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第一章『ハンター・ルナル』
奴隷の村
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ここはとある村。
「はあ、はあ……」
「ぜえ、ぜえ……」
村のはずなのだが、どういうわけか村人と思しき人たちが、ボロボロの服を着て全身泥まみれで怒号を上げる魔族の下で働かされている。そして、少しでも動きが止まろうものなら、
「おうらぁっ! 動きが止まっているぞ、さっさと動かんかぁっ!!」
魔族たちから怒号と同時に鋭い鞭が飛んでくる。鞭で打たれた村人は痛みで大きな悲鳴を上げ、その場に倒れて動かなくなってしまった。
「こぉの、何を寝ているのだ! 我が偉大なる指導者の前で、眠る事など許されると思ってるんじゃねえっ!」
倒れ込む村人に対して、再び魔族の鞭が飛ぶ。だが、その鞭がまさに振り下ろされようとした瞬間、その鞭に向けてすさまじい衝撃波が飛んできた。
「ぐわあっ!」
あまりの衝撃に、魔族の手から鞭が離れる。そして、魔族の手から離れた鞭はなんとその衝撃で粉々に砕け散ってしまった。
「だ、誰だっ!」
衝撃で手を痺れされる魔族は、叫びながら辺りをきょろきょろと見回す。
「それ以上の非道な行為はおやめなさい!」
声のした方向を見ると、そこには槍を構えた赤い髪の女性と、剣を携えた男の姿があった。魔族は二人を睨み付ける。
「なんだ、てめえら、一体何者だ?! ここに来るまでに100人は兵が居たはずだぞ! どうやってここまで来た!」
現れた男女が無傷だったがために、魔族の顔には驚愕の色が浮かんでいる。
それに対して、女性は一度顔を背けながら口を開く。
「ゴブリン程度の雑兵、いくら集まったところで肩慣らしにもなりませんよ。それで確信しましたね。噂にあったゴブリンに支配された村というのは、ここのようですね」
「おい、誰だと聞いている。質問に答えろ!」
女性の余裕ぶった態度に、鞭を持っていたゴブリンが声を荒げている。
「人に名を尋ねる時は、まずは自分から名乗るものではありませんか? まあ、ゴブリン程度に名のある者などほとんど居ないでしょうから、仕方ありませんね」
女性は呆れた様子で話している。
「私の名はルナル。二つ名を『神槍のルナル』。たかがゴブリンといえど、この名、聞いた事はあるでしょう?」
ルナルは小ばかにしたような言い回しをしている。ゴブリンを挑発しているのである。
しかし、単純にそれだけが理由ではない。実はここに来るまでに10日と少々ほど掛かってしまっていたのだ。散々振り回されたゆえに、ちょっとストレスを溜めているのである。
「ほう、お前がハンターのルナルか……」
ルナルの名を聞いたゴブリンが、徐々に震え始める。
「ぐふ、ぐふふ、ぐふふふふ……。これは、あの方へ力を示す絶好の機会! 一流とも言われているハンターを殺せば、俺たちの名を轟かせる事ができるなっ!」
ゴブリンは気味の悪い笑みを浮かべて叫んでいる。
「へえ、私の名前だけじゃなくてその辺りまで記憶しているんですか。どうやら、ただのゴブリンというわけではなさそうですね」
ルナルは槍を構えると、隣に立つセインに声を掛ける。
「セイン、君は村人たちをここから避難させて下さい。今の君でしたら、雑魚くらいは倒せるでしょう。ですが、相手はゴブリンです。基本的にそんなに頭がよくないので、見境なしに襲ってきます。その辺りだけは十分注意して下さい」
「ああ、分かった」
セインを村人の救出に向かわせると、ルナルは大きめのゴブリンへと向き直った。
ルナルが大きめのゴブリンの気を引いている間に、セインは近くに居る村人から順番に声を掛けていき、村の入口の方向へ向けて後退していく。その間、何度か下っ端ゴブリンが襲い掛かってきた。ゴブリンの襲撃に村人は怯えてうずくまるが、セインは果敢に襲い来るゴブリンに立ち向かっていた。
さすがに短期間とはいえども少々鍛えられたセインは、襲い来るゴブリンを撃退していく。セインに斬られたゴブリンはその場に倒れ込む。しかし、苦しそうにしているものの、死んではいないようである。
「一応ルナルから殺すなと言われているんでな。……さて、お前たちだって死にたくはないだろう? おとなしく俺たちを見逃してもらおうか?」
ゴブリンたちは、身構えながらもお互いに顔を見合わせている。
「俺たちはお前たちと違って約束は守る。おとなしくしているなら、殺しはしない」
セインは剣を突き出してゴブリンたちに脅しを掛けている。その気迫はとてもハンターになってから半月程度とは思えないほどで、ゴブリンたちは徐々におとなしくなっていった。
「それでいい」
あまりにすんなりいくので、セインは正直驚いている。
「蛮族だと聞いていたから、脅しても無駄だと思ってたんだがな……。まさかとは思うが、お前たちも無理やりこういう事をやらされているのか?」
セインはふと思った疑問を、ゴブリンたちにぶつけてみる。しかし、痛みに耐えているゴブリン、戦意を失い立ち尽くすゴブリン、その誰からも答えは返ってこなかった。
「まあいい。どのみちこの戦いが終わればお前たちから事情を聞く事になるからな」
