神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
16 / 139
第一章『ハンター・ルナル』

見えた影

しおりを挟む
「イラプション!」
 ルナルが魔法を発動させると、ゴブリックの足元から勢いよく炎が噴き出した。そして、その炎はあっという間にゴブリックを包み込んだ。
「ぐわああぁっ!!」
 全身を激しく焼かれたゴブリックは、ついにその場に力なく倒れ込んでしまった。
 ところが、驚いた事にまだ息があるようで、倒れながらもまだルナルを鋭く睨み付けている。ただのゴブリンとは違う事を物語っている。
「驚きましたね。頑丈だとは思いましたが、これだけの攻撃を受けながらもまだ生きているとは……」
 そんな状況だからこそ、ルナルは気を抜く事はなかった。お返しとばかりにルナルもゴブリックを睨み付ける。そして、まだ息のあるゴブリックに対して問い掛ける。
「さあ、死ぬ前に教えなさい! お前たちの背後に居るのは一体誰なのですか!」
「く、くくく……。あ、あのお方の名前を、お前たちごときになど……、口が、裂けても、言うわけがなかろう……。そ、それに……だ……」
 ゴブリックの拳が、ぎゅっと握られる。
「それにっ、まだっ、……終わっておらぬわぁっ!!」
 力を振り絞ってゴブリックは一気に立ち上がる。そして、力の限りにルナルへと攻撃を仕掛ける。その姿に驚きはしたものの、ルナルは実に冷静だった。
「これだから、蛮族というものは……。先程の魔法、炎を打ち上げるだけで終わりだと思いましたか?」
「何……だと……?」
 ルナルの言葉と同時に、ゴブリックの頭上から大量の炎の塊が降り注ぐ!
 瀕死の状態に加え、頭に血が上り切っていたゴブリックに、もはやその炎に反応して払うだけの力など残されていなかった。
「そ、そんなバカなっ、ぐわあああぁぁっ!!」
 断末魔のごとく叫び声を上げながら、大量の火炎球の直撃を受けたゴブリックは、力なくその場に倒れ込んだ。
 ゴブリックは死んだ。その場に居た誰もがそう思った。
「まったくしつこかったですが、最後はあっけないものですね」
 ルナルが槍を振ってしまい込んだその瞬間だった。
「おのるぇっ!」
 ゴブリックの顔が突如として動いて前を向いた。そして、今まで感じた事のないよくらいに魔力が高まっていく。
「ただで、は、死なぬっ! お、お前たちも……み、道連、れ、だぁっ!!」
 ゴブリックは最期の力を振り絞り、強力な土属性の魔法を放ったのだ。ゴブリンという種族では見た事も聞いた事もない高位の魔法に、ルナルは驚きで動けなかった。
「ば、バカなっ! ゴブリンごときがこんな強力な魔法を?!」
 放たれた魔法は『グランドフラッド』という上位クラスの魔法だ。土を津波のように放つ魔法である。
 ゴブリックの残された生命力と魔力をすべて注ぎ込んだと思われる魔法の勢いはとてつもなく速かった。驚いて初動の遅れたルナルには、もう対応が不可能な状態だった。
「ぐわははははっ! みん、な、みんな死んでしまえっ!!」
 明らかにセインたちを狙った魔法だ。そこには自分の部下のゴブリンだって居るのに、ゴブリックはまったくお構いなしだった。
 あまりの勢いに加え突然の事だったので、セインたちもまったく反応ができなかった。
「シェルター……」
 もう駄目だと思ったその瞬間だった。セインや村人、それにゴブリンたちを包み込むように魔法の障壁が発動する。しかし、大量の土とそれが荒れ狂って巻き起こる土埃のせいで、ルナルの目にはそれを確認する事はできなかった。
「おのれっ!」
 自分の仲間たちをも巻き込んで魔法を放った事に激高したルナルは、倒れ込むゴブリックをひと突きする。ところが、それに対してゴブリックが見せたのは、苦痛の声でも表情でもなく、ルナルに対する嘲りの表情だった。
「くっ、くくくく……。し、神槍、のル……ナルに、お、汚点を付けて……やったぜ。くくっ、こ、これで……に、人間、の勢、いも……衰え、る、はずだ……」
 息も絶え絶えになりながら、ゴブリックは愉悦に浸りながら言葉を紡いでいる。憎たらしいくらいによく喋る奴だ。
「き、きっと……、あの方も、喜、ぶに……ち、違い、ない……」
 そして、ゴブリックは今わの際である名前を叫びながら、「ぐふっ」と息絶えたのだった。この時聞いた名前に、さすがのルナルも驚きを隠せなかったのだった。
 だが、今のルナルは驚いてばかりもいられなかった。くるりと村の入口の方へと振り向く。その方向はいまだに大量の土埃が舞っていて、状況が確認できない状態だった。しかし、その方向を襲ったのは高威力の土属性魔法。とても無事でいるだなんて思えない。ルナルは悔しさのあまりに全身を震わせている。
「なんて事なの……、守れなかったなんて……」
 ルナルはつい膝をつきそうになってしまう。その時だった。
「おーい、ルナルーっ! 大丈夫か?!」
 土埃の中をセインが叫びながら駆け出てきたのだ。その姿を見て、ルナルは表情が固まってしまう。あれだけの強力な魔法が直撃したはずなのに、まったくの無傷だったのだから。
「せ、セイン? 村の、村の人たちは無事なのですか?」
 ルナルは崩れ落ちそうになっている膝に力を入れて、なんとか立っている。
「ああ、俺もさすがにあの土の波を見た時はダメだと思ったんだが、どういうわけか俺たちの目の前で、突然魔法が弾かれて助かったんだよ」
 セインも状況がよく分からないらしい。それでもセインのみんな無事という言葉を聞いて、ルナルは安心したかのようにその場に座り込んだのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

