーと思ったけど目が覚めたらなんか見知らぬ土地にいた。土地?というか水中。あの有名な異世界転生したんだって。ラッキーだね。俺は精霊王に生まれ変わった。  めんどくさいことに精霊王って結構すごい立場らしいんだよね。だけどそんなの関係ない。俺は気まぐれに生きるよ。精霊の一生は長い。だから好きなだけのんびりできるはずだよね。……そのはずだったのになー。  のんびり、マイペース、気まぐれ。ついでに面倒くさがりだけど、心根は優しく仲間思い。これは前世の知識と容姿、性格を引き継いで相変わらずのんびりライフを送ろうとするも、様々なことに巻き込まれて忙しい人生を送ることになる一人の最強な精霊王の物語。 ※誤字脱字などありましたら報告してくださると助かります! ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

スマフォ画面0.001ミリ差の恋

丹波 新
ライト文芸
普通に学生生活を送っていた暁ケンマ。 しかし、ある日をさかいに念願である超AIの完成を実現する。 その子は女の子でなんと自分の彼女にしてしまった暁ケンマ。自分だけにデレデレする存在、名をデレデーレ。 そこから新しい学園生活が始まるのである。毎日規則正しい生活を超AIの指示の元実行し、生活習慣を改善される。 そんなノーベル賞とも言われる完全なデレデーレの存在を大っぴらにせず、毎日粛々と暮らすのには理由があった。 まだプロトタイプである彼女を、実験段階である彼女に本当に自我が宿っているのか、感情が心の働きが上手くいっているのかを確認するためであった。 今、誰もが夢見た超AIとのラブラブでデレデレな毎日が始まる。 それが世界を大きく動かすことになるなんて誰にもわからず。 これはスマートフォンに映る彼女デレデーレと天才少年暁ケンマの境界線となる画面0,001ミリ差の恋物語である。

私、異世界で獣人になりました!

星宮歌
恋愛
 昔から、人とは違うことを自覚していた。  人としておかしいと思えるほどの身体能力。  視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。  早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。  ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。  『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。  妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。  父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。  どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。 『動きたい、走りたい』  それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。 『外に、出たい……』  病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。  私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。 『助、けて……』  救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。 「ほぎゃあ、おぎゃあっ」  目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。 「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」  聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。  どうやら私は、異世界に転生したらしかった。 以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。 言うなれば、『新片翼シリーズ』です。 それでは、どうぞ!

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

処理中です...