ゴブリンたちがおとなしくなった事を受けて、セインは剣をしまう。そして、村人たちと一緒に、遠巻きにルナルと大きめのゴブリンとの戦いを静かに見守っていた。
「はあ、はあ……」
「ぜえ、ぜえ……」
村のはずなのだが、どういうわけか村人と思しき人たちが、ボロボロの服を着て全身泥まみれで怒号を上げる魔族の下で働かされている。そして、少しでも動きが止まろうものなら、
「おうらぁっ! 動きが止まっているぞ、さっさと動かんかぁっ!!」
魔族たちから怒号と同時に鋭い鞭が飛んでくる。鞭で打たれた村人は痛みで大きな悲鳴を上げ、その場に倒れて動かなくなってしまった。
「こぉの、何を寝ているのだ! 我が偉大なる指導者の前で、眠る事など許されると思ってるんじゃねえっ!」
倒れ込む村人に対して、再び魔族の鞭が飛ぶ。だが、その鞭がまさに振り下ろされようとした瞬間、その鞭に向けてすさまじい衝撃波が飛んできた。
「ぐわあっ!」
あまりの衝撃に、魔族の手から鞭が離れる。そして、魔族の手から離れた鞭はなんとその衝撃で粉々に砕け散ってしまった。
「だ、誰だっ!」
衝撃で手を痺れされる魔族は、叫びながら辺りをきょろきょろと見回す。
「それ以上の非道な行為はおやめなさい!」
声のした方向を見ると、そこには槍を構えた赤い髪の女性と、剣を携えた男の姿があった。魔族は二人を睨み付ける。
「なんだ、てめえら、一体何者だ?! ここに来るまでに100人は兵が居たはずだぞ! どうやってここまで来た!」
現れた男女が無傷だったがために、魔族の顔には驚愕の色が浮かんでいる。
それに対して、女性は一度顔を背けながら口を開く。
「ゴブリン程度の雑兵、いくら集まったところで肩慣らしにもなりませんよ。それで確信しましたね。噂にあったゴブリンに支配された村というのは、ここのようですね」
「おい、誰だと聞いている。質問に答えろ!」
女性の余裕ぶった態度に、鞭を持っていたゴブリンが声を荒げている。
「人に名を尋ねる時は、まずは自分から名乗るものではありませんか? まあ、ゴブリン程度に名のある者などほとんど居ないでしょうから、仕方ありませんね」
女性は呆れた様子で話している。
「私の名はルナル。二つ名を『神槍のルナル』。たかがゴブリンといえど、この名、聞いた事はあるでしょう?」
ルナルは小ばかにしたような言い回しをしている。ゴブリンを挑発しているのである。
しかし、単純にそれだけが理由ではない。実はここに来るまでに10日と少々ほど掛かってしまっていたのだ。散々振り回されたゆえに、ちょっとストレスを溜めているのである。
「ほう、お前がハンターのルナルか……」
ルナルの名を聞いたゴブリンが、徐々に震え始める。
「ぐふ、ぐふふ、ぐふふふふ……。これは、あの方へ力を示す絶好の機会! 一流とも言われているハンターを殺せば、俺たちの名を轟かせる事ができるなっ!」
ゴブリンは気味の悪い笑みを浮かべて叫んでいる。
「へえ、私の名前だけじゃなくてその辺りまで記憶しているんですか。どうやら、ただのゴブリンというわけではなさそうですね」
ルナルは槍を構えると、隣に立つセインに声を掛ける。
「セイン、君は村人たちをここから避難させて下さい。今の君でしたら、雑魚くらいは倒せるでしょう。ですが、相手はゴブリンです。基本的にそんなに頭がよくないので、見境なしに襲ってきます。その辺りだけは十分注意して下さい」
「ああ、分かった」
セインを村人の救出に向かわせると、ルナルは大きめのゴブリンへと向き直った。
ルナルが大きめのゴブリンの気を引いている間に、セインは近くに居る村人から順番に声を掛けていき、村の入口の方向へ向けて後退していく。その間、何度か下っ端ゴブリンが襲い掛かってきた。ゴブリンの襲撃に村人は怯えてうずくまるが、セインは果敢に襲い来るゴブリンに立ち向かっていた。
さすがに短期間とはいえども少々鍛えられたセインは、襲い来るゴブリンを撃退していく。セインに斬られたゴブリンはその場に倒れ込む。しかし、苦しそうにしているものの、死んではいないようである。
「一応ルナルから殺すなと言われているんでな。……さて、お前たちだって死にたくはないだろう? おとなしく俺たちを見逃してもらおうか?」
ゴブリンたちは、身構えながらもお互いに顔を見合わせている。
「俺たちはお前たちと違って約束は守る。おとなしくしているなら、殺しはしない」
セインは剣を突き出してゴブリンたちに脅しを掛けている。その気迫はとてもハンターになってから半月程度とは思えないほどで、ゴブリンたちは徐々におとなしくなっていった。
「それでいい」
あまりにすんなりいくので、セインは正直驚いている。
「蛮族だと聞いていたから、脅しても無駄だと思ってたんだがな……。まさかとは思うが、お前たちも無理やりこういう事をやらされているのか?」
セインはふと思った疑問を、ゴブリンたちにぶつけてみる。しかし、痛みに耐えているゴブリン、戦意を失い立ち尽くすゴブリン、その誰からも答えは返ってこなかった。
「まあいい。どのみちこの戦いが終わればお前たちから事情を聞く事になるからな」
ゴブリンたちがおとなしくなった事を受けて、セインは剣をしまう。そして、村人たちと一緒に、遠巻きにルナルと大きめのゴブリンとの戦いを静かに見守っていた。
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