嫌味なエリート治癒師は森の中で追放を宣言されて仲間に殺されかけるがギフト【痛いの痛いの飛んでいけぇ〜】には意外な使い方があり

竹井ゴールド
ファンタジー
 森の中で突然、仲間に追放だと言われた治癒師は更に、 「追放出来ないなら死んだと報告するまでだ、へっへっへっ」  と殺されそうになる。  だが、【痛いの痛いの飛んでけぇ〜】には【無詠唱】、【怪我移植(移植後は自然回復のみ)】、【発動予約】等々の能力があり······· 【2023/1/3、出版申請、2023/2/3、慰めメール】

家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。 ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。 瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。 始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

神々に育てられた人の子は最強です

Solar
ファンタジー
突如現れた赤ん坊は多くの神様に育てられた。 その神様たちは自分たちの力を受け継ぐようその赤ん 坊に修行をつけ、世界の常識を教えた。 何故なら神様たちは人の闇を知っていたから、この子にはその闇で死んで欲しくないと思い、普通に生きてほしいと思い育てた。 その赤ん坊はすくすく育ち地上の学校に行った。 そして十八歳になった時、高校生の修学旅行に行く際異世界に召喚された。 その世界で主人公が楽しく冒険し、異種族達と仲良くし、無双するお話です 初めてですので余り期待しないでください。 小説家になろう、にも登録しています。そちらもよろしくお願いします。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

落第錬金術師の工房経営~とりあえず、邪魔するものは爆破します~

みなかみしょう
ファンタジー
錬金術師イルマは最上級の階級である特級錬金術師の試験に落第した。 それも、誰もが受かるはずの『属性判定の試験』に落ちるという形で。 失意の彼女は師匠からすすめられ、地方都市で工房経営をすることに。 目標としていた特級錬金術師への道を断たれ、失意のイルマ。 そんな彼女はふと気づく「もう開き直って好き放題しちゃっていいんじゃない?」 できることに制限があると言っても一級錬金術師の彼女はかなりの腕前。 悪くない生活ができるはず。 むしろ、肩身の狭い研究員生活よりいいかもしれない。 なにより、父も言っていた。 「筋肉と、健康と、錬金術があれば無敵だ」と。 志新たに、生活環境を整えるため、錬金術の仕事を始めるイルマ。 その最中で発覚する彼女の隠れた才能「全属性」。 希少な才能を有していたことを知り、俄然意気込んで仕事を始める。 採取に町からの依頼、魔獣退治。 そして出会う、魔法使いやちょっとアレな人々。 イルマは持ち前の錬金術と新たな力を組み合わせ、着実に評判と実力を高めていく。 これは、一人の少女が錬金術師として、居場所を見つけるまでの物語。

処理中